架空OL日記|脚本・バカリズム×監督・住田崇 リアルにこだわった架空の世界

10年前、バカリズムがOLになりすまし、約3年にわたって更新していた伝説のブログ「架空升野日記」。どこにでもいそうなOLのありふれた日常がすべて妄想によって綴られているブログは人気を集め、「架空OL日記」(小学館)として2013年に文庫化されている。そして今年4月、読売テレビ系にて待望のドラマ化。7月にはギャラクシー賞2017年6月度月間賞を受賞した。

このたび全10話と特典映像を収めた3枚組DVDボックスが発売されるのに合わせて、お笑いナタリーではドラマの脚本を手がけたバカリズムと監督の住田崇にインタビューを実施。主人公のOL「私」をバカリズム自身が演じることでも話題となった本作だが、その方法でしか映像化はありえなかったという。架空の世界にリアルを追求した2人のこだわりを聞いた。

取材・文 / 狩野有理 インタビュー撮影 / TOWA

バカリズム&住田崇 インタビュー

もうひとつの世界が頭の中にできあがってた

──ブログ「架空升野日記」は暇つぶしで始めたそうですね。なぜOLになりすまそうと思ったんですか?

バカリズム

バカリズム 自分とかけ離れてる世界にしたかったんです。OLさんって毎日規則正しい生活で、そんなに大きな事件もなさそうだったので書きやすいかなと。

──OLを空想して描くのではなく、「自分がOLだったら」という設定で書いていたんですよね。

バカリズム そうです。完全に自分のつもりで書いていました。

──ちなみにどうして銀行員に?

バカリズム それは単純に、その頃に銀行員の女の子と付き合ってたんです。

住田崇 あはははは! 言うんですね(笑)。

バカリズム 言っちゃうともうそれがすべてです(笑)。だから取材もしやすかったんですよ。生活のサイクルとかもわかっているし。最初の頃は会社の帰りに化粧品を買いに行ったり、同僚とご飯に行ったりとか、そういうレベルのことに留まっていたんですが、やりながら具体的に書きたくなってきてちょこちょこ情報を足していきました。

──「ナースサンダルじゃなくてパンプスを履きなさい」とか、本当に細かいことまで盛り込まれているなあと思っていたのですが、合点がいきました(笑)。

「架空OL日記」第1話のワンシーン。©︎2017「架空OL日記」製作委員会

バカリズム そういうルールがあるみたいで(笑)。あとは彼女だけじゃなくて、同世代の女の子の話を細かく聞いていましたね。どっちかというと芸能界の友達よりも一般の女の子の友達のほうが多かったんです。それと当時は自分でもけっこう化粧品のこととか調べていました。

──暇つぶしで始めたものだけど、しっかりリサーチして書いてたんですね。

バカリズム だんだん情報を集め始めました。自分で調べたもの、彼女や友達から聞いたものを合体させて文章にしていた感じです。

──以前、ブログの文庫化タイミングでお話を伺ったときに「キャラが一人歩きするようになった」とおっしゃっていました。

バカリズム そうですね。なんとなく枠を固めちゃってからは「この子が言いそうなこと」っていうのは自然と湧いてきました。

──OLが寝る前にブログを更新するのを想定して、バカリズムさんも毎日23時くらいにブログを書くという習慣だったそうですね。

バカリズム はい。別にまだ寝ないんですけど、とりあえず23時くらいになったらその1日を想像してブログを更新して。もうひとつの世界が頭の中にできあがっていました。

主役とオチが決まって「ヒットするな、これは」

──住田さんはこのブログをどうご覧になっていたんですか?

住田 気色悪いって言い方はあれですけど(笑)、「毎日毎日、この人は何をしてるんだ?」って。

バカリズム いや気色悪いですよ(笑)。けっこう女性は共感してくれたり、「癒される」とか読み物としての感想をくれたりするんですが、僕の周りにいる“こっち寄り”の人からは「気持ち悪い」とか「頭がおかしい」とか「変態」とか、そういうことは言われます。気づく人は気づいてるっていう。

住田崇

住田 最初に本になったものを読んで、それからブログを見に行ったんですけど、「なんなんだこれは」って思いました。不思議だったのが、升野さん(=バカリズム)って感度が高いからおしゃれな感じにしそうじゃないですか。でも本当に普通のOLがやりそうな、若干ダサめのテイストで。デザインとかも含めてOLとしてやってるんだなっていうのがすごく面白かったですね。

