コミックナタリー PowerPush - 裏サンデー
マンガ家と編集者が二人三脚で創る 掟破りなWEBマンガ界の理想郷
彼らはマネタイズのことまで心配してくれる
──1巻目をいかに売るか、という話でいえば、無料公開しているWEBマンガを有料の単行本としてどう価値付けするか、という問題があると思います。
小林 そこはすごく大変で、考え方としてはアニメDVDに近づけました。無料で見てもらっていたものに付加価値をつけてお金を払ってもらうようにしようと。そうすると特典に何を付けるかということになってくるわけで。
ONE 「モブサイコ」は加筆修正かなりがんばりました(笑)。おまけマンガも。
たくす 無料公開して多くの人に作品を好きになってもらって、メディアミックスで採算を取る、っていう方向性もアリだと思います。でも正解はまだ誰も見つけてないですよね。
石橋 さっき話してたサイト制作のアイデアもそうだけど、彼らはマネタイズのことまで心配してくれるんですよ。特にたくす君なんかは、「最新話だけ有料だけど1週間くらい待てば全部タダで読めるシステム」ってどうですか、とか。そんなこと提案してくれるマンガ家さん滅多にいない。
──新人作家でもありサイト運営のブレーンでもあるという、ちょっと他にはない関係性かもしれませんね。ちなみに「裏サンデー」という名前は誰が考えたんですか。
小林 話し合いの中で、ですね。サイト立ち上げ前に作家たちにも声をかけて案出しに協力してもらって。最初は上司から、「クラブサンデー」を入れてね、と言われていたので「クラブサンデー○○○」みたいに、名前に「クラブサンデー」って入れるお約束で大喜利みたいにしてたんです。
石橋 それで僕が「裏クラブサンデー」というのは出していた。でも「クラブ」がつくとあんまりしっくり来てなくて……そこでまた小林が酷いんですよ。「クラブ」を入れたくないからって「超学館」とか「なんちゃら王国」とか、約束はどこへ行った! っていう案ばかり出してきて(笑)。それでタガが外れてしまって「もう裏サンデーでいいんじゃね?」って上司を納得させてしまった。
たくす 「裏サンデー」になりました、って聞いた瞬間、驚くほどしっくり来ました(笑)。
──ロゴとマスコットのビリーも、小学館のコンサバイメージをぶち破るような……。
小林 これはですね……デザイナーのNC帝國さんから上がってきたの見たらすごい良かったんで、盛り上がって即、上司に見せに行ったら叱られたんですよ。「伝統あるナマズをこんな改変しやがって……。俺はいいけど、上の誰かが大激怒したらお前らクビ飛ぶぞ」と。
石橋 でもこのナマズ最高じゃないですか。だから上さえ怒らなければいいのかなと思って、このビリーで本誌用の告知ページを作ってしまって、素知らぬ顔で確認に回したんですよ。
小林 そしたら編集長がチェックして「オーケーオーケー」って。
石橋 「まあいいんじゃない」って通してくれたので。あとは担当の上司に「編集長がオッケーって言ってくれました!」って。
たくす ひょっとして気付いてなかった説なんじゃ……。
ネットでマンガ読む人の、生活の幸福度が上がると思う
──危ない橋渡りましたね……。これはいよいよ、コミックスが売れないとシャレにならないのでは。
石橋 社内的にもそうなんですけど、もっと大きな意味でも試されてると思うんです。僕ら、どうやらユニークユーザー数では国内のWEBマンガサイトでトップを取れたっぽいんですよ。それだけにコミックスが売れないと「なんだ、無料公開が盛り上がっても金になんないんじゃん」と思われてしまうし、WEBマンガの世界でトップクラスのサイト作者に集まってもらったから、「なんだネットで描いてる奴ら大したことないな」とも思われかねない。
小林 そうするとJPEG直貼りとかコメント掲示板とかも「あんま意味ないんじゃない?」「今までのビューアでよかったんじゃないの?」ってなっちゃう。出版社のWEBマンガの見せ方が変わんないと、WEBマンガの進化そのものが何年か遅れてしまうと思うんです。だから裏サンデーをなんとか成功させないと。
たくす 成功事例ができれば、雑誌の看板マンガをネットで無料連載する戦略だって有り得る。出版業界が変わりますよね。そしたらネットでマンガ読んでる皆さんの幸福度は間違いなく上がる。
石橋 うん、隠し事なく言いましょう。これまで裏サンデーは無収入でやってきました。たくさんの方が読んで楽しんでくれたことにすごいすごい感謝しています。ですが、作家さんにお支払いした原稿料は積み上がっていて、ここでコミックスが売れないことには、もう続けられません。
──(笑)。
小林 「SAVE THE 裏サンデー」っていうバナー作りましょうか。現状をぶっちゃけたやつ。とにかくこの楽しい遊び場を存続したいと少しでも思っていただけるなら、ほんとうに僕ら、作家と編集者と一体になって一生懸命やってきたので、どうかよろしくお願いします。
ONE 売れたらコンテンツも増えると思うし、もっとみんなが楽しいことになると思いますんで。ぜひ応援してください!
ONE(わん)
自身のサイトでWEBマンガ「ワンパンマン」を公開。となりのヤングジャンプ(集英社)で村田雄介を作画担当に迎えたリメイク版「ワンパンマン」、およびONE自身が執筆する「魔界のオッサン」を連載中。裏サンデーで執筆中の「モブサイコ100」1巻が2012年11月16日に発売された。
戸塚たくす(とつかたくす)
自身が執筆したマンガ「オーシャンまなぶ」をWEBサイトで公開。名古屋大学の大学院(工学)からDeNAに入社した後、マンガ原作者に転向する。裏サンデーでは、阿久井真が作画を担当する「ゼクレアトル~神マンガ戦記~」の原作を担当。同作の単行本1巻が2012年11月16日に発売された。