音楽ナタリー Power Push - ジョルジオ・モロダー特集

エレクトロディスコの父が30年ぶりに帰還! その魅力を石野卓球が語る

売り上げまで考えた上で作っているけど、それが嫌味にならない

──そしてここに彼は30年ぶりの新作を発表するわけですが、驚きはありましたか?

先に「Giorgio By Moroder」があったのでそんなに驚きませんでした。ただ正直言って、過去のアーカイブで十分だという意識もあった。本人も、もうそんなにダンスミュージックに興味はないんだろうと思っていたんです。でも「Deja Vu」を聴いたら、「戻ってきた!」って感じでした。すごくよかったですよ。今EDMが流行っていますけど、そっち方面一辺倒ではなくて、途中で「そうだ、今、ジョルジオを聴いているんだ!」みたいに引き戻されて。彼の音楽を聴いているんだということを忘れるくらいモダンな感じもありつつ、ちゃんとジョルジオならではのカラー、ジョルジオらしさがすごく出ている。特に、ブリトニー・スピアーズをフィーチャーした「Tom's Diner」がよかった。意外にも(笑)。

──そのブリトニーのほか、カイリー・ミノーグのようなベテランからシーアやチャーリーXCXといった旬のアーティストに至る、ゲストシンガーのラインナップはどう思われました?

石野卓球

チョイスがすごくモダンだし、昔ながらのプロデューサーらしいと思いました。予算を踏まえて、売り上げまで考えた上で作っているけど、それが嫌味にならない。例えばDaft Punkがジョルジオやファレル(・ウィリアムス)を使うと、「あ、センスいいね」っていう感じじゃないですか。そこには商売っ気ももちろん入っているんだけど、それが前面に出ちゃうと嫌味に見えかねない。でもジョルジオにはそういうところがないんですよ。そこが最近のプロデューサーとの違いかな。

──なるほど。カルヴィン・ハリスがこういうゲストをそろえたら、見え方は違いそうですね。

そうそう。「狙ったねえー」って感じがするじゃないですか(笑)。でもジョルジオはちゃんとバランスを考えているし、いい意味でゲストシンガーたちに対する思い入れが深くなさそう。

ジョルジオがいてくれて、心強い

──この新作を踏まえて、また彼に聞いてみたいことはありますか?

「どれくらいの規模のプロダクションでやったのか」とか? ソフトシンセサイザーも、どんなものを使っているのかな。今は昔のスタジオみたいに、大掛かりにやらなくても作れるじゃないですか。もちろんラップトップコンピューター1台ってことはないと思いますけど、だいぶ昔とは作り方が違って、予算も安くできますからね。

──今回は、彼ができるだけ正確なデモを用意して、あとは有能なミュージシャンたちに任せて、最新の音で鳴らしてもらったと話していましたよ。

なるほど。やっぱり彼はプロデューサーですよね。昔のディスコのレコーディングもそうでしたから。プロデューサー自身が演奏するわけじゃなくて。だから基本的にスタンスが変わっていない。今は自分で作れちゃうんで、実際に音楽を作る人をプロデューサーと呼んだりしますけど、ディスコの頃は、最初にレーベルからお金をもらってスタジオを押さえて、ミュージシャンを集めて、譜面を配って……っていう。それと同じことですよね。

──70歳を過ぎて本作を作ったという事実についてはどう思われますか? ロックの世界では70代の現役は珍しくないですが、ダンスミュージックにも年齢制限はもはやない?

石野卓球

というか逆に、ロックだとあの体型じゃもう無理だけど(笑)、ダンスミュージックなら、太っていたりルックスが崩れていても構わない。もちろんジョルジオのルックス崩れているというわけじゃなくて、彼は今も上品な人だと思うんですが、決して若者に熱狂的に騒がれるという状況は見えないですから(笑)。そこはロックとは違う、ダンスミュージックプロデューサーならではの強みなのかな。

──ロックミュージシャンのように、自ら表に出るわけではないですからね。

そうそう。だからジョルジオがいてくれて、心強い(笑)。それにダンスミュージック自体、移り変わりが激しいので、長く生き残っている人があまりいないじゃないですか。シンガーならまだしも、プロデューサーとなると、流行り廃りがすごくある。まあ彼の場合、映画音楽というもうひとつの柱があったことも、長く活動を続ける上で、大きかったんじゃないかな。実は真逆なものですもんね。映画音楽の権威である反面、一時的で享楽的な音楽として捉えられているディスコを手がけているというのは、不思議なことです。

ギネス記録の申請をしたら認定されるんじゃないか

──ではずばり、人々が「Deja Vu」を聴くべき理由とは?

いろんな側面があると思うんですけど、これだけ長いキャリアがあって、この年齢の人が、こんなダンスアルバムを出すっていうことは衝撃的だし、ヘタをすると、ギネス記録の申請をしたら何かしらの形で認定されるんじゃないかっていうところもある(笑)。そしてジョルジオのことを一切知らなくても、イマドキのダンスポップミュージックという観点で見て、十分に質の高いアルバムなんじゃないかな。

──かつ、昔ジョルジオの作品を聴いていた人も楽しめますよね。

石野卓球

うん。それこそ、Billboard Live TOKYOに来ていた人たちはけっこう年齢層が高かったけど、あの人たちも抵抗なく聴けると思う。普通にポップスとしての完成度が高いし。ただ、アンダーグラウンドなダンスミュージックが好きな人にはちょっと厳しいかもしれないですね。

──本作を通じてジョルジオに興味を抱いて、過去の作品を聴きたいと思った若い人に、何を薦めますか?