バカリズム ドラマとかに出てくるスタイリッシュなOLじゃなくて「本当にリアルなOLってこんな感じだよね」っていうのをやりたかったんです。

住田 ブログのヘッダもなんかダサいんですよ(笑)。

──いわゆるテンプレみたいなデザインですよね。

バカリズム アメーバブログの方にいくつか用意してもらって、“らしい”のを選びました。(参照:架空升野日記-バカリズム公式架空ブログ-

──ドラマ化が具体的に動き出したのはいつ頃ですか?

住田 去年の秋くらいかな。

バカリズム ざっくりと「やりたいですよね」っていう話は前々からしていたんですよ。

住田 升野さんに「いつか具現化したい」ということは言っていて。

バカリズム ブログ自体の人気が出てきて、当時から映像化してほしいっていう声もあったんですよ。このキャラクターはこの女優さんにやってほしいとか想像してくれる人もいて、僕もそういうの考えるのが楽しかったんですけど、まさか本当に映像化されるとは。

──中年男性が若いOLになりすましているブログを映像で表現するっていうのは難しくはなかったですか?

バカリズム演じるOL升野英知。©︎2017「架空OL日記」製作委員会

バカリズム どうしようか本当に悩みました。特に主演を誰にするかっていうのをけっこう考えていて。でも、「私」を僕が演じるっていうのでバチーン!と。一気にすべて解決しました。

住田 あと最終回のオチですよね。升野さんが「実はブログの最終回をこうしようと思ってたんです」って話してくれて、そこから転がっていった感じです。

バカリズム ブログではいつか書こうと思ってたんですけど、書かないまま更新しなくなったんですよ。その予定していた終わらせ方を話したら、住田さんが「全体が見えました」って。

住田 僕以外にもやりたいと言っている人もいたんですけど、ブログの各エピソードが短いじゃないですか。それをドラマにするっていうのがみんな「見えない」と。でも僕は升野さんと話しながら「全然いけるな」と思っていて、オチを聞いた時点で「それだ!」と。もう「ヒットするな、これは」と思いました(笑)。

──これまでも一緒に作品を作ってきた住田さんだから監督をお任せできた?

バカリズム そうですね。こういう狂ったものは住田さんが得意にしているので(笑)。

「架空OL日記 DVD-BOX」
2017年10月18日発売 / ポニーキャニオン
「架空OL日記 DVD-BOX」

[DVD]
12312円 / PCBG-61470

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あらすじ

目覚ましのスヌーズにイラッとしながら身支度をして、満員電車に揺られて出勤するOL「私」。擬人化した月曜に悪口を言って週初めの憂鬱さを晴らす。アフターファイブは仲良しの同僚とお茶したり、化粧品売り場をチェックしたり。ダイエットを決意してジムに行くけれど、誘惑に勝てずお腹はぽっこりのまま……。そんなOL升野と仲間たちの日常を描く。

  • 原作:「架空OL日記1」「架空OL日記2」(バカリズム著 / 小学館文庫)
  • 脚本:バカリズム
  • 監督:住田崇
  • キャスト:バカリズム / 夏帆 / 臼田あさ美 / 佐藤玲 / 山田真歩
バカリズム
バカリズム
1975年11月28日生まれ、福岡県田川市出身。マセキ芸能社所属。多くのテレビ番組にレギュラー出演するかたわら、毎年単独ライブを開催。11月22日には最新ライブ「ぎ」を収めたDVDが発売される。また「素敵な選TAXI」(関西テレビ)、「黒い十人の女」(読売テレビ・日本テレビ系)、「住住」(日本テレビ)など脚本を手がけるドラマ作品も多数。
住田崇(スミダタカシ)
住田崇
2017年1月から3月に放送されたバカリズム脚本・主演のドラマ「住住」(日本テレビ)でも監督を務める。ほか監督作にはオムニバス映画「バカリズム THE MOVIE」、「潜入捜査アイドル・刑事ダンス」(テレビ東京)、「戦国鍋TV ~なんとなく歴史が学べる映像~」(tvkほか)、「怪獣倶楽部~空想特撮青春記~」(MBSほか)など。