MONDO GROSSO|大沢伸一とbirdが語る、1990年代の輝きと2017年の喜び

過去最高にコラボレートした反面、ものすごくパーソナルなアルバム

──個人的な印象としては、今再び日本の音楽シーンが1990年代末のような面白い時期に突入しつつあるように感じています。例えば、Suchmosが「アシッドジャズ」という文脈で注目されたり。2015年にbirdさんの「Lush」を手掛けられた冨田恵一さんの冨田ラボ名義の最新作「SUPERFINE」には、SuchmosのYONCEくんをはじめ、今の若手が多数参加していました。そんな状況だからこそMONDO GROSSOのひさびさのリリースを知ってかなり興奮したんですけど、そういった「また時代の変わり目に来ているんじゃないか?」という意識はありましたか?

左からbird、大沢伸一。

大沢 まったくなかったです(笑)。なぜかっていうと、制作中は周りの状況を冷静には見てなかったからで、今が時代の変わり目かどうかはこれからわかるのかもしれないですね。そういうことって、同時多発的に起こるじゃないですか? 直接関係なくても、いろんなところで同じようなことが起こることがあるっていうのは僕も信じてますし、実際体験もしてます。それこそ、90年代頭のアシッドジャズ前夜もそうですし、90年代末のJ-POP黄金期もそうでした。そうやって勝手に呼応することってあるんじゃないですかね。

bird 私は普段はなかなか違う世代の人と交流を持つことって少ないんですけど、冨田さんの新しいアルバムの発売記念ライブに参加させてもらって、今20代で活躍されてる方とご一緒したんです。そうしたら若い方々は、初々しいんですけど、ものすごくカッコいい部分もいっぱいありました。技術もそうだし、そこから派生した音作りとかもそう。私が20代だった頃とはまた違うけど、ひと回りしたような感じがあるのかなって。

──1990年代当時で言うと、まず渋谷系のムーブメントがあって、メジャーなJ-POPのシーンにも派生していったと思うんですけど、今はYouTubeによって国も年代も関係なく音楽を聴いて育った20代がオーバーグラウンドに浮上してきて、それで面白くなってるのかなって。

大沢 さっきも言ったように、作ってるときは自分のことで精いっぱいで、今回の作品自体には、あまり外的な要因は関係ないと思うんです。今回はスタッフも含め、過去最高にコラボレートしたアルバムだと思うんですけど、その反面ものすごくパーソナルなアルバムでもあるというか、外のことは全然気にしてないんですよね。今までのMONDO GROSSOのアルバムは、なんとなくでも1つのモードやスタイルを取り入れてたと思うんですけど、自分の中でそういうことを気にしなくていい時代に入ったというか。時代に呼応したというよりは、自分と、自分の近くにいる人の中で作った気がします。

──実際に、1つのモードに貫かれているというよりは音楽性もゲストも曲ごとにバラバラですけど、1つコンセプトがあるとすれば「全曲日本語詞のボーカル曲」ということですよね。

大沢伸一

大沢 唯一、そこですかね。最初はもうちょっとスタイリッシュなものというか、僕がこの10年間くらいでやってきたことをフィードバックさせて、洋楽とか邦楽とか関係なく聴けるようなアルバムっていうのをなんとなく思い描いていたんですけど、3、4曲デモを作ってもあんまりピンと来なくて。そんな中で「ラビリンス」ができたときに、「これどう考えても日本語詞だな」って思って。「いっそのこと全曲日本語ってアリかな?」ってスタッフに聞いたら「それはすごいね」って反応だったから、ちょっと怖いけど挑戦する意味があるんじゃないかと。なので、それ以前に作った曲は1回全部捨てて、「ラビリンス」を軸に、日本語と、僕の琴線に触れるメロディ、郷愁感みたいなものをきちんと閉じ込める作品にしたいって考えながら改めてスタートしたんです。

EDMを期待されてたのはわかったんですけど、僕は好きじゃないんで

──アルバムの1曲目を飾っているのがbirdさんをフィーチャーした「TIME」で、歌詞にしてもアレンジにしても、アルバムを象徴する1曲になっているように思います。

大沢 この曲はもともとMINMIちゃんと一緒に別のシンガー用に作った曲が基になってるんです。その曲を書いたのは3、4年前で、「日本語でもEDMでしょ」って時代だったので、サビに向かって盛り上がっていく構成を期待されてたのはわかったんですけど、でも僕はそれ好きじゃないんで、本来上がっていくところを、逆に下げたろって思って。その片りんは「TIME」にも残ってるんですけど、そのシンガーの方は案の定「これはちょっと……」って反応で、「でしょうね」って思って寝かせておいたんです(笑)。

