WOWOW「宮藤官九郎ウーマンリブシリーズ3カ月連続大特集」Vol.1|全仕事ベスト10に入る作品が生まれた!? 宮藤官九郎が「七人の恋人」「七人は僕の恋人」「七年ぶりの恋人」を振り返る

宮藤官九郎が“その時々で最もやりたいことをやる場所”として、不定期に、かつ全力で公演を行うユニット・ウーマンリブの9作品が、WOWOWにて6月から8月にかけて放送される。ステージナタリーでは、この放送に合わせて毎月3作品ずつピックアップし、各作品の見どころを紹介する。

本特集で取り上げるのは、6月30日にオンエアされる「七人の恋人」「七人は僕の恋人」「七年ぶりの恋人」の3本。至極のオムニバスコント集「七人の恋人」シリーズはどのように立ち上がったのか、宮藤に話を聞いた。

4・5月に上演が予定されていた「もうがまんできない」は新型コロナウイルス感染症の影響により残念ながら中止となってしまったが、ぜひこの機会にウーマンリブの作品を堪能してほしい。

構成 / 興野汐里

全仕事ベスト10に入る作品が生まれた!?
宮藤官九郎、「七人の恋人」シリーズ3作品を振り返る

──シリーズの原点となった2005年上演の「七人の恋人」は、どのようなアイデアから生まれた作品だったのでしょう?

ウーマンリブvol.9「七人の恋人」ビジュアル

グループ魂がバンドとして認識され始めたのと同時に、テレビでのコント作家の仕事が途絶えてしまったため、自分の中の“コントやりたい欲”が爆発したんだと思います。あと、将来的にはシティボーイズさんのように「ジジイになってもコントやりたい」という大きな野望があるのですが、それを叶えるためには、三十代半ばから継続的にコントをやらなくちゃいけないと、わりと真面目に考えました。

思い入れのあるコントは、冒頭の、尾美(としのり)さん、田辺(誠一)さんによる「FIRST・KISS」ですね。ツカミの速さには常々こだわっていますが、これは照明が点いた瞬間に笑いが欲しかった。うん。毎日こればっかり稽古してたような気がします。いや「ほとんど×三宅マン」も、稽古しすぎて三宅さんがほとんど見失ってた。あと、阿部(サダヲ)くんがウンコに刺さってるヤツ。珍しくビジュアルから発想したので。

──2008年に上演された「七人は僕の恋人」には伊勢志摩さんをはじめとする7名の女優さんが参加しています。このことによって、どのような化学反応がありましたか?

ウーマンリブvol.11「七人は僕の恋人」より。

「男7人でやれたから、今度は女7人で!」という思い付きですが、それだと俺が出られない。俺が出ないウーマンリブはイヤだ。ということで、(池田)成志さん、荒川(良々)くん、星野(源)くん、少路(勇介)にも出てもらいました。女優さんとコミュニケーションを取るのが苦手なのですが、遠山(景織子)さん、峯村(リエ)さん含め、7人とも自分で何とかする能力に長けているので、ゲラゲラ笑ってた記憶しかないです。この公演は、何と言っても「パチンコ伊勢志摩」ですね。代表作と言ってもいい。俺が生涯で手がけた全仕事のベスト10にも入ると思います。「いだてん」や「あまちゃん」と並びでプロフィールにも入れたいぐらい。伊勢さんのプロフィールにも入ってないので自粛してますが。笑いの瞬間最大風速という意味で、「パチンコ伊勢志摩」を越えるのが、今の目標です。あと、星野くんが、たくさんのいい曲を、惜しみなく書いてくれたなと、改めて思います。

──80年代歌謡曲をテーマにした2015年の「七年ぶりの恋人」では、細野晴臣さんが主題歌を手がけるなど、特に音楽にこだわった作り方をされました。

この公演は80年代のアイドル文化が主題としてありました。となると、細野さんしかいない。中森明菜「禁句」、松田聖子「天国のキッス」だけでなく、スターボー「ハートブレイク太陽族」まで手がけている安心感。実際、細野さんのディレクションで歌う池津(祥子)さん、伊勢さんは、往年のアイドル歌手のようでした。

ウーマンリブvol.13「七年ぶりの恋人」ビジュアル

この公演でお気に入りなのも、やっぱり「パチンコ伊勢志摩」。伊勢市のゆるキャラいせっしーを演じたのは至福の瞬間でした。お客さんに褒められたのは、ホームパーティのコントですね。劇団員だけで、いい歳して馬鹿馬鹿しいことを全力でやれたのが、今となっては貴重だったなあと、懐かしく感じます。ウーマンリブ初参加の村杉(蝉之介)さんが稽古場で、セリフも覚えずニヤニヤしてて「どうしたの?」と訊いたら「だって、みんな面白いんだもん」と甘ったるい声を出したときは殺意が芽生えましたが、それ以外は楽しくやれました。

宮藤官九郎(クドウカンクロウ)
1970年生まれ。1991年より大人計画に参加し、脚本家・監督・俳優として活動している。1995年に結成したパンクコントバンド・グループ魂ではギタリストを務め、作詞・作曲も担当。第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第53回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第49回岸田國士戯曲賞、第29回向田邦子賞、東京ドラマアウォード2013脚本賞、第67回芸術選奨文部科学大臣賞など多数の賞を受賞。2019年に放送されたNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」では脚本を手がけた。10月にはねずみの三銃士「獣道一直線!!!」の公演を控えている。
※初出時、プロフィールに誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

2020年8月21日更新