誰かの重たい過去に寄り添って多くの過去を救う

──今回「IGNITE」の作詞は藍井さんが、「Startear」の作詞は春奈さんが手がけています。そしてお互いの楽曲レビューを聞くに、お2人ともアニメのヒロイン・シノンにフォーカスを当てた詞を書いています。

藍井　アニメのスタッフの方からそういう指定があったわけでもないし、お互い詞を書く前にそういう話をしたわけでもないんですけどね。

春奈　うん。曲ができてからオープニングはエイルちゃんなんだって知りましたから。

──でも揃ってシノンに寄り添った詞を書こうと思った理由って？

春奈　シノンの抱えているトラウマって、誰にでも心当たりがあるようなものじゃないじゃないですか。

──正当防衛とはいえ、人を撃ち殺したことのある人はそうそういないですよね。

春奈　そういう強烈なトラウマを抱えて、すごく気持ちが弱くなってるんだけど、それでも強くなろうと葛藤しているところにすごく惹かれたんです。私の曲を聴いてくれる人にも、人を殺した経験はないと思うんですけど、やっぱりいろいろな過去やトラウマみたいなものはあると思うし。シノンのトラウマや弱さに寄り添う言葉を歌えば、皆さんの悩みや弱さにも寄り添えるのかなっていう思いで今回は詞を書かせてもらいました。

「あっ、これ自分のことだ」って思ってもらいたい

藍井　私もるなちゃんにけっこう近いかも。弱いんだけど「どうしよう？ こういうふうにありたくないのに」ってもがいてもがいて、立ち向かおうとしているシノンの姿にすごく勇気をもらいましたから。

──強くあろうとするシノンの姿に惹かれたっていう意味では同じものの、その弱さに寄り添った春奈さんとは違って、立ち向かおうとする強さに寄り添った？

藍井　すごい最悪なことに出くわした瞬間って、当然「最悪だ」ってヘコむと思うんですけど、それでも時間をかけてその最悪に立ち向かい続ければ、結果はどうあれ、いつか「あっ、あのとき最悪に立ち向かおうと思ってよかったな」って思える瞬間がくると思ってるんです。私自身にもそういう経験がありましたし。で、これは今るなちゃんも言っていたことなんですけど、私たちの曲を聴いてくれる皆さんにも「最悪だ」っていう経験はきっとあるはずだし、そのそれぞれの「最悪」には大小とか優劣ってないと思っていて。「私の悩みのほうが重い」とか「いや、私のほうが重い」とかっていうことはないんじゃないかなって。

──大人にとって子供の悩みって取るに足らないものかもしれないけど、経験の浅い子供にとっては本当に人生の重大事なんだろうし、全人格をもって挑むべき課題なんでしょうしね。「その人にとって重たい悩み」っていう意味では、どの悩みも一緒なのかもしれない。

藍井　そう思ってるんです。そしてそれに立ち向かう勇気も全部同じ勇気だと思うので、聴いた人全員に「あっ、この曲って自分に向かって勇気を持って立ち向かえ！」って言ってるんだなって思ってもらえるような詞にしたかったんです。その「あっ、これ自分のことだ」って思ってもらいたいっていうのは「IGNITE」に限らず、藍井エイルが詞を書くときの一貫したテーマではあるんですけど。

誰かが代弁することで誰かを救う話

──なぜそのようなテーマを？

藍井　学生の頃、音楽を聴いていて「あっ、これ自分のこと歌ってくれてる！」「自分の言いたいことがこの歌詞の中に全部入ってる！」って、勘違いなのかもしれないけど、そう思うことってありませんでした？

──ありました。

春奈　で、そういう曲ってカラオケで泣きながら歌っちゃうんだよね。その曲に共感できてる自分に酔いしれて（笑）。

藍井　そうそうそう！（笑） 大人になった今、カラオケボックスで1人、泣きながら歌ってた自分のことを思い出すとホントに恥ずかしかったりはするんだけど、それでも誰かが自分の気持ちを代弁してくれてると思ったらすごくラクになれたのも事実なんですよね。せっかく作詞をさせていただく以上、私もそういう曲を作りたいんです。

──ちなみにお2人とも作詞ってスムーズでした？

藍井　そもそも、るなちゃんは作詞好きなんだよね？

春奈　うん、大好き。小学4年生くらいから歌詞や詩を書いていて、インターネットの掲示板に投稿してたんですよ。そうするとけっこう感想をいただけたりしたので、小学校を卒業するくらいの頃には歌手ではなくて作詞家になりたいと思ってました。でもやっぱり歌うのが好きだったので、今はこうやって歌わせてもらっているんですけど、なんで歌うのが好きなのか？っていったら、自分の気持ちや考えていることを誰かに伝えたいからなんですよね。だから今も詞を書くのは好きだし、書くのも早いと思います。2日もあれば書けるときもありますし「Startear」も比較的スムーズに楽しく作詞できましたね。