WOWOW「松尾スズキと30分の女優」松尾スズキインタビュー / “盟友“天久聖一&“珍獣”大谷皿屋敷の見どころ解説 | 吉田羊、多部未華子、麻生久美子、黒木華と繰り広げるコントの“大乱”

松尾スズキが脚本・演出を手がけるオムニバスコントドラマ「松尾スズキと30分の女優」の放送が、3月28日にWOWOWプライムでスタートする。「松尾スズキと30分の女優」では、その名の通り、松尾と女優たちががっぷり四つに組み、至極のコントを披露。3月28日の初回放送では、30分のコントが4話分オンエアされ、4人の女優が各話でメインキャストを務める。

松尾と“大乱”を繰り広げるのは、吉田羊、多部未華子、麻生久美子、黒木華。松尾演出作初出演となる吉田と黒木、松尾作品に出演経験のある多部と麻生、“松尾スズキと30分の女優たち”は本番組でどのような“笑い”を生み出すのか? 収録を終えた松尾に、“笑い”へのこだわりや印象深いコントについて話を聞いた。

また「松尾スズキと30分の女優」には、「生きちゃってどうすんだ」「不倫探偵~最期の過ち~」など、数々の松尾作品でブレーンを務める“盟友”天久聖一、松尾を尊敬してやまない“珍獣”こと、劇団「地蔵中毒」主宰の大谷皿屋敷が脚本家として参加。本特集の後半では、天久と大谷が同番組の見どころをそれぞれの視点で解説する。

取材・文 / 熊井玲(P1〜2) 構成 / 興野汐里(P3)

松尾スズキインタビュー

俳優だからこその、“人間味”がにじみ出るコントを

──松尾さんが作・演出・出演されるコント番組「松尾スズキと30分の女優」がいよいよ3月28日に放送されます。放送決定時に松尾さんは「芸人の笑いが全盛の今、いつか俳優の笑いがテレビでやりたかった」とコメントされていましたが(参照:「松尾スズキと30分の女優」3月にWOWOWで、脚本チームに“盟友天久と珍獣大谷”)、芸人の笑いと俳優の笑いの違いを、どう感じていらっしゃるのでしょうか?

「松尾スズキと30分の女優」より。

演技力、ということに尽きるとは思うんですけど、芸人さんたちの笑いは、芸人さんがステージにいて、目の前に観客やスタッフがいて、その人たちにウケるかウケないか、そこが勝負になっていると思うんですね。まあ大人計画の笑いもそういうところはあるんですけど(笑)、俳優さんはそこで勝負してなくて、目の前の台本をいかに成立させるか、いかに自分のものにするか、みたいなところがあって、目の前の人を笑わせるのは副次的な目的なんです。台本を、ただ演じる。なのにそこにちゃんと人間味のおかしさが出てくるというか。人間味という点では、芸人さんの笑いも詰まるところはそこだとは思うんですけど、アプローチの仕方が違う。

──今回、“30分の女優”として吉田羊さん、多部未華子さん、麻生久美子さん、黒木華さんが登場されます。皆さん、“腕っ節の強さ”というか“潔い演技”が魅力の女優さんばかりですが、吉田さんと松尾さんは今回が初共演ですよね?

左から松尾スズキ、吉田羊。

吉田さんは、前から一度ご一緒してみたい人ではあったんですけど、今回はプロデューサーが提案してくれて、すごく良いアイデアだなって思ったんです。あのくらいの年齢の女優さんで、あの美しさで、小劇場からの叩き上げで、実力がある人なんだろうなって思って。特に今回は僕自身、演出もかなりやっていて、そこまで出演に比重を置くこともできないので、女優さんのほうに比重がかかってくる。だからこそ実力のある人とやらないと、持たないなと思ったんですよね。

──吉田さんと松尾さん、ちょっと意外な組み合わせで、だからこそ楽しみです。

吉田さんが笑いの演技をしたところを観たわけではないんですけど、これはもうカンですね(笑)。小劇場を長くやってきた人は基本、タフですから。まあ何にもやらなくなることを価値とする人もいるかもしれませんけど、吉田さんはそういうタイプじゃないんだろうなって、バラエティに出ている様子を観ても感じたし、チャレンジ精神が旺盛な人なんだろうなっていうのは薄々感じていたので(笑)。とにかく僕がやることに興味を持ってくれたらいいなと。なのでオファーを受けていただいた段階で「もう大丈夫」って思いました。

左から松尾スズキ、多部未華子。

──多部未華子さんは、松尾さん演出の「農業少女」(2010年)に出演され、2014年に上演された「キレイ─神様と待ち合わせした女─」で主人公のケガレを演じるなど、近年の松尾作品に欠かせない女優さんです。

多部ちゃんは21歳のときに僕の芝居に出て、笑いのリズムとか、「何を大事にして何は大事にしなくていいか」ということを、10年以上にわたって共に研鑽してきた仲ではあるので(笑)。もちろんこれまで、多部ちゃんが笑いを受け持つ部分ってそんなにはなかったと思うんですけど、笑いの先輩が周りにいっぱいいたわけだから、そこから何かは学んでいるだろうし、「女優さんとコント」という企画を考えたときに、多部ちゃんのお名前が真っ先に出てきました。

