Nulbarich|5つのキーワードから紐解く“正体不明のバンド”

Nulbarichが12月6日に新作CD「Long Long Time Ago」をリリースする。2016年にシンガーソングライターのJQを中心に結成されたNulbarichは、メディアに素顔を明かさない正体不明のバンドとしてシーンに登場するや、多くの音楽ファンから注目を集めた。2017年9月にはJamiroquaiの来日公演のサポートアクトという大役を務め、2018年3月に予定されている東京・新木場STUDIO COASTでの2DAYSワンマンのチケットはすでにソールドアウトしている。

音楽ナタリーではそんなNulbarichのボーカルJQにインタビューを実施。5つのキーワードと彼の言葉から改めてNulbarichの実像に迫る。

取材・文 / 天野史彬

Keyword 1 ビジュアル

Nulbarich「Guess Who?」ジャケット

「Null(ゼロ)」「but(しかし)」「Rich(満たされている)」、「何もないけど満たされている」という意味を込めて名付けられた「Nulbarich(ナルバリッチ)」。2016年、突如として現れたこの謎のバンドは、瞬く間にシーンを席巻した。2017年1月発売の1stアルバム「Guess Who?」のセールスは4.5万枚を突破し、今年5月にリリースされたCD「Who We Are」は3万枚を超える売り上げを記録している。これまでアーティスト写真やミュージックビデオにも一切メンバーの顔を出さず、中心人物であるJQの存在以外、メンバーの詳細は一切不明。私たちがNulbarichの存在を捉えられるのは、メンバーの代わりにビジュアルを担当するキャラクター“ナルバリくん”の存在と、その音楽によってだけだった。裏を返すと、ミュージシャンにもメディア受けするタレント性などが求められるこの時代において、Nulbarichはその音楽の力だけで多くの人々を魅了してみせた、と言うことでもある。

僕らは完全に見切り発車で出発したバンド

──メンバーの素顔を出さず、“ナルバリくん”というキャラクターをメインビジュアルにするというアイデアは、どのように生まれたんですか?

これは単純に、アーティスト写真が間に合わなかっただけなんです。僕らは完全に見切り発車で出発したバンドで、結成から半年後には作品をリリースしていて。そもそもバンド活動をしていくうえでの準備が何もできなかったんですよね。「ラジオでプロモーションしたいから、写真ないですか?」「いや、ないっす」「でも、DJさんが気に入ってくれているから、何か写真ください」「ないので、キャラクターでいいですか?」みたいな感じで(笑)。

──なるほど(笑)。そもそも、なんでそんなに見切り発車なんですか?

思い立ったらやりたくなっちゃうんですよね。僕、考えるとダメなんですよ。2択で何かを選べと言われて直感を信じずに裏を読むと、大体ミスる。なので基本的には常に直感勝負です。それに僕はミュージシャンなので、できることはいい曲を作るというところまでで。その曲を「どうやったらラジオで流してもらえるか?」とか「どうやって広めるか?」っていうことは、その道のプロじゃないのでできないんですよ。僕がそれをやってしまうのは、スタッフが僕の歌を歌うぐらいナンセンスだと思う。あくまで僕らは音楽のプロなので、聴覚以外は二の次と言うか。

──これまでの活動の中で、顔を出さなくてよかった点はありますか?

やっぱり、聴き手の聴覚に余計な先入観がない状態でリリースできたのはよかったなって思います。もちろんそこにはリスクもすごくあって。ライブで初めて僕の姿を見たお客さんから、「もっとシュッとしてると思ったわ!」ってイジられたりすることもあったんですけど(笑)。

──ははは(笑)。

でも、想像って人それぞれじゃないですか。僕らのビジュアルに対してどんな想像をしていたにせよ、確かな情報がない状態でライブに遊びに来てくれるっていうのは、警戒心も含めた期待値だけでそこに来てくれているということで。俺らの音楽がそこまでさせたっていうことは自信になりました。それに、初めて観る人の緊張感ってこっちにも伝わるから。その緊張感を越えにいくっていうハードルが、ライブのパッションにつながっている気はします。いい音を鳴らさないと、本当に反応してくれないんですよ。今回、新曲(「In Your Pocket」)のミュージックビデオには初めて僕が少しだけ出演していますし、もちろん今後もっとわかりやすく顔を出していく可能性もあります。でも今はこっちが何かを発信しないとお客さんが沸かないっていう大前提が、自分たちのクオリティにつながっている気はしますね。

Keyword 2 JQ

Nulbarichの中心人物である、シンガーソングライターのJQ。バンド内で唯一メディアのインタビューなどに登場する彼だが、その素性に関してはやはり謎なところが多い。しかし、ライブのステージなどで彼の佇まいに触れたことのある人にはわかると思うが、JQはその謎めいた存在感や深みのある歌声とは裏腹に、非常に気さくな人物でもある。そういった彼の穏やかな人柄から滲むのは、並々ならぬ音楽への愛情と衝動、そして人生に豊かさと自由を求める感性だ。過去にもバンド経験があるという彼にとって今、Nulbarichの存在とは音楽を愛し続け、音楽と共に人生を歩むための1つの覚悟なのだという。

