「横浜ダンスコレクション2021」梅田宏明×岡本優×小野晋司 座談会|出発点のダンコレで、過去作をブラッシュアップ!

縛りから自由になって、独力でできることを

小野 先ほどお話にもあったように、岡本さんは昨年フランスにレジデンスする予定でしたが、いまだ実現していません。岡本さんはフランス国立ダンスセンター(CND)に滞在予定なのですが、梅田さんはCDNにどんな印象をお持ちですか?

梅田 大きな施設で、フランスのコンテンポラリーダンスの中心地のようなところですね。スタジオがいっぱいあって、劇場もあって、膨大なダンスの本や映像を観られる図書館があるんですけど、そこで僕はダンスのビデオインスタレーションを展示したことがあります。ほかの国ではちょっと見ないようなダンス施設で、本当にレベルが高いなって行くたびに思います。

梅田宏明

小野 岡本さんはフランスでこんなことをやってみたい、というイメージを何か持っていますか?

岡本 少し話が戻るんですが、梅田さんの「全部1人でやる」というような、クリエーションの概念を崩すことをやると、よく止められるんですね。

梅田 え、どういうことですか?

岡本 「舞台を作るときにはこういう工程を組む」という基礎を大学で学んでしまったが故に、そこからはみ出すような作り方をしようとすると、「ちょっと待って」と周囲に言われることが多くて、なかなかそこに踏み込めないんです。

梅田 なるほど。

岡本 でもフランスに行けば自由が獲得できるというか、日本ではやれないようなことを積極的にやれるんじゃないかな、純粋に踊るということだけではない踊り方を探せるといいなと思っていて。それと、もちろん仲間や助けてくれる方のおかげで自分の頭だけでは考えられないことが考えられているんですけど、1回自分の頭の中だけで、自分ができる範囲のことをやってみたいな、そこに自由を感じたいなと思っているんです。

梅田 今の話はけっこう重要なことだと思います。フランスではまず、振付家の社会的な地位が日本とは違うんです。僕はキャリアの最初のほうにフランスがあったので、まずフランスのやり方を学んだんですけど、フランスでは劇場に入ったら演出家がすべてを指示しないといけないんですね。でも日本だと、制作側やテクニカルなど、運営のシステムに僕らが合わせていく。でも僕は、クリエイティブなことをやろうとする以上、制作やシステムの側も含めてクリエイティブであるべきだと思っていて。だから岡本さんがフランスに行って、その今感じている“縛り”のようなものを取ることはすごく効果があると思うし、フランスでは振付家の思いを実現するために周りが動いてくれるということがあるので、そういう場で自分のクリエイティビティを発揮してもらえるといいなと思います。

小野 本当にそうですね。それとぜひ、たくさんの出会いを作ってもらえたらと思います。

岡本 (大きくうなずく)。

19年ぶり、9年ぶりに過去作と向き合う

梅田宏明「while going to a condition」より。

小野 今回お二人には、「ダンスクロス」の枠で、過去作品の再上演・再創作に挑んでいただきます。「ダンスクロス」は、「横浜ダンスコレクション」における若手振付家のための在日フランス大使館賞受賞者がフランスレジデンス後に作品を上演する機会のサポートと、日仏の振付家支援プログラムとして実施されるものですが、梅田さんは2002年に「横浜ダンスコレクション」で上演された「while going to a condition」を、岡本さんには2012年に「トヨタ コレオグラフィーアワード」で上演された「チルドレン」をリクリエーションしていただきます。それぞれどんな作品になりそうでしょうか?

