アカシック 理姫×岡井千聖|女子の友情は永久不滅ですから

「凜(RIN)」に関しては3、4回書き直しましたね

──℃-uteは解散直前に「凜(RIN)」という楽曲を発表しました。作曲が奥脇達也さん、作詞が理姫さん。共にアカシックのメンバーです。

岡井 最初に曲を聞かせてもらったときは歌割りもない状態だったんですよ。タイトルがあって、理姫ちゃんが作詞家としてクレジットされていて……その頃はもう友達になっていたから、こうやって普通に仕事で関わることができたのが本当にうれしかったです。それと、曲をいただいたときに気になったのは、「℃-uteのことをどう考えてくれているのか?」っていうこと。特にこれは解散が決まってからの曲ですしね。で、「理姫ちゃんが書いてくれたんだってー」とか言いながら5人で歌詞を読んだら、「こんなふうに思ってくれていたんだ」って超感激しました。なっきぃ(中島早貴)なんて、その場で大号泣ですよ(笑)。で、曲を聴いてみたら仮歌の声が理姫ちゃんだったんですよ。これがもう完璧で! 「もうこれ、このまま発売したほうがいいじゃん!」って思いましたから。「私たちに、できることないよ!」って。

理姫 いやいやいや……。

岡井 つんく♂さんのときとは、仮歌の印象がまるで違うんです。つんく♂さんは男の人だから、仮歌を入れるときは低いキーで歌って、あとからピッチを修正するんですね。私たちもそれに慣れているっていうこともあって、すごく歌いやすいんですけど。

理姫 へえー、そうなんだ!

岡井 とにかく℃-ute全員、むちゃくちゃ感動しましたよ。最後のほうは℃-ute5人でほとんどセットリストを決めさせていただいていたんですけど、すでに決まっているセットリストに対して無理やり「凜(RIN)」を挟み込んでいましたからね。「絶対にこの曲は特別だから入れないとダメだ!」とか言って。

理姫 正直言うと、それまでも℃-uteには曲をたくさん書いてきたんです。だけど、なかなか通らなかったんですね。℃-uteのコンペっていうのは、やっぱりものすごくハードルが高くて。それで悔しい気持ちもあったんですけど、最後の最後、解散の直前になって滑り込みで歌ってもらえることになって……何かの帰り道、スタッフさんから「℃-uteに歌ってもらえるよ」って聞いて、私、本当に泣き崩れましたから。「夢を人に叶えてもらった」という感覚がありました。なんだか「自分1人でつかみ取った夢」というふうには思えなかったんですよね。

──アカシックはさまざまなアーティストに楽曲提供していますが、「℃-uteだから」ということでことさら意識した点は?

理姫

理姫 私、歌詞の書き直しって全然しないんですよ。一度書いてしまったら、それでどんなに批判を浴びようが構わないと考えているので。ただ、この「凜(RIN)」に関しては3、4回書き直しましたね。

──それは会社側のディレクターから要請が来て?

理姫 いや、その前の段階で何度も話し合いました。剱さん(劔樹人。アカシックの所属事務所・パーフェクトミュージックのスタッフ。あらかじめ決められた恋人たちへのベーシストや、マンガ家としても知られる)とマンツーマンで。私、やっぱりアカシックだと恋愛系の歌詞を書くことが多いんですよ。だけど、あのタイミングで℃-uteに曲を書く場合、「ファンの人と彼女たち5人のこれから」「メンバー5人の絆」っていう部分にフォーカスしたほうがいいという話になったんです。そのへんは劔さんも年季が入ったハロヲタだから、ファンから何が求められているのかよくわかっていて(笑)。それまでの自分にはない引き出しだったので、作詞家としても新たな挑戦でしたね。

言葉遣いは強かったりするのに、どこか優しい感じがするんです

──さて、アカシックの2ndフルアルバム「エロティシズム」がリリースされ、大きな注目を集めています。アカシックをまだ知らない人もいると思うので、改めて岡井さんから魅力を解説していただけますか?

岡井 まずはなんと言っても、理姫ちゃんの「ひねくれ女子」ぶり! ちょっとでもひねくれているところがある人は、絶対に一度聴いてほしいです! ただですね、理姫ちゃんの歌詞が面白いのは単にひねくれているだけじゃなくて、まっすぐな言葉もすごく多いところ。「ひねくれているけど、まっすぐ」……この感じが本当に独特なんですよね。今までになかった感覚だと思う。実際、このアルバムを1枚通して聴いていると、いろんな気持ちが沸き起こってくると思いますよ。

──岡井さんも理姫さんの歌詞には共鳴するところが多い?

岡井 私って曲を聴く前に、まず歌詞を読むんですよ。その時点でもう……こんなに世界観が深くて広いバンドはないと思います。ちょっと似ているアーティストが思い付かないな。歌詞を読んでいると、けっこうわからない単語も出てくるんですね。私、日本語がたどたどしいところがあるので(笑)。本当だったら、全曲、理姫ちゃんに解説してほしいくらいなんです。いったい理姫ちゃんに何があったのか? どんな経験をしたら、あんな歌詞が書けるのか? 私は「8ミリフィルム」っていう曲が超好きなんですけど、あの曲も意味がわからないところがあって……。

理姫 千聖ちゃん、カラオケでよく歌ってくれるんですよ。それで「あの歌詞ってどういう意味なの?」とか「この単語、どう読むの?」とかLINEで聞いてくるんです。

岡井 ねえねえ、歌詞って実話なの?

理姫 うん。全部、実話から来てる。

岡井 だとしたら、ものすごい人生を送っていますよ、この人は!

