WOWOW「松尾スズキ大特集!」松尾スズキ 宮藤官九郎 インタビュー / 生田絵梨花×神木隆之介 対談|怒涛の3作品一挙放送!「キレイ─神様と待ち合わせした女─」「命、ギガ長ス」「ノンフィクションW 松尾スズキ 人生、まだ途中也」

宮藤官九郎
宮藤官九郎が語る松尾スズキ

大人計画の“2つの頭脳”として刺激を与え合いながら、30年余りの時を過ごしてきた松尾スズキと宮藤官九郎。松尾と大人計画の30周年記念イベント「30祭(SANJUSSAI)」で、松尾が「宮藤くんは一緒にものを作ってきた仲間。常に存在を感じている」と語ったように、2人にとって互いの存在は、それぞれの創作においてなくてはならないものになっている。また2人は、互いの作品に俳優として参加することも多く、宮藤にとって久々の舞台作品となるウーマンリブ「もうがまんできない」にも松尾がキャスティングされている。ある時は演出助手、ある時は俳優、またある時は演出家として松尾の活動を近くで見てきた宮藤は、“松尾スズキ”という存在をどのように捉えているのか?

──2019年度版「キレイ─神様と待ち合わせした女─」をご覧になっていかがでしたか?

Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019+大人計画「キレイ―神様と待ち合わせした女―」より。(撮影:細野晋司)

僕は2000年版と2005年版の「キレイ」に出演して、2014年版も拝見したのですが、2019年度版は「今まで以上に本格的なミュージカルだなあ」という印象を受けたのと、それに対する抵抗というか照れも感じました。松尾さんの創作の振り幅がより大きくなっているなと思いましたね。初演時はみんな「シアターコクーンでやるからがんばらなきゃ!」という気持ちで舞台に立っていましたが、今回は特に大人計画のメンバーの“自由自在さ”が際立っていたなと。ミュージカルパートは客演陣が担って、大人計画らしさは劇団員に任せよう、という分担がはっきりしているのも面白かったですね。

──昨年上演された「命、ギガ長ス」は、松尾さんが「再び演劇を楽しむ」ことを掲げて挑んだ二人芝居です。同じクリエイターとして、松尾さんの思いに共感する部分はありましたか?

東京成人演劇部 vol.1「命、ギガ長ス」より。(撮影:引地信彦)

松尾さんはよく「大きな劇場でやったあとは、小さな劇場でやりたくなる」とおっしゃっているので、「命、ギガ長ス」は原点回帰のような作品だったのかなと思います。僕が特にすごいなと思ったのは、吹越(満)さんが全部の効果音を担当していたところ。これまでいろいろな作品を作ってきたからこそ、あのアイデアが生まれたんだと思うし、そこに松尾さんの覚悟を見たというか、ただ小さな劇場に戻って来ただけじゃないっていう気概を感じました。

──松尾さんと長く活動をご一緒されている宮藤さんだからこそ感じる、松尾さんの“ずっと変わらない魅力・面白さ”はどんなところでしょうか? また、新たな魅力として感じる“変化”があればそちらも教えてください。

僕は単純に「楽しかったらいいや」と思いながら作品を作るタイプで、松尾さんも昔はもっと乱暴だったと思うんですけど(笑)、「30祭(SANJUSSAI)」で松尾さんとコントをやったときに、「どうしたらお客さんに伝わるか」ということをしっかり考えてるんだなと思いました。すごく丁寧で、松尾さんの心境の変化を感じましたね。

「ノンフィクションW 松尾スズキ 人生、まだ途中也」より。
ウーマンリブvol.14「もうがまんできない」ビジュアル

ずっと変わらないのは、ウケるか、ウケないかに執念を燃やすところ(笑)。お客さんが笑ってくれることを大事にするという考え方は、松尾さんを見て学んだことで、僕が今でも大事にしていることの1つです。作劇に関しては、より壮大に、どんどん洗練されているなと。それでいて、インディペンデントで尖った部分を失わないところにも松尾さんらしさを感じて「ああ、こういうところ好きだなあ」と思いますね。

──5年ぶりとなるウーマンリブの公演「もうがまんできない」は“シンプルな会話劇”を目指すとのことですが、現段階でどのような手応えを感じていらっしゃいますか?

阿部(サダヲ)くんや松尾さんをはじめ、コンスタントに舞台に立っている役者さんたちが多いので、形になるのが速いんですよね。それに対して自分の演出がまだ追いついてない、と考えたりしますが(笑)、稽古をしていくうちにいつものウーマンリブになっていくんじゃないかと。脚本を書いているときは想像してなかったけど、松尾さんの身体を通したときに、面白さに加えて悲しさや切なさみたいなものがにじみ出てくるというか、新たなドラマが生まれる気がしていて、そこに松尾さんの俳優としての魅力があると思っています。

宮藤官九郎(クドウカンクロウ)
1970年生まれ。1991年より大人計画に参加し、脚本家・監督・俳優として活動している。1995年に結成したパンクコントバンド・グループ魂ではギタリストを務め、作詞・作曲も担当。第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第53回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第49回岸田國士戯曲賞、第29回向田邦子翔、東京ドラマアウォード2013脚本賞、第67回芸術選奨文部科学大臣賞など多数の賞を受賞。2019年に放送されたNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」では脚本を手がけた。2020年4月から5月にかけて、自身の作・演出作であるウーマンリブvol.14「もうがまんできない」が上演され、同年10月にはねずみの三銃士「獣道一直線!!!」の公演を控えている。