ナチュラルな津軽訛りとあっけらかんとしたキャラクターで、もはやテレビのバラエティ番組に欠かせない存在となっている王林。テレビでの活躍で彼女の存在を知った人も多いかもしれないが、王林は小学生の頃に地元青森で芸能活動を始め、2013年から2022年まで青森のローカルアイドルグループ・RINGOMUSUMEの一員として活動していた。グループ時代から彼女の歌唱力への評価は高く、その実力は一時期在籍したラストアイドル内ユニット・Good Tearsでの活動や日本テレビ系「熱唱!ミリオンシンガー」への出演を通しても広く知れ渡っているだろう。
長年のファンから音楽活動の再開を望む声が上がる中、王林はついにソロアーティストとしての道を歩み始めた。アーティスト名は「Ourin-王林-」。11月15日に発売されたデビューシングル「Play The Game / ハイテンション」に収められた2曲はいずれも彼女のスタイリッシュな側面を表現した楽曲となっているが、その歌詞には「音楽で青森を発信したい」という強固な“レペゼン青森”魂が刻まれている。音楽ナタリーでは王林がソロで音楽を始めた経緯を探るべく、本人にインタビュー。おなじみのほんわかした語り口ながら、音楽活動に懸ける思いをしっかりと話してくれた。ぜひ津軽弁のフロウを思い浮かべながら黙読、あるいは音読していただきたい。
取材・文 / 臼杵成晃撮影 / 曽我美芽
バラエティでの大活躍……「歌って踊る王林が見たい」の声に後押しされて
──2022年のRINGOMUSUME卒業後、同じメンバーだった彩香(現・赤坂麻凪)さん、とき(現・和海)さんは音楽以外の道へ、ジョナゴールドさんはすぐにソロとして動き出しましたが、王林さんはとにかくバラエティ番組に引っ張りだこでしたよね。
ホントにバラエティのお仕事がほとんどですね。
──王林さんはもともと歌唱力の評価も高かったし、音楽活動は今後どうするんだろう、やりたくてもやれないほど多忙なのかな……と思っていたんですよ。バラエティの才能がありすぎるあまり(笑)。音楽活動へのモチベーションは、王林さんの中ではどうだったんですか?
RINGOMUSUMEを卒業したタイミングで、音楽活動というよりも、芸能活動に対しての意欲がホントになくなっちゃって。もう活動を辞めて普通に海外留学とかしたいなと思ってたんですよ。そもそもグループ卒業は王林は望んでなかったんですけど、ほかのメンバーの「次のステップに進みたい」という思いがあって、そんなメンバーを応援しようと自分も卒業したんです。
──タレント活動はRINGOMUSUME時代からどんどん多忙になっていましたよね。でも王林さんとしては、まだまだグループを続けたかった。
はい。小学生の頃からRINGOMUSUMEをやってたから、自分は何をやりたいのかということに向き合うこともなく、常に走り続けていたRINGOMUSUMEを終えて一旦燃え尽きたというか。卒業が決まって初めて自分と向き合う機会ができて、芸能活動に限らず「自分はこれからどうしていこう」と考えていたときに、運よく今の事務所の方に出会ったんです。それで芸能を続けると決意したからには何か目標を決めたいなと考えたんですけど、改めて自分はやっぱり音楽が好きだなって思えて、「音楽活動がしたいです」と事務所に所属した最初の頃に伝えました。だけど、ずっと4人でやってきたRINGOMUSUMEが好きすぎて、ソロでどんな音楽がやりたいのかもわからなかったんです。
──ソロで歌うビジョンが見えなかった?
