「セブンティウイザン」|タイム涼介×ひうらさとる 対談 “親の年齢以外は普通”な家族のカタチを語る

犬が背負っていた子供の役目

──朝一と夕子に子供がいなかった長い間、飼い犬のオードリーがかすがいの役割を務めてくれていましたね。

夫婦のかすがいだった犬のオードリー。2人がケンカをしたときは、イタズラして気をそらすことでいざこざをかき消してくれた。

ひうら 私の姉も小さい犬をずっと飼っていたんですけど、やっぱり犬を育てるのは子育てに似てるって言ってましたよ。“プレ子育て”じゃないですけど、練習になったって話してました。

タイム オードリーとの別れ際のエピソードは、けっこうそのまんま自分が飼ってた犬の話で。うちも妊娠が遅かったので、犬が子供の役目をよく果たしてくれてたんです。

ひうら オードリーはだんだん体が弱っていって、夕子さんの妊娠が発覚する少し前にスッと息を引き取ってしまいますよね。

タイム うちの犬も子供が生まれたら「もう私がいなくても大丈夫でしょう?」みたいな感じで逝っちゃって……その当時は子育てでてんやわんやだったから寂しさをあまり感じなくて済んだけど、もしあのタイミングじゃなかったらかなりのペットロスになってたと思います。

手前からタイム涼介、ひうらさとる。

ひうら なるべく悲しませないように、空気を読んでくれたんですかね。

タイム 自分のほうに目が向かなくなってきたのを察知するんでしょうね。それは悲しいことでもなくて、背負っていた役目の荷が落ちるというか。“死”というテーマを描くにあたって、人間の話にしちゃうとどうしても重たくなってしまうんです。だから犬のかわいさに力を貸してもらいました。

感動した、生と死の交差点

ひうら 夕子がお医者さんからお産について、「命の保証ができないのは20歳の人でも同じだ」みたいなセリフを言われるじゃないですか。確かにそうだなあって納得しました。

タイム 出産の危険もそうですけど、交通事故や病気だって年齢問わず遭遇する可能性があるんですよね。その危険性ってのは若い人たちだと覆い隠されていてあまり見えないけど、ちょっと年齢がいくだけですぐ表出してきちゃう。

夕子が分娩室に入り、走馬灯のように2人の思い出が駆け巡るシーン。

ひうら 私、夕子が分娩室に入ったシーンにすごい感動したんです。ずっとセリフなしで、夫婦2人の思い出が走馬灯のように描かれるところ。夕子さんが黄泉の国に行ってしまう雰囲気を感じつつページを進めていくと、最後に生きている赤ちゃんが現れて……生と死の交差してる感じが、70歳の出産ならではだなあって感じました。

タイム すごい読み込んでくださってますね……!

ひうら 人って誰しも死に向かっていくものですけど、それでも新たに生まれるものがあるんだなって。その先に未来、まさに2人の子供のみらいちゃんがいたのがとてもよかったなと思います。

意地悪な人は描かない主義

「ヒゲの妊婦(43)」と「セブンティウイザン」。

──フィクションとエッセイでジャンルは違いますが、子育てマンガを描く難しさはありますか?

ひうら 子育てマンガっていろいろな意見をもらうことが多いんです。「ヒゲの妊婦(43)」を描いたときも、「私はそうじゃない」「そうじゃなかった」っていう声が多々あったりして。でも「セブンティウイザン」だと妊婦が70歳だから、もし自分のときと違っても「あ、そうなんすか」みたいに思えちゃうのが面白いですよね。

──そういえば妊婦健診に向かう夕子が、「妊婦は嫉妬の対象になりかねないから……」とマタニティマークを付けるのを躊躇うシーンがありましたよね。それを見たとき、例えば30歳の妊婦さんが同じことを言ったときとは読者の受け止め方が違うだろうなと思いました。

マタニティマークを付けるか悩む夕子。朝一は周りの目を気にして、外したほうがいいのではないかとアドバイスする。

タイム 「セブンティウイザン」では朝一と夕子が弱い立場だから、上から目線にならずに描けるというか。センシティブなテーマも、70歳という年齢に当てはめると雰囲気がやわらぐのかなあと。

ひうら 実は私、この夫婦に対しての周囲からの風当たりってもうちょっと強く描かれるのかなと思ってたんですよ。周りの人にギョッとされるとか、つらいことを言われるシーンがあるんだろうなあって覚悟していたら、意外にスルーされていて……。

タイム 普通に街を歩いてる人にはおじいちゃんおばあちゃんと孫に見えるんじゃないでしょうか。しかも僕、意地悪な人はあんまり描かない主義なので。テレビドラマとかでも、仲間割れのシーンが始まるともう観るのやめちゃうんです(笑)。

ひうら (笑)。

タイム 「なんで仲間割れエピソード作るかなあ、いらないんじゃないかなあ」って毎回思ってるのが反映されてます。

タイム涼介「セブンティウイザン②」
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登場するのは65歳の夫・江月朝一と、70歳の妻・夕子の老夫婦。定年退職を迎えたその日、家に帰った朝一は「私、妊娠しました」と妻から衝撃の事実を告げられる。終活に差し掛かっていた夫婦が、突如授かった大きすぎる未来。ここからまったく新しい、家族の愛の物語が始まる。

タイム涼介「セブンティウイザン①」
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会社ではソツのないOLだが家ではぐうたらに生活する、“干物女”こと雨宮蛍を描いた恋愛コメディ「ホタルノヒカリ」。その続編にあたる「ホタルノヒカリSP」では、蛍と部長の結婚後のエピソードが展開される。蛍は男性アイドルグループ・B-LEYに激ハマりしている模様!? アイドルオタならわかるあるあるネタ満載で、蛍の同僚でありオタク仲間・晴香光の恋愛模様が中心に描かれていく。

ひうらさとる「ヒゲの妊婦(43)」
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生活の大半は仕事…という“ヒゲ度の高い”人生を歩んできたひうらさとるが43歳にして突然の妊娠発覚。“超”高齢出産を働きながらどう乗り越えてきたのかが、エッセイマンガとしてざっくばらんに描かれる。

タイム涼介(タイムリョウスケ)
タイム涼介
1976年神奈川県横浜市生まれ。1995年に投稿作「タオル」「前のそれは万引きとは言えない!!」がヤングマガジン(講談社)主催の月間新人漫画賞を受賞、同誌に掲載されデビューとなる。同年、「フランス」を短期連載。1997年からは「日直番長」を連載し読者の注目を浴びる。以降ナンセンスなショートギャグを中心に講談社以外でも活動を始め、2001年に月刊コミックビーム(エンターブレイン)にて「あしたの弱音」を連載開始。また同誌では2007年から2010年にかけて、架空の格闘技をテーマにした「アベックパンチ」を、2011年から2013年にかけて除霊商売をする3人組を描く「I.C.U」を発表。現在は新潮社のWebマンガサイト・くらげバンチにて「セブンティウイザン」を連載している。
ひうらさとる
ひうらさとる
1966年大阪府生まれ。1984年、なかよしデラックス(講談社)に掲載された「あなたと朝まで」でデビューする。代表作は会社ではソツのないOLだが家ではぐうたらに生活する、“干物女”こと雨宮蛍を描いた恋愛コメディ「ホタルノヒカリ」。2004年から2009年までにKiss(講談社)にて発表され、綾瀬はるか主演でドラマ化や映画化も果たした。2014年からは同誌にて、その続編にあたる「ホタルノヒカリSP」を連載中。