ナタリー PowerPush - 星野源

宇多丸と語り明かす恥の美学

担任の女教師にホースで体を洗われた

──今回はお2人の青春時代のお話もうかがいたいと思います。

インタビュー写真

宇多丸 星野さんはどんな青春を過ごされたんですか?

星野 暗かったっす……。僕、小学校のときにウンコ漏らしてるんですよ。しかも漏らし方が壮絶で、体育の授業のとき半ズボンの裾からシャーっと出ちゃって(笑)。

宇多丸 それはヤバいですね。何年生のときですか?

星野 3年生のときです。しかも、その後トイレで担任の女教師にホースで体を洗われるという。

宇多丸 そんな、「ランボー」じゃあるまいし……(笑)。

星野 「恥ずかしがらなくていいのよ、ペニスを出しなさいっ!」って。

宇多丸 ペニス!?

星野 はい……。出しましたよ、言われるがままに。「フセインさんとブッシュさんに『戦争を止めてください』という手紙を書きましょう!」とか言って、小さいサイズに切った牛乳パックをハガキにして、その裏に文を書かせるような頭のおかしい先生だったんです。絶対届かないですよ、そのハガキ(笑)。一応、言っておきますけど、普通の公立小学校なんですよ(笑)。で、その一件以来、トラウマで通学中に必ずお腹が痛くなるようになっちゃって。

この気持ちはなんだ!?

──かなりハードな小学校時代でしたね(笑)。

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星野 でも中学は私立に行けたんで、イメージチェンジを計ろうとしたんですよ。

宇多丸 中学デビューですね!(笑)

星野 はい。周りが楽器を始めたから、僕もギターを始めたんです。置いていかれないように、みたいな感じで。でも校内のライブで、同級生のバンドがRED HOT CHILI PEPPERSの「Give It Away」を演奏してて、それを観たらやる気がなくなっちゃった。「ポゥ!」とか言ってて(笑)。「これは恥ずかしすぎる。僕には無理だ」と思いました。

宇多丸 でも友達がバンドやってるの観て、「いいな」じゃなく「恥ずかしい」って思う感性はませてますよ。

星野 そうですかね? で、僕はそこからどんどんオタクになっていくんです。髪の毛もロン毛になり、眼鏡をかけて見た目は完全に「宅八郎」で。富士見書房のファンタジア文庫「スレイヤーズ」が好きでした。そのときはまだ「萌え」って言葉がなかったから、「この気持ちはなんだ!?」って思ってました(笑)。

──お芝居のほうはどんな感じだったんですか?

星野 ギターと同じで中1からです。うちの中学には演劇部がなかったので、有志が集まって演劇をやってたんですよ。ラジオ好きの友達が先輩に誘われたのをきっかけに、僕も一緒にやるようになりました。

宇多丸 お芝居は恥ずかしいと思わなかったの?

星野 台詞はなぜか大丈夫だったんです。自分の言葉じゃないし。“素”でやるのが無理だったんでしょうね。

源くん、バンドやんない?

──宇多丸さんはどんな青春時代を?

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宇多丸 私立巣鴨中学校・高等学校、通称「巣鴨プリズン」で6年間、とにかくすごい抑圧を受けてきましたね。モテないし、学校ではバカとして扱われるし。だから大学に現役で受かったときは、そりゃあもう調子に乗りまくりましたね(笑)。それまで俺より頭がいいとされてきたヤツに、嫌がらせの限りを尽くしてやりましたよ。

星野 最高ですね(笑)。ラップを始めたのはいつ頃からなんですか?

宇多丸 大学からですね。ソウルミュージック研究会というサークルの出し物で、初めてマイクを握りました。そのときはちょうどクラブ文化の黎明期だったから、それまでのディスコ文化とは違う人材を集めてたんですよ。その頃は、完全に調子こいてました(笑)。

──星野さんは人生で調子に乗っていたタイミングってあるんですか?

星野 調子に乗ってた……ですか。あのー。うーん……。

宇多丸 すごい熟考してますね(笑)。

星野 あ、19歳くらいのときは調子こいてたと思います。初めてライブをやれるようになったのは高3だったんですよ。その頃、いろいろあってあんまり高校に行ってなくて、でも自分でも「良くないな」と思ってたから「行かなきゃ!」と一念発起したんです。で、高校に行ったその日に、クラスの中心人物の男の子が「源くん、バンドやんない?」って誘ってくれたんです。

宇多丸 ほおー。

星野 「やります!」って。ライブに出させてもらって、人前に素で出る楽しさみたいなのをちょっとずつ獲得しました。

宇多丸 じゃあ、その彼がいなければ、今の星野さんはなかったってこと?

星野 はい。本当にそうです。

宇多丸 そのタイミングじゃなければっていうのもあるし。

星野 僕も素晴らしいタイミングだったと思います。そこからタガが外れたように恥ずかしいこともできるようになって。歌も人前でちょっとずつ歌えるようになっていきました。でも、自分の声が嫌いだったから、歌うことには抵抗はありましたね。

宇多丸 自分の声、嫌いですか?

星野 すごい嫌いでした。だから最初に自分で組もうと思ったのもインストバンドなんです。今はやっとみんなにも少し受け入れてもらえるようになったから、ちょっと大丈夫になりましたけど。

星野 源 ニューシングル「フィルム」 / 2012年2月8日発売 / 1260円(税込)/ SPEEDSTAR RECORDS / VIZL-456

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CD収録曲
  1. フィルム
  2. もしも
  3. 乱視
  4. 次は何に産まれましょうか(House ver.)
  5. 落下(House ver.)
星野源(ほしのげん)

1981年1月28日、埼玉県生まれ。シンガーソングライターであり、俳優。代表的な出演作はテレビドラマ「11人もいる!」、「ゲゲゲの女房」など。2000年には自身が中心となりインストバンドSAKEROCKを結成。2005年に自主制作CD-Rで初のソロ作品「ばかのうた」を制作し、2007年にはこの作品をベースにしたCDフォトブック「ばらばら」を発売。2010年に1stアルバム「ばかのうた」をリリース。翌2011年には2ndフルアルバム「エピソード」を、2012年には2月8日にシングル「フィルム」をリリースした。J-WAVE「RADIPEDIA」では水曜日のナビゲーターを担当。

RHYMESTER DVD/Blu-ray Disc「KING OF STAGE Vol.9 POP LIFE Release Tour 2011 at ZEPP TOKYO」 / 2012年3月21日発売 / Ki/oon Records

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宇多丸(うたまる)

1969年5月22日、東京都生まれ。RHYMESTERのラッパーとして、日本のヒップホップシーン黎明期から活躍しており、「B-BOYイズム」「リスペクト」「肉体関係 part 2 逆 featuring クレイジーケンバンド」「ONCE AGAIN」など多数の代表曲を発表している。さらに2007年4月からは、自身のラジオ番組「TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」をスタート。2009年6月に同番組で、放送界で最も栄誉ある賞と言われる「第46回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞した。ほかにもクラブDJや映画評論家、アイドル評論家としての顔も持つ。