ナタリー PowerPush - c.cedille
ハイブリッド国際派ユニット 日本で鮮烈デビュー
日本語詞の曲があるのは日本人のリスナーにアピールしたいから
──曲作りはどんな感じで進めていくんですか?
SEREYの中でアイデアができたら、それを聴かせてもらって。それに対して「ああ、いいなぁ」「良くないなあ」とか、けっこうもうダイレクトに、ウソなく言う感じですね(笑)。
──その基準は?
他の人がこの音を聴いたときに好きと思うかどうか。やっぱりCD買う人が喜ばない音だったらダメじゃん。例えば9分くらいのすごいバラードみたいな、そういう曲が入ってたらビックリしちゃうだろうし(笑)。しかも初めてのアルバムだし。だから、そこは自分たちで作ったっていうことを忘れて、聴いてみるっていうか。
──自己満足にならないよう、客観的な耳でジャッジすると。
そうそう。自分のためだけにやるのはいいけど、それを他の人に聴かせないでくれ、みたいな(笑)。
──けっこう厳しいですね(笑)。歌詞は2人で分担して書かれていますけど、その振り分けは?
英語の詞でSEREYが悩んでたりすると、1、2行私が書いたりするときもあるんですけど、基本的には日本語の詞が私。私は7歳くらいから詞を書いてるから、これからは英語の詞も出していきたいと思ってるけど、このアルバムでは日本語を担当してますね。メロディ的に日本語が合いそうだったら、私が書いたほうがいいっていう。SEREYも日本語で書けるとは思うけど、まだまだそこまで自信がないかもしれないから。
──2人とも英語圏出身なのに日本語詞の曲があるということもc.cedilleにとってはこだわりなんでしょうか?
SEREYは全曲英語でやりたがってたんだけど、やっぱり日本でデビューするわけだし、日本人のリスナーが最初の頃は多いですからね。ちゃんと日本人にもアピールしないとダメかなって。それに私は日本語の音楽が好きだし、書いてても楽しいから。
──日本語詞を書くときに苦労はしない?
「不眠症」っていう曲は全然難しくはなかった。すぐアイデアが来たんだよね、頭の中に。多分自分が不眠症だったからだと思うんですけど(笑)。でも「hidamari」って曲は難しかった。歌詞がすごく多いし、ちょっと複雑なメロディだったから。何回も書き直して、何カ月もかかっちゃいましたね、実は。
──ちょっと切なさのある、いい歌詞ですよね。
“陽だまり”と“向日葵”の2つのイメージで書いたんだよね。そのとき読んでた本とか観てた映画とかに影響されたところもあるんですけど、なんとなくそういう気分になってたから。あ、この曲はね、ボーカルのレコーディングもすっごく大変だったんですよ。いいテンションを最初から最後までキープするのが難しくって。
──そういう壁にぶつかったとき、それを打破する方法ってあるんですか?
やっぱスタジオでお菓子とか食べたら元気になりますよね。そんな簡単な感じなんですけど。レコーディングの秘密はそれだけ。ハイチュウとかがあれば(笑)。
──アハハハ。安上がりな(笑)。「hidamari」はアルバムのリード曲になってますけど、曲的にもすごく印象に残りますよね、独特なメロディがクセになるというか。c.cedilleというユニットが持っている面白さが如実に出ている感じで。
最初はアコースティックギターだけのデモを聴いたんですけど、すごくフォークな感じで面白いなって思ったんだよね。英語だけでやろうっていうアイデアもあったから、日本語詞と同時に、2人で一緒に書いた英語の詞もあるんですよ。日本語と英語、どっちで歌ってもいい曲なんで、苦労はしたけど、けっこう面白かったですね。
プロじゃない感じがいいと思う
──そんな「hidamari」をはじめ、初アルバム「en lecture」にはキュートな曲から、ちょっぴりダークな曲まで、本当にさまざまなタイプの全10曲が収録されています。曲選びのポイントは何かありましたか?
