ブロードウェイの“今”をナビゲート!WOWOW「生中継!第77回トニー賞授賞式」井上芳雄 / 宮澤エマ (2/3)

宮澤エマ インタビュー

番組ナビゲーターを務めるのは4度目となる宮澤エマ。井上芳雄と共に堂に入った司会進行姿を見せている彼女が改めて感じる、トニー賞授賞式の魅力とは。

宮澤エマ

宮澤エマ

番組ナビゲーター就任以来、異例続きのトニー賞。今年はぜひこれまでの鬱憤を晴らす授賞式を

──宮澤さんは今年のトニー賞授賞式にどのような期待がありますか?

昨年は、司会のアリアナ・デボーズさんを筆頭にアドリブを織り交ぜ、舞台人ならではの舞台度胸や、お互いをサポートする温かみが画面越しに伝わる授賞式でした。登壇した方々が自分の言葉でスピーチをすることで、ショーアップされた授賞式から原点に立ち返り、1年の中で素晴らしいパフォーマンスを見せた作品やアーティストを賞賛する場所なんだということを実感させてくれる、とても楽しいトニー賞授賞式だったと思います。私は今年で4度目のナビゲーターを務めさせていただきますが、初めて携わった年がちょうどコロナ禍で、そこからは異例続きの授賞式だったんです。今年はブロードウェイもほぼ通常運転に戻り、この1・2年に比べると新作が豊富でとても活気があり、授賞式にはスクリプトもある。この4年の私の鬱憤を晴らすとまで言って良いのかわかりませんが(笑)、授賞式ではまた楽しいオープニングナンバーを聴けるのではないかと、楽しみにしています。

──今年のノミネーションの中で、宮澤さんが特に気になっている作品を教えてください。

今年のブロードウェイには、来年日本でも上演される「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など、開幕前から期待値が高かったり、完成度が高いのではとうわさされたりする作品が多く、「これぞブロードウェイのあるべき姿!」とワクワクしていました。中でも気になるのは、ミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング」。私は2013年に日本版でデビューしているんですが、スティーヴン・ソンドハイムが手がけた本作は、“玄人好み”といわれるような難しい作品で、当時は映画化されているものも少なく、出演が決まったときにロンドンに観に行ったんです。劇中の音楽を聴くだけでいろいろなことが思い返されて、とても客観的には観られない作品の1つではあるのですが(笑)、当時観たマリア・フリードマンさんの演出版が、2023 / 2024シーズンに満を持してブロードウェイで上演されました。主演のジョナサン・グロフさん、共演のリンジー・メンデスさん、ダニエル・ラドクリフさんが、まさに私が思い描いていた“神キャスティング”なんです! 3人がどういうお芝居をされるのかにも興味があるのですが、ノミネートされているリバイバル作品賞はもちろん、ぜひリンジーさんに助演女優賞を獲ってほしいなと期待しています。

宮澤エマ

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宮澤エマはトニー賞をきっかけに“沼らせたい”

──ナビゲーターとして井上芳雄さんとご一緒されるのは今年で4年目となります。おなじみの顔ぶれとなりつつありますが、進行役を共にする手応えはいかがですか?

芳雄さんとはいまだ舞台共演がなく、ライブや芳雄さんの番組で歌わせていただく程度で、お会いした回数も両手で数えられるくらいなのですが、もう何本も舞台をご一緒したかのようにホッとする安心感があります。舞台について私が右も左もわからない頃から、芳雄さんが日本を代表するミュージカルスターだということは知っていたので、最初は緊張しました。でも番組の中で「この人は、ツッコんでほしくてボケているのかな?」という雰囲気をひしひしと感じて(笑)。それくらい面白い方で、お人柄の良さと品の良さがにじみ出ているんです。とはいえ先輩ですし、超えてはいけないラインは考えています……最近ではその境界線が見えなくなってきたかもしれませんが。海外の生放送番組を日本で生中継する進行にはやはり難しい部分もあって、毎年緊張しますが、芳雄さんとなら心配ないと思える。お互いがやるべきことをやるという信頼関係をこの4年で築くことができたのではないかなと感じています。それに、授賞式当日はものすごく臨場感があって、それを時差なくお伝えできるのもこの番組ならではなんです。4年目を迎え、芳雄さんの隣でナビゲーターとしてドンと構えられるようになってきたという実感もあり、橋渡しとしての在り方が、少し見えてきたのかなと思っています。

