WOWOW「松尾スズキと30分の女優」松尾スズキインタビュー / “盟友“天久聖一&“珍獣”大谷皿屋敷の見どころ解説 | 吉田羊、多部未華子、麻生久美子、黒木華と繰り広げるコントの“大乱”

作家3人が、それぞれの“笑い”を台本に詰め込む

──今回、作家チームには松尾さんのほか、天久聖一さんと劇団「地蔵中毒」の大谷皿屋敷さんが参加されています。皆さんでどのようにコントを書き分けたのでしょうか?

最初にネタ出しの会議をして、僕と天久くんのやり取りを見ながら大谷くんが小ネタを考えてくる、みたいな感じですね。やりたいことの骨子が決まったら僕と天久くんが書き分けて、僕が全体を整え、大谷くんに小ネタをいっぱい考えてもらうという、僕にとっても新しいやり方になりました。

──松尾さんと天久さんは、松尾さんの一人芝居「生きちゃってどうすんだ」をはじめ、これまでもたびたび一緒にお仕事されていますが、松尾さんの笑いと天久さんの笑いはどんなところが違うとお感じになりますか?

「松尾スズキと30分の女優」より。
「松尾スズキと30分の女優」より。

天久くんのほうがマンガっぽいのかな。ネタには長尺のものも短いものもあるんですけど、短いもののときの天久くんの爆発力はすごいなって思います。反対に僕は、最終的には女優さんにちゃんと芝居をしてもらうということを念頭に置いているかなと思いますね。

──大谷さんは過去のインタビューで、松尾さんから影響を受けたとお話されています。

って言ってますよね。僕も大谷くんの芝居を実際に2本ほど観て、DVDでも観たんですけど、ストーリーがどうこうというより小ネタの量で勝負してるところがあって、「よくこんなくだらないことを大量生産できるな」と思いました(笑)。今回、せっかくなので生かしたいなと。やっぱりコントって、そこに入っている笑いの量が重要だと思うんですけど、(僕は)もうそんなに量を思いつく歳ではなくなってしまったので、若い力を借りようと。

──一緒にお仕事される中で、大谷さんの魅力を感じるところはありましたか?

なんだかね、現場の居方がうれしそうで(笑)。ずーっとうれしそうな感じでいるのがこちらにも伝播して、いい意味で緊張感がなくなっていく。笑いって緊張ばかりしててもダメなので、その点彼には人をリラックスさせる不思議な能力があると思いますね。

現実を忘れられるような笑いを

──松尾さんのテレビでのコントというと、2001年に放送された「恋は余計なお世話」や2016年の「松尾スズキアワー『恋はアナタのおそば』」などがありました。テレビと舞台の笑いの違いについては、作り手としてどんな意識の違いがありますか?

「松尾スズキと30分の女優」より。

「恋は余計なお世話」はずいぶん前の番組ですよね、しかも1時間のコントだったのかな? めちゃ長いですね(笑)。「恋は余計なお世話」はスタジオコント、「恋はアナタのおそば」は観覧者を入れたスタジオ収録だったから、コント番組とは言っても今回とは少し違う。今回は映像作品としてのコントを撮ろうっていうことだったので、だから笑ってくれる人は目の前にはいないし、カメラを通じての笑いはどういうことなのかっていうことを、ほぼ初めてやったのかなっていう気がします。

──では放送後のお客さんの反応が楽しみですね。

そうですね。芸人さんが作る笑いとは違う、作品としての笑いを感じてもらえればと思います。

──松尾さんの作品では、深刻な状況やテーマほど、それが笑いに昇華されることを大切にされています。コロナ禍が長引き、演劇界でもたびたび公演中止や延期が生じて厳しい状況が続いていますが、松尾さんは今、どんな笑いが必要だとお感じですか?

やっぱり状況としては悲劇的だと思っています。でもそういうときこそ、忘れさせてくれる時間は必要かなと思っていて、立ち向かわなきゃいけない時間があるからこそガス抜きが必要だと思うんですよね。そういう意味でのエンタテインメントは、求められ続けてるんじゃないかと思いますが、コロナ禍でエンタメを続けることもすごく大変で。でもだからこそ“虚勢を張る”ではないですけど、コロナのことを一瞬でも忘れられるようなものが欲しいなって、自分自身も思います。最近はバラエティ番組を観ても、出演者の間にアクリル板があるのが普通で、でもやっぱり気になるじゃないですか。今回の「松尾スズキと30分の女優」はその点、コロナは“ない”ことになってますから。そういうものも見たいですよね、しょせん虚構の世界なんですから。