音楽を好きで居続けるために、バッドなものは削ぎ落としていく

──これまでのインタビューなどを読むと、JQさんはNulbarichを組む前にご自身の音楽スキルを鍛える期間を設けていたそうですね。先ほど話してくださった「聴覚以外は二の次」というスタンスも含めて、音楽に対する非常に強固なプロ意識を感じます。

“プロ意識”と言うよりは、「音楽しかできなくてすみません」って言う感じですけどね(笑)……言ってしまえば、大好きで始めた音楽を仕事にすることで嫌いになりたくないんですよ。音楽に夢見る人って大体、最初はみんな単純な理由が始まりだと思うんです。「俺の好きな音楽でべらぼうに稼いでやる!」とか、「俺の好きな音楽で有名になって、かわいい子と結婚してやる!」とか(笑)。俺もその1人だったんですよ。音楽に関して「職にするのは難しい」とか「成功するなんてひと握りだよ」とか、よく言うじゃないですか。

JQ(Vo) ©Keisuke Kato / Red Bull Content Pool

──そうですね。特に今は、音楽で食べていくことは難しいと言われます。

でも意外と音楽という言葉の前にある「自分の好きな」っていう前置きを抜いちゃうと簡単なんです。技術があって「自分の好きな」っていう前置きを捨ててしまえれば、音楽を職にすること自体は簡単。でもこれは僕自身の感覚ですけど、そもそも原価がないアート作品であり、自分の中の何かを削って出てくるものが音楽じゃないですか。それを職にするのであれば、好きでなければ相当にしんどいことなんですよ。僕もこれまでの経験から「音楽でご飯を食べる」ということにこだわったこともあったんです。でも、いつの間にか「好きな」っていう部分がなくなっていることに気付いたとき、全然ハッピーじゃなかった。結局一番重要なのって、単純に「好きなものを好きでい続けること」なんですよ。

──JQさんにとって、音楽を好きでい続けながら活動することは、Nulbarichならば可能ということですか?

そうです。僕にとってNulbarichって、音楽を好きでい続けるために組んだバンドなんです。そのためには努力ってやっぱり必要だと思うし、その努力が一番自分を成長させてくれるものだと思う。好きなもののための努力を「しんどい」と言うのであれば、それはもう好きじゃないっていうことだと思うし。仕事だってそうですよね? 大体みんな2、3年で仕事の愚痴を言い始めるけど、「最初のテンション、どこ行ったんだよ?」っていう感は否めないじゃないですか。せっかく大好きなものをやっているんだから、自分で決めたこと……僕だったら音楽に関しては好きでい続ける。そのために、バッドなものは削ぎ落としていきたいんです。

──それだけ、JQさんにとって音楽と幸せは直結しているんですね。

カッコつけた言い方をしてるかもしれないけど、音楽はみんなを幸せにするものであるべきだと思うし、音楽で誰かが悲しむのは嫌だなって思う。僕自身、「楽しみたい!」っていう思いが本当に強いからこそ音楽をやっているし、Nulbarichは楽しくなければすぐに終わっちゃう気がします。それに「音楽って自由っしょ!」って、音楽をやっていない人でもきっと思っていますよね。それならなおさら、やっている側が自由じゃなきゃ意味ないじゃないですか。

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Keyword 3:音楽性

Nulbarich「Long Long Time Ago」
2017年12月6日発売 / RAINBOW ENTERTAINMENT
Nulbarich「Long Long Time Ago」

[CD]
1296円 / NCS-10174

Amazon.co.jp

収録曲
  1. In Your Pocket
  2. Spellbound
  3. Onliest
  4. NEW ERA(88 REMIX)
Nulbarich ONE MAN TOUR 2018 "ain't on the map yet" Supported by Corona Extra
  • 2018年3月14日(水)大阪府 なんばHatch
  • 2018年3月16日(金)東京都 新木場STUDIO COAST ※チケット完売
  • 2018年3月17日(土)東京都 新木場STUDIO COAST ※チケット完売
  • 2018年3月28日(水)宮城県 Rensa
  • 2018年4月6日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2018年4月7日(土)福岡県 イムズホール
  • 2018年4月13日(金)愛知県 DIAMOND HALL

新木場STUDIO COAST公演以外のチケットは2018年1月27日10:00に各プレイガイドで販売開始

Nulbarich(ナルバリッチ)
Nulbarich
シンガーソングライターのJQを中心に結成されたバンド。ソウル、ファンク、アシッドジャズなどをベースにした音楽性が特徴で、メンバーは固定されず、そのときどきに応じてさまざまな演奏形態に変化する。2016年6月にタワーレコードおよびライブ会場限定の1stシングル「Hometown」、10月には1stフルアルバム「Guess Who?」をリリース。その後は積極的なライブ活動を行いながら、2017年5月に4曲入りCD「Who We Are」を発表し、11月に自身初のワンマンツアーをスタートさせた。12月に新作CD「Long Long Time Ago」を発売した。