コミックナタリー Power Push - 映画「ライフ・イズ・デッド」

今度のゾンビはニートで草食! 古泉智浩×花沢健吾、ゾンビマンガ家対談

みんながちょっとズレてる話作り、古泉さんの巧さだと思う

──花沢さんは「ライフ・イズ・デッド」を、漫画アクション(双葉社)で連載されていた当時から読まれてました?

花沢 もちろん。人物の掘り下げ方がうまいなーと思いながら読んでました。登場人物がみんな主人公のためにがんばろうとしてるんだけど、それぞれがちょっとずつあさっての方向を向いてて、バラバラな方向に動いてる感じがリアルだなって。そういう目線のズレみたいのが、古泉さんのマンガの巧さというか。

古泉 うわ、そんな、スイマセン。

インタビュー風景

花沢 マンガってたいてい作家ひとりで考えてるから、だんだんキャラクターの意思が統一されてきちゃって、気づくと登場人物がみんな同じこと考えてたりするんですよ。そういう少年マンガあるでしょ、みんなの意志がひとつになって、みたいな。でもそんなの、実際にはまずありえない。

古泉 いま言われて思い出したんですけど、父の闘病中に、まさにそんなことがあったんですよ(笑)。病院で叔母が突然「心をひとつにして頑張ろ!」とか言い出して。俺、何言ってんのかさっぱり意味がわかんなかったんで「何、ひとつって」って聞いたんだけど。

花沢 ああ……。それ、古泉さんは理解できないですよね(笑)。

古泉 そしたら叔母ちゃんが逆ギレして、「大変なときなんだから、みんなでお父さんを応援するって意味!」って怒鳴られちゃったんだけど。そう言われても実はまだわかんない。「あんたの応援と俺の応援がひとつなわけないじゃん」って思ってますからね。やっぱりあれですか、普通はそういうの受け入れるもんですか?

花沢 それ、見事にマンガに出てますよー。古泉さんが描き出すバラバラな感じ、リアルで、僕も描きたいなといつも思うんです。けど、その個々のズレを描きながらストーリーをちゃんと動かしてくっていうのは、相当難しいことなんですよ。「ライフ・イズ・デッド」のストーリー構成は高度だと思います。

かっこいい人は散々な目に遭わないといけないんですよ

──内面描写と言えば、童貞性みたいなものをテーマにする作風もおふたりに共通しています。ゾンビと童貞には共振するものがあるのでしょうか。

古泉 実は今度アクションに載せていただく読み切り、まさにその2つがテーマで。「日本一スカートの短いゾンビ」という、アイドルヲタの童貞がゾンビに噛まれちゃうって話なんです。童貞っぽさとゾンビは相性いいですからね。ホラー映画は基本的に、童貞と処女が最後まで生き残りますから。

花沢 やっぱり社交性が低くて部屋に閉じこもり気味な人のほうが、生存する確率が多少は高いはずなんで。そういう意味でも童貞のほうが生き残る気がしますけど。

古泉 ヤリチンがゾンビになってたらいい気味でいいですしね。

花沢 僕の作品では、モテる人間はどんどん死んでってもらう(笑)。

インタビュー風景

古泉 かっこいい人は散々な目に遭わないといけないんですよ。

──童貞っぽさを作品にし続ける原動力はなんでしょう。

古泉 ひがんでるからじゃないですかね。

花沢 童貞臭くないものを描くと、どうしても嘘臭くなっちゃうので。基本的には学生時代にいい思いをしてない人は、ずっとそれを引きずると思うんですよ。ちなみに古泉さんは初体験いつでしたか。

古泉 僕は21歳ですね。

花沢 あ、同じです。

古泉 しかもソープランドだったので。

花沢 まったく同じですね。

古泉 クリスマスの早朝ソープでしたよ。そんな僕たちも今では結婚してますからね。花沢さんはお子様はまだですか?

花沢 まだですね。僕は女の子が欲しいんですよ。男、嫌なんですよ。

古泉 できちゃえばなんでもよくなりますよ。きっと。

花沢 男が成長していくのを見たくないというか。キャッチボールとかしたくないんですよ。

古泉 あ、僕も女投げだから、息子ができたらバカにされそう。

原作と映画版の内容が離れていたほうがいいタイプ?

──ご自身のマンガが実写化されることについてお伺いしたいのですが、古泉さんは映画版「ライフ・イズ・デッド」をご覧になっていかがでしたか。

古泉 原作者なので初めて見る人の印象とは違うと思うんですけど、面白かったですよ。役者さんの演技もしっかりしていて。ゾンビ映画と言うには途中ゾンビが出てこないシーンが続いたりもしますが、それは原作のせいなんです。映画はもっとゾンビシーンを盛ってもよかったかも知れませんね。

インタビュー風景

花沢 古泉さんは原作と映画版の内容が離れていたほうがいいタイプですか?

古泉 そうですね、やっぱり監督のものにしてもらわないと、映画化する意味がないですから。映画版「ライフ・イズ・デッド」はヒガリノちゃん演じる消子目線の映画になってて、そこがよかったと思います。

花沢 僕も同じで、原作と映画はなるべく変えて欲しいんですよ。単純に観客として楽しみたいので。今回、古泉さんは映画制作にタッチしてないんですか?

