コミックナタリー Power Push - Fellows!
入江亜季「乱と灰色の世界」 - Fellows!発、作画プロセス動画第2弾はアナログ着彩の名手がノウハウを初公開
とりあえずグレー、で深みが増していく
──絵の具は何を使われていますか。
入江 アクリルガッシュという、不透明のアクリル絵の具です。メーカーはホルベインとターナー。水に馴染んで、透明水彩みたいな感覚で塗れるので。私、以前は透明水彩で塗っていたんですよ。
──透明水彩からアクリルガッシュに替えたのはどんな理由から?
入江 担当さんに言われたんです、アクリルのほうが印刷に向いてるって。アクリルは発色がいいせいか、原画と印刷後の仕上がりのズレが少ないみたいです。「群青学舎」の最初の頃は透明水彩だったので、原画と刷り出しがけっこう違ってましたね。透明水彩は色を重ねていくと汚くなってしまうので、ひと塗りかふた塗りで決めてしまわないと。その潔い感じが気持ち良くて使ってましたが、修正できないという点も仕事で使うには難しいですね。
──よく使う色や、好きな色はありますか。
入江 好きなのはウルトラマリンブルー。といってもよく使うのはむしろナイトブルーなのですが、ウルトラマリンブルーはどんな色も圧倒するほど異常に鮮やか。うっとりします。私のカラーって全体的にトーンが低いというか、つい濁らせてしまいがちなんですけど、ホントはチューブに込められてるキレイな色をそのまま紙に乗せて使ったりすればいいのにと思います。
──独自のカラーテクニックはありますか。
入江 カラーテクニックといいますか……よく使うのは、今はグレーですね。「乱と灰色の世界」ってタイトルだしと思って(笑)。とりあえずグレーを塗る癖があって、元の色にグレーを重ねて色の調子を整えてるんです。そうすると下の色と上に重なったグレーとで情報量が増えて深みが増すというか。あと色に悩むととりあえず下地にグレーを乗せて様子を見ることもあります。それでたまに鮮やかな色を差すとよく映えます。
──他に何か大事なことがあれば教えてください。
入江 筆とか紙とか、道具はちゃんといいものを使ったほうがいい。いい道具はちゃんといい仕事をするので、道具を尊敬するっていうか。あと水張りは絶対したほうがいいと思ってます。完成したイラストの紙がベコベコになるのって嫌じゃないですか。それに編集者とかデザイナーとかに渡すのが恥ずかしくなっちゃうんです。やっぱりパリッとしたものを渡したほうがパリッとした気分で仕事してくれるかなーって(笑)。
下描きに直接着彩し、最後にペン入れ。その理由とは?
──入江さんはカラー原稿のとき、下描きに直接着彩して最後にペン入れをすると伺ったのですが……。
入江 そうですね。様子を見て途中で入れることもありますけど、基本的に最後にペン入れします。
──下描きに直接着彩するというのは、珍しい描き方ではないですか?
入江 そうですかね? アクリルは不透明なので、ペン入れしてもその上から絵の具を乗せると主線は薄くなっちゃうじゃないですか。だから結局最後には主線にペン入れをしないといけないんですよね。どうせ最後にペン入れするなら、先にペン入れしなくてもいいかなって。手間を惜しんでいるんです……ホント恥ずかしいんですけど……。
──下描きの線は消さないんでしょうか。
入江 下描きが気になった部分だけは、着彩後に消しゴムやホワイトをかけて消してます。でもやっぱりちゃんと最初にペン入れして、消しゴムをかけて、鉛筆の線を全部消したほうがキレイだと思います。ホントは!
──鉛筆のラインだけだと塗りづらかったりしないんですか。
入江 透明水彩で描いていた頃はペン入れもなしで、下描きだけだったんですよ。薄塗りだったし、透明水彩なら鉛筆の主線が残るので平気だったんです。でも仕事で描くようになって、印刷されることや人に見られることを考えるようになってから、今のやり方になりました。ペン入れをしてクッキリさせたほうが、印刷をしても見栄えするかなって思って。
あらすじ
父と兄の3人で暮らす元気いっぱいの小学生・乱。しかしその正体は靴を履くとセクシーな美女に変身してしまう魔法少女だった!
短編連載「群青学舎」で、圧倒的な画力と独特の世界観でファンを魅了した、入江亜季による初長編連載作。
作者コメント
魔法少女が描きたかったというか、小さい女の子が大人に変身できる話が描きたかったんです。形だけ大人になっても、ホントに大人になるってそういうことじゃないんだ、大人って見かけじゃないんだっていうことに気付いてゆく、そんなお話です。初めての長編というのもあって、まだ手探り状態で描いているんですけども(笑)。
まだ今は乱の話くらいしか出ていませんが、乱、陣(兄)、静(母)、全(父)の家族4人の物語なので、これからあと3人分の話も楽しみにしていただけたらと。あと今後は小学生の男の子がちょっと出張ってきます。読んだ方には自由に楽しんでもらえたらうれしいです。
入江亜季(いりえあき)
香川県生まれ。2002年、ぱふ(雑草社)にて入江あき名義で掲載された「フクちゃん旅また旅」でデビュー。2004年、月刊コミックビーム(エンターブレイン)にて「群青学舎」の連載を開始。卓越した画力と、バラバラな物語がひとつの作品世界を紡ぎ出す魅力的な短編で人気を博す。2006年、同人時代の作品をまとめた単行本「コダマの谷」をエンターブレインより刊行。現在Fellows!(エンターブレイン)にて初の長編作品「乱と灰色の世界」を連載中。