VESPERBELL「RUMBLING」特集|VEENAとKSUKEに聞く、ユニット&新作EPの魅力

パワフルな歌唱力を持つヨミと、まっすぐでポップな歌声を持つカスカからなるバーチャルガールズデュオ・VESPERBELLのEP「RUMBLING」が配信リリースされた。

タイプの異なる歌声を武器にYouTubeやSNSを中心に精力的な活動を展開し、今年7月に1st配信シングル「Noise in Silence」をワーナーミュージック・ジャパンから発表してメジャーデビューを果たしたVESPERBELL。「RUMBLING」は、メジャーデビュー曲「Noise in Silence」に続きトータルプロデュースにVEENAを迎えて制作されたEPで、「Noise in Silence」のほかに、テレビドラマ「私の死体を探してください。」の主題歌「羽化」、コロナナモレモモのメンバーとしての活動歴を持つDJ・KSUKEが手がけた「Bell Ringer」など計6曲が収められている。

音楽ナタリーでは「RUMBLING」のリリースを記念し、本作の制作に携わったVEENAとKSUKEのインタビューをそれぞれ実施。VESPERBELLとの出会いや彼女たちの魅力、2組が「RUMBLING」に込めたこだわりについて語ってもらった。

取材・文 / 杉山仁

VEENAインタビュー
VEENA

純粋に音楽で勝負する

──VEENAとVESPERBELLとの関わりが始まったのは、今年7月のメジャーデビューのタイミングでした。お二人はVESPERBELLというユニットに対してどのような印象を持たれていましたか?

VEE(VEENA) お話をもらって過去の作品をすべて聴かせていただいたのですが、それぞれが個々で活躍できるような歌唱力の、しかもまったくタイプの違う2人が集まった魅力的なユニットだと思いました。そんなお二人と仕事ができることにワクワクしたのを覚えています。制作においては、“いち音楽アーティスト” として勝負できるような楽曲ということを念頭に置いてますね。

──VESPERBELLはバーチャルアーティストではありますが、一度そういったくくりを取っ払って、純粋に音楽で勝負したいと。

VEE はい。VESPERBELLを知らない人に音楽で興味を持ってもらうためにも、楽曲制作の際には自分たちが信頼しているミュージシャンたちを演奏隊として集めました。そんな腕利きのミュージシャンを呼べるのもVESPERBELLの歌唱が素晴らしいからで。ヨミさんとカスカさんの歌が魅力的だからこそ、オーバープロデュースをして、補正をして、なんとか形にするような消極的な曲作りとは正反対のことができるんです。

──実際、EPを一聴すると演奏だけでも非常にテクニカルで複雑なことをしている印象です。「ヨミさんとカスカさんの歌ならその演奏に決して負けないだろう」という皆さんからの信頼を感じるといいますか。

VEE それは本当にそうですね。伴奏がボーカルの添え物にはならないように心がけましたし、ボーカルレコーディングの際にはお二人がこちらの想定を超えたいい歌を聴かせてくれたので、僕たちも非常に楽しい制作現場でした。

2人の“覚悟”を表現したかった

──EPの収録曲について1曲ずつ制作過程を聞かせてください。まずはメジャーデビューシングル「Noise in Silence」の制作はどのように取りかかったのでしょうか?

VEE この曲はかなりテクニカルで、なおかつVESPERBELLのもともとの世界観にも通じるところのある楽曲だと思っています。中でも自分たちが特に意識したのは、海外のインディーバンドのような“生々しさ”でした。例えばアメリカのBoygeniusなどを筆頭にした女性アーティストに通じる生々しさというか、バンドでみんなでドカーン!と演奏しているような音にしたいなと。

──なるほど。歌詞の面でもこだわった部分はありますか?

ENA(VEENA) 作曲者のMisty mintさんの歌詞がおおもとにあって、メジャーデビューを果たしてさらに飛躍していく新しいVESPERBELLの形をどう表現するかにこだわっていきました。歌詞はエネルギーに満ちていて、新しい世界へ突破していくような光景を強くイメージして書きました。

──VESPERBELLの「これからも戦い続けていく」という気持ちが伝わってくるような歌詞ですね。

VEE ありがとうございます。僕ら自身「お二人の覚悟が伝わるようなものにできたら」と考えていました。その“覚悟”はEP全体を通してフォーカスしたことでもあります。

──「Noise」と「Silence」という正反対の要素が一緒になっているタイトルも印象的ですが、これはどんなアイデアから生まれたものなのでしょう?