古泉 シナリオチェックみたいのはあって、物語の整合性から見てこのエピソードは浮いてるんじゃないかとか、そういうことは言いました。でもそれも意見として言うだけで、決定権は監督に委ねてます。

花沢 自分が描いたキャラを生身の人間に演じてもらえるのは貴重な体験ですよね。

古泉 「ライフ・イズ・デッド」は美男美女のキャストに演じていただいているのですが、実際僕のマンガにはそんな人間が出てくるわけはなくて、監督さんも苦しんだところじゃないかなって思うんですけど(笑)。冴えないルックスの奴ばっかり出てくる映画なんて、セールス期待できないですから。でも赤星家のみなさんは、気持ちがズレつつも思い合う姿を見事に演じてくださって、すごくいい映画になったと思います。

花沢さんと僕は「兄弟」でもあるわけなんですね

──最後に花沢さんからおすすめコメントをいただければ。

花沢 おすすめコメントですか。うーん、どう言えばいいんだろう。難題だな。おすすめしてるはずが、おすすめしてないコメントになりそうな……。

インタビュー風景

古泉 そうなんですよ、僕の作品はおすすめしてもらおうとすると、けなしてるような感じにしかならない。「つまんない日常を描いてます」とか言うと、そのマンガつまんないんじゃねえかってなりますしね。自分でもPRしづらいんですよ。だから売れないんですよ!

花沢 ちょっと待ってくださいね……。うーん……。

──では少しお考えいただくとして、その間、古泉さんにお話を伺いましょう。おふたりは今日が初対面じゃないんですよね?

古泉 もう5、6年、もっと前からかもわからないですけど、いろいろと接点があったんですよ。

──その接点というのは、最初は何だったんですか。

古泉 最初ですか。えーと……。花沢さん、話しても大丈夫ですかね。

花沢 あー、大丈夫です。

古泉 その、時期は異なりますが、僕と花沢さんは過去に同じ女性と付き合ってたことがあるんですよ。なので、僕たちは「兄弟」でもあるわけなんですね。ははは。

──(絶句)。

花沢 いやーははは。

古泉 そういうことがありました。

花沢 そうですね、うん。「兄弟」でもある古泉さんの原作ですから、「兄弟」である僕が自信を持って面白いとおすすめします。

インタビュー風景

──えーと、では、これがおすすめコメントということでいいのでしょうか。

花沢 はい。

古泉 大丈夫ですか、こんなの載ったら奥様に怒られませんか。

花沢 記事を見られたらやばいかも知れません。

古泉 おっかないんですか。

花沢 おっかないんですよ。もちろん普段はかわいいですが。

古泉 うちも。福満さんの奥さんとか優しそうでいいよね。

花沢 ゾンビより奥さんが怖いですよ。もちろん普段は料理上手でかわいいですが。

映画「ライフ・イズ・デッド」 / 2012年2月11日(土)よりシネマート六本木ほか順次ロードショー

あらすじ

近未来、世界中に、人間の体液によって感染するアンデッド・ウィルス(UDV)が蔓延していた。それは日本も例外ではなかった。UDV感染は通称ゾンビ病と言われた。その症状は5段階に分けられており、レベル5になると、心臓も思考も停止しているのに動き回る動く死体、すなわち、ゾンビになってし まうからだ。赤星逝雄は、高校卒業まぎわにUDV感染の宣告をされた。そのせいで就職出来ず、ニートになる。UDVの大敵はストレス。だが、社会のUDVへの対応は酷い有様で、まさに混迷しており、その怒りのストレスで、逝雄のゾンビ化はますます進行してゆく。逝雄の父・浩止と母・冥子は、息子を守るべく奮闘する。妹・消子は、兄を思い、献身的に尽くす。恋人の茜、友人の面井や同級生の矢白が関われば関わるほど事態は混乱し、ストレスを増加させていく。けれども、逝雄には希望の光があった。それは担当のナース・桜井の笑顔。世間の風あたりはますます厳しくなっていくが、赤星家は家族一丸、立ち向かう。しかし、ユキオのUDVのレベルはどんどん上がっていくのだった。

古泉智浩(こいずみともひろ)

古泉智浩

1969年生まれ。新潟県出身、新潟市在住。専修大学にて心理学を専攻。剣道二段、空手七級。趣味、映画鑑賞・ラジオ鑑賞。1993年、ちばてつや賞大賞受賞でマンガ家デビュー。2005年「青春☆金属バット」が熊切和嘉監督により映画化。2009年に自伝的作品「ワイルド・ナイツ」が発売。2012年「ライフ・イズ・デッド」が菱沼康介監督により映画化、さらに「渚のマーメイド」が城定秀夫監督により映画化。2月7日に発売される漫画アクション4号(双葉社)には、「ライフ・イズ・デッド」の映画化を記念して、ヒガリノとの対談および同作の外伝「日本一スカートの短いゾンビ」が収録される。

荒井敦史(あらいあつし)

荒井敦史

1993年5月23日生まれ。18歳。埼玉県出身。第21回JUNONスーパーボーイコンテストにて、ビデオジェニック賞を受賞。若手俳優集団・D2に所属し、多方面で活躍する。公開中の映画「仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦 MEGA MAX」に湊ミハル役で出演。2012年春公開予定の映画「リアル鬼ごっこ4」では主演を務める。

ヒガリノ

プロフィール写真

1992年5月11日生まれ。19歳。沖縄県出身。プチョン国際ファンタスティック映画祭招待作品のゾンビ映画「セーラー服黙示録」にて、初主演を務めた。日本テレビ系にて毎週日曜午前8時から9時55分に放送されている、生放送情報番組「シューイチ」にレギュラー出演中。