ナタリー PowerPush - Plastic Tree
難病を克服して手に入れた“ずっと残っていくもの”
Plastic Treeからニューアルバム「アンモナイト」が到着。ボーカリスト・有村竜太朗(Vo)がギラン・バレー症候群を患うという大きなアクシデントを乗り越えて制作された本作には、90'sオルタナティブ、グランジ、シューゲイザー、音響系などの影響を、耽美的にして衝動的なロックミュージックとして昇華させた彼らの多彩な音楽性が、これまで以上にダイレクトに描かれている。このアルバムに至る経緯とバンドの立ち位置などについて、有村と長谷川正(B)に訊いた。
取材・文/森朋之
このアルバムは現時点での集大成だと思う
──今作は、ひとつひとつの楽曲に際立った個性があって、Plastic Treeのビビッドな音楽性がしっかり表現されたアルバムだと思います。まず、アルバムの手応えについて聞かせてもらえますか?
有村 そうですね……。うーん、ちょっといろんなことがあってできたアルバムなので、そのぶん、時間もすごくかかかっちゃったんですけど。時間をかけただけあって、キャラの強いアルバムになったかなとは思ってますね。
長谷川 個人的には、今まで大事にしてきたものが、このアルバムで表現できたかなって思っていて。バンドのキャリアっていうか、やってきた年数もけっこう長くて、その中でいろんなことにもチャレンジしてきたんですよ。で、バンドを始めたときから大切にしてきたものが、たぶん、このアルバムには詰まってるんじゃないのかな、と。
──大切にしてきたものっていうのは?
長谷川 うーん、まずは自分たちが感動できるものを作る、ですかね。自分たちが聴いたときに「カッコいいよね」とか「いい曲だよね」って言えるものにしたいんですよ。最終的には人に聴いてもらって、それが伝わることで完結するのかなって思いますけど、発信する段階では客観的に「いい作品」って思えるものにしたい。そういう意味では、今の時点の集大成だと思いますね、このアルバムは。
有村 自分の中にも好きな音楽だったり、価値観っていうものがありますからね。もっと単純に言うと、自分が聴きたい曲を作るというか。そういう意識はあると思います、曲作りのときも。
──リスナーとしての視点を持ち続けてるのかもしれないですね。聴きたい音楽って、時期によっても変わりますか?
有村 うーん、それはあんまり変わらないかもしれない。
長谷川 (笑)。
有村 昔から好きなものって、何回も聴くし。音楽の趣味っていうのは決まってますからね(笑)。あとは自分の中に出てきた感情、そのときに生まれてくるものとどう照らし合わせていくかっていう。
──ルーツは取り替えが効かないですからね。
有村 そうですね。「今はコレが好き」っていうのもあるけど、それも自分が好きなものの流れを汲んでたりするので。
時間がかかったけど、シューゲイザーはずっとやってみたかった
──新しく出てきたバンドの音を聴いて、「コレって、アレじゃん!」とか思ったりしますからねえ。年齢のせいかもしれないけど。
有村 ありますね。ウチらもぜんぜんあるし。1曲目の「Thirteenth Friday」なんて思い切り……。
長谷川 「ドシューゲイザー」っていう(笑)。でも、そういうのもいいなって思うんですよね。
有村 ブルースとかに似てるところがあるような気がするんですよね。同じコード進行で同じようなメロディなんだけど、その人が歌うからオリジナルになるっていう。
──ありますね、確かに。古くから伝わる形式でも、すごく新鮮な表現として成立することもあるし。
有村 ロックンロールもそうですよね。
長谷川 3コードに勝るものはないですからね、ロックンロールだと。人が気持ちいいと感じるフォーマットってありますよね。
有村 でも、バンドや歌い手によって違うものになる。その人にとって、それがホントに作りたい曲であればいいのかなって思いますけどね。もちろん、自分たちにしかできないこと、オリジナリティは追求したいけど、それは意識するっていうよりも勝手に生まれてくるものじゃないかなって。
──なるほど。「Thirteenth Friday」は確かにシューゲイザー直系のサウンドですが、ここまでストレートに振り切った曲って、今までのPlastic Treeにはなかったですよね。
長谷川 うん、そうですね。
有村 もともとは武道館(2010年8月に行われた日本武道館ライブ「テント2」)のときにSEとして流すために作ったんですけどね。ずっと使ってたSEの曲があって。マイブラ(MY BLOODY VALENTINE)の「Only Shallow」なんですけど。それを今の解釈で作ってみたいなって。こういうのって、なかなかできなかったんですよ。ギターをいっぱい重ねたらいいのか? って思って30本くらい重ねてみたこともあったんですけど。
長谷川 そういうことでもないんですよね。
有村 ただの雑音になったり(笑)。あと、キラキラ感とか陶酔感を出すのが難しいんですよ。歪ませるとマッチョになりがちなので。
──マイブラのサウンドがほぼ完璧に再現されてますからね、これは。今までの試行錯誤の成果というか。
有村 ずっとやってみたかったんですよ、こういう音を。時間がかかっちゃったけど、できたときはうれしかったですね。
CD収録曲
- Thirteenth Friday
- ムーンライト――――。(アンモナイト版)
- 退屈マシン
- みらいいろ(アンモナイト版)
- 雪月花
- アイラヴュー・ソー
- アリア
- デュエット
- バンビ(アンモナイト版)
- さびしんぼう
- ~ 作品「ammonite」 ~
- ブルーバック
- spooky ※通常盤のみ収録
初回盤DVD収録内容
- Thirteenth Friday Music Clip
- 「月世界旅行~アジア編~」オフショット映像
Plastic Tree(ぷらすてぃっくとぅりー)
1993年に結成されたロックバンド。1995年よりインディーズで音源をリリースし、1997年にメジャーデビューを果たす。浮遊感あふれるボーカルと文学的な歌詞、独創的な世界観は、ヴィジュアル系ロックシーンを超え幅広い層から支持されており、2007年9月にはデビュー10周年を記念した日本武道館ライブを敢行。また近年はヨーロッパやアジア圏など、海外公演も積極的に行っている。2009年3月には、8年近くにわたりバンドに在籍していたササブチヒロシ(Dr)が脱退。同年7月に新メンバー・佐藤ケンケン(Dr)を迎え、現在は有村竜太朗(Vo)、長谷川正(B)、ナカヤマアキラ(G)、佐藤の4人体制で活動中。2010年末に有村がギラン・バレー症候群を発症したため一時的にライブ活動を休止したが、完全復活を果たし2011年4月6日にニューアルバム「アンモナイト」をリリースする。