WOWOW「劇場の灯を消すな!PARCO劇場編」|劇場の歴史と未来を体感、裏テーマは“三谷幸喜を探せ!”

7月より4カ月にわたってWOWOWライブにて放送中の「劇場の灯を消すな!」シリーズ。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、公演中止・延期を余儀なくされた劇場を応援すべく、各劇場ゆかりの演劇人によるオリジナル企画により劇場を盛り立てていく本シリーズも、今回が最終回となる。10月31日にオンエアされる第4回は、今年リニューアルオープンしたばかりのPARCO劇場を舞台に、三谷幸喜と箭内道彦がタッグを組む。出演者には渡辺謙、藤井隆、中井貴一、天海祐希が名を連ね、ドラマ、ドキュメント、そして朗読劇を展開。ステージナタリーでは、夏に行われた朗読劇の収録模様とショートドラマの内容をレポートする。

取材・文 / 熊井玲

PARCO劇場

PARCO劇場とは?

1973年に西武劇場として開場し、1985年にPARCO劇場に改称。2016年に渋谷PARCOの建替えに伴い休館し、2020年1月に再オープンした。初代PARCO劇場の客席数は458、現在は636。

声で演技の幅広さを見せる、中井貴一×天海祐希の朗読劇

収録は、7月から8月にかけてPARCO劇場で上演された三谷幸喜の新作「大地」の本番の合間をぬって実施された。まずは三谷が演出を手がける朗読劇を上演。井上ひさし「十二人の手紙」より「葬送歌」を、中井貴一と天海祐希の出演で立ち上げる。

「井上ひさし『十二人の手紙』より『葬送歌』」より。左から中井貴一、天海祐希。(撮影:宮川舞子)

「大地」のセットはそのままに、舞台の手前にはシンプルな長椅子、舞台奥の下手にはグランドピアノ、上手には書見台が配置された。グランドピアノに向かったのは、多くの三谷作品で音楽を担当している作曲家の荻野清子。書見台の前には黒子が座した。やがて白とグレーを基調にしたシックな衣装の中井と天海が舞台上に姿を現し、ベンチに腰掛ける。

物語は、中井演じる老母と天海演じる未婚夫人の対話という形で進行する。息子が帰ってくるのを、今か今かと駅のホームで待っている老母。そこへ、未婚夫人の乗った汽車がやってきて……。

「井上ひさし『十二人の手紙』より『葬送歌』」より。左から中井貴一、三谷幸喜(奥)、天海祐希。(撮影:宮川舞子)

中井は母親の厳しさと慎ましさ、たくましさ、包容力を声の中ににじませ、対する天海は聡明で慎ましく、それでいてどこか情熱を秘めた女性像を立ち上げる。荻野のピアノは2人の物語を味わい深く彩り、黒子はリコーダーなどの効果音でシーンに臨場感を与える……と、よく見ればその黒子は三谷幸喜だった!

短いながらもドラマティックな1シーン目が終わり、全員がスッと三谷のほうへ目線を向けると、三谷は指で“OK”のサインを出す。そんな三谷の様子を見た荻野が「あれ、三谷さん泣いてる!」と指摘すると、三谷は慌てて目元をぬぐい、現場には温かな空気が流れた。

2シーン目は衣装をチェンジし、中井と天海は客席に座っての撮影となった。先ほど中井と天海が座っていた舞台上の長椅子には、スタジャンを着た三谷が腰掛け、舞台上から2人を見つめる。2シーン目では、ある男女の手紙のやり取りから、1シーン目の真相が明らかになる。しっとりした1シーン目とは一変し、2人は時に激しく、時に鋭い言葉で思いをぶつけ合う。そんな2人の演技の幅広さと、スリリングなストーリー展開からは最後まで目が離せない。あっという間に2シーン目の収録も終了し、現場はホッとした空気に包まれた。

撮影後、三谷と中井、天海がリラックスした表情で言葉を交わす。中井と天海は「緊張しました」と述べつつ、お互いを称え合った。三谷が「まだお二人は舞台での共演はないんですよね」と話しかけると、天海は「いつかぜひ……」と恐縮した様子で中井に挨拶し、中井も「ぜひ」と笑顔を見せた。