VEE Misty mintさんが提供してくれた音源の仮の歌詞とタイトルが印象的だったので、「Noise in Silence」というタイトルと歌詞の3分の1くらいはそのまま残しているんです。VESPERBELLがメジャーデビューして産声を上げる、そのワクワクとざわざわした感じを表すようなタイトルになったんじゃないかなと。

──この曲でのヨミさん、カスカさんのボーカルはいかがでしたか?

VEE パワフルで圧倒されるようなヨミさんの歌声と、かわいらしくて人を惹き付けるようなカスカさんのボーカルの魅力を、僕ら自身も改めて感じたレコーディングでした。お二人の声が合わさったときの調和は唯一無二ですね。

2人の絆、ファンの思いを内包した「羽化」

──ドラマ「私の死体を探してください。」の主題歌にもなったメジャー2ndシングル「羽化」はどうでしょう?

VEE ヨミさんとカスカさんのコーラスワークが美しく聞こえるように、特にストリングスやピアノのコード進行の整理とボイシング(和音の構成)にこだわりました。ドラマがミステリアスな世界観の作品だったので、VESPERBELLの持つミステリアスさとの調和をどう図るかは大切にしましたね。

ENA とにかく作品を読み込んで、ドラマとお二人の世界観の接点を探すところから歌詞を考えていきました。EP全体のテーマが「VESPERBELLの2人がこれから上昇していく。もっと大きなパワーでVESPERBELLを取り巻くあらゆる物事を高い次元に持ち上げる音楽を作る」だったので、そういった要素をすべて内包するものとして「羽化」というイメージが浮かんできて。ドラマも大きな意味で捉えれば、「ずっとくすぶっていた自分の中の思いを昇華する」という内容だと思ったので、その2つが重なってスムーズに制作が進みました。

──続いて、今回新たに加わった4曲についても聞かせてください。EPの1曲目「鳴動」は、まるでヘッドバンギングが似合いそうなイントロも印象的な本格的なラウドロックになっています。

VEE ラウドロックを真正面からやるような楽曲なので、バンドメンバーもそういった演奏が得意なミュージシャンの方々で、ギタリストのISAOさん(soLi)、ベーシストのMASAEさん、ドラマーのKid’zさん(MY FIRST STORY)に参加していただきました。ですから、ヨミさんとカスカさんからしたら、お二人をお膳立てするようなアレンジにはなってないんですよね。けれどもお二人は歌でそれを超えてきた。工夫したポイントとしては、激しさ一辺倒にはならないように、イントロとアウトロに荘厳なコーラスパートを加えています。その結果、楽曲としてバランスよく仕上がったと思っています。

──ただ激しいだけではなく、VESPERBELL(=晩鐘)というユニット名から感じる、どこか神々しい魅力も表現されているような雰囲気が印象的でした。

VEE そうですね。この部分を最後に加えたことで、自分でも「VESPERBELLの曲になったな」と実感しました。

──歌詞についてはいかがでしょう? この曲もこれからの活動への気持ちが伝わってくる内容になっていますね。

ENA この曲ではお二人の絆や、これまでVESPERBELLの活動を見守ってきたファンの皆さんの気持ちも内包するような歌詞にしたいと思っていました。例えば今思いつくところだと、2番の「味方なんて誰一人居ないはずの道で 君だけは見ていてくれてた 君が信じた僕ならば 信じられそうな気がしたんだ」という部分は、その気持ちがよく出ているのかなと思います。

助け合う2人を描く

──VESPERBELLの楽曲は、2人のかけ合いや一緒に歌ったりする瞬間がありますが、歌割りについてはどんなふうに考えているのでしょう?

VEE 不思議なもので、「この歌詞はヨミさんだよね」「この歌詞はカスカさんだよね」ということが自然に共有されるといいますか、意見がぶつかることが全然ないんですよ。お二人自身もそうみたいで、こればっかりは説明できないというか……。「だよね!」という感覚がみんな共通しているんです。

──「Trust Me」や「Imperfect」についていかがでしょう?

