ナタリー PowerPush - 松井咲子

ソロデビュー記念「咲子師匠」が誕生するまで

知らない間にAKB48の書類審査に合格

──ではなぜAKBのオーディションを受けることになったんですか?

高2の終わりくらいに母から「AKBのオーディション、書類審査が通ったから」っていきなり言われたんです。「○日に面接があるからちょっと行ってきなよ」って言うから、「は? 何言ってるの?」みたいな感じになって。

──書類が送られていたことを全く知らなかったと。

一切知らなかったんですよ。だからなんの写真を使ったのかもいまだに知らないですし。最初はすごく嫌で、「絶対行かない」って言ってたんです。でも母にオーディション会場まで連れて行かれて、いざ面接になったら私も質問に真面目に答えちゃって(笑)。そうしたら受かってしまったんです。

──でも合格しても、やる気がなかったらここまで続かないですよね。

私、小さい頃から人前で何かするのが大好きだったんですよ。クラスの出し物でも友達と4人でミニモニ。を踊ったんですけど、それも本格的にやりたかったからちゃんと赤と白の軍手を着けたり、髪型もツインテールにしたりして。だからなんだかんだ言っても「楽しそうだな。やってみたいな」っていう気持ちが多少あったんだと思います。だけど高校の友達にはAKBに入ったことを一切言いませんでした。

──それはどうして?

アイドルっていうキャラじゃなかったし、アイドルとか言ったら多分周りから笑われる感じの人間だったので。だから友達に打ち明けるときも「今からちょっと面白い話するね」って言って切り出したんです。「実は私……あ、AKBって知ってる?」「ああ、なんか聞いたことある」「私、あれに入ったんだよね(笑)」みたいな感じで。そうしたらすごく笑われました(笑)。

──そもそもお母さんはなんで申し込んじゃったんですか?

母が私を芸能方面に進ませることに興味があったと思うんです。でもなんでそれがAKBだったのかはいまだに謎で。もしかしたらほかにも送っていたのかもしれないですよね。

──咲子さんが合格した頃のAKBって、まだ今ほどブレイクしてない時期ですよね。

「大声ダイヤモンド」(2008年10月発売)よりも前です。だから母もAKBがどういうものなのか、多分知らなかったんじゃないかと思いますね。

当時の研究生は表に出る機会が少なかった

──咲子さんは2008年末に研究生になって、2009年から劇場公演に出演し始めました。そして夏に組閣があって、チームKへの昇格が決まって。2010年からはテレビに出演する機会も少しずつ増えていきましたが、研究生時代と昇格後で何が大きく変わりましたか?

私が研究生だった頃……4期から7期ぐらいまでの研究生は劇場での活動がメインで。今でこそ研究生の番組があるけど、当時はそういうのもなくて毎日劇場公演に出てました。だからしーちゃん(大家志津香 / 4期研究生、のちにチームAに昇格)が初めて「AKBINGO!」(日本テレビ系で放送中のレギュラー番組)に出演するって決まったときに、研究生みんなで「本当に良かったね! おめでとう!」とお祝いして。それくらい当時の研究生って表に出る機会が少なかったんです。でも研究生は研究生でとても楽しかったですよ。

──で、今の事務所に所属が決まってからソロの仕事も少しずつ増えていき。

そうですね。でも私のことを知っていただく大きなきっかけになったのは、やっぱり代々木のコンサートだったかなと。

──2010年7月のコンサート「サプライズはありません」で、ピアノソロを披露したときですね。

もうチームKとしての活動は始まってたけど、多くの人に知ってもらうきっかけになったのはあれだと思います。いまだに握手会でファンの方から「あれで好きになりました」「あれで初めて知って応援するようになりました」って言われることが多いですし。

──そして2011年末にGoogle+が始まって、咲子さんが独特の個性を発揮していくわけですが。

そんな変なこと書いてましたっけ? 書いてたか(笑)。

──時間によって壊れ具合が違いますね。

夜になるとちょっと活発になっちゃったり。ファンの皆さんからのコメントがリアルタイムで返ってくるから面白いんですよね。もしほかのアイドルの方がGoogle+をやってたら私、観たいと思いますもん。

