ナタリー PowerPush - NESS×三柴理

異色の同時リリース記念座談会

内田の曲は大槻の心的世界をすごく的確に表している

──制作手法としてはある意味NESSの対極とも言える三柴さんのアルバムが、兄弟レーベルから同時にリリースされるという(笑)。

三柴 クリックなしの一発録音だからね。

──今作はピアノソロ作品「Pianism」シリーズの一環でありつつ、筋肉少女帯のメジャーデビュー25周年記念の作品でもあるんですよね。

三柴理

三柴 去年大槻(ケンヂ)に「来年筋少が25周年だから、エディもなんかやんないの?」って言われたから「いや、なんにもやんないよ」って答えたんだけど(笑)、「いやいや、なんかやんなよ」って。前にフレディ・マーキュリー(QUEEN)の曲をピアノでアレンジしたアルバム(2011年6月発売「フレディ・マーキュリー・トリビュート『ラヴ・オブ・マイ・ライフ』」)を作ったりしてたから「エディ、筋少の曲もピアノだけでやったらきっと面白いよ」って大槻が。確かに面白そうだなと思ったんだけど、そんなに大したことは考えていなくて。

──その段階では選曲などの具体的な作業はまだですよね。

三柴 うん。僕と内田と長谷川浩二の3人でやってるThunder You Poison Viperというセッションバンドで、内田の曲をたくさんやってるんですけど、「ああ、内田っていい曲書くなあ」と思っていて。ピアノソロの選曲ってけっこうむずかしいんですよ。歌詞が抜けちゃうから。筋少だとなおさら、大槻の独特の歌詞がまったく抜けるので、メロディだけを追うと普通の歌謡曲みたいになる。それをピアノソロでやると、ファミレスで流れてるような軽いBGMになっちゃうんですよ。筋少の魅力が半減してしまう。

──あー、なるほど。

三柴 そうやって聴いていくと、内田の曲は大槻の心的世界をすごく的確に表しているんです。だから結果的に内田の曲が多くなりましたね。

無駄なものがはがれて骨だけ出てくるみたいな

──時代別で選んだり自作曲縛りにしたりはせず、ピアノで表現するのにふさわしい曲を。結果的に初期の曲が多いですけど、この中では大槻さん作曲の「Guru」が目立ちます。

三柴 あの曲は大槻がソロのときに作って、僕が編曲を担当したものですから、思い入れが強くて。

──三柴さんから見た「作曲家・大槻ケンヂ」はどんな感じなのでしょうか。

三柴 鼻歌に机をこうコン、コンと叩いた音を乗せて送ってくる人ですから(笑)。

三浦 それ、僕も別のバンドのボーカリストで同じことやってた人を知ってる(笑)。そしてその2人はすごく仲がいい(笑)。

──内田さんを入れた3人で空手バカボンをやられている方ですね(笑)。

内田雄一郎(B / NESS)

内田 コン、コンがリズムになってればいいんだけど、歌と一緒にココココンって叩いてるから意味がない。

三柴 詞を作るボーカリストが作る曲は基本、音楽的にあまり面白くないんですよ。なんでかというと、歌詞を聴かせたいから。オーケンの場合も歌詞を聴かせることのが前提なので、作曲者としてどうこうという目では見れないですね。

──内田さんとしては、自分が30年も前に作った曲が今クラシカルなピアノで再現されるというのはどんな気分なんでしょうか。

内田 高校生ぐらいの頃にエレクトーンでペコペコって作った曲がねえ。こういう曲は5分ぐらいでできるんですよ。今はこういう曲はできない。子供というか、初心者ならではの天才みたいな部分があるから。高校生のときに作った曲が、何十年もかけていろんな奴らの手によって、ゴテゴテに大げさになっていたわけですよ(笑)。でもこのように素敵なピアノで演奏されるとですね、当時のピュアな気持ちが思い出されますね。そうか、こういう曲だったんだなと。

三柴 いろんなパートを完コピした上でピアノ1本で弾く、という編曲にしてるんですけど、やっぱりピアノの音色だけになるわけですから、無駄なものがはがれて骨だけ出てくるみたいな。ピュアな気持ちで作った曲というのは、やっぱりいいものなんですよ。5分でできたって言うといい加減に作ったように思われるかもしれないけど、そうじゃなくて「降りてきた」ものだと思うので。だから大槻の詞にもすごくマッチしてるんですよね。それをピアノの音だけで表さなければいけない。あと、大槻のボーカルはおたまじゃくし(音符)では絶対に表せないので苦労しました(笑)。