VEE 「Trust Me」はUSロックのような音像を意識していました。

──途中にセリフパートがあって、サビでガッと盛り上がっていく構成も印象的です。

VEE そこが一番インパクトのあるところですよね。歌詞については僕ら2人で制作したんですが、セリフの部分にどういうメッセージを込めるかを大切にしました。ここでもEP全体のテーマである彼女たちの決意や覚悟のようなものをかなり意識して、前後に肉付けしていったのを覚えています。一方、「Imperfect」はEPの中でも少し異質な制作過程で生まれた曲で、DAISUKE HASEGAWA(SUPA LOVE)さんに楽曲提供をいただいた際に、その時点でアレンジが完成していたので、自分たちは作詞の部分に力を入れました。

ENA ヨミさんとカスカさんの関わりや、2人が助け合っていくという面を特に押し出した歌詞になっていると思います。(「Imperfect」の歌詞を引用しながら)「完璧じゃない僕らだけれども、足りないならば手を取り合って歌えばいい」というのがテーマで、これはきっと聴いてくれる方の人生にも関わってくるようなテーマだと思います。彼女たち自身、聴いてくれる方の心に灯りをともすような、支えられるような音楽を発信していきたいという思いがあるので、その気持ちを歌詞に込めています。

VESPERBELLの絆を感じた

──リード曲「Bell Ringer」についてはいかがでしょう? この曲は演奏も暴れているといいますか、ヘヴィロックにダブステップの要素も取り入れたド派手な曲に仕上がっています。

VEE  VESPERBELLのレパートリーの中に、こういう派手な曲があったらいいなと思っていたんです。

──音楽性の幅を持たせたいと。

VEE そうですね。EPの中で最も派手な曲にしたかったので、「このジャンルであればこの方だろう!」と思いKSUKEさんにお声がけしました。この曲はライブを想定して作っているので、お客さんとの掛け合いで盛り上がれたらいいなと思います。

──EPのレコーディングを終えて、改めてヨミさんとカスカさんの歌の魅力について感じたことがあれば教えてください。

VEE お二人それぞれがタイプの異なる魅力を持っていて、いつも僕たちの想像を超えるような歌を聴かせてくれる。言葉にするとチープに聞こえるかもしれませんが、「うまい」とはまた別のところにある「感動を伝えるような歌」を届けてくれる2人だと思います。まずはそこが共通にありながら、クールで圧倒的な歌唱のヨミさんと、キュートでみんなが惹き付けられてしまうような歌声のカスカさん。この2人が1つのグループにいるというのは、とても魅力的なことだなと思いますね。

──ロックスターとポップスターがユニットをやっているような雰囲気ですよね。

VEE 確かに。それはお二人の魅力をいい形でたとえていただいたような気がします。

──ヨミさんとカスカさんの歌で、テクニック的にすごいと感じた瞬間はありますか?

ENA ヨミさんは声のよさと総合的な歌唱力の高さはもちろん、表現力の部分、感情の振り幅が広くて的確に歌に込められるところが素晴らしいと思います。カスカさんは人懐っこさがあって、ズバッと心に刺さってくる強さがあるのと同時に、技術的な面ではすごくリズム感がいい。お二人とも歌のポテンシャルは高いけれど、「表現力」と「リズム感」はそれぞれズバ抜けてらっしゃる部分だなと思いますね。それに、お二人がお互いのことを常にリスペクトし合っているといいますか。尊敬し合っている信頼感や絆のようなものが、普段の会話や表情からも伝わってくるのがとても印象的でした。

──そんな2人だからこそ、全然違う声質にもかかわらず一緒に歌った瞬間に不思議とまとまって聞こえるのかもしれません。

VEE 自分だけのためにではなく、お互いがお互いを引き立て合うことに全力を尽くしてくれるので、僕らとしても作詞やパートの振りわけに至るまでまったく遠慮がいらないんです。いいものを作るためなら「それが最高!」と思って取り組んでくれるので、そんな雰囲気が音楽的に一切妥協しなくてもいい作品作りにつながっているのかなと思います。

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KSUKEインタビュー

2024年12月5日更新