──その曲をもう一度引っ張り出してきたと。

大沢 今回birdとやるって決まって、しっとりした曲を書き下ろしたりもしたんですけど、ちょっとカッコつけすぎかなって思って、「こんなんもあるよ」ってこの曲を聴かせたら、面白がってくれて。「1回やってみようか」って作り始めたら、出てきた歌詞がすごくよかったので、そこからさらにアレンジをしていって。だから、結果としてアルバムを象徴する曲になってると思うんですけど、入り口からものすごく遠かったというか(笑)。面白いですよね、引っ張られてここに来た感じが。

──アレンジ的にはこの曲が一番バンドサウンドなので、アルバムの1曲目にあるとMONDO GROSSOがもともとバンドとしてスタートしてることを思い出させますよね。

大沢 そうやって自由に受け取っていただいてけっこうです。なんなら「MONDO GROSSOのバンドサウンドを彷彿とさせる幕開けで」って書いていただいても構わないです(笑)。実際にそれは僕も感じましたけど、ただ今回の曲順を決めたのは僕じゃなくてスタッフなんです。作品が持ってる力に引っ張られてこうなったのかなって気もしますけど。

bird

──birdさんは曲に対してどんな印象を持ちましたか?

bird しっとりした曲のほうもカッコよかったんですけど、「TIME」はテンポが変わるのが面白くて。歌詞を書き始めて、第1稿を見てもらったら、そこからアレンジもメロディもどんどん変わっていったんです。それに合わせて歌詞も変えていったので、キャッチボールみたいな感じというか、一緒に作り上げていく感じがすごく楽しかったです。

MONDO GROSSO
「何度でも新しく生まれる」
2017年6月7日発売 / cutting edge
MONDO GROSSO「何度でも新しく生まれる」CD+DVD

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3564円 / CTCR-40387/B

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CD収録曲
  1. TIME [Vocal:bird]
  2. 春はトワに目覚める(Ver.2)[Vocal:UA]
  3. ラビリンス(Album Mix)[Vocal:満島ひかり]
  4. 迷子のアストゥルナウタ[Vocal:INO hidefumi]
  5. 惑星タントラ[Vocal:齋藤飛鳥(乃木坂46)]
  6. SOLITARY [Vocal:大和田慧]
  7. ERASER [Vocal:二神アンヌ]
  8. SEE YOU AGAIN [Vocal:Kick a Show]
  9. late night blue [Vocal:YUKA(moumoon)]
  10. GOLD [Vocal:下重かおり]
  11. 応答せよ[Vocal:やくしまるえつこ]
DVD収録内容

Music Video

  • ラビリンス
  • 惑星タントラ
  • SEE YOU AGAIN
  • TIME
大沢伸一(オオサワシンイチ)
大沢伸一
滋賀県出身のDJ / コンポーザー / プロデューサー。自身が率いたアシッドジャズバンドを前身としたソロプロジェクト・MONDO GROSSOにて革新的なトラックをリリースしつつ、国内外のアーティストのプロデュースを手がける。MONDO GROSSOとして2000年に発表したアルバム「MG4」は世界25カ国でリリースされる大ヒット作に。2007年からは個人名義での活動を本格的にスタートさせ、アルバム「The One」をリリース。テクノ、ハウス、エレクトロのシーンを中心にDJとして活躍した。2017年6月、MONDO GROSSOとしての14年ぶりのアルバム「何度でも新しく生まれる」を発表した。
bird(バード)
bird
1975年生まれ、京都出身の女性シンガーソングライター。大沢伸一に認められ、1999年に大沢主宰の音楽レーベル・RealEyesからシングル「SOULS」でデビューを果たす。同年7月にリリースした1stアルバム「bird」は70万枚の売り上げを記録し、日本ゴールドディスク大賞新人賞を受賞した。2002年にRealEyesから独立。以後は、作曲やプロデュースといったクリエイターとしての才能も発揮し、カバーアルバムやオリジナルアルバムの制作を行う。2015年には冨田恵一(冨田ラボ)プロデュースによる通算10枚目のアルバム「Lush」を発表。伸びやかな歌声を武器に、ジャンルの垣根を越えて活躍するその姿勢は、ライブも含め高い評価を得ている。