「山里亮太の1024」|「新しい武器を手に入れた」決意表明のモノローグ舞台

「妄想活劇 山里亮太の1024~人生の二択に悩むある男の物語・下北沢・本多劇場ひとり舞台~」が7月18日(土)にWOWOWライブで放送される。

南海キャンディーズ山里のモノローグで描かれたこの舞台は東京・本多劇場で今年2020年2月に上演され、終演後には盛大なスタンディングオベーションが発生した。山里にとって私生活にも大きな変化が訪れる中、新たな試みとなるこの舞台にどんな思いで臨んだのか。そして自身の手応えや周囲からの反響は。山里に話を聞いた。

取材 / 遠藤敏文 文 / 成田邦洋

「妄想活劇 山里亮太の1024」あらすじ

山里亮太演じる40歳の男「里山亮太」が、「人生は分岐点の連続だ。1回でも違う選択をしていたら人生は変わっていたかもしれない」と、これまでの歩みを振り返るところから物語は始まる。15歳、22歳、30歳と、人生の岐路に立つたびにそれぞれの道に進んだ自身の姿を妄想する里山。好きな子とのデートやスクールカーストの1軍に入ったときの振る舞い、エリートビジネスマンになった自分などを、ときに毒舌や暴言を交えながら楽しげに描いていく。やがて年齢を重ねていったとき、そんな里山に大きな心境の変化が訪れ……。

家城さんがお笑いのスケールの大きさを教えてくれた

──本日は「山里亮太の1024」のお話をじっくり聞かせていただければと思います。私も初日公演を拝見して鳥肌が立つほど感動しました。はじめに、1人コントでも漫談でもなくモノローグの舞台に挑もうと思われたきっかけを教えてください。

1人でいろいろと語る舞台はずっとやっていて(「山里亮太の140」等)、そんなふうにしゃべる以外の芝居のような表現方法は苦手なんじゃないか、という意識がずっとあったんです。勝手に食わず嫌いな感じで。そんな自分の殻を、この公演のプロデューサーでもある片山(勝三)さんが壊そう、と思っていたのかなと。最初にお話をいただいたときには、自分の中からは出ない提案だと思ったんですよ。それに対してめちゃくちゃ不安ではあったけど、片山さんというプロデューサーがこれまでに用意してくれたステージは、自分がやってきた中ですべて正しかったという絶対的な信頼があるので「乗ってみよう!」と。

──片山さんは、もともと南海キャンディーズさんの初代マネージャーで、その後はスラッシュパイルの代表として数々のイベントを主催されていて、山里さんもその立ち上げから出演されています。現在はどういったご関係なのか改めて教えていただけますか?

片山さんと出会ったときから、僕の60歳くらいまでのプランについて「僕がこの世界で生きていかせてもらうためには何が必要なのか」という話をずっとしていました。スラッシュパイルは面白いライブをやるチームで、僕にとっても必要なものがそこにたくさんあり、ずっと関わらせてもらっています。

──そんな中、今回の舞台は元カリカの家城啓之さんが構成と演出を担当されています。家城さんに対して、山里さんはどんなことを期待していらっしゃいましたか?

家城さんは本当にすごい方なんです。物事に対する考え方や見せ方のスケールがものすごく大きくて、「面白い」というものの表現の幅が広い。僕はグーッと細かく狭く、偏っていくんですけど、家城さんは偏ってるものを面白く軌道修正したり伝えたりする技をたくさん持っている。人を笑わせるためのスケールって芸人さんにそれぞれあると思っていて、そんなに大きくない僕のスケールを大きくする、ということを教えてもらえた感じです。2人でトークライブをやったときも面白がる目線が違っていて、そこに憧れていた部分もあります。

──今回の舞台の中で具体的にどのあたりが刺激になったのか、家城さんの演出で光っている部分を聞かせていただけますか?

至るところにあります。「選択肢」というのが舞台のテーマなんですけど「ものすごく細かい選択をしてみたら?」と提案されました。本当にピンポイントすぎて、それがエンタテインメントになるかどうかもわからないような選択なのに、家城さんの演出によって1個、自分の中でも「これができたことが今後の自信になる」というくらいのブロックが出来上がったんですよ。面白い芸人さんって「なんでそれをそこまでやるんだよ」というセンスのあるネタを持っているじゃないですか。たとえば千鳥さんの「100択クイズ」とか、ずっとそこだけをイジり続けるというのは僕の憧れだったけど、怖くてできなかった。家城さんがそれを僕に体験させてくれました。

「山里亮太の1024」より。

──モノローグの舞台に挑まれるにあたって、参考にされた過去の作品はありますか?