RINGOMUSUMEでは青森のご当地ソングを歌ってましたけど、青森のことを音楽で発信したいという気持ちは変わらないし、ソロというよりはグループでやりたい……グループの魅力しか知らないから、音楽をやると言っても、気持ち的にけっこう引っかかるところがあって。音楽を始めても結局「RINGOMUSUMEがよかった」という思いをぶつけるだけになっちゃって、新しい音楽にならないんじゃないかなあ?とか、いろいろ考えてしまいました。もともとはモデルになりたくて青森の事務所に入っているから、自分が歌とダンスがどこまで好きなのか、あまり考える機会がなくて。
──王林さんの場合、歌手になりたくて活動を始めたわけではないんですよね。「歌がやりたい」「アイドルになりたい」というよりは「RINGOMUSUMEの活動がしたい」という。
小さいときから歌もダンスも好きではあったんですけど、王林がいたときのRINGOMUSUMEはアイドルになりたかったメンバーは1人もいなくて、ただ「青森を盛り上げていこう」という目標だけを掲げてアイドル活動をしてたんです。音楽目的じゃなかった4人がなぜかアイドルとして活動している環境はすごく楽しかったし、ほかにないことをできている感じがして。やりがいもあったからこそ、1人で音楽活動をするとなったときは、ワクワクや楽しみよりも「大丈夫なのかな」「ソロでやってくべきなのだろうか」という不安のほうが大きかったです。
──そうだったんですね。RINGOMUSUME時代から歌やパフォーマンスに対する熱意を感じていたので、タレントとして大活躍している姿を見ながら「音楽活動がしたいと思っているんじゃないかな」と想像していました。
忙しくて音楽ができなかったというよりは、悩んでいる時間が長かったんです。音楽をやりたいという希望は今の事務所に入ったときから話してましたし、そこから打ち合わせを重ねての今、という。バラエティでも歌を歌う機会は多くて、それで評価していただくことも多かったし、ファンの皆さんからも「歌って踊る王林が見たい」という声はすごくあったから、そういう自分を求めてくれる方があちこちにいるんだとわかったのも、すごく後押しになりました。
青森をおしゃれにカッコよく発信したい
──それほど悩んでいた「ソロでやるべきか?」という問いに、最終的に「やる」という決断を下せたのはなぜですか?
バラエティにたくさん出させてもらって、青森のことを直接自分の口でPRする機会をいただけたり、商品のプロデュースに携わらせてもらったり、卒業したあとも青森のよさを発信することはできていたけど、音楽でそれをやっていたRINGOMUSUMEでの活動が自分はホントに好きだったんだなと改めて思ったんです。なまりが入った曲とか、ミュージックビデオを全部青森で撮影したりとか……音楽から離れていたこの1年半の間に、歌とダンスが好きという気持ちはより強くなって。音楽で発信する青森の姿、というところに可能性を見出せた期間でもありました。
──ソロでもやりたいことの根幹はRINGOMUSUMEから変わっていない。
変わってないですね。1周回って……というか何周も回った結果「青森は音楽をやるのに適した場所だな」と感じるようになりました。
──王林さんは青森の魅力を発信したいというレペゼン青森の情熱がかなり強いですよね。RINGOMUSUMEの活動コンセプトだからそうしていたのかと思っていたんですが、1人でバラエティに出ているときも常に青森のよさを伝えていますし、ゆくゆくは青森の知事として発信したいという(笑)。
そうなんですよ。トピックがなんであろうと青森を発信したい。だからこそ、別に芸能じゃなくてもいいなと思っていて。商品のプロデュースだとか、芸能を辞めて違う形でやっていくことも考えてました。だから、ソロで音楽をやるとなったら王林にしかできない音楽がやりたくて、それはやっぱり青森にこだわることかなって。それでこのデビュー曲の2曲を作ってもらいました。RINGOMUSUMEはチームみんな青森が拠点だから青森のことをなんでも知っていて、そういう人たちが作っていたけど、今は青森の人は王林だけなので、青森について入れたい要素は自分でちゃんと伝えなきゃいけない。今までとは違う試行錯誤がありました。
──サウンド的な部分は王林さんの希望もあったんですか?
