WOWOW「劇場の灯を消すな!Bunkamuraシアターコクーン編」|史上初!「松尾スズキプレゼンツ アクリル演劇祭」収録レポート

WOWOWにて、「劇場の灯を消すな!」シリーズが放送される。同シリーズは、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、公演中止・延期を余儀なくされた劇場を応援すべく、各劇場ゆかりの演劇人によるオリジナル企画を立ち上げ、劇場を盛り立てていく内容だ。

第1回は、3月末以来約3カ月休館中の東京・Bunkamuraシアターコクーン編。芸術監督・松尾スズキにより無観客で開催された「アクリル演劇祭」の模様が、7月5日にオンエアされる。史上初の「アクリル演劇祭」は、いかにして行われたのか。ステージナタリーでは、その収録の様子をレポートする。

取材・文 / 熊井玲

Bunkamura シアターコクーン内観

Bunkamura シアターコクーンとは?

Bunkamura シアターコクーンは、1989年9月に渋谷・道玄坂に開場した総客席数747の中規模劇場。古典から現代劇、ダンス、歌舞伎まで幅広い演目を上演している。芸術監督制を取っており、初代芸術監督を串田和美、その後、蜷川幸雄が長く務め、2020年に松尾スズキが就任した。

史上初、「アクリル演劇祭」とは?

“マツノボクス”の様子。(撮影:宮川舞子)
左から中井美穂、皆川猿時。(撮影:宮川舞子)

6月某日、前代未聞の「アクリル演劇祭」がシアターコクーンで開催された。「アクリル演劇祭」とは、新型コロナウイルス感染症への対策として、出演者が全員、松尾スズキ考案のアクリルボックス“マツノボクス”の中に入ってパフォーマンスを繰り広げる演劇祭。三面がアクリルで囲われたボックスにはキャスターが付いていて、演者は自分でボックスを移動させることができる。また、すべてのプログラムは、同劇場の芸術監督で“唯一の観客”である松尾に向けて演じられる形で展開し、演目も演者も、「さすが“松尾スズキプレゼンツ”!」という充実の内容となっている。収録もたっぷり、2日間にわたって行われた。

初日の収録は、松尾を中心としたオープニングシーンからスタート。開店前のBunkamura入り口で、佐野元春&雪村いづみ「トーキョー・シック」に乗せ、松尾が軽快なステップを披露した。続けて「アクリル演劇祭」MC役の中井美穂と皆川猿時が舞台に登場。皆川は、松尾の芸術監督就任記者会見の名司会っぷりで注目を集めたが(参照:松尾スズキが抱負「色気のある劇場に」、阿部サダヲら歴代ハリコナも駆けつける)、今回もボックスからはみ出さんばかりのパワフルなトークを繰り広げる。その傍らで、中井は落ち着いた様子で粛々と司会を務め、収録はスムーズに進行していった。

芸術監督肝煎りの、夢のプログラム

1日目は、主に“歌コーナー”が収録された。ラインナップされたのは、2014年に上演され、松尾も出演した串田和美演出「もっと泣いてよ、フラッパー」より、松たか子が歌う「スウィング・メモリー」と、松尾×シアターコクーンの名作、ミュージカル「キレイ─神様と待ち合わせした女─」よりテーマ曲を含む数曲だ。

松たか子(撮影:宮川舞子)

串田、蜷川幸雄と歴代芸術監督の作品に出演している松は、コクーンの空間をすっかり掌握した様子で、伸びやかな歌声を響かせる。初演・再演以来15年ぶりの村杉蝉之介と秋山菜津子による「ここにいないあなたが好き」は、「キレイ」を初演から観続けているファンには懐かしくてたまらない顔合わせだ。さらに「ケガレのテーマ」を、2019年版でケガレ・ミソギを演じた生田絵梨花・麻生久美子がデュエットで、2014年版でケガレを演じた多部未華子が、エンディングバージョンをソロで披露。黒のシックなドレスを着た多部は、姿を現すや、1人で舞台上を歩き回る。やがてスタンバイの声がかかると、意を決したようにアクリルボックスに入り、凛とした強い声を響かせた。1回目のテイクを終えて松尾は多部に、「全体的にすごく良かったですね」と声をかけつつ、「歌い終わったら最後に少しほほ笑んで」と言うと、多部は緊張した表情を和らげ、はにかんだ笑顔を見せた。

左から麻生久美子、生田絵梨花。(撮影:宮川舞子)

生田と麻生は、真っ白なドレス姿で談笑しながら登場。そのまま笑顔でボックスに入り、スタンバイに就く。が、曲が始まるとガラリと表情を変え、「キレイ」の世界観に入り込んだ。歌声は完璧──だったが、画面で収録を確認していたカメラマンから「アクリルの中で静電気が起きているのでは?」と指摘があり、急きょボックス内の静電気を除去する処置が行われた。「アクリル演劇祭」ならではのハプニングにも、生田と麻生は終始和やかな様子で撮影再開を待ち、再び収録が始まるとさらに力強い歌声を響かせて、2019年版「キレイ」を一瞬にしてよみがえらせた。

歴代ハリコナがそろい踏み

左から小池徹平、神木隆之介、阿部サダヲ。(撮影:宮川舞子)

もう1つ、「アクリル演劇祭」だからこそ実現したスペシャルな顔合わせがある。阿部サダヲ(2000年・2005年版)、小池徹平(2014年版は少年期、2019年版は青年期)、神木隆之介(2019年版少年期)と歴代のハリコナがそろって「俺よりバカがいた」を歌唱する企画だ。「わー!」と声を上げながらにぎにぎしく舞台に現れた3人は、アクリルボックスにも興味津々で、すぐに声の響きを確かめたり、見え方を確認したり、客席の松尾に話しかけたりと場を沸かせる。そのテンションの高さのままリハーサルに突入し、張りのある声に振りも付けながら、3人はアクリルボックスが揺れるほどのノリの良さを見せた。その様子を客席でリズムを取りながら見ていた松尾は、リハーサルが終わるとサッと舞台上に上がり、一部手拍子を入れてみようと提案。手拍子でさらに3人の一体感が増し、「俺よりバカがいた」の収録は大盛り上がりで終了した。


2020年10月23日更新