──続く麻生久美子さんも、松尾演出を経験済みです。

左から松尾スズキ、麻生久美子。
左から松尾スズキ、黒木華。

麻生さんは2019年の「キレイ」に出てもらって、でも「キレイ」では別に笑わせるような役ではなかったんだけど、本人が面白い人ですからね。三木聡監督のもとでけっこう鍛えられてきたと思うんですよ。だって、何でもできる人じゃないとできないだろうなってことをたくさんされているので(笑)。だから「これは絶対やらせるべきだ!」って、そんな権利は僕にないんですけど(笑)、麻生さんに出ていただけたらちゃんと結果を出してくれるだろうという確信がありました。

──そしてもうお一人、黒木華さんは松尾作品に初参加となります。

前々から僕、彼女の演技を買っていて、彼女もうちの芝居をよく観に来てくれて、という関係性だったんですね。だから「いつか一度一緒にやりたいね」という話をしていたんです。ただ“こういうもの”を彼女がやりたいかどうかはわからなかったんですけど(笑)、オファーしたら即答で「やります」と言ってくれて。撮影のときに本人に真意を聞いてみたら「こういう笑いが好きなんです」という答えが返ってきました。

──皆さん舞台経験も豊富な女優さんばかりですが、舞台寄りの人を意識的に選ばれたのでしょうか?

いや、そこに特にこだわりはなかったんですけど、今回は偶然、舞台経験者だけになったという感じですね。

初回はたっぷり4話一挙放送、ぜいたくな笑いを

──撮影の前に、何度かお稽古はされたのでしょうか?

何度もやってはいないですね。衣装合わせの日に1回稽古したくらいで。

──コントの瞬発力も大事にされた?

そうですね。ただ、スタジオでカメラを4台回して……って感じじゃなく、カメラ2台で屋外も含めさまざまな場所で撮る形だったので、瞬発力だけじゃなくて粘りも必要でした。そういう意味でも、芸人さんじゃないからこそできた部分もあるかもしれないなって。僕らにとっては当たり前のことでも、芸人さんだとあんなに何度も重ねて撮るとしんどくなってきますよ。

──撮影はどんな様子だったのでしょう?

みんな楽しんでくれたというのが、1つうれしかったことです。それと、僕の芝居をよく観てくれているからか、みんなよく理解してやってくれていましたね。シュールなものが多かったとは思うんですけど、頭で考えなくても全員ポンとできる、という感じで。

──ゾンビものから時代劇まで、かなり幅広い内容になっていますね。松尾さんはすべてに出演されていますが、俳優・松尾スズキとしてはかなり大変だったのでは?

そうですね(笑)。昨年、ウーマンリブ 「もうがまんできない」が中止になってしまい、俳優をやる機会がほとんどなかったので、1年ぶりぐらいにガッツリ俳優……っていうのかな、これは?(笑) ちゃんとできるのか最初は不安でしたけど、けっこうぜいたくに時間を使って撮りました。

──初回はたっぷり4話一挙放送。女優さん1人につき数編のコントを松尾さんと演じられますが、松尾さんが特に印象的だったコントを教えてください。

「松尾スズキと30分の女優」より。
「松尾スズキと30分の女優」より。

多部ちゃんに関して言うと、時代劇かな。大河ドラマの一編みたいな感じでやるコメディがあるんですけど、そこはゴージャスな画が撮れたなって思います(笑)。

──お写真で見ると、衣装もセットも豪華で、本物の大河ドラマのようでした。

あははは! 時代設定はめちゃくちゃですけどね(笑)。

──吉田さんは?

吉田さんはゾンビのネタと、“吉田羊として語る”コントですね。どっちもけっこう尖ったものが撮れたんじゃないかっていう気がします。

──グレーの肌に血がついた“いかにもゾンビ”な松尾さんと吉田さんの2ショットは、なかなかの迫力でした(笑)。

吉田さん、口から血を流しながらしゃべったの、初めてだったんじゃないですかね?(笑) でもそういうことも躊躇せずにやってくれました。もう1本の“吉田羊として語る”ネタは観てのお楽しみですけど、普通の女優さんだったら断るかもしれないようなことをやってくれてます(笑)。本当に、肝の座った人だなと思いました。

──それは楽しみです(笑)。麻生さんはコスチュームものというか、ちょっと劇画的な雰囲気のコントが多いのかな、とお写真から感じました。

「松尾スズキと30分の女優」より。
「松尾スズキと30分の女優」より。

そうですね、パロディっぽいものが多かったかな。麻生さんはある意味、コントのプロですから、どのネタも的を射た芝居をしてくれて、甲乙付け難いな。あえて言うと、中国語でフルテンションで歌うシーンがあるんですけど、そのシーンは現場で見ていて、「眼福だなあ」と思いましたね。

──早く拝見したいです(笑)。黒木さんは逆に、衣装も空間も現代的なものが多そうですね。

4人のコントに通しで出てくる僕のあるキャラクターがいて、黒木さんと僕が「松尾スズキと30分の女優」の総まとめみたいなコントをやるんですけど、そのときにけっこうなボリュームのセリフを言ってもらうんですね。でもそれがまさに立て板に水って感じで、かなり見応えのあるものになっているんじゃないかと思います。また彼女が関西の人なので、関西弁でセリフを書いたんです。あんな“ド関西”なセリフのドラマを、誰も黒木さんに書いてないだろうと思って、それも本当にぜいたくだなと思いながら撮影してました。

──それぞれの役者さんに当て書きした部分もありますか?

そうですね。「吉田羊さんがこういうことを言ったら面白いだろう」「黒木華さんがこんなことを言ったらどうだろう」って、意外性を逆張りで持っていく感じで当て書きしましたね。