KOTORI×岸田繁(くるり)インタビュー|KOTORIのスタンスを変えたくるり岸田のプロデュース

KOTORIが9月7日に新曲「こころ」を配信リリースした。

「こころ」はKOTORIが7月から9月にかけて実施した3カ月連続配信リリース企画の第3弾楽曲で、岸田繁(くるり)をプロデューサーに迎えて制作された。これまでバンドメンバーやチームだけで楽曲制作を行っていたKOTORIに新たな風が吹いたような、横山優也(Vo, G)のエモーショナルな歌声と生々しいバンドサウンドが印象的な楽曲に仕上がっている。

音楽ナタリーでは、KOTORIのメンバー全員と岸田にインタビューを実施。「こころ」の制作エピソードを中心に、バンドに対する考え方や自由に音楽を続けるために必要なことなど、幅広いテーマで語り合ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 山川哲矢

自由な岸田繁、きっちりしているKOTORI

──まずはKOTORIが岸田さんに「こころ」のプロデュースを依頼した経緯を教えてもらえますか?

横山優也(Vo, G / KOTORI) メンバー内で「次はどういう曲を作ろう?」と話している中で浮かんだ案なんですよ。「We Are The Future」(2021年5月リリースの3rdフルアルバム)である程度、やることはやったなという感じがあって。この先は自分たちから発信するだけではなくて、外から引っ張ってもらう形で制作して、もっと広いところに届けたいなと。そこで「プロデューサーを立てるのはどうだろう?」という話になって、だったら岸田さんにお願いしてみようと。

細川千弘(Dr, Cho / KOTORI) 岸田さんにマジで引き受けてもらえるとは思ってなくて。「やってもらえたらどうなるんやろう?」みたいなことを話していただけなんですけど、思った以上にスムーズに話が進んで、下北沢のリハーサルスタジオに岸田さんが来てくれたときにやっと「ホンマやったんや!」と実感が湧きました(笑)。

岸田繁(Vo, G / くるり) ははは(笑)。うちのマネージャーが(埼玉県)越谷出身で、「KOTORI、越谷で結成されたバンドなんですよ」と言われて、「じゃあ、やりましょうか」と。

横山 そこが大事だったんですね(笑)。

岸田 KOTORIのことはよく知らなかったので、まず音源を聴いて、「へー」と思いました。その後、リハを見に行き、「こんばんは」と挨拶して。

KOTORIと岸田繁(くるり)。

KOTORIと岸田繁(くるり)。

佐藤知己(B / KOTORI) そのリハで岸田さんと初対面しました。その時点でもうプロデュースしていただけることは決まってたらしいんですけど、僕らは引き受けてもらえるのかどうかまだわかっていなくて。

横山 そのときの演奏で判定されるのかなって。

上坂仁志(G, Cho / KOTORI) そのリハがオーディションみたいなものかなと思ってました。岸田さんが入ってきた瞬間に背筋が伸びたし、緊張してうまく演奏できなかったです。

岸田 いやいや、いいなと思いましたよ。まず、ドラムとベースがよくて。リズムが「ドン!」と押し出されていたし、(横山、上坂の)2本のギターのアンサンブルもいい感じで。アレンジもすごく緻密でしたね。

佐藤 感想を聞くだけで緊張しますね。

細川 もったいないお言葉をいただきました。最初は8ビートの曲をやってたんですけど、岸田さんに「変わった曲をやってみて」と言われて。「SPARK」(「We Are The Future」の収録曲)という変則的なリズムの曲を演奏したら、「今の演奏が一番いい」と言ってもらえたんです。

岸田 変人やからな(笑)。

佐藤 自分たちの演奏に対して、その場で岸田さんからいろんなフィードバックをいただいたんです。「普段はどんな感じで曲を作ってんの?」みたいな感じでコミュニケーションを取りつつ、こちらからもいろんなことをお伝えして。そのままプロデュースについての話もしたんですけど、なんて言うか、岸田さんは自由な人だなと感じたんですよ。こういう方がプロデュースしてくれるのが、すごくうれしくて。