もちろん好みもあるし、昔の作品ってよく聴こえちゃったりするんで選ぶのは難しいけど、「トップガン」はやめといたほうがいい(笑)。やっぱり個人的には「From Here To Eternity」かな。あれは、DJ HELLなんかが好きな人でも聴ける。あとは定番と言うと「I Feel Love」の、特に長いバージョン。パトリック・カウリーのリミックスじゃないほうを。80年代の作品みたいにヘタに時代に合っていると、すごく古く感じるけど、「I Feel Love」のようなプロトタイプ的な作品は、時代性をあまり感じさせなくて、逆に新しく聴こえるんですよ。あ、そういえば、Novationという会社から、ジョルジオのモデルのシンセが発売されますね。プリセット音源としてその「I Feel Love」とか、過去の作品の音を再現したものが入っていて、限定500台だったはず。これは予約しないと!

ジョルジオ・モロダー ニューアルバム「Deja Vu」
2015年6月17日発売 / 2592円 / Sony Music Japan International / SICP-4425
CD収録曲
  1. 4 U With Love
  2. Deja Vu(feat. Sia)
  3. Diamonds(feat. Charli XCX)
  4. Don’t Let Go(feat. Mikky Ekko)
  5. Right Here, Right Now(feat. Kylie Minogue)
  6. Tempted(feat. Matthew Koma)
  7. 74 Is the New 24
  8. Tom's Diner(feat. Britney Spears)
  9. Wildstar(feat. Foxes)
  10. Back and Forth(feat. Kelis)
  11. I Do This for You(feat. Marlene)
  12. La Disco
  13. Magnificent
  14. City Lights
  15. Timeless
  16. 74 Is the New 24(Lifelike & Kris Menace Remix)
  17. Right Here, Right Now(Ralphi Rosario Club Mix)
  18. Kenny(Summit Dub Mix)
石野卓球(イシノタッキュウ)

1967年生まれのDJ / プロデューサー、リミキサー。インディーズバンド・人生を経て、1989年にピエール瀧らと電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。1990年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。1998年にはベルリンで行われたテクノ最大の野外フェス「Love Parade」のファイナルギャザリングで150万人を前にプレイした。また、1999年からは日本最大級の屋内テクノフェスティバル「WIRE」を主宰。2006年には川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成した。2010年に約6年ぶりのオリジナル作品であるミニアルバム「CRUISE」を発表。2012年には、1999年から2011年までに「WIRE COMPILATION」に提供した楽曲を集めたDISC 1と、未発表音源などをコンパイルしたDISC 2からなる2枚組アルバム「WIRE TRAX 1999-2012」をリリースした。

ジョルジオ・モロダー
ジョルジオ・モロダー

エレクトロニックダンスミュージックのパイオニアとして世界的に知られる音楽プロデューサー。1940年にイタリアで生まれ、1966年にドイツに移住したのちソロアーティストとして3枚のアルバムを制作する。1974年に歌手のドナ・サマーと出会い、翌年彼女の世界的ヒット曲「Love To Love You Baby」をプロデュース。1977年に発表されたドナ・サマーの楽曲「I Feel Love」は電子音のシーケンスだけで全編構成されており、「音楽史上初めてヒットした、シンセサイザーを使用したディスコ曲」として話題を呼ぶ。さらに彼自身も「From Here To Eternity」「E=MC2」といったソロアルバムを続々発表。ディスコ音楽のプロデューサーとして知名度を高める一方で、映画「ミッドナイト・エクスプレス」のサウンドトラックを担当し、この仕事でアカデミー賞の作曲賞を受賞。これを皮切りに「フラッシュダンス」「トップガン」といった大ヒット映画の音楽を次々に手がけていく。1984年にはロサンゼルスオリンピックのテーマ曲「Reach Out」、1988年にはソウルオリンピックのテーマ曲「Hand in hand」、1990年にはFIFAワールドカップ公式テーマソング「Un'estate Italiana」を作曲。しばらく音楽活動から遠ざかっていたが、2013年にDaft Punkのアルバム「Random Access Memories」に収録された「Giorgio By Moroder」にゲスト参加したことをきっかけに再始動し、同年5月に東京・Billboard Live TOKYOで初来日公演を行う。さらに同年9月に再び来日し、国内最大の屋内テクノフェス「WIRE13」に出演。2014年にはColdplay「Midnight」やトニー・ベネット&レディー・ガガ「I Can't Give You Anything But Love」のリミックスを手がける。そして2015年6月、カイリー・ミノーグ、ブリトニー・スピアーズ、シーアなどの豪華ゲストを迎えて、実に30年ぶりとなるソロアルバム「Deja Vu」をリリースする。