ブロードウェイの再開&再会を祝す!井上芳雄と宮澤エマがナビゲート、WOWOW「生中継!第74回トニー賞授賞式」Mr.Musicalこと海宝直人のコメントも!

井上芳雄

WOWOWのトニー賞授賞式番組といえば井上芳雄。2014年以来、欠かさずWOWOWの生中継に出演している彼に、今年のトニー賞に対する思いを聞いた。

憧れから、共に守り、盛り上げていく仲間へ

井上芳雄

──2019-2020シーズンのトニー賞が1年以上のタイムラグを経て発表されます。空白の期間を振り返り、日本の演劇界にとって改めて、トニー賞とはどのような存在であると感じましたか?

僕はブロードウェイの、エネルギッシュでいろいろな人がいて、常に新しい才能が生まれるという事実にものすごくエネルギーをもらってきたんですよね。多くの演劇人やお客さんがブロードウェイで舞台を観て、「すごいなー」と言って日本に帰って来て、日本でがんばる、ということを繰り返してきた。そんな存在だったので、ブロードウェイが閉鎖されたことはショッキングでしたし、でも同時に潔さも感じました。「自分たちは、今は閉じるけど絶対に復活するんだ」という気持ちが感じられたので。今までは憧れたり、エネルギーをもらったりする対象でしたが、みんなが大変な思いをした今は、一緒にエンタテインメントを守り、盛り上げていく仲間のように思っています。「プロデューサーズ」に出演したときに、「今や世界で(この作品を)やっているのは日本だけなんだ」とか「日本でやってくれてうれしい」と、現地の方々が言ってくださったので、お互い遠い世界にいるのではなく、一緒になんとか復活しようとしている仲間なんだなと。

──俳優として、舞台ファンとして、トニー賞やトニー賞授賞式に何を求めていますか?

今までトニー賞は、どんな作品が生まれるんだろうとか、ミュージカルや演劇界のトレンド、テーマがどれだけ進んでいるのかを知る場でした。ブロードウェイはミュージカルの本場でもあるし、舞台の先進国でもあるので、そういう意味合いだったと思うんですが、今年はこれからどうやって進んでいくのだろうというところに興味を持っていますね。もしかしたらコロナ禍での舞台上演では、早く復活したこちらのノウハウをお届けできるかもしれない。また逆に、ニューヨークではワクチンを打ってQRコードがないと劇場に入れないなど、システムが構築されているので、そういう点でも、学べるものは学びたいです。

──今回のノミネートで注目されていることを教えてください。

井上芳雄

ミュージカル「ムーラン・ルージュ」は観たんですが、まあすごいですよ(笑)。そのお金のかけ方と規模たるや。原作の映画はヒット作ですし、劇中の楽曲は既存のもので良いナンバーばかり。“間違いない”と太鼓判を押せるような、ミュージカルのメジャーな良さを詰め込んだ作品です。また、注目ポイントは、ミュージカル部門の主演男優賞候補が「ムーラン・ルージュ」のアーロン・トヴェイトさんしかいないということですね。普通ではこんなこと、あまりない。もう決まったじゃない!と思ってしまいますが、彼が獲るとは限らないんですよね。どうなるのかわからないというのも含め、今年ならではだなあと注目しています。

──WOWOWの生中継に長く出演されていますが、もし日本でトニー賞のようなショーアップされた授賞式が行われて、そのホストに抜擢されたら、どんなことをしたいですか?

ホストとしてうまく仕切りたいんですけど、自分も真っただ中にいる俳優ですから、やるんだったら、真っただ中にいるからこそのMCができたらいいなと。基本的にセレモニーや生放送って時間との闘いなので、時間内に決められた情報を伝えることは大前提。でも、僕がやるのであれば、自分なりのコメントを一言でも多く挟みまくるホストになりたいですね(笑)。それでいて時間内に綺麗に終わらせることを目指します。

井上芳雄(イノウエヨシオ)
1979年、福岡県出身。2000年にミュージカル「エリザベート」の皇太子ルドルフ役でデビュー。以後、さまざまな舞台で活躍し、多数の演劇賞に輝く。近作にこまつ座「日本人のへそ」、「首切り王子と愚かな女」など。また、歌手活動やテレビドラマ、バラエティ番組への出演のほか、著書も多数出版するなど多彩に活動。出演番組に、WOWOW「オリジナルミュージカルコメディ 福田雄一×井上芳雄『グリーン&ブラックス』」、ナレーションを担当するBS-TBS「美しい日本に出会う旅」。パーソナリティを務めるTBSラジオ「井上芳雄 by MYSELF」など。NHK総合「はやウタ」ではレギュラー司会を務める。9月から11月にかけてミュージカル「ナイツ・テイル─騎士物語─」、10月に望海風斗 CONCERT「SPERO」、2022年1月にミュージカル「リトルプリンス」への出演が控える。

