WOWOW「大人計画 怒涛の7カ月大特集」Vol.2|いよいよ後半戦突入!松尾スズキが振り返る2000年代以降の大人計画&宮藤官九郎が語る「ドブの輝き」

「大人計画 怒涛の7カ月大特集」の放送がWOWOWで9月にスタートし、これまでに12作品がオンエアされた。1月以降のラインナップには、2001年の「マシーン日記」から2017年の「業音」まで、近年の大人計画作品がズラリと並んでいる。本特集では、「大人計画 怒涛の7カ月大特集」後半戦の放送作品から8作品をご紹介。オンエアを通じて、「演劇は自由だと思い出してほしい」と語る松尾スズキのインタビューに加え、「ドブの輝き」の放送に寄せた宮藤官九郎のコメントも掲載している。

取材・文 / 熊井玲

松尾スズキインタビュー

“演劇は自由だと思い出してほしい”
主宰が振り返る、2000年代以降の大人計画

「大人計画 怒涛の7カ月大特集」後半戦に突入!

──9月より、WOWOW「大人計画 怒涛の7カ月大特集」の放送がスタートし、11月までで12作品が放送されました。放送をご覧になった方から松尾さんに、感想が届いていたりしますか?

「若い!」って、ひたすらそういう反応ですね(笑)。まあコアな演劇ファンじゃなければ、どの俳優も“知られるようになった頃には中年”になってますから、今回の放送で僕らにもこういