ナタリー PowerPush - DJ Fumiya

1stソロアルバムに込めた歴史と手癖

曲を作るときはいつも幅で見る

──今回は“DJ Fumiyaの好きな音”について要素ごとに詳しく訊ければと思っています。まずアルバムでは、イントロ「Voice for Daddy」からFumiyaサウンドの特徴のひとつであるテーマパークっぽい音が鳴っていますね。

インタビュー写真

そうですね。やっぱ楽しい音は好きだし、今回すごい個性が強い人たちが集まってるので、そういうのを表す意味でも。

──作品の幕開けにふさわしいトラックだと。

はい。もういきなり3拍子っていう(笑)。ラッパーの人たちにも結構聴かせたんですけど、やっぱり「3拍子はやりにくい」って言われて。でも自分にとってはそこがいいし、オケ気に入ってるからイントロにしちゃえと思って入れました。

──あと「BUMBRITY」や「Continue?」に象徴されるように、チップチューンもよく作られるなと。

今回で言うと「Continue?」とか、タイトルからしてそうですしね。

──これはFumiyaさん自身がゲーム好きだから?

いや、僕ゲームやらないんですよ。だけどやっぱあの時代のチップの音って本当にあれでしか出ない感じで、電子的だけど、ノイズが入っててアナログっていうかなんていうか(笑)。全部ではなくても、あの音ちょびっと入れるだけでなんか自分の好きな音の幅になるから入れるんですよね。

──自分の好きな音の幅?

レンジっていうか音の広さ。曲を作るときはいつも幅で見るんです。バランス良く音を出したくて。その調節のとき、高音の8bitのやつをちょっと入れてあげると全体的にちょうど良くなったりすんですよ。

──そうやって全体のバランスを考えて作られてるから、どの曲もちゃんとポップに聴こえるんですかね。

そうかも。

──複雑な音の組み合わせでも、小さな子供が歌えるような曲になっていたり。

そうなってくれたらいいなって本当に思ってますね。例えば音色がちょっと難しくてもリフレインは別物として口ずさめるようにすごい簡単に作りたいし、曲の展開をそんな難しいものにしないっていうのもよく考えてる。単純な作りにしたいっていうのは、リップのときでもそうですね。

──それは広く届けたいから、多くの人に聴いてもらいたいからといった願望も入ってるんでしょうか。

願望も入ってますし、特に自分の子供が生まれてから「こういう音でキャッキャキャッキャ喜ぶんだ」っていう発見もあって、改めてそう思いました。

リップっぽいのはしょうがない、俺が作ってるんだから

──「HOTCAKE SAMBA」は、またもFumiyaさんらしい南国フレイバー漂うブレイクビーツで。

こういうのは得意ですね。すぐできた(笑)。元々はバクドキにあげた曲だったんで、今回「やっぱ俺に返してくれ」って言って返してもらって(笑)。でもこのままだと自分のアルバムの曲っぽくないからもう1人誰か入れようって話になり、ギャップがあるほうがいいかなって思って、ちょっと大人っぽい声のナガシマさんに参加してもらって。

──まさにそこもFumiyaさんらしいなと思うところで、コーラスに軽めの女声ボーカルを重ねるのお好きですよね。

そうですね。後ろのほうでちょっとハモらせてるだけでも全然違うし、音ネタみたいにコーラスを入れることで色鮮やかになったり、すごくポップになったりするから。

──その一方で、バクバクドキンやTrippple Nippplesや黒沢さんのような癖のあるボーカルも積極的に採用する。

インタビュー写真

うん、癖のある声はいいですね。バクドキの2人の声はおもちゃみたいな感じですごいですよ。最初デモテープもらったとき、回転数間違えたのかなって思いましたからね(笑)。あとTrippple Nippplesの曲は、曲として歌わなかったんですよ。断片的なフレーズをいっぱい録っていって、「あとはFumiyaさんにおまかせします」みたいな。素材として録るだけ。

──ゲスト側のやり方も十人十色なんですね。しかしこれだけ幅広いラインナップにうまく曲を与えられるトラックメイカーもなかなかいないと思います。

うれしいっす。合うオケと合わないオケとがハッキリしてるから、わかりやすいっちゃわかりやすいんですけどね。どれにもうまく合わせますよっていうタイプじゃないから、みんな。僕自身はマスタリング終わるまで並べて聴くことはなかったんだけど、聴いてみて、すごい濃い1枚だなーって思いました(笑)。

──そして、奇妙礼太郎さんをフィーチャーした「TOKYO LOVE STORY」はアコースティックギターをサンプリングしたミディアムチューン。

ヒップホップのリズムだからボトムは太いんだけど、上モノはアコギで軽く。そういうのも今までリップで結構やってきてることなんだけど、あえてもう1回やろうということで、そんなのが詰まってるアルバムかもしれないですね。

──リップでやったことをあえてもう1回やろう、と思い至ったのはどうしてですか?

最初、リップのテイストを通らないように作ろうかなと思ったんですけどね、やっぱり好きなものは好きだから。言ったら「HOTCAKE SAMBA」とかめちゃくちゃリップっぽいし(笑)、こういうのを入れるのは最初あり得ないって思ってたんですよ。「楽園(ベイベー)じゃん」とか言われたら「そうなんだけど……」っていう(笑)。でも別に自分が好きな音だから作ったんだし、スタッフ受けも良くて「絶対入れたほうがいい」って言ってくれたから、そこにあえて乗っかってこう、それも俺の音のひとつだしなって。それから「好きなのなんでも作っていこう」っていう考えが固まりましたね。リップっぽいのはしょうがない。俺が作ってるんだから。自分の曲で無理しても意味ないし、ドーンと色を出していこうかなと。だからむしろリップの曲を作ってるときより自然体でした。

CD収録曲
  1. Voice for Daddy
  2. JYANAI? feat. 鎮座DOPENESS
  3. BUMBRITY feat. Trippple Nippples
  4. HOTCAKE SAMBA feat. BAKUBAKU DOKIN & Tomoko Nagashima from orange pekoe
  5. ENERGY FORCE
  6. Continue? feat. RHYMESTER
  7. LOVE 地獄 feat. RYO-Z & 黒沢かずこ from 森三中
  8. FANTASTIQUE!
  9. TOKYO LOVE STORY feat. 奇妙礼太郎
  10. Here We Go feat Dynamite MC(Diplo Remix)
DJ Fumiya(でぃーじぇいふみや)

プロフィール画像

RIP SLYMEのDJ。14歳でDJを始め、クラブで開催されたDJバトル優勝を機に、数々のアーティストのツアーやレコーディングに参加する。18歳でRIP SLYMEに加入し、2001年にメジャーデビュー。これまでに「One」「楽園ベイベー」「熱帯夜」など多くのヒット曲を放っている。また他のアーティストのプロデュース、楽曲提供、リミックス制作も多く、これまでにbird、AYUSE KOZUE、LITTLE、HALCALI、KOHEI JAPAN、真心ブラザーズ、YO-KING、Fantastic Plastic Machine、Mr.Children、布袋寅泰などの作品に参加。現在はクラブイベントなどで積極的にDJ活動を行っており、主にエレクトロハウス、バイレファンキ、ドラムンベースなどをスピンしている。2010年には初のミックスCD「DJ FUMIYA IN THE MIX」を、2012年には待望のオリジナルアルバム「Beats for Daddy」をリリース。