渡辺謙が、PARCO劇場にエスコート

「“on the Road to~”」より。渡辺謙。

続いて、三谷が脚本・監督を手がけ、渡辺謙、藤井隆らが出演するショートドラマ「彼、かく語りき」が収録された。渋谷PARCOビルの前に、真っ白なつなぎ姿の渡辺が登場。渡辺はラフな口調でカメラに向かって語りかけ、劇場がある8階のほうへ、グッと目線を上げる。そのまま渡辺は、劇場の正面から裏手の搬入口へと歩き始めた。歩きながら渡辺は、「劇場まではエレベーターで上がるかエスカレーターで上がるか」「海外の劇場と日本の劇場の違いは?」など、舞台ファンが気になるエピソードを語り続ける。そして搬入口にたどり着くと、劇場スタッフらしきスーツ姿の男性と搬入用エレベーターに乗り込んだ。スーツの男性は「見えない……見えない……」とエレベーターの中をうろうろし始め、渡辺やエレベーターの壁にぶつかりながら、カメラにも映り込んでくる。真っ白にメガネを曇らせたその男性……やっぱり三谷幸喜だ。

やがてエレベーターは8階の劇場に到着。渡辺は三谷をその場に残し、楽屋を通って劇場へと向かう。楽屋では劇場スタッフが本番の準備を行っていたり、机を消毒したりとそれぞれの仕事に当たっている。彼らの横を通り過ぎて舞台上へ上がった渡辺は、舞台から客席を見渡す。そこへ“PARCO”のロゴがプリントされた警備員姿の藤井隆が現れて……。

短い映像の中に、PARCO劇場の歴史を紡いできた三谷と渡辺、そしてオープニング・シリーズの記者会見で司会を務めた藤井と、PARCO劇場にゆかりのある3人が登場し、新生PARCO劇場に花を添える。また映像版バックステージツアーとして見ても面白い内容となっているので、ぜひ見届けてほしい。

それぞれの“劇場の灯”をともし続けて

7月から4カ月にわたり放送されてきた「劇場の灯を消すな!」特集も今回が最終回。緊急事態宣言は5月末に解除されたが、PARCO劇場をはじめ多くの劇場公演が公演を再開させたのは、7月に入ってからだ。またイベントの人数制限が解除された10月現在でさえ、新型コロナウイルスを要因とした公演形態の変更や規模縮小、公演中止・延期は続いている。コロナ以前のような観劇環境にはなかなか戻れない演劇界ではあるが、そんな中でも劇場は観客やアーティストに安心して来場してもらえるようにと、感染予防策を徹底して劇場を開き続けている。

今回の一連の取材で印象的だったのは、そんな劇場スタッフの不断の努力と、アーティストたちの劇場や舞台に対する強い思い、そして彼らの熱すぎる思いをなんとか視聴者に届けたいと奮闘する撮影クルーの熱意だ。

第1弾のシアターコクーン編では、松尾スズキが自らの考えるエンタテインメントを詰め込んだ「アクリル演劇祭」を開催。第2弾のサンシャイン劇場編では、劇団☆新感線が自身の足跡を振り返りつつ演劇愛を見せた。第3弾の本多劇場編では、宮藤官九郎と細川徹を軸に人気劇作家・演出家たちが劇場への思いを語り、第4弾のPARCO劇場編では三谷と箭内が劇場の歴史と未来を感じさせた。すべての回に共通するのは、劇場とクリエイターの間に強い信頼関係があるということで、その信頼のうえで、作品は劇場と共に育まれているのだった。

「劇場の灯を消すな!」、その思いはアーティストたちを強く揺さぶり、短期間でこれほどまでに熱意のこもった番組を4編も作らせてしまうほどの力になった。最近は配信劇も増えており、映像と舞台のハイブリッド化はさらに進んでいくだろうが、その一方で、“劇場だからできること”が再検証される機会にもなっている。劇場で再び、他の観客と同じ時空間を体感できる日が来るのを待ちつつ、舞台を愛する方にはぜひ、自分の中の“劇場の灯”──劇場に対する思い──を絶やさず燃やし続けていてほしい。


2020年10月23日更新