ナタリー PowerPush - NIRL GIRL
人生の光と影を詰め込んだ初音源 A.D.2010 ~相対的世界崩壊元年~」
SONIC YOUTHを初めて聴いて、衝撃を受けて書いた曲
──1stミニアルバムとなる「A.D.2010 ~相対的世界崩壊元年~」は、どんなコンセプトで作ったんですか。
伊藤 初めて世に出る作品なので、NIRL GIRLのこれまでの4年間や、空気感や色や音、すべてを出しきらないといけないと思っていて。それがいい形で出ればいいなと考えました。
吉野 万華鏡みたいな感じで、いろんなふうに見える作品にしたかったんです。
──特に1曲目の「sadistic youth」が、今のNIRL GIRLを象徴する1曲だと感じました。オルタナティブで焦燥感と熱気がありますね。
吉野 曲を作るときって、いろんなパターンを考えながらひとつの形を作っていく感じが多いんですけど、この曲だけは始めからサクッと形が見えた。今作の中でも一番古い曲で、20歳ぐらいからずっと歌ってるんです。この曲ってもともと「SONIC YOUTH」ってタイトルだったんですよ。
──結構そのまんまな感じだったんですね(笑)。
吉野 そうなんですよ(笑)。でもプロデューサーの松井さんに「それはダサいよ」って言われて変えたんです。当時、SONIC YOUTHを初めて聴いて、衝撃を受けて書いた曲なんです。「壊れそう」とか「シャウト」とか歌詞に書いてますが、SONIC YOUTHは別にシャウトとかしないんで、なぜこういう歌詞になったのか今になってはわからないんですけど。ギターのノイズがシャウトに聴こえたのかな、とか思います。
──吉野さんは、SONIC YOUTH以前にはどんな音楽を聴いてたんですか?
吉野 うちの父親がTHE BEATLESが好きで。兄と僕に聴かせたかったみたいで「エド・サリバン・ショー」かなんかのビデオを観せてもらったときに、THE BEATLESがとてつもなくダサく思えて(笑)。マッシュルームカットにピチピチのスーツでギターを高い位置で持って弾いてる彼らのカッコよさが、まだ小学生だったんで全然わからなかったんですよね。その何年か後、テレビでTHE BEATLES 30周年特番が放送されたのを兄と一緒に観たときに、初めて衝撃を受けて。「あ、違うんだ、この人たちはカッコイイんだ」と。そこからロックにのめり込んで、いろんな音楽を聴いていくうちに20歳でSONIC YOUTHを聴いて「なんじゃこりゃ!」ってなったんです。
──20歳での衝撃は自分で曲作りをするきっかけにもなったんですか?
吉野 というより、基本的に8ビートの曲が好きじゃなかったんですけど、それをSONIC YOUTHに崩してもらいました。今ではもう、8ビートとは仲良くさせてもらっています(笑)。そして「sadistic youth」を作ってから、自分の音楽が単純に、わかりやすくなってきたような気がします。それはこの曲を周りの人に「いいね」って言われるようになったことも大きいですね。「これっていい曲なんだ」って思えたから。
大事にしてるのは、光があるから影があるってこと
──そして「Silentboy Silentgirl」は短いながらも静寂からダイナミックに振り切れていくようなドラマチックな展開の曲です。曲は、例えばギターリフから生まれたりもします?
吉野 ギターのリフから作るようなことはなくて、いつもメロディからですね。頭で鳴ってる歌いたい歌を、ギターを持ってコードで追いかけていくような感じです。
──吉野さんはどんなときに曲を書こうと思うんですか?
吉野 本を読んでるときと、散歩のときかな。どっちも好きなんですけど、そういうときに思い浮かんだりすることが多いですね。
──「真昼間」の歌詞には自己嫌悪が感じられますが。
吉野 うーん、自己嫌悪を感じることはあるんですけど、基本的に寝ればすべてを忘れるタイプなんで(笑)。「真昼間」に関しては、つげ義春というマンガ家さんがすごく好きで、ダメの美学を感じたところから書いた曲なんです。
──なるほど。NIRL GIRLの音楽は、グランジやシューゲイザーといった、退廃的なムードのサウンドが主ですが、精神性は絶望感や行き場のない思いとは違ったもののようですね。
吉野 自分の中で大事にしてるのは、光があるから影があるっていうことなんです。光があるから影ができて、その影の中に切なさとか憎しみとかが含まれている。僕も胸の中に光を持っているので、だからこそ見えてしまう絶望もあるのかなと思います。人にはいろんな生き方があるし、例えば悲しいと感じることって人それぞれだと思うんですけど、でもその悲しみ自体に差はないと思っているんで。
──だからこそ自分ばかりが辛いとは思ってないし、ましてや絶望感を吐き出したいと思って音楽をやってるわけじゃないと。
吉野 そうですね。
──光と影の絶妙なバランスがNIRL GIRLの音に鳴っていると思います。
吉野 あとはメンバー同士、いつも言い合ってることなんですけど「信頼関係がなきゃ、何もできないよね」って(笑)。
──攻撃的なサウンドとは裏腹に、ご本人たちはピースフルな感じで(笑)。
吉野 ライブ終わったら抱き合ってますから。
田村 始まる前もハグですよ!
音を出せば、どれだけカッコ付けてる奴も丸裸になる
──この作品でNIRL GIRLを知る人も多いと思いますが、ご自身たちにとってはどんな1枚になったと思いますか?
吉野 プロデューサーの松井敬治さんにコテンパンにやられながら(笑)、やりつくしました。自分たちの納得のいく作品になりました。
伊藤 自分ともメンバーとも松井さんとも音とも、本当に真剣に向き合って作りました。得たものがありすぎて整理がつかないくらいです(笑)。
田村 音を出せば、どれだけカッコつけてる奴も丸裸になるじゃないですか。ステージに立って音を出してた瞬間、さっきまでどんな空気吸ってたかとか、昨日まで何を聴いてどんな言葉で他人に触れてきた人生だったかっていうことまで、全部出ちゃう。結局、音楽ってその人自身だって僕ら4人は思ってるんですよ。なので今回のレコーディングで松井さんの音楽を通じて松井さん自身を知れたことも僕らにはとても大きなことでした。
──ライブも魅力的なバンドですので、今後も期待しています。
吉野 がんばります。
NIRL GIRL(にーるがーる)
吉野豪史(Vo, G)、折橋豪(Dr)、田村光(G)、伊藤真紗世(B)から成る4人組ロックバンド。2004年にNIRL GIRLの前身であるMR. POPOを吉野と折橋で結成。下北沢や渋谷のライブハウスを中心に活動を開始する。2006年にバンド名をNIRL GIRLに改名。同年、田村と伊藤をバンドに向かえ、現在のメンバー編成となる。2010年8月、バンド史上初めての音源としてミニアルバム「A.D.2010 ~相対的世界崩壊元年~」をリリース。