──今回はスペシャル・サポーターとして京本大我さんが参加され、番組に新たな風が吹きそうですね。

そうなんです。京本さんとは舞台共演もなく、映像やほかの現場でもお会いしたことがないので、初対面となるのですが、彼もミュージカル界のニュープリンス。貴公子然とした佇まいや品性が歌声に出ていらっしゃる方だなという印象があります。一方で、ミュージカル「ニュージーズ」のようなダンスシーンがたくさんある作品にも出演されていて、アイドル時代から培ってきたスキルを惜しみなく生かされています。京本さんがブロードウェイの作品をご覧になってどう感じるのか、フレッシュな視点はもちろん、ファンの皆様も聞いたことがないような、普段の京本さんのミュージカルや舞台に対する思いを皆でお話しできたら素敵だなと思っています。芳雄さんも私もあまり踊らないタイプなので、ぜひダンスの側面からご意見をいただけたら良いですよね。京本さんのファンの方で、ミュージカルは好きだけどトニー賞授賞式は観たことがないという方もいらっしゃると思うんです。そういった方々をこちらの沼に引きずり込めたら……(笑)。

──宮澤さんにも“沼らせたい”という願望があるんですか?

私がブロードウェイの沼に皆さんを引きずり込んでも、この番組を観ていただくということ以外に、特に得るものはないかもしれませんが(笑)、舞台界って底なし沼だと思うんです。1人の俳優さんを追う沼も楽しいですが、そこから派生して、演出家、脚本家、作曲家へというような広がり方ができると、楽しみも増えるはず。チケット代はかかりますが、舞台演劇は生活を豊かにするだけではなく、知見を広げ、知識を深めるという楽しみがあると思います。昨今日本で多く上演されている韓国ミュージカルを含め、ブロードウェイ、ウエストエンドでどのような人たちがどのような思いで作品を作り、何をメッセージとして残したかったのかということ知ると、「楽しかった!」以上に、得るものがある。舞台は、人間や今というものがより透けて見える芸術で、その沼に皆で漬かれるのは良いですよね。

宮澤エマ

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トニー賞は“派生して感じ、考えるもの”が詰まったアワード

──映像と舞台、ジャンルを越えて活動する宮澤さんにとって、年に1度のトニー賞授賞式に携わることはどのような意味がありますか?

俳優として活動していると、「好きなことを毎日やれて良いね」と言われることがあります。厳しい世界でこうしてお仕事をいただけるのはもちろん幸せなことですが、人間ですから、「今日は歌いたくないな」と思いながら舞台に立つ日もあるんです。同じようなつらさを知っている人たちが心を込めたパフォーマンスやスピーチをしているのを観ると、この仕事の根底にある情熱や好きという気持ちが再燃して、私の琴線に触れるんです。素晴らしいパフォーマンスを観ればインスピレーションを受けますし、「上には上がいる」と言うと悲しいことのように聞こえますが、そんなことはなく、自分にだって可能性は広がっている。そう感じると、仕事に追われて自分で自分を押し込めていた部分がちょっと解放されて活力をもらえるような感覚があります。日本の舞台ファンの方にしても、観に行ったミュージカルが好みではなかったという経験があると思います。それくらい、舞台界のジャンルは多岐にわたっていて。でも、種々雑多な舞台界で新たな扉を開いてくれるのが、トニー賞授賞式かもしれない。昨年は、ジェンダーやボーダレスの概念に真正面から向き合ったノミネーション、受賞結果でした。昨年と今年では世界情勢も違い、政治的背景を含めて、今を反映している部分がたくさんあります。社会の動きに興味がない人でも、また、受賞作品をたとえ一生観ることがなかったとしても、作品関係者の魂がこもったスピーチやパフォーマンスに、きっと引っかかる何かがあるはず。トニー賞はほかの賞とは比べものにならないくらい、派生して感じ、考えるものが詰まったアワードだと私は信じています。アメリカで行われる授賞式を自分ごとに感じるのは難しいかもしれませんが、私たちスタジオにいる人間が、少しでもその橋渡しとなって、番組を「見応えがあった!」と思ってもらえたら最高ですね。

プロフィール

宮澤エマ(ミヤザワエマ)

東京都出身。2013年、「メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは前へ進む~」に出演以降、舞台を中心に活躍。近作では、舞台「ラビット・ホール」で初主演を務め、第31回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。第49回菊田一夫演劇賞では「ラビット・ホール」のベッカ役、「オデッサ」の警部役の演技にて菊田一夫演劇賞を受賞。また、NHK連続テレビ小説「おちょやん」、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」への出演をきっかけに、映像作品への出演も続いている。7月8日スタートのKTV / CX「マウンテンドクター」への出演が決まっている。