宮澤エマ

井上芳雄と共に「生中継!第74回トニー賞授賞式」のナビゲーターを務める宮澤エマ。彼女が語る、俳優にとってのトニー賞の意味とは。

評価する場の大切さとハイライトされる“演劇の価値”

宮澤エマ

小さい頃からブロードウェイにはよく舞台を観に行っていましたが、トニー賞を意識して作品を観るようになったのは、自分が舞台に立ち始めてからです。観るときに、ノミネートされた作品はどれで、その中から賞を獲ったのはこれで……と分析するようになったのは5・6年くらい前からですね。

でも、そうやってこちらの観る目が変わると、ブロードウェイのスターたちがトニー賞は「自分たちのためのものだ」と言うのがよくわかります。トニー賞は、その1年のすばらしい作品やパフォーマンスを讃えるもの。と同時に、結果によっては俳優やクリエイターの翌年の仕事に影響を及ぼす。特にブロードウェイは観光地なので、“受賞した・しない”は興行にも響いてきます。そういった最高峰の場所で競い合っている姿を目にすることは、私個人としてもインスピレーションを受けるし、モチベーションにもなるんです。エンターテイナーも1人の人間なので、メンタルやフィジカルの面でいろいろと闘いながら毎日舞台に立っている。舞台経験のある人間ならその厳しさはよくわかります。だからこそ、それをちゃんと評価する場があるというのは、俳優にはすごく大切なんです。もちろん照明や衣装などのスタッフにも。

この1年はブロードウェイの俳優にとって、仕事がない期間でした。有名俳優がオンラインで芝居を教えるとか、びっくりするようなことが起きていて。ステージがあってナンボの人たちに仕事がなかったというところからのトニー賞には、それでも業界を正常に前に進めるためのシステムを守っていこう、こんな状況でも良いものは讃えようという姿勢が見えます。また、今年は特別に3部門が加わって、黒人への人種差別や社会問題に意識を持っているかという点も取り入れようとしている。商業的には大赤字の1年でしたが、政治にはできない、エンタメを通して人を動かす力や社会への問題提起といった“演劇の価値”がハイライトされるのではないかなと期待しています。プレイ部門では“問題作”と言われる作品がノミネートしていますし、視聴者の皆さんもちょっとマニアックな視点を持つとトニー賞の見方が変わるのではないかなと。

エンタメの最高峰、あの街に再び華やぎを

今回、一緒に番組に出演してくれる(海宝)直人は、本当にミュージカルが好きで、音楽オタク(笑)。昔、友人たちが誕生日会を開いてくれたときにいろいろなパフォーマンスの動画を観ながら、「これはうまい」「ここが良い!」と彼と話した記憶があります。また、直人にはブロードウェイの舞台に立つ俳優に似たような才能と、見えない鍛錬を感じます。今年のトニー賞について、2人で「どうなるんだろうね!?」と話しているような状態ですが、共演者として心強いです。

宮澤エマ

マンハッタンって熱量がすごくて、みんな「誰よりも自分が忙しい」という顔をして歩いているんですよ(笑)。人々が“目指して”やって来るような街で、「エンタメの最高峰はここだ」と自負して舞台に立っていた人たちの場所が消えたということは、あの街から華やぎを奪ってしまったということ。今年のトニー賞は、通常に戻っていくことの象徴になると思います。日本にもオリジナルミュージカルはたくさんありますが、翻訳もののミュージカルにも伝統・歴史があるので、やっぱりブロードウェイに華やいでもらわないと!と思いますね。

宮澤エマ(ミヤザワエマ)
東京都出身。女優倶楽部では部長を務める。2013年、「メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは前へ進む~」に出演以降、ミュージカルを中心に舞台で活躍。近作にミュージカル「PIPPIN」、Amazon Originalドラマ「誰かが、見ている」、「女の一生」、NHK連続テレビ小説「おちょやん」、ミュージカル「ウェイトレス」、舞台「日本の歴史」再演など。女優倶楽部 オーディオドラマ「食べちゃいたい」が配信中。2022年には大河ドラマ「鎌倉殿の13人」への出演が控える。