──でもここで秋元康さんも認める「咲子師匠」というキャラクターが確立されるわけです。

そうかもしれないですね。でも最近スタッフさんから「ネット弁慶」って言われるようになって、さすがにどうなんだろうと思いましたけど(笑)。

将来の夢は全然定まってなかった

──今年の1月にはフジテレビ系「TEPPEN」のピアノ部門で優勝しました。これもかなり大きかったと思うんです。

あのときはめっちゃ緊張しました。最初は全然緊張してなかったんですけど、私の出番が最後だったのでほかの出演者の方が審査員の皆さんから何か言われているのを聞いてたらだんだん緊張してきて。コンクールともまた違った緊張感でした。

──その後、秋元康さんのGoogle+でのコメントで流れが大きく変わり、ソロデビューが現実のものとなるわけですが。ピアニストとしてのプロデビューって考えたことありました?

ないですよ。だから最初はびっくりです。

──じゃあAKBの中で将来どうなりたい、どういう道に進みたいと考えてましたか?

それは全然定まってなかったです。今も定まってるかって言ったらまだ微妙ですけど。このまま大学を卒業してもプロのピアニストになれるとは思ってなかったですし。実際にプロになれる人なんて限られているし、大学を卒業してもピアノを仕事にすることができる人なんてそんなにいないんです。だからこれからどうなるかなんて、全然わからなかったです。

最初のレコーディングで「ああ、始まるんだ」と実感

──最初にGoogle+を通じてソロデビューを知らされたとき、どう思いましたか?

とにかくびっくりしましたね。仕事帰りに家族と車に乗ってたんですけど、「え!? 見てこれ」ってすぐ親に見せたら「ええっ! やったじゃん!」みたいなテンションで喜んでくれて(笑)。でもGoogle+で発表されただけだったし、直接伝えられるまでは期待しすぎないでおこうと思ってました。

──で、そのあとは本当にソロデビューしますよってことを実際に聞かされて。

いや、特に……聞かされたりしなかったと思います(笑)。

──へっ? じゃあ何も言われぬまま話だけがどんどん進んでいったと。具体的にプロジェクトが動き始めたのはいつ頃からだったんですか?

3月くらいに最初のレコーディングをしました。そこでやっと「ああ、始まるんだ」って実感して。

──確か春頃からオンエアが始まったカップヌードルのCMに「心の譜面」が使用されてましたが。

そうですね。レコーディングしたのもあの曲が最初でした。

ニューアルバム「呼吸するピアノ」 / 2012年10月3日発売 / ポニーキャニオン
ニューアルバム「呼吸するピアノ」CD+DVD 2800円 / PCCA-03680
ニューアルバム「呼吸するピアノ」CD 2000円 / PCCA-03681
CD収録曲
  1. 心の譜面
  2. 会いたかった
  3. フライングゲット
  4. 歌う血液~宇津井健の加圧トレーニングのテーマ~
  5. Everyday、カチューシャ
  6. 魂の移動~ぐぐたす民のテーマ~
  7. Beginner
  8. ポニーテールとシュシュ
  9. ヘビーローテーション
  10. 桜の木になろう
  11. ピアノ・ソナタ 第18番,K.576,ニ長調より第I楽章(ボーナストラック)
DVD収録内容
  1. 魂の移動~ぐぐたす民のテーマ~   (Music Video)
  2. 歌う血液~宇津井健の加圧トレーニングのテーマ~ (特典映像)
  3. メイキング映像
松井咲子(まついさきこ)

松井咲子

1990年12月10日生まれ、埼玉県出身。4歳の頃よりピアノを始め、現在東京音楽大学器楽専攻ピアノ科に在学中。2008年にAKB48研究生として活動を開始し、翌2009年8月にチームKへの昇格が発表される。2012年6月の「AKB48 27thシングル選抜総選挙 -ファンが選ぶ64議席-」では53位にランクインし、フューチャーガールズ入り。同年8月の東京ドームコンサートではチームAへの移籍が発表された。10月3日にアルバム「呼吸するピアノ」で、AKB48から6人目のソロデビューを果たした。