「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」第4回 三上哲(ダグ役)×天﨑滉平(キリル役)×古田丈司(監督)×鈴木智尋(シリーズ構成・脚本)座談会|“お互いがお互いのヒーロー”愛に満ちた「ダブデカ」ワールドを2万字で振り返る

2018年10月から12月にかけて全13話がオンエアされ、以降は「EXTRA」と題した新規エピソード全3話が配信されたアニメ「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」。コミックナタリーでは、視聴者に笑いと涙、そして愛を届けた同作品の連載企画を半年にわたり展開してきた。最終回となる第4回では、ダグ役の三上哲、キリル役の天﨑滉平、監督の古田丈司、シリーズ構成・脚本を務めた鈴木智尋に集結してもらい、「ダブデカ」シリーズを振り返る座談会をセッティング。さらにディーナ役の早見沙織、ケイ役の安済知佳、マックス役の大地葉、ユリ役の種﨑敦美から、三上と天﨑へのサプライズメッセージとともに、ファンへのコメントを寄せてもらった。総勢8名が改めて感じる「ダブデカ」の魅力とは? 2万字に迫る大ボリュームの特集を最後までご堪能あれ。

取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / 入江達也

「なんだこの変な木」
そんな感じじゃないですか、ダグって

左からダグ役の三上哲、キリル役の天﨑滉平、シリーズ構成・脚本を務めた鈴木智尋、監督の古田丈司。

──三上さんと天﨑さんにお話をお伺いするのは「ダブデカ」連載企画の第1回以来となります(参照:「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」第1回 三上哲×天﨑滉平インタビュー)。当時はアフレコが序盤だったこともあり、おふたりとも「ダグがどんな人間なのか気になる」というお話をされていました。

三上哲

三上哲 ダグって、最初の頃はクールでカッコいいというイメージがあったんです。かと思えば緩いところもあって、そこが人間っぽいなと。だけど、今考えると逆にそっちの緩いほうがダグの本来の魅力だったのかなと感じます。

天﨑滉平 確かにそうですよね。

三上 あとは仲間思いなところもあるけど、感情表現がヘタというか、不器用なところもあって。そこがキリルとのすれ違いを生んで、面白くもありました。

天﨑 僕も最初の頃に思っていた関係性とは逆だったなと思いました。もっとキリルのほうがボヤーっとしているのかなと思っていたら、ダグより社交性もあるし、苦労してきた生い立ちのおかげか意外としっかりしているんですよね。逆にダグに「しっかりしろよ」と諌めるような場面もあったくらいで。そこが最初に取材していただいたときと印象が変わったところかもしれません。でもその思っていたのと逆だった関係性がうまくマッチングして、いいバディ関係になっていたと感じます。

ダグ(CV:三上哲)

三上 ダグはもっと私生活もパリッとしているのかな?っていうイメージがあったんですけど、全然そうじゃないんですよね(笑)。10年もののヨレヨレのTシャツを気にせず着ているところとか、そういう独身男の力の抜けたところも魅力的だなと思いました。

鈴木智尋 ダグは底知れないキャラクターにしようと思いながら書いていたんです。おちゃめな部分や運が悪いところはあるんですけど、なるべくそれがバレないようにしていこうと。どんな背景があって今みたいな人間になっていったのかを、なるべく隠しながらやっていく。なので最初の頃は、監督から三上さんに「感情抑えめでお願いします」というディレクションがあったと思います。

ダグ(CV:三上哲)

古田丈司 そうですね。第1話の最後、キリルに「ルーキー」と笑みを浮かべながら声をかけるところで、ちょろっと感情が出るのがダグだなと。

鈴木 そういうところでちょっとずつ出してはいくけど、基本的にはあえて隠していく。

三上 最初の頃はキリルも言っていたように、「何を考えているんだかわからない」みたいな感じがありましたよね。

鈴木 ダグって一見何かを抱えていそうな感じがあるじゃないですか。で、実際に蓋を開けたら……実はそんなにないという(笑)。「貧困と格差をなくしたい」とか言ってはいるけど。

天﨑 キリルも「すげえ……! 視野ハンパねえ……!」ってなるけど(笑)。

古田 実は言った直後にあくびをしてるから、それが本気なのかどうかはよくわからない(笑)。

三上 本当に掴みどころがない感じがありました。

ダグ(CV:三上哲)

鈴木 ただ、その言葉が本気かもしれないという感じも、いまだにあったりして。掴ませないところがあるというか、その肩透かしを喰らうような部分も含めてダグの魅力になったらいいなと思っていました。第7話の予告でも出た「唐変木」が、僕の中ではダグを表現するのに一番しっくりくる言葉ですね。皆さんに唐変木の語源の話ってしましたっけ?

三上 いや、聞いていないです。

鈴木 一説ですけど、「唐から流れ着いた変な木」ってことらしいんですよ。「なんだこの変な木」っていう。そんな感じじゃないですか、ダグって(笑)。

三上 確かに(笑)。

夢に向かって突き進むキリルの真っ直ぐさ

──キリルについてもお伺いします。これまで演じてきた天﨑さんは、改めてどんなキャラクターだったと捉えていますか?

