WOWOW「劇場の灯を消すな!本多劇場編」|これぞ下北!笑いと熱と挑戦がたっぷりの収録レポート

7月よりWOWOWライブにて、「劇場の灯を消すな!」シリーズが放送されている。同シリーズは、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、公演中止・延期を余儀なくされた劇場を応援すべく、各劇場ゆかりの演劇人によるオリジナル企画を立ち上げ、劇場を盛り立てていくもの。9月26日にオンエアされる第3回では、“演劇とパンケーキの街”下北沢の本多劇場を舞台に、宮藤官九郎、細川徹ら本多劇場になじみ深い演劇人が集結し、座談会から朗読、講談まで盛りだくさんな内容を展開。ステージナタリーでは、8月末に行われた収録の模様をレポートする。

取材・文 / 熊井玲

本多劇場

本多劇場とは?

本多劇場は1982年11月に下北沢駅前に開場した、総客席386の劇場。本多一夫が代表を務める本多劇場グループ8劇場の中心となる劇場で、小劇場の人気劇団が多数公演を行っている。

平台って意外と重たい!

WOWOWの「劇場の灯を消すな!」シリーズも、はや3作目。第1弾の「Bunkamuraシアターコクーン編 松尾スズキプレゼンツ アクリル演劇祭」ではアクリル製のボックスを使ったショーや芝居が、第2弾の「サンシャイン劇場編 劇団☆新感線40周年!〜勝手に?われら青春のサンシャイン!」ではゆかりのメンバーによるトークが披露された。続く第3弾では、「特ダネ!皆川スポーツ in 演劇とパンケーキの街、下北沢。宮藤官九郎と細川徹責任編集」と題し、皆川スポーツの中学生記者、皆川利美(皆川猿時)が“演劇とパンケーキの街、下北沢”を徹底的にレポートする。収録は2日にわたって行われ、1日目は下北沢の街中で炎天下のロケ、2日目は本多劇場を使った企画が撮影された。本特集ではその2日目の様子をレポートする。

三宅弘城

劇場に入ると、真っ白なレスリングの衣装を着た三宅弘城が、舞台の中央でスタンバイしていた。三宅の隣には、三宅の身長より少し小さいくらいの、大きな平台(編集注:舞台の基本的な備品の1つで、長方形の木製台。さまざまなサイズがある)。三宅は、この平台の、“かっこいい持ち方”を実演する。リハーサル開始の合図で、三宅は右手で平台を持ち上げようとするが、重さのためグラッと体勢を崩してしまう。「意外と重いんだな……」と呟きながら、三宅は一度持ち方を検証し、いよいよ収録本番へ。今度はすっと持ち上がり、そのままゆっくりと90度ずつ回転して見せた。1回目のテイクを終え、宮藤が「持ちながら片脚立ちできる?」「最後にポーズ取れる?」と三宅に尋ねると、2度目のテイクで三宅はそのオーダーにさっと応え、“カッコ良さ”を倍増させる。収録中はピリッと緊張感が走るが、終わった瞬間にふっと笑いが起きる。宮藤と細川が楽しげに撮影を見守る様子に、現場は和やかな空気が流れた。

本多劇場ゆかりの演出家たちが集結、
お互いに「聞いてみたいこと」とは?

続けて行われたのは、本多劇場ゆかりの劇作家・演出家たちによるスペシャル座談会だ。マウスシールドをつけた岩松了、赤堀雅秋、倉持裕、宮藤、細川が続々と劇場に姿を現し、客席に腰を下ろす。トークは、三宅を司会進行役に約1時間にわたって行われた。「赤堀以外の演出家たちの作品に出演経験がある」と自己アピールした三宅は、演出家たちにまず、本多劇場での思い出について尋ねる。5人は初めて本多劇場で観た作品のこと、その頃の自分のことなどを懐かしげに語り、劇場をぐるりと見回した。続けて、「この機会に聞いてみたいこと」をテーマに、各演出家たちから事前に集めていた質問を、それぞれにぶつける。「好きな俳優と苦手な俳優は?」「外部公演と自主公演の違いは?」「五十代になったら何を書くべき?」など人気作家・演出家たちならではの具体的な質問から、「どんな悪夢を見るか?」といった気になる質問まで内容は多岐にわたり、それぞれにうなずいたり爆笑したり、トークは大いに盛り上がった。最後に劇場への思いを問われると、コロナ禍でこれまでとは違うアプローチ、違う状況で公演を行うことの難しさや、劇場に対するラブコールが口々に語られ、演出家たちは名残惜しげに席から立ち上がった。

ペンフレンドの真相は?小泉今日子と皆川猿時の朗読劇

舞台上は粛々と次のシーンの準備へ。舞台中央には小さな椅子とテーブルが置かれ、そこにレトロな雰囲気のワンピースを着た小泉今日子が姿を現した。小泉が挑むのは、井上ひさしの「十二人の手紙」より「ペンフレンド」の朗読だ。友達に北海道旅行を断られたOLの本宮弘子が、雑誌の投稿欄を通じて、北海道を案内してくれるペンフレンドを募集する、という内容となっている。小泉が演じるのは弘子。そして弘子に手紙を寄せる複数のペンフレンド候補を、皆川が何度も衣装替えしなら1人で演じ分ける。新たな出会いに胸を膨らませる弘子を、小泉は弾んだ声と笑顔でキュートに表現。一方の皆川は、誠実そうな青年から感情の起伏が激しい老人までを多彩に演じた。1つのシーンが終わるごとに、宮藤と細川はそれぞれの意見をさっと交わし、目線の向け方、声の弾ませ方など、短い言葉で小泉と皆川に意向を伝える。するとシーンがより立体的に立ち上がり、それぞれのキャラクターの輪郭が濃く、太くなっていった。


2020年10月23日更新