コミックナタリー Power Push - 「アトム ザ・ビギニング」

佐藤竜雄監督×シリーズ構成・藤咲淳一対談 「天馬とお茶の水の“一番いい時間”」の作り方

オリジナルの「鉄腕アトム」と強引に結びつけようとしないほうがいい(佐藤)

──藤咲さんは「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」などAIを題材にした作品も手がけてこられました。そのあたりも「アトム ザ・ビギニング」に反映されているのでしょうか。

藤咲 そうですね。AIについては学会関係の動向もチェックしてはいるんですが、本当に日進月歩なんですよね。脚本作業を進めているころはディープラーニングという技術が一番ホットな話題で。そういう用語をどれぐらいちりばめるかは難しいところで、今回はあくまでも、用語の意味はわからなくても、キャラクターが言いたいことは伝わるぐらいのバランスを考えました。「アトム」という単語にひっかかってアニメを見てくれた人が置いてけぼりにならないぐらいのつもりで書いています。

左から佐藤竜雄、藤咲淳一。

──おふたりは、オリジナルの「鉄腕アトム」にはどんな印象を持っていますか?

藤咲 僕はリアルタイムに接したわけではないので、言ってしまえばビートルズのような存在として受け止めています。多くの人が、ちゃんと読んだことない、聞いたことないのにいつの間にか知っている存在。だから今回は逆に、あまりプレッシャーを感じることはなかったですね。

佐藤 オリジナルの「鉄腕アトム」は電子頭脳が完成している世界である、という点がすごく大きいと思うんです。電子頭脳が十分機能したロボットが、人間のように振る舞って、人間との違いに悩む世界。だからアトムのこれまでのアニメ化では、ロボットと人間の差別がテーマとしてピックアップされていました。ところが「アトム ザ・ビギニング」は、電子頭脳完成以前を描くストーリーなので、オリジナルの「鉄腕アトム」と強引に結びつけようとしないほうがいいかなと考えています。

藤咲 そうですね。天馬とお茶の水という、まだ何者でもない若者たちが、何かを作り出していこうとする物語。面白いのは、そこで作り出されるものが、自我を芽生えさせる存在というところ。それだけに、「A106=アトム」と誤解されないようにしないといけないなと思っています。

──4月から放送される「アトム ザ・ビギニング」ですが、どんなところに注目してほしいですか。

藤咲 原作にもある通り、あの世界では5年前に大災害が起きたという設定です。それによってロボット工学が発展したわけですが、一方でロボット同士が戦い合う、ロボット・レスリングに熱狂する人もかなりの数がいる。これは、大災害で受けたインパクトの影響に見えるんです。

──大災害後の鬱屈した時代のストレスを、ロボレス観戦で解消してるのではないかというような。

作中、2人が多くの時間を過ごすことになる第7研究室。

藤咲 天馬やお茶の水といった若者たちの他愛のないやりとりの向こう側に、そういう時代の陰のようなものが感じられるといいなと僕は思っています。

佐藤 今回の主要な舞台となるのは、午太郎と博志の第7研究室です。ほかの研究室は天井からフラットに照明をあてているのですが、第7研究室だけは、窓から入ってくる自然光を活かしたライティングで、いわゆる研究室とは違った感じに見せたいと考えています。この第7研究室という空間が魅力的に感じられるように描ければ、午太郎と博志の“一番いい時間”をちゃんと表現できたことになるのかなと。その部分を意識していただければうれしいです。

総監督・本広克行からコメントが到着!

──「鉄腕アトム」の印象を教えてください。

僕が子供の頃、宝塚で手塚治虫展が開催されていて、手塚先生のサイン会に並んだことがあります。そこで実物大のアトムの人形を見たことがきっかけで「鉄腕アトム」を読み始めました。子供心にその体験が印象深く、ずっとアトムは実在すると思い込んでいたことを記憶しています。人工知能が人間の「脳」力を凌駕するという技術的特異点が目前に迫ってきた今、アトムの誕生は現実のものとなりそうで、あの頃の記憶が甦ってきたかのように感じます。 あらためて「アトム」と手塚先生の先見性に感服しています。

──「アトム・ザ・ビギニング」の印象を教えてください。

原作では「アトム」を生み出した権威として描かれている天馬博士とお茶の水博士が、等身大の若者として活き活きと学生生活を送っている設定にまず心惹かれました。GoogleやFacebookのように、大学のキャンパスから世界を一変させてしまうようなアイディアが生まれてくる時代に呼応しているように感じます。

──「鉄腕アトム」を新解釈で描く本作の意義を教えていただけますか?