岸田 ええやつやな(笑)。

佐藤 (笑)。同じメンバー、同じチームでずっとやっていると、どうしても考えや発想が凝り固まってしまう気がして。今回岸田さんがプロデュースしてくれたことで、バンドの自由度が高まったと思います。

岸田 バンドって、密室の中で音楽をやってるようなものじゃないですか。しばらくやっているとバンド内にルールみたいなものができて、その中で曲を作っていく。ルールがあるよさもあるんだけど、ずっとやってると飽きてくるんですよ。僕のところにプロデュースの話が来るということは、たぶんKOTORIもそういうタイミングに来てるんやろうなと。今までとは違う要素が入ることや視野が広がることを期待しているんだろうし、そのためには「KOTORIのルールをどうやってブッ壊そうか」というところから入って。

横山 なるほど。

岸田 リハを聴かせてもらったときに、「きっちりしてるな」という印象を受けたんですよ。それは彼らのいいところだと思うんですけど、今回はあえて「きっちりしてない曲をやりませんか?」と提案して。曲を作る段階もそうやし、アレンジにしても、いろんな決まりごとを取っ払ってやってみようと。

岸田繁(くるり)

岸田繁(くるり)

自分以外の誰かになることで隠している部分が出てくる

──KOTORIとしても、まさにそういう提案を求めていたわけですよね。

横山 そうですね。スタジオに来てもらったときに、全部見抜かれました。今までの制作方法は、最初にオケの細かいところを詰めてから歌を乗せるという感じだったんです。「こころ」の制作は普段の逆というか、まず岸田さんから「歌をメインにして作ろう」という提案があって。

岸田 最初は弾き語りみたいな感じでいいから、歌から作っていきましょうと。横山くん、偉いんですよ。すぐ曲を作ってきて。

横山 歌詞の書き方についてもいろいろ話をさせてもらったんです。今まで自分のことだけに目を向けすぎていたような気がしていて。そしたら岸田さんに「もうちょっと適当に書いてもいいんじゃない」と言われたんですよ。例えばコンビニの店員さんの視点に立って、「家では何をやってるんだろう?」みたいに想像したり、誰かの気持ちになって歌詞を書いたり。そういう方法で書くことで、自然と自分の感情も乗ると思うし、それこそが本質かもしれないなと。

横山優也(Vo, G / KOTORI)

横山優也(Vo, G / KOTORI)

──自分と向き合うだけではなく、外に視線を向けるというか。

横山 そうですね。これまでは自分のダメなところを探して、“自分への戒め”みたいな歌詞になることが多くて。

岸田 カッコつけた反省文みたいなね。自己投影的になりがちなんですよ、ソングライターの書く歌詞って。それよりも他人事みたいな感じで書くほうが面白いと思うんですよ。たとえば「秋の夕日に照る山紅葉」(童謡「紅葉」の一節)って、作った人の“オレオレ感”ないでしょ。

横山 確かに。

岸田 そっちのほうがいいと思うんですよ。加えて「どんなふうに紅葉がきれいに見えているか」ということをほんの少しでも書けば、その人の感情も入るわけやし。ちょっと演じているような視点で書いたほうがリアルになると思うんですよね。自分のことだけだと、どうしてもカッコつけたりとか、結局何を歌っているかわからなかったりすることが多いので。自分以外の誰かになることで、普段は隠している部分が出てくることもあるからね。「こころ」も横山くんの友達の視点になって書いたんでしょ?

横山 はい。そうすることで普段は恥ずかしくて言葉にできないことまで書けた気がします。「こころ」の制作後も、いろいろ気にせず歌詞を書けるようになってきて。

岸田 お、よかった。

童貞がキレまくった感じでいったれ!

