コミックナタリー PowerPush - アニメ「暗殺教室」

岸誠二(監督)×上江洲誠(シリーズ構成・脚本)対談 名コンビが原作愛ほとばしる制作の裏側を語る

松井優征が週刊少年ジャンプ(集英社)で連載中の「暗殺教室」。謎の超生物・殺せんせーと生徒たちの、人類の存亡を賭けた教育バトルを描き、ヒットを記録している。実写映画も公開され、ますます盛り上がる現在、フジテレビ系列ではTVアニメが放送中だ。

コミックナタリーでは、アニメ版「暗殺教室」のキーパーソン、監督の岸誠二と、シリーズ構成・脚本の上江洲誠の2人を直撃した。息のあった名コンビが贈る、原作愛ほとばしるインタビューをお楽しみあれ。

取材・文/前田久 撮影/小坂茂雄

ジャンプを持って「すごい連載が始まったよ!」

──今日はアニメ「暗殺教室」について、たっぷりお話をうかがいたいと思います。よろしくお願いします。

左から岸誠二、上江洲誠。

 (カメラマンを見て)お、取材中に写真を撮るんですね。

上江洲 じゃあ、ろくろを回さないとね(おもむろに手を前に出す)。

 そうやね。ガンガン回しましょう(同じように手を前に出す)。

──絵面が怪しくなるので結構です(笑)。……気を取り直しまして、なんでもおふたりは「暗殺教室」の原作を連載のかなり初期からチェックされていたとか。

上江洲 連載が始まったときからですね。1話を読んでびっくりしたんですよ。「なんて面白いマンガが始まったんだ!」って。これでも相当マンガを読んできてますから、滅多なことでは驚かないんですけど、これだけパターンにはまらない、新しいアイデアのマンガが始まったことがうれしかった。しかも週刊少年ジャンプという大メジャーな舞台での連載ですからね。で、思わず、そのころ岸さんとやっていた作品の会議の席にジャンプを持っていって、「すごいのが始まったよ!」ってみんなに読ませてました。

 そうそう。

上江洲 そんな話がまずあって、数カ月後、単行本の1巻が出る頃にも、単行本を買って持って行って、「岸さん、1巻が出たから読んどきなさい!」って渡したりして(笑)。でも別に、そのときはアニメ化しようなんて思ってたわけじゃないんですよ。一番新しいエンタメ作品だから、監督という立場にある人としては読んでなきゃダメだよ、という意味で岸さんに渡したんですよ。

 で、まあ、そこから不思議なご縁があった感じですよね。しばらくしたら、そんなことは知らない人からアニメ化のオファーが来て、今に至る、と。

「原作をちゃんと活かしましょう」という話から

──では、アニメ化にあたって、おふたりはどんなプランニングを立てられたんですか?

岸誠二

 まずはシナリオ会議をして、シリーズ全体の構成を決めるわけですけど、「原作をちゃんと活かしましょうね」という話からスタートしました。原作がしっかりと先の展開まで作りこんであるんですよね。

上江洲 そう。隙がない。

 だからまずは、変に原作を崩して、アニメ独自の内容でどうこうというのはないよね、というのを確認しました。ただまあ、せっかく映像化するわけですから、映像にする上での面白みは盛ろうね、と。

──上江洲さん、ひょっとして今回は全話おひとりで脚本書かれてます?

上江洲 ええ。

──2クール分をおひとりで、というのはスゴいですね。理由をお聞きしてもよいですか?

上江洲 なんといっても、原作が好きだからですよ。ここまで好きなら、自分で書いた方が早いな、と思ったからです(笑)。スケジュールにも恵まれてましたしね。

 結果、上手く構成もできたよね。

──1人で書くことのメリットを感じたところはありました?

上江洲誠

上江洲 うーん、そうだなあ……ところどころは、ありましたかね。生徒たちが、最初のうちは25人、途中で増えて27人いるので、複数のライターで書いていると、キャラを管理しきれなかったと思うんですよ。キャラクター同士の相関図や感情の変化のタイムシートを作って、きちんと管理をすればできただろうけど、本作は先の展開まで含めてフラグ管理がとても複雑なんですね。複雑な情報の共有に苦心するよりも、自分で書いた方が早い。自分で書く分には、頭の中にマトリクスを作れば済むからね。もし、ほかのライターさんと手分けをしていたら、まだ喋っちゃいけないキャラが喋ったり、まだそのキャラの気持ちが変わるエピソードが済んでないのに、済んだつもりで行動したりしてたかもしれませんね。通常はそういう所で采配するのがシリーズ構成の仕事なわけですが、本作に限っては、1人で書く方がより精度が上がるだろうと判断しました。

教室を丸ごと、美術の風合いを残した3DCGで作成

──たしかにあの人数は、アニメ1話ごとの限られた尺の中で、上手くバランスをとって描くのは大変そうです。

 その点は、絵の面でも大変なんですよ。作品づくりには多くのスタッフが関わって作業を分担するので、スタッフのあいだで個々のシーンごとの描写がおかしくならないように制作を管理するのは、本当に大変です! 場合によっては、もっと簡単な作りにする事だって出来るんです。登場人物を少なくしたり、カッコよく絵を動かさないで止めで構成する作りにして会社負担、スタッフ負担を軽減する。その方が現場としても会社的にも幸せなはずです。今回はそういう事を度外視して怯まず、誠実に、丁寧に、原作の内容と真摯に向き合っているアニメスタッフたちの勇気は賞賛に値しますね。実写が随分注目されてますが、アニメスタッフの凄み、アニメの表現としての凄みも理解して頂ければ、現場としては報われます。制作会社は、よくやってくれてるなと思いますよ。

アニメ「暗殺教室」より。

上江洲 教室を3DCGで描いているのも、制作管理、運営をより円滑にするため。キャラクターたちはほとんど教室にいて、20人以上が画面に映り続ける。そうなると、絵のケアレスミスが起きやすいんですよ。

 そうですね。ミスをなくしつつ、さらに今のお客さんがTVアニメに求めるクオリティ水準をクリアするためにも、教室を丸ごと、美術の風合いを残した3DCGで作成して成立させることが今回の作品では必要だったんです。そのほかにも、現場では相当、この作品を成立させるためのいろいろな工夫をやってもらっています。

──レイアウトを作成する作業に3DCGを取り入れている会社は多いですが、そこまで作りこんだ3DCGを使っているというのは、スゴいですね。

 3DCGで美術の風合いそのままに背景CGとして完成させ、さらにそのままフィルム上の背景として運用出来るレベルの物として完成させたのは、日本のアニメでこの作品だけだと思います。暗殺スタッフは慎ましやかなので、なかなかこういうことを声高に言いません。ほかの会社様はしたたかにやってらっしゃるのに、商売っけがないですねえ、暗殺スタッフは。でもそれでは損をしてしまいますので、私が声高に言っておきます。「業界初のCG運用を暗殺教室のアニメではやっております!」と。先ほども言いましたがスタッフが丁寧に、誠意を持って制作していることの一例です。

TVアニメ「暗殺教室」 / フジテレビにて毎週金曜24:55~放送 ほか各局でも放送
TVアニメ「暗殺教室」
あらすじ

進学校の落ちこぼれクラス、3年E組に担任教師として現れた謎の生物・殺せんせーと、殺せんせーの暗殺を課せられた生徒たちが織り成す学園コメディ。暗殺に成功すれば100億の報酬が与えられるという状況下のもと、教師と生徒であり、標的と暗殺者でもあるという関係性の奇妙な日常が描かれる。アニメの監督を務めるのは「Persona4 the ANIMATION」などを手がけた岸誠二。「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて連載中の松井優征による原作は、単行本累計発行部数1350万部を突破しており、実写映画も大ヒット上映中。

岸誠二(キシセイジ)

滋賀県出身。チームティルドーン代表。2003年に「かっぱまき」で監督デビュー。主な監督作品に「瀬戸の花嫁」「蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-」「Persona4 the Golden ANIMATION」(総監督)など。

上江洲誠(ウエズマコト)

大阪出身。ギャグからSF、ゲーム原作まで幅広い作品を手がける脚本家。「天体戦士サンレッド」「人類は衰退しました」「瀬戸の花嫁」など岸誠二監督作品への参加も多い。