それが、ないんです。自分が今からやることが果たしてどのジャンルになるのかもわからなくて、参考にするものがなかった。それが今回は逆にいい方向に転がったんじゃないかと。「モノローグというジャンルで実は誰々という芸人さんが得意としてやってるんだよ」というのを知ってしまったら、それになっていたと思うんです。根が真面目だから(笑)。ある意味、何も見ずに気軽にできたのが今回はよかったかなと。

──この舞台には、山里さんがテレビや「JUNK 山里亮太の不毛な議論」(TBSラジオ)などでおっしゃっている実際の出来事がうまい具合に溶け込んでいて、ラジオリスナーが「あのときの話だ!」と笑えたりする。その一方で、山里さんのエピソードが“閉じず”に、より広く普遍的なものになっている印象があります。「誰に向けて見せるのか」というバランスはどのように考えていましたか?

そういう演出を家城さんが付けてくれた感じです。「自分なのか自分じゃないのか」っていう曖昧な主人公の脳内を文字に出していく作業だったので、その間をつなぐ設定で、同年代くらいの人たちに届ける言葉が散りばめられている。また同年代じゃない若い人にとっても、目の前にある問題や選択に対して変に悩まないように、もしくは葛藤を楽しめるように、というアドバイスになるものがあったのかなと。

──より広くなっていったのは家城さんの力だと。

そうだと思います。僕が今回、家城さんから言われたのは「時代が何カ所かあります。その何カ所かでAとBの選択肢を考えて、そのAとBになったときの妄想をひたすら書いてくれ」と。妄想をひたすら書いてそれを提出したら、ああいう舞台になりました。

「山里亮太の1024」より。

結婚後の新しい武器を見つける

──初日公演では、本多劇場がスタンディングオベーションですごいことになっていました。山里さんはあの中心にいて、どんなことを感じられましたか?

めちゃくちゃうれしかったです! 人生でトップクラスにうれしくて「死ぬ前に思い出すんじゃないかな?」くらい。正直、初日が始まって最初の笑い声を聞くまで、今から自分がやることは人に見せていいものなんだろうか?と思っていて(笑)。僕が舞台に立つときは笑い声を目標にやってきたので、「お客さんがどんな気持ちになるのか」「笑ってくれるのか」という怖さはずっとありました。公演前のゲネプロ(通し稽古)のときはお客さんがいないから笑い声が聞こえないですし。それが笑い声を聞いて「大丈夫だったんだ!」と思ってからは楽しすぎる時間を過ごせて。最後にスタンディングオベーションという最高の甘やかしが来た。多幸感っていうんでしょうか。幸せでした。

──山里さんの「笑わせたい」がベースにありながら、「こういうことを伝えたい」というメッセージも伝わってきました。芸人さんにとっては、それをやるやらない、というのはすごく悩まれる部分ではないかと思います。メッセージを含む表現に挑戦しようという決意には、どんな理由があったのでしょうか?

結婚したのが大きいかもしれないです。オードリー若林とやっている「さよなら たりないふたり」や自分のラジオでも言ってたんですけど、独身のときは「自虐」「気持ち悪い」「アイドルが好き」「妬み嫉み」といったことを自分のメイン武器として戦っていたんです。得意な武器は“切れる”し、自分でも考えやすい。でも、結婚によってその得意な武器を変えなきゃいけないし、使ってもいいけどメイン武器からは降ろさなくてはいけなくなった。そんなときに、得意な武器をサブに据えながら新しい武器を見つけられそうな感じがあって。「伝える」とか「内面を見てもらう」ということが大事になってくるときなんだろうなと。そういった決意を一番いい形で叶えてくれたライブなんじゃないかなと感じています。

──それは片山さんや周りの方から「今これをやるときだよ」っていう後押しがあった上での決断だったのでしょうか?

片山さんには本多劇場というこれだけの素晴らしい会場を昨年(2019年)には押さえていただいていたんです。そのときはまだ結婚していないですし、結婚の相談もしていなくて、付き合ってもいなかった頃なんです。舞台では、結婚前の僕の戦い方の最高峰を目指そうと思っていて。でも結婚によって、片山さんが最初に描いていたことができなくなった。それで「新しくなった山里でできることを探す」と考えてくれて、結果的に片山さんが描いていたものを超えることができた。結婚したあとに自分のパワーが弱くならなかったことの証明になったんじゃないかと思います。

「山里亮太の1024」より。

──結婚直後の「不毛な議論」で「結婚して幸せになると笑いが獲れなくなるんじゃないかという不安もあったけど、リスナーの言葉に背中を押されて結婚に踏み切ることができた」といったようなことをおっしゃっていました。その不安は今回の舞台で相当払拭されたのではないかと思うのですが?

そうですね。このライブのおかげで、本当だったら襲ってきたであろう不安というものにまったく襲われなくなったので、よかったです。

──そう考えるとお笑い芸人としてのターニングポイントというか、また違うモードへ行くときの舞台として大きいものになったのではないかと。

決意表明に近いです。「前の武器にすがらないでちゃんと戦っていきます」という。