天﨑 やっぱりものすごくいい子だなっていうのは感じています。失敗することがあっても、周りが「あいつはああいうやつだから」と許してしまうところがあるのは、彼の人柄のおかげなのかなと。SEVEN-Oにもすぐ溶け込んで、自然と自分の居場所を見つけていましたが、それを深く考えることなくできるのはキリルの魅力だなと思います。

三上 そうだね。

幼い頃のキリル(CV:天﨑滉平)とミラ(CV:藤原祐規)。

天﨑 彼の生い立ちについては、僕も「きっと苦しかっただろうな」と思う気持ちはあるんですが、たぶんキリルにとってはそれが当たり前の日常なんですよね。「あいつらを見返してやる!」とか憎しみの気持ちを持つのではなく、露店で余った食べ物をもらったことを覚えているとか、そういう楽しい思い出のほうが残っていて。それはダン爺ちゃんやミラのおかげでもあると思うんですが、自分が苦労を経験したからこそ貧困や格差をなくしたいという思いはどこかにありつつも、平凡に暮らしてきた人と変わらない感覚を持って育っている。たとえ傍から見たら重い過去を背負っていたとしても、その人にとってそれが当たり前の日常だったのなら、周りが変に気を使う必要はないんじゃないかという気がしていて。SEVEN-Oのメンバーはそういうことをする人たちじゃなかったので、キリルも過ごしやすかったんじゃないかなと思います。だからこそ変わらず、のびのびと走り続けられるんだろうなと。

──以前の連載で、古田監督は「キリルは光属性」とおっしゃっていましたよね(参照:「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」第3回 古田丈司監督インタビュー)。

三上 そのインタビューを読んで、「そうそう!」って、すごく納得しました。キリルがいるだけで周りが明るくなっていく感じがありますよね。ダグもそんなキリルに救われたところはあるんだろうなと。大変な人生を過ごしてきたはずなのに、それを全然引きずっていない。よくこんないい子に育ってくれたなと思います。

古田 「ヒーローになりたい」という確固たる夢がありますからね。その夢に向かってただ突き進む。後ろを振り返るような人ではないんです。

鈴木 荒唐無稽な夢ではありますけどね(笑)。でもそこに向かって突き進める男だからこそ、あの明るさなんだろうと思います。

古田 確かに。「ゲノムやっべえ!」で、まさか論文まで書いちゃうなんて(笑)。

キリル(CV:天﨑滉平)

天﨑 あははは(笑)。すごいですよね。考え方がすごくシンプルなんだと思います。でもいろいろ考え込んでしまうよりも、キリルみたいにシンプルな気持ちを大事にして突き進める人のほうが、夢を叶えられるのかもしれないですね。スーパーマンのような存在だと思います。

古田 あとは天﨑さんがおっしゃったように、周りにいた人たちがよかったのもあるでしょうね。基本的にSEVEN-Oのメンバーは否定をしないですから。

三上 そうですよね。みんながそれぞれを受け入れている。すごく平和というか、癒される仲間でした。

鈴木 霧雨アンダーテイカーさんのオープニング曲(「ステレオとモノローグ」)の歌詞のように、キリルが居場所を見つけていく物語だったように思います。そして、いい居場所を見つけられたのかなって。(EXTRA含む)全16話を通して一番成長したキャラクターだったんじゃないでしょうか。天﨑さんも回を重ねるごとにどんどんキリルとシンクロしていっているように見えて。よりキリルの成長を感じられたと、(アフレコを)聞いていてすごく思いました。

天﨑滉平

天﨑 ありがとうございます……!

古田 正直、芝居するうえでもキリルはめちゃくちゃ大変だったと思います。

鈴木 何役こなしたかっていう感じですよね。ナレーションやモノローグもあるし、自分で何かを打開しようとすれば、失敗することもあって。

三上 ギアチェンジが激しいですよね。リアクション芸みたいなところもあるし(笑)。

古田 察しがよすぎると、それはそれで「バカじゃないなんて認めない!」とディーナに責め立てられ(笑)。

──そういえば、天﨑さんは「自分はアフレコのときにいろいろ考えてしまうタイプだから、忘れないように台本の全ページに『キリルはバカ』と書いている」とお話しされていましたよね。三上さんからも「アフレコで『キリルが賢くなっている』とダメ出しが入ることがある」と明かされていましたが(参照:「DOUBLE DECKER!」天﨑滉平が「台本の全ページに『キリルはバカ』って書いてます」)。

キリル(CV:天﨑滉平)

鈴木 と思ったら、急に「実は頭がいい」という話が出てきた(笑)。

天﨑 そうなんですよ! なので、「あれっ!?」って(笑)。

三上 「どういうこと!?」ってね(笑)。僕らも台本をもらうまで知らなかったですからね。

──その辺りはどういうバランスで考えていたんですか?

古田 もともと「キリルは頭がいい」という設定は決めてあったんです。それをあえてバカっぽく印象操作していったところはありました。ただその間にも、察しの良さは描かれていたのかなと。

鈴木 シナリオを作っていく中で齟齬が生まれるようなものになっていたら、見せなかった可能性もあったと思います。作りながら「きっとキリルは頭がいいんだろうな」と感じられる部分があったので。全体的に「こうなっても不自然じゃない」と思えることだけをストーリーにも入れていった感じですね。