青森をおしゃれにカッコよく発信したいという気持ちがずっとあって。RINGOMUSUMEはポップでさわやかな楽曲が多かったけど、王林はブラックミュージックがすごく好きなので、RINGOMUSUMEとはまた違う青森を音楽で表現したいと最初にお話ししました。
じょっぱり魂をスタイリッシュに描いた「ハイテンション」
──王林さんはしゃべるとしっかり青森訛りだし、性格的にも素朴なほうだと思いますけど、ビジュアルは背が高くて都会的なんですよね。デビュー曲「ハイテンション」のMVはそのギャップが明確に表現されています。
「ハイテンション」はゆったりとしてメロウな感じの曲調とタイトルの違和感と、青森の田舎町にいる都会から来た女の子というちぐはぐ感が1つの世界に盛り込まれているのが魅力なのかなと思います。
──歌詞やMVの映像からは強気な女性像が見えますけど、これも青森弁で「意地っ張り」的な意味を持つ“じょっぱり”を表現しているのだそうで。
「おめ、じょっぱりだなあ」とかよく言うんですよ。言うこと聞かない人とか(笑)、気が強い人とか。ちょっと悪い意味にも捉えられますけど、青森の人が長い間農家を続けていられたり、寡黙な作業が必要な津軽塗のような伝統工芸品が残っていたりするのは、じょっぱり魂があるからだと思うんです。だから王林はじょっぱりという言葉が好きで。デビュー曲はじょっぱりをテーマにしたいとお願いしました。RINGOMUSUMEの頃だったら、そのまま「じょっぱり」という言葉を使って曲にしてたと思うんですけど、ユニバーサルさんと話していく中で、今までとは違った青森の入れ込み方ができました。じょっぱりが裏テーマになっていることは深掘りしていくと気付ける、というのがOurin-王林-の音楽としてはいいテンション感で。
──なるほど。風景や特産品など表面的なところをノベルティソング的に描くだけじゃなく、気質の部分でも青森が表現できるわけですね。王林さん自身にも“じょっぱり”気質はあるんですか?
すっごい感じます。人の言うこと聞かないなーって(笑)。これをやるんだ!と決めたら絶対やり通したいし。周りのおじちゃんおばちゃんが口癖のように人に対して「あの人、なんまじょっぱりだっけのー」って言ってるような普通の言葉だから、自分もじょっぱりだし、周りの人たちもみんなじょっぱりだなと思います。
──青森特有の気質をアーバンでメロウな音楽に乗せて歌うというのは、確かにRINGOMUSUMEともまた違う、いい打ち出し方ですよね。
田舎っぽさをコミカルに出すんじゃなくて、おしゃれにカッコよくやりたいんですよ。「ハイテンション」は歌詞の中にも津軽弁がちょこちょこ入ってるんですけど、「こんな方言があるの? 面白い!」じゃなくて、音として認識してほしい。日本人が英語がわからないのに洋楽を聴いてるみたいな感じで、心地のいい音だなあと思って聴いてたけど「かちゃましい」ってどういう意味なんだろう?くらいのテンション感でよくて。RINGOMUSUMEではタイトルも「だびょん」で歌詞でも「だびょん!だびょん!」って言い続けていたりとか(笑)、それはそれでご当地アイドルらしい楽曲のよさがありましたけど、ソロアーティストとしてやるからにはまた別の見せ方がいいなと。
──確かにパッと聴きは方言で歌ってるとは気付かないですよね。なんとなく音としてだけ認識してしまうのは、今おっしゃった洋楽と同じ聴き方なのかもしれない。
レコーディングのときに決めたりもしたんですよ。「今 ハイテンション」「マジ ハイテンション」の繰り返しを最後だけ「たげ ハイテンション」にしようとか。うまく入れ込めたかなと思います。
──MVも風景自体はのどかですけど、いかにも田舎の風景ですという感じではなく、あくまでおしゃれな仕上がりになっていますよね。
青森の人間からしたら、当たり前の風景すぎて「これっておしゃれなの?」みたいな感じだと思うけど(笑)。
──ロケ地は地元の人なら知ってるようなおなじみの場所なんですか?
はい。ラーメン屋さんのシーンも王林が普段行ってるところで、普通にありふれた日常の一部を切り取った感じです。でも王林がホントにありがたいなと思ったのは、この1年半、ホントに東京と青森の生活が逆転していて、初めて青森を外から見るような気分になったことです。ずっと青森にいたら気付かなかったような魅力を感じられるようになりました。
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