機械に心が生まれるという設定が、こんなにも現実味を帯びることになろうとは、原作が描かれた時代には殆ど誰も想像し得なかったのではないでしょうか。かつてロボットを描くことはあくまで空想の世界であり、夢物語でした。が、2017年の今いまロボットの物語を作るということは、我々の生活に浸透しつつある人工知能の発展を描くことに他なりません。夢の世界ではなく、我々の現実の延長線上にある「アトム」を描くこと。それが「アトム ザ・ビギニング」のミッションなのです。

──アニメ「アトム ザ・ビギニング」の見どころを教えてください。

博士たちは学内での派閥争いや研究予算の割り当てなど、我々の日常と同じようなことで悩み、傷つきながらも逞しく進んでいこうとします。その先に一体何があるのか。物語の未来がどこかで我々の未来とリンクしているのではないか。そんなふうに観てもらえたらうれしいです。

──「アトム ザ・ビギニング」がアニメ化されるにあたり、「鉄腕アトム」を知らない世代のファンも番組を見ることになると思います。そういった人たちへメッセージをお願いします。

ロボットと人間がどう付き合っていくのか。その問題に直面する次世代の子供たちにとって、「鉄腕アトム」の世界はむしろリアリティに富んでいるはず。「アトム ザ・ビギニング」を入り口にして「アトム」の世界を辿ってみると、未来への示唆に富んだ奥行きの深さに驚くことでしょう。人工知能とロボット技術の発展によって我々は、これまでの人類が体験したことのない新しい世界へと足を踏み入れることになります。次世代の人たちには、その大変化を恐れずにワクワクしながら未来を開拓していってもらいたいですね。

著名人からのコメント / ストーリー&キャラクター 佐藤竜雄×After the Rain 座談会  第2回特集はこちらから

テレビアニメ「アトム ザ・ビギニング」2017年4月よりNHK総合テレビにて放送

ストーリー

大災害後の日本に、未来を夢見るふたりの天才がいた。ひとりは天馬午太郎。もうひとりはお茶の水博志。天馬はその手で「神」を作り出すことを、お茶の水はその手で「友」を作り出すことを夢見て、日夜ロボット研究に明け暮れていた。そしてふたりの友情が生み出した1体のロボット、A106(エーテンシックス)。A106は果たして「神」となるのか「友」となるのか。若き天才コンビは、来るべき未来を垣間見る──。

スタッフ
  • 原案:手塚治虫
  • プロジェクト企画協力・監修:手塚眞
  • コンセプトワークス:ゆうきまさみ
  • 漫画:カサハラテツロー(「月刊ヒーローズ」連載)
  • 協力:手塚プロダクション
  • 総監督:本広克行
  • 監督:佐藤竜雄
  • シリーズ構成:藤咲淳一
  • キャラクターデザイン:吉松孝博
  • 総作画監督:伊藤秀樹
  • 音響監督:岩浪美和
  • 音楽:朝倉紀行
  • アニメーション制作:
    OLM×Production I.G×SIGNAL.MD
  • オープニングテーマ:After the Rain「解読不能」
  • エンディングテーマ:南條愛乃「光のはじまり」
キャスト
  • 天馬午太郎:中村悠一
  • お茶の水博志:寺島拓篤
  • A106:井上雄貴
  • 堤茂理也:櫻井孝宏
  • 堤茂斗子:小松未可子
  • お茶の水蘭:佐倉綾音
  • 伴俊作:河西健吾
  • 伴健作:飛田展男
    ほか
佐藤竜雄(サトウタツオ)
佐藤竜雄

1964年7月7日生まれ、神奈川県出身。アニメーション監督、演出家。大学卒業後、亜細亜堂で動画を担当した後、演出に転向。1994年に「赤ずきんチャチャ」の演出で脚光を浴び、1995年「飛べ!イサミ」では監督を務め、1996年の年の「機動戦艦ナデシコ」では初脚本。2012年の「モーレツ宇宙海賊」では監督、シリーズ構成、脚本を担当した。そのほか監督としての代表作に「学園戦記ムリョウ」「輪廻のラグランジェ」「ねこぢる草」など。

藤咲淳一(フジサクジュンイチ)
藤咲淳一

1967年8月6日生まれ。茨城県出身。Production I.G所属の監督、脚本家。押井守が主催していた企画会議「押井塾」にて「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の原案となる企画を発表。同作の小説、ゲーム制作にも携わり、テレビアニメ「BLOOD+」では監督、シリーズ構成も務めた。そのほかの主な参加作品として「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「劇場版xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢」「ダイヤのA」など。

本広克行(モトヒロカツユキ)
本広克行

1965年7月13日生まれ、香川県出身。CM製作会社を経て、共同テレビジョン入社。深夜ドラマで監督デビューを果たし、「NIGHT HEAD」、「お金がない!」などで注目される。自身が演出した人気ドラマの映画化「踊る大捜査線 THE MOVIE」が大ヒットを記録、その後も続編やスピンオフ作品「交渉人・真下正義」などを手がけた。2012年10月にはアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」の総監督を務めた。