岡本 「チルドレン」の初演に関してはかなり大失敗だったという思いがあって、けんかした友達にずっと「ごめん」を言えていない感じと言いますか(笑)、しこりのような感じがあって。TABATHAはよく再演するんですけど、「チルドレン」は再演できないまま年月が経っていました。でも今回このような機会をいただき、「だったらあの作品じゃないだろうか」という感じがしたので、「チルドレン」をやることにしました。タイトルの「チルドレン」は伊坂幸太郎さんの小説にちなんでいるんですが、その小説は1つの出来事をいろいろな視点から描く手法を取っていて、ダンスでそれをやってみようと思ったんです。ただ演出的なことや振付は、初演からほぼ変わるのではないかと思います。

小野 梅田さんは初演以来、世界各地で「while going to a condition」を上演されていますが、これまでに何回くらい上演していますか?

梅田 たぶん100回くらいはやったと思います。最近はだいぶ回数が減ってきて、昨年か一昨年に1回やったくらいですけど、「もうやらないかな」と思っていたら今回またお話をいただけて。

YDC2019 岡本優「マニュアル」より。(Photo:Tsukada Yoichi)

小野 19年ぶりに同じ場所で上演することに感慨はありますか?

梅田 作品自体はインプロなので、そのときの身体、そのときの状態で今でもきっとフレッシュな気持ちで踊るし、お客さんにもフレッシュな気持ちで観てもらえるのではないかと思います。ただこの19年でダンスに対する考え方も変わってきましたし、当時はやることに精一杯でしたが、今はどうやってお客さんに伝えるかを考えるようになったので、そういう違いはあると思いますね。あと、この作品は僕が24歳くらいのときに作ったものなんですけど、今の若い人が観てどう感じるのかは、すごく興味があります。

この状況下で、いかに作品を届けるか

小野 最近はコロナの影響で、SNSやYouTubeなどでダンスを配信するケースが増えてきました。観客としては、劇場空間で味わうものと映像はやっぱり少し違う感じがするのですが、お二人は映像でのトライにどんなことを感じていますか?

岡本優

岡本 私はまだダンス作品をオンラインで上演したことはなくて、風景の写真で映像を作ったり、過去作品のシーンをつなぎ合わせた映像を公開したり、あとはリモート稽古をやりましたね。リモート稽古は、やっている最中は面白かったり発見があったりするんですけど、Zoomのスイッチを切った瞬間に家なのでふっと我に返るというか。それまでやっていたことが本当に身になってるのかな、意味があるのかなと、よくわからなくなることがあります。でもやらないよりはやったほうが良いと思いますし、もし今後オンラインで作品を上演するなら、やっぱり上演の仕方をよく考えて臨まないといけないだろうなとは感じます。

小野 梅田さんは、エストニアのフェスティバルにオンラインで参加されていましたよね? 梅田さん自身は日本の事務所で踊っていて、でも梅田さんの身体の映像がフェスの観客にも届いているという。

梅田 4月頃ですね。あれはゲームのテクノロジーを使ってるんですよ。マイクロソフト社のXboxの周辺機器として出たKinectっていうカメラがあって、それを使うとダンスをリアルタイムで3D映像として出すことができるんです。

小野 さすが梅田さんだなと思いました。現在もリモートで稽古中なんですよね?

梅田 ええ、春に台中国立歌劇院で新作を発表する予定で、そのリモート稽古をやってます。僕はけっこう早い段階からSkypeを使った稽古をやっていたので、リモート稽古はあまり問題ないというか、けっこうできると思っているんです。でもオンライン上演となると、上演後の手応えはまったくないですね(笑)。岡本さんが言うように、ワーッと踊ってプチッてスイッチを切ったら自分の家なので、湧き上がった高揚感を水を飲んで抑えるくらいしかできなくて、非常に寂しい(笑)。また僕自身はリアルタイムで踊っていたとしても、お客さんが観るのは生配信じゃなくて録画かもしれませんから、そう思うと上演の実感を持つのはなかなか難しいです。でも稽古であれ上演であれ、オンラインでやることを劇場空間でやることの代替物にしようとするとつらいし、オンラインでのクリエーションはまだ模索が始まったばかりなので、今後オンラインでしかできないダンスを見出していければ、コンテンツとしても、また観る人にとっても良いのではないかなと思いますね。

左から梅田宏明、岡本優、小野晋司。