──岸田さんは「こころ」のデモ音源を聴いて、どんな印象を持ったんですか?

岸田 最初は横山くんの弾き語りで送られてきて。「素朴でいい曲やけど、アレンジが難しそうやな」と思ったんですけど、そこはさすがというか、めっちゃいいアレンジになって。横山くんの歌もすごく強かったし、演奏にも彼らがこれまで聴いてきた音楽や、記憶に埋め込まれている昔の音楽の感じが出てるんですよ。

細川 デモを送ってからレコーディングまでの間にも、岸田さんといろいろやり取りさせてもらいました。最初は「丁寧に演奏したほうがいいんだろうな」と思っていたんですけど、「君らはロックバンドなんやから、そんなに縮こまらんでもええで」と言ってもらって。その言葉によっていい意味で肩の力が抜けたというか、だいぶ変わりましたね。

岸田 KOTORIのライブはまだ観たことないんですけど、おそらくバーッと勢いよく演奏しはるタイプの人たちやろうなと。4人ともいい子たちと言いますか、真面目だから「ちゃんと演奏しないと」と思うんやろうけど、「こころ」はドーン!と演奏したほうがいいと思って。その結果、さらにいい演奏になりましたね。ただ音がデカいだけの演奏ではなくて、こっちが何も言わなくても、4人で音楽的なバランスも取れている。ええバンドやなと思いました。

佐藤 うれしいです。

横山 レコーディングは岸田さんが使っている京都のスタジオでやらせてもらって、ベーシックは2テイクくらいで録り終わったんですよ。結局、予定より1日早くすべて終わって。

岸田 あとはどうでもいい話しながらビール飲んでました(笑)。

横山 その時間も楽しかったです(笑)。レコーディングでは、普段はもっと細かく詰めていくんですけど、「こころ」はちょっとリズムがヨレていてもいいというか、「完璧にしすぎない」と心がけた部分もありました。

岸田 きれいに整えたほうがいいタイプの音楽もあるんですけど、「こころ」はそうじゃなくて、気持ちの持ちようや温度感、ダイナミズムみたいなものが大事な曲だと思って。多少気になる部分があったとしても、むしろそれが味になっていると思いました。

佐藤 さっき千弘くんも言ってましたけど、岸田さんに「もっとバーッとやればいいやん」みたいなニュアンスの言葉をもらって、僕もかなり体が軽くなって、素直に演奏できた感じがありました。

岸田 ギターはけっこう弾いてもらいましたけどね。

──楽曲の終盤からエンディングにかけて、かなり長い尺のギターソロがありますね。

上坂 そうなんですよ。普段はあまりギターソロを弾かないし、リフで構築するのが自分のプレイスタイルみたいに勝手に思ってたんですけど、岸田さんに「ここから全部ギターソロにしたい」と言われて。レコーディングの前日にソロを聴いてもらう時間があって、そのときに「もっとやっちゃっていいよ」と。「童貞がキレまくった感じでいったれ!」と言われて、そこでリミッターが外れました(笑)。

上坂仁志(G, Cho / KOTORI)

上坂仁志(G, Cho / KOTORI)

岸田 このエロ小僧が!(笑)

KOTORI ハハハハ!

上坂 本番もきちんとフレーズを決めずに何回も録って。テイクごとにかなり違ってたんですけど、岸田さんに選んでもらいました。

岸田 全部よかったよ。ちょっとKOTORIとはジャンルが違うかもしれんけど、ビル・フリゼールとか、ライ・クーダーみたいな感じがあって。俺もそういうのが好きやし。

細川 上坂には見えてなかったと思うんですけど、岸田さん、上坂がいい演奏すると、こうやってたんですよ(サムズアップで両手を上げる)。

上坂 そうだったんだ。よかった(笑)。ここまで自由に弾かせてもらったのは初めてかもしれないです。

岸田 どんだけ自分を縛り付けてたのか(笑)。