コミックナタリー Power Push - 「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」

自分を信じることしか方法のない少年たち 長井龍雪監督×シリーズ構成・岡田麿里 対談

三日月にドン引きした(長井)

長井 自分でも声がついた映像を観て、ちょっと引くときがあるんです。第3話とかも本当に酷い話だなと思いましたし、第22話のオルガに詰め寄る三日月も、ホントに酷いこと言ってるなと思ってドン引きしたんです(笑)。もちろん自分で考えた話なので、コンテを描いてるときは三日月はこういうふうに動くキャラクターだって、納得して描いてるんですけど。

「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」第1期第3話より。瀕死状態のクランクは、「死ぬために手を貸してくれ」と三日月へ頼むが、三日月は彼からのお礼を最後まで聞かずに発砲する。

──クランクの言葉を最後まで聞かずに殺したり、三日月は特に正義や悪では動いていないキャラクターだと思うので、過激な一面も見られますね。もともと「オルフェンズ」は若年層に向けた作品であると提示されていたと思うんですが、放送時間も日曜の夕方ということもあり、そんな三日月と同世代の視聴者も少なくないと思います。

長井 過激なシーンを過激に描こうと思って用意したつもりも、実はそんなにないんですよね。先ほども言ったように、「この子たちにとってはしょうがないことだから」っていう舞台だけを用意して、シナリオにする際に岡田さんに色をつけてもらっているだけなので。難しいですよね。「俺、別にこんなことを若者に伝えたくなかった」みたいな気持ちになることもあって。まあ、それを言ったら“若者に伝える”ってなんだ?っていう話なんですけど。

岡田 そもそも「伝える」「伝えない」という作り方はしてないかも。

長井 まあね。ただ「こういうことがあって……」っていう状況だけを用意している。それについて考えてみようっていうこと自体が、実は作品だったりするので。

「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」第1期第25話より。

──「これを伝えたい」というなんらかのメッセージを、制作側で用意しているわけではない。

長井 そうですね。自分自身も考えながら作っています。

──岡田さんは「オルフェンズ」のシナリオを書くうえで、視聴者を意識することはありますか?

岡田 過酷だったり救いようがない状況の中で見える生命力の輝きみたいな、そういうものを描きたいなという思いがあって。過酷な状況だからこそ生まれる、人間関係や信頼関係っていうのはあると思うんですよね。それを10代や20代の人に届けたい、と主張するわけでもないんですけど、キャラクターを描くうえでは、見え方として「この子の言ってることはちょっとおかしいけど、なんか好きだな」とか、そういうふうに感じてもらえるといいなと思っていますね。

伊藤悠さんの絵は、個性的であり懐も広い(岡田)

──そういった思いはもちろん三日月やオルガらメインキャラに対してもあるんですけど、敵キャラたちにも感じます。悪い奴だなと思いつつも、コメディタッチで描かれているとどこか憎めないといいますか。

ブルワーズのMS部隊を取り仕切る、ガンダム・グシオンのパイロットであるクダル・カデル(CV:織田圭祐)。

長井 ああ、クダルさんとか。でもあれは伊藤さんの絵の力ですよね。あの絵を描いていただいた時点で、もう面白くならないことがないなと(笑)。

──伊藤さんにはどういった形でキャラクターデザインの原案を依頼されているんですか?

長井 メインキャラについては「背が低い」「高い」とか、例えば昭弘だったら「いつもこいつは体を鍛えていて……」とか、肉体的な情報も伝えていました。後半に出てくるキャラクターは「こういうことをやります」という役割だけ伝えてお願いすることもありましたね。それこそ「こいつは酷い奴です」みたいなざっくりとした情報でお願いすることもあって。上がってきたイラストを見て「確かにこれは酷い奴だわ!」ってわかりやすさに納得することもありました(笑)。

岡田 あはは(笑)。

長井 敵側のキャラに「実はすごく目がキレイ」と書き添えられていることもあったり(笑)。伊藤さんなりのこだわりやイメージを描かれていることもあって、「なるほど! いただきます!」と、そこからキャラクターを膨らませていくこともありました。

──もともと長井監督は伊藤さんのマンガがお好きだったそうで、「皇国の守護者」「シュトヘル」など、伊藤さんの作品に戦争のイメージを受けてキャラクターデザインの原案をお願いしたと聞きました。実際に伊藤さんに描いていただいて、いかがでしたか?

キャラクターデザインの原案を務める、伊藤悠によるイラスト。

長井 やっぱりすごくいいなと思いました。「オルフェンズ」は伊藤さんにお声がけさせていただいてから、企画自体が一度停止してしまう期間があったんです。再始動までに時間が空いたんですが、三日月のビジュアルは最初にいただいた絵のまんまで頭の中に残っていて。逆にあの絵が残っていなかったら、もしかしたら物語もまったく違うものに作り変えていたかもしれない。今の三日月がそのまま残っていたから、再開しようという流れがあったので。そういう意味だと、伊藤さんの絵の力は僕の中ではすごく大きかったですね。

──キャストさんの声の力もそうですが、伊藤さんの絵に助けられた部分もある。

岡田 そうですね。私が参加したときは、三日月やオルガとかのメインキャラクターの絵はすでにできあがっていたので、「この子たちの性格を考えるんだ」という状態でした。伊藤さんの絵って力もあるし情報量も多いから、キャラクターを考えるうえですごくありがたかったです。

──インパクトもある絵柄ですしね。

岡田 そう。しかもすごく個性的な絵なのに、懐も広いんですよね。この見た目にはこの性格しかない、というわけでなく、ちょっと振れ幅を持たせても受け止めてくれる絵というか。それって絵に確固とした強度があるからこそだと思うんです。

「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第2期」

2016年10月2日(日)より毎週日曜17:00~
MBS/TBS系列全国28局ネット

キャスト
  • 三日月・オーガス:河西健吾
  • オルガ・イツカ:細谷佳正
  • ユージン・セブンスターク:梅原裕一郎
  • 昭弘・アルトランド:内匠靖明
  • ノルバ・シノ:村田太志
  • クーデリア・藍那・バーンスタイン:寺崎裕香
  • アトラ・ミクスタ:金元寿子
  • ハッシュ・ミディ:逢坂良太
  • ザック・ロウ:古川慎
  • デイン・ウハイ:木村昴
  • ラディーチェ・リロト:深川和征
  • ククビータ・ウーグ:斉藤貴美子
  • マクギリス・ファリド:櫻井孝宏
  • ラスタル・エリオン:大川透
  • イオク・クジャン:島崎信長
  • ジュリエッタ・ジュリス:M・A・O
  • 石動・カミーチェ:前野智昭
  • ほか
長井龍雪(ナガイタツユキ)

1976年生まれ、新潟県出身。アニメーション監督、演出家。主な代表作に「とらドラ!」「とある科学の超電磁砲」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」など。

岡田麿里(オカダマリ)

1976年生まれ、埼玉県出身。脚本家。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」「花咲くいろは」「LUPIN the Third -峰不二子という女-」など、数々の作品でシリーズ構成や脚本を務める。