理姫 そんなことないって! ちょっと人生が支離滅裂かもしれないけどさー。

岡井 今回のアルバムでも、音が止まって急に「くそったれ!」とか叫ぶ曲があるんです。男の人に向かってそんなふうに叫ぶことって普通、日常生活ではないですよね。理姫ちゃん、それってどういうことなの? つまり普段からひねくれているの? そのときは純粋な気持ちでも、あとからひねくれた感情が出てくるの? 作詞用に、あえてひねくれた表現で書いているの?

左から理姫、岡井千聖。

理姫 私自身は、めちゃくちゃ純粋だと思う。作詞って現実逃避みたいなところがあるんですよね。普段は言えないことを、歌の中で言ってアピールするというか。「あとで読んでよね」って好きな人に渡す手紙に近いかもしれない。好きな人に面と向かって「くそったれ!」なんて絶対に言わないですけど、心の中で「なんで私のことを全然わかってくれないわけ!? このクソが!」と思うことは実際あるわけです。それを私は歌にしているんですよね。

岡井 なるほどねー。じゃあ、ある意味では歌詞で恨みを晴らしている感じ?

理姫 そうそう。歌がなかったら、現実に相手の男の人にあたってるかもしれない(笑)。よかったですよ、作詞ができて。

岡井 言葉遣いはめちゃくちゃ強かったりするのに、不思議なことに、どこか優しい感じがするんです。だって歌詞の表面だけを切り取ると、「この女、ひどいな」って思われてもおかしくないですよ。でも、嫌いになり切れない。かわいいなって思っちゃう。そこは私が理姫ちゃんと知り合いというのは関係なくて、みんなも同じように感じるはずなんですよね。

──今回のアルバムを制作するにあたって、今までにない新機軸はありましたか?

理姫 これまでアカシックというバンドは「ポップスの王道に寄り添う」というテーマに執着しまくっていたんですよ。だけど今回はサウンド的にも歌詞的にも、自分たちがやりたいと思ったことを全部出しきったつもりです。最近、バンド内でよく話すのは「人間の狂気ってゾクゾクするよね」っていうこと。なので、自分たちも狂気的な部分を意図的に打ち出している部分はありますね。バキバキのうるさい音だったり、「くそったれ!」っていう歌詞だったり。もう1曲目からメーターが振り切れちゃっています。

──なるほど。ただアバンギャルドであると同時に、ポップで聴きやすくなっているようにも感じましたけどね。

理姫 それ、よく言われるんですよー。

岡井 確かに理姫ちゃんが言うようにサウンドはすごくいろんな要素が詰まっていると思うんですけど、理姫ちゃんの声自体がすごく聴きやすいですからね。スッと耳に入ってくるというか。

アカシック「エロティシズム」
2017年10月18日発売
unBORDE / Warner Music Japan
アカシック「エロティシズム」

[CD]
3240円 / WPCL-12755

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 憂い切る身
  2. いちかばちかちゃん
  3. 邪魔
  4. 裸-nude-
  5. マイラグジュアリーナイト(フジテレビ深夜ドラマ「ラブホの上野さんseason2」主題歌)
  6. ブラック
  7. LOVE&YEN
  8. オレンジに塩コショウ
  9. 日本の宝
  10. 愛×Happy×クレイジー(フジテレビ深夜ドラマ「ラブホの上野さん」主題歌)
  11. エンジェルシンク
  12. you&i
  13. エロティシズム

アカシック 公演情報

アカシック「Eroticism TOUR」
  • 2017年11月24日(金)北海道 SOUND CRUE
  • 2017年11月26日(日)宮城県 space Zero
  • 2017年12月3日(日)福岡県 graf
  • 2017年12月10日(日)大阪府 Shangri-La
  • 2017年12月17日(日)愛知県 APOLLO BASE
  • 2018年1月10日(水)東京都 LIQUIDROOM

岡井千聖 公演情報

Hello! Project 20周年記念前夜祭 ~One by One~ 岡井千聖 First Solo Live
2017年11月1日(水)東京都 COTTON CLUB
[1st.show] OPEN 18:00 / START 18:30
[2nd.show] OPEN 20:30 / START 21:00
2017年11月3日(金)東京都 COTTON CLUB
[1st.show] OPEN 15:00 / START 15:30
[2nd.show] OPEN 18:30 / START 19:00
アカシック
アカシック
理姫(Vo)、奥脇達也(G)、バンビ(B)、山田康二郎(Dr)からなる2011年に結成されたロックバンド。耳について離れないキャッチーなメロディと横浜の繁華街で生まれ育った理姫の独特なキャラクターが全面に出た楽曲が特徴。2014年3月に初の全国流通盤ミニアルバム「コンサバティブ」をリリースし、東京・タワーレコード渋谷店の週間インディーズチャートにて1位になる。2015年6月にunBORDEよりメジャーデビューミニアルバム「DANGEROUS くノ一」、2016年3月に初のフルアルバム「凛々フルーツ」を発表。2017年にはFOD / フジテレビドラマ「ラブホの上野さん」の主題歌「愛×Happy×クレイジー」が話題になり、10月に2枚目のフルアルバム「エロティシズム」をリリースした。
岡井千聖(オカイチサト)
岡井千聖
ハロー!プロジェクトキッズでの活動を経て、2005年6月に結成された℃-uteに加入。2007年2月にシングル「桜チラリ」でメジャーデビューした℃-uteは、以後ヒット曲の数々を世に送り出し、2013年9月には東京・日本武道館で単独ライブを成功させた。その後、℃-uteが2017年6月に埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演をもって解散したのに合わせ、岡井はハロー!プロジェクトを卒業。現在はタレント活動を中心に、バラエティ番組などで活躍している。