海宝直人

海宝直人は宮澤エマと共に、生中継をサポート。9月26日にスタートするミュージカルファン向けコミュニティ「WOWOWミュージカルラウンジ」の顔となる彼が、今年のトニー賞候補作に、ジュークボックスミュージカルの可能性を見た。

アプローチの異なる作品が三つどもえ

海宝直人

ブロードウェイの特徴は、エンタテインメント性が求められる場所であるということ。僕が出演したミュージカル「アリージャンス~忠誠~」は地方でのトライアウトを経て、2015年にブロードウェイに上がった作品ですが、第二次世界大戦中に強制収容所に入れられた日系人の家族の物語で、もともと人種問題や差別についての歌詞が多かったそうなんです。でも、オン(ブロードウェイ)で上演されるときに家族愛などの普遍的な要素を増やすことで、エンタメとしてより多くの人が楽しめる作品へとブラッシュアップされました。そういったブロードウェイのエンタメ性と社会性のシビアな共存に、作品の緻密さ、バランス感覚の良さが求められるレベルの高さを感じます。

そんなブロードウェイで今回、ミュージカル部門にノミネートされた3作品も非常に面白いんです。3作品とも同じジュークボックスミュージカルですが、アプローチがそれぞれまったく異なる。例えば「ジャグド・リトル・ピル」は、「レント」や「ネクスト・トゥ・ノーマル」の系譜で、時代を反映し、社会問題を鋭く作品化する空気感があるように思います。一方、「ムーラン・ルージュ」は、いろいろなアーティストの楽曲を用いた名曲ぞろい。また、劇場を作品世界に沿ってきらびやかに改造し、見応えと聴き応えのある作品に仕上げていました。「ティナ / ティナ・ターナー・ミュージカル」は“ティナ力”というか(笑)、主演のエイドリアン・ウォーレンさんのカリスマ性が、映像を観ただけでも伝わってきます。同じジュークボックスミュージカルでここまでテイストの違う作品が生まれると、ジュークボックスミュージカルの可能性はまだまだあるんだ!とうれしくなりますね。

ジュークボックスミュージカルの面白さを感じると共に、オリジナルのミュージカルを作る魅力も大きくあると僕は思っていて。「イリュージョニスト」に出演したときに、海外のクリエイターである演出家と作曲家、脚本家の3者が話をしながら、音楽を演劇として書き上げていく様子を目の当たりにしました。そうやって作られるミュージカルがある一方で、今年はノミネート作品がジュークボックスミュージカルであったということに、時代を象徴するものを感じます。

コロナ禍で世界がぎゅっと狭まった

海宝直人

このコロナ禍で、日本では例えばビデオ通話で海外から演出を付けてもらったりして、離れた場所で時差もあるけれど、世界がぎゅっと狭まった感じがあると、僕は思うんです。コロナによって生まれた状況には、海外のクリエイターと作品を作っていく流れを後押ししてくれる一面もあるかもしれないなと。この秋からブロードウェイが再開し、演劇界がボーダーレスになっていったら面白いですよね。

今年のトニー賞は、今までとは違うような授賞式になると聞いています。僕自身、どんなパフォーマンスがあるんだろうと楽しみにしていますし、一方でこれまでと変わらず(井上)芳雄さん、(宮澤)エマさんと、トニー賞をより身近にわかりやすく、楽しくお届けする番組になるんだろうなと。今年はブロードウェイが再始動する“お祭り”ですから、ぜひ気楽に、楽しんで参加していただけたらと思います。

海宝直人(カイホウナオト)
1988年、千葉県出身。7歳のときに劇団四季のミュージカル「美女と野獣」チップ役で舞台デビュー。その後、劇団四季「ライオンキング」の初代ヤングシンバ役を務めた。主な出演ミュージカルに「レ・ミゼラブル」「ジャージー・ボーイズ」「アナスタシア」、劇団四季「アラジン」「ライオンキング」「ノートルダムの鐘」など。またロックバンド・シアノタイプではボーカルを担当。ミュージカル「アリージャンス~忠誠~」のサミー役で第46回菊田一夫演劇賞を受賞。現在、ミュージカル「王家の紋章」に出演中。10月には望海風斗 CONCERT「SPERO」にゲスト出演。2022年1・2月にSCOTT SCHWARTZ & J.SCOTT LAPP演出のミュージカル「MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー」、7・8月には日本初演30周年記念となるミュージカル「ミス・サイゴン」への出演が控える。

2022年4月1日更新