感極まって泣きながらスタジオ録音

──話を聞いていると、歌モノ楽曲が持つ魅力を「ファミレスのBGM」ではない豊かなピアノアレンジにするのは、相当難しいことなのではないかと改めて感じます。

左から三柴理、三浦俊一(G / NESS)、内田雄一郎(B / NESS)、戸田宏武(Syn / NESS)、河塚篤史(Dr / NESS)

三柴 ピアノだけで何かを弾くっていうのは中学生の頃からやっていましたから、そんなに難しく考えなくてもできるんですよ。当時は例えば「十戒」っていう映画を観たら、音楽だけ覚えて帰ってくるんです。それで家に帰ってオーケストラの楽曲をピアノで弾く。そういうことをしているうちに、交響曲をピアノだけでアレンジしている音楽家が世界にはたくさんいることを知って、そういうふうになりたいなと思ったんです。ピアノは自己完結できる楽器なので。そういうことをやってたらだんだん鍛えられてきて「あ、バンドの曲もピアノ1本で弾けるかも」って。交響曲をピアノアレンジしている編曲家のように、バンドの音楽をピアノでアレンジするようなことをいろいろやってたら、フレディの曲をアレンジする仕事がきて。もうね、フレディの気持ちになって泣きながら編曲しましたよ。

──あはははは(笑)。

三柴 それを大槻がすごく気に入ってくれて。今度は筋少ということでやってみたら……当時録音した風景をすごく鮮明に思い出したんですよ。「あのときウッチーこういうこと言ってたなあ」とか。感無量でまた熱くなって(笑)。スタジオで録音するときも感極まって、「ペテン師、新月の夜に死す!」の最後のサビ直前でハッと止まるところがあったり。クリック聴いてないもんですから、熱くなりすぎて感情のおもむくままに。

──ああ、そういった演奏の緩急は計算して作ったものではなく、その場の感情がダイレクトに反映されているんですね。

三柴 うん。すごく念のこもったアルバムになりましたね。

ニューアルバム「Pianism of King-Show」/ 2013年5月22日発売 / 2520円 / CITRON RECORDINGS / DDCH-2336
通常盤[DVD] / 5250円 / UPBP-1002
収録曲
  1. 孤島の鬼(作曲:内田雄一郎)
  2. 福耳の子供(作曲:内田雄一郎)
  3. オレンジ・エビス(作曲:鈴木直人)
  4. ペテン師、新月の夜に死す!(作曲:三柴江戸蔵、内田雄一郎)
  5. 夜歩く(作曲:三柴江戸蔵)
  6. Guru(作曲:大槻ケンヂ)
NESS(ねす)
NESS

三浦俊一(G / ケラ&ザ・シンセサイザーズ)と戸田宏武(Syn / FLOPPY)が2011年4月に行ったセッションを母体に、内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)と河塚篤史(Dr)を加えた4人編成で結成。同年6月よりライブ活動をスタートさせ、11月には1stアルバム「NESS」を発表した。2013年5月22日におよそ1年半ぶりとなる2ndアルバム「NESS 2」をリリース。

三柴理(みしばさとし)
三柴理

1965年東京生まれ。4歳からピアノを、9歳から作曲を学び、安川豊子、柏木由紀各氏に師事する。国立音楽大学在学中の1983年にインディーズバンド・新東京正義乃士を結成。その後1988年に筋肉少女帯のピアニスト、三柴江戸蔵としてメジャーデビューを果たした。筋肉少女帯脱退後はソロ活動と並行してさまざまなアーティストのサウンドプロデュースを行い、くるり、Acid Black Cherry、そして復活した筋肉少女帯のレコーディングやライブに参加。また大槻ケンヂらと結成したバンド・特撮のピアニストとしても活躍している。佐々木TABO貴(ex. 有頂天)、Claraとのユニット・THE金鶴では多くの映像音楽を手がけ、2009年には結成25周年を記念したアルバム「THE金鶴」をリリース。三柴理名義のソロアルバムとしては「Pianism」「Pianism II」、カバーアルバムとしては、QUEENの名曲をピアノソロにアレンジした「FREDDIE MERCURY TRIBUTE ~LOVE OF MY LIFE」などがある。