歌詞もメロディもはっきり決まっていない曲を入れると、全部で30曲くらいあったんですけど、その中から、いろんな音、いろんな声、いろんなスタイルを出したほうが面白いんじゃないかなと思ったんだよね、初めてのアルバムだから。なので、幅広くなりましたね。今回の曲は、SEREYが高校時代の頃に作ってた曲たちなんですけど、SEREY自身、心に近い曲だからっていう理由で「Cities of Dragonflies」を絶対入れたいとか、そういう理由で選んだ曲もあって。
──曲に合わせてボーカルも変幻自在ですよね。
「Popsicle Yellow Scooter」なんかは、歌詞がけっこうかわいい感じなんで、それに合わせて歌ったり。ちょっとバカらしいというか、子供っぽくてプレイフルな気持ちでやってみました。あと「不眠症」みたいな、ちょっとけだるい歌いかたも私はすごく大好きなんですよね。だから楽しかったです。
──あとはSEREYさんもボーカルをとるっていう部分もまたc.cedilleの魅力だなあと思いました。「Cities of Dragonflies」ではSEREYさんがメインボーカルでEMILYさんがコーラス、「Popsicle Yellow Scooter」では2人の声が交互に出てきて、「You’d better」ではSEREYさんが1人で歌っているという。
そこはずっと悩んでたところなんですよね。2人で歌ってみたらどうなるんだろうって、いろんなテストをやってみて、一番面白い形にしてみた感じですね。日本語の曲だと、まだSEREYはちょっと難しいんだけど、英語の曲を2人で歌うのはけっこう面白いなって思います。2人の声の表情とか英語のアクセントを合わせるのがけっこう大変なんで、時間がかかっちゃうんですけど。
──SEREYさん、すごくいい声してますしね。
けっこういいですよね。「You’d better」みたいな曲に、SEREYの声は一番合う気がしますね。インディーズって感じで。
──また出ましたね、インディーズっぽい声(笑)。
なんか、そこまでプロじゃない感じが好きなんですよね。ちょっとルーズな感じというか。
──テクニックにこだわりすぎず、自由な気持ちで歌う感じなんですかね?
そうそう。レコーディングをやりながら楽しいことをどんどん入れていける感じ。あんまり真剣に考えすぎると、緊張して声がダメになっちゃうから。他の人はどうかわからないけど、私とSEREYの場合は、そういう声が合ってると思う。そういうインディーズっぽい声が(笑)。
自信はなんとなくあります(笑)
──このアルバムを引っ提げて日本の音楽シーンに乗り込んで行くわけですけど、今の気持ちはいかがですか?
いろんな人に届くといいですねえ。このアルバムを聴いてくれて、好きになってくれたらそれだけでうれしいです。周りの人がいい意見をくれてるので、自信はなんとなくあります(笑)。あと、将来的には、ノースアメリカでツアーとかもやれたらいいですよね。SEREYが生まれたモントリオールも、私が生まれたニューヨーク州バッファローも、みんな音楽が大好きな場所だから。
──じゃあ最後に、c.cedilleが日本のアーティストに絶対負けないところは?
ライブでの歌声とか音とか、洋楽のアーティストに近い感じでやっていくっていうところですね。日本のお客さんはすごく静かで、それはいいことだとも思うけど、やっぱり向こうのライブカルチャーは全く違うんだよね。だから、私たちは全然ロックなバンドじゃないですけど(笑)、もっと楽しくて激しい感じにしていけたらなって思いますね。向こうのライブを、インジャパンな感じで。あとは、英語の歌詞と発音も日本のミュージシャンには負けないです。
──アハハ。確かに。そこはかなわない。しかも、同時にc.cedilleには日本語でも十分闘える力もあると思いますし。今後の活躍、楽しみにしてますね。
はい。サンキュー。
CD収録曲
- honey & clover
- hidamari
- 不眠症
- IDENTITY
- Cities of Dragonflies
- lord save the queen
- You’d better
- Popsicle Yellow Scooter
- Deliver Me
- Make Way, Make Way
c.cedille(せせでぃーゆ)
米国出身のEMILY(Vo)、カナダ出身のSEREY(Vo,G)による男女ユニット。日本の語学学校で出会った2人が2008年に結成。インディーズ的肌触りを感じさせるアコースティックサウンドに、日本語と英語それぞれの歌詞を乗せたスタイルで人気を集める。2010年4月にシングル「hidamari」をタワーレコード限定発売。同年5月に1stアルバム「en lecture」をリリース。なお、EMILYは「applemilk1988」のYouTubeアカウントで動画ブログを更新しており、多数のファンの支持を得ている。