お笑いナタリー Power Push - 水道橋博士×「ゴースト・イン・ザ・シェル」
日本一のビートたけしマニアが語る「世界が欲するたけしの“顔”」
自分は芸のバトンを引き継いでいるにすぎない
──「人を人たらしめるものは何か?」というのは「攻殻機動隊」シリーズの共通テーマでもあります。博士さんはロボットと人間の境界線って日頃考えることはありますか?
俺は「別冊アサ(秘)ジャーナル」(TBS)のロケでロボットに関わる大学によく行っているので考える機会は多いです。そうそう、先日、名古屋で収録したんだけど、無動力で歩行支援をする「ACSIVE」って機械があって興味深いんですよ。それを開発した今仙電機製作所(IMASEN)って会社、東海地区の上場企業で車椅子メーカーでもあるのね。あの乙武(洋匡)先生の愛車は、代々このIMASENを乗り継いでいるんだって。乙武先生がどんどん新車に乗り換えているって思うと面白い。ただ乙武くんの車椅子ってさ、あのスキャンダル以降、俺には砲台を抱えた戦車に見えちゃって。
──あはははは(笑)。
まあそれは冗談として、乙武先生だって他人が思う以上に不自由で困っているだけでなく、身体性が逆に優れているところもあるじゃない。例えばパラリンピックを見たら「もともとの自分の脚よりも自由になっているのかも」って思わされますよね。本来の自分よりも機能が向上しているっていう。あとこれはまた別の話になってしまうけど、最近流行っているゲームでも「自分の生活の輪郭を見失う」ということがあって。うちの相棒が「龍が如く」に出てくるキャバクラにハマって、大変だよって言ってたんだけど(笑)、もうどこまでがバーチャル空間なのか実体験なのか、過ごしている時間が長くなると感覚的にわからない。
──けっこうそういう人いるみたいですね。
俺も年末の番組で、ソニーのゲーム機を使ってバーチャルリアリティの世界を体験したんだけど、もはやあれは恐怖を感じるレベルだった。深海でサメに襲われて、「助けてー!」ってスタジオで叫んだんだけど、たけし軍団だからわざと大袈裟にリアクションでやっていると思われちゃって。「これマジなやつ、マジなやつ!」って(笑)。
──本当に自分が体験しているかのように錯覚してしまう。
リュミエール兄弟の機関車の映像作品から始まって、臨場体験を現実に広げてきたのが映画だとして、俺はさらに夢の録画装置と再生装置を作れたら映画を超えると思っているんです。「ゴースト・イン・ザ・シェル」も自我の境界線はどこにあるのか?ということを描いているから、映画そのものを象徴しているともいえる。それは古今東西、万人が興味を持つストーリーだし、音楽でいえば普遍的なメロディを奏でているというか。
──たしかに。
たけしさんの話でいうと、「TAKESHIS'」「監督・ばんざい!」などはフェデリコ・フェリーニ「8 1/2」の影響下だと言われるけど、たけしさん自身はバイク事故を経て瀕死の状態から生き返って「俺が今しゃべっていること自体が夢なんじゃないか」って、よくおっしゃっていて。「あのときの事故のまま俺は病床にいて、今この景色を見てるっていう錯覚を何度も起こす」と言ってますよね。日常に溶け込んでいったけど、本来、感覚的には映画は「夢」であり、たけしさんも、映画は単に娯楽作品であるだけでなく、自分が見ている夢の延長上である意識下を客に見せているのが、映画という「作品」であるという感覚が強い監督だと思います。自ずと作家性がにじみ出るというか……。
──錯覚ということでいうと、この作品の中にも記憶を上書きする描写がありました。いろんな場面で「自分とは何か?」ということを考えさせられますよね。
そうそう。「攻殻機動隊」の中にもそういう描写があるけど、「人間っていうのは進化の流れの中の節目にすぎない」っていうのはテーマとしてよく考えていて。お笑いの話でいえば、俺もこの世界を結果的に長くやっているから、キャリアを積んできて、自分は「芸」という流れのバトンを引き継いでいるにすぎないって思うようになった。なんで俺はお笑いをやろうとしたかっていうと、それは「有名になりたい」とか「モテたい」とか「表現したい!」とかの衝動はあったろうけど、つまりは、お笑いを好きになったから、バトンをそこで渡されたからなのね。それがわかってきた。だから後輩にもバトンを受け継いで、「素人ではない」っていう感覚を持つ芸人の生態系を維持しないといけないんだけど、今は芸とか芸人の世界は、単なる商品であり、好感度を高めるための普通の社会の「社会人教育」になってきているでしょう。芸人になるにも、俺は家出して親から勘当されているんだけど、今は違うじゃん。若者が「入社」してるじゃん。
──あはははは(笑)。就職先の1つみたいに考えている人もいますね。
そうそう。でもそういう自分を定義づけるものは何かといったら、社会からはみ出してしまった過去であり、親への郷愁。誰もが親から生まれて本来、庇護のもとに生育しているのが、親から離れて、まったく違う掟が支配する疑似社会に飛び込む。そこで競争してサバイバルする。しかし、やはり根っこは家族の記憶や郷愁が本来の自分だっていう……これは世界共通の物語に流れるテーマですよね。世界中にある、ヤクザ映画やギャング映画って本質的にはそれだから。
──「ゴッドファーザー」とかそのままですもんね。
やはり、そのテーマだと人の琴線に触れるのよ。だってすべての人が親から生まれていますから。でも、未来はそうじゃない時代がくるよね。この映画のように「俺はどっから来たんだ」っていう。
カルトになる雰囲気と中毒性を意図して持った映画
「ゴースト・イン・ザ・シェル」っていう慣用句はないのかな? 魂を「ゴースト」と呼ぶ発想が面白い。普通は「ソウル」とか「アイデンティティ」だもんね。あと荒巻は原作と変えて、なんで頭頂部の髪の毛を残したんだろう?
──ヘアメイクと相談して、恥ずかしくない感じにしたとイベントでおっしゃってました。
もし、あそこをちゃんとハゲさせてくれたら「お茶の水博士」ふうになって、水道橋博士の俺が寄っていって、いろいろパロディやらイジりがいがあったのに(笑)。
──博士さんが自分の身体を改造するとしたらどこにメスを入れますか?
俺は実はもういろいろしてるからね。近視矯正手術なんて芸能界で一番早かったと思うし。今なら肝臓とかも換えたいもん。作品にも出てくるけど、肝臓を換えて「お酒けっこう強くなったんだよ」みたいなね。俺は精神さえ維持するなら肉体が変わることになんの抵抗もないよ。だって包茎手術もしてるし。今度は豊胸手術したいくらい(笑)。
──「ゴースト・イン・ザ・シェル」は、お笑い好きの人にはどのあたりを楽しんでもらえそうでしょうか。
SF映画の中のサイバーパンクを素材にした壮大なコントだと思えばコントに見えるよね。超絶した箱庭感がある。あとスカーレット・ヨハンソンの着ている光学迷彩スーツだけ、肌着みたいでセクシーなのはなぜ? そのルール何?(笑)
──あはははは(笑)。
美術や背景に目を向けてみると、未来の世界観として「ブレードランナー」も空の広告がどうなるかっていまだにいろんなところで引用されるけど、この作品の未来の広告の描き方も面白かったな。日本語の漢字やひらがなのレタリングとかタイポグラフィのセンスとかね。
──「SF映画が描くビル」とか、ストーリーとは別の見方をしても面白いですね。
そういう意味でも、この作品はたぶん何回も観ますよ。そういうカルト映画になる雰囲気と、最初から一回性で終わらない中毒性を意図して持っている。公開時だけのヒットだけが目的じゃなくて、長いスパンで見てくださいよっていう映画になっていると思います。
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ストーリー
電脳技術が発達し、人々が義体(サイボーグ)化を選ぶようになった近未来。脳以外は全身義体の“少佐”が率いるエリート捜査部隊は、ハンカ・ロボティックス社の推し進めるサイバーテクノロジーを狙うテロ組織と対峙する。上司の荒巻大輔や片腕的存在のバトーと協力し、捜査を進めていく少佐。やがて事件は少佐の脳にわずかに残された過去の記憶へとつながり、彼女の存在を揺るがす事態に発展していく。
スタッフ / キャスト
監督:ルパート・サンダース
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」
出演:スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、ジュリエット・ビノシュ、マイケル・ピット、ピルウ・アスベック、桃井かおりほか
- 「ゴースト・イン・ザ・シェル」公式サイト
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水道橋博士(スイドウバシハカセ)
1962年8月18日生まれ、岡山県出身。オフィス北野所属。1987年、玉袋筋太郎と浅草キッドを結成した。「別冊アサ(秘)ジャーナル」(TBS)、「バラいろダンディ」(TOKYO MX)ほかに出演中。編集長を務めるメールマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」をBOOKSTANDから月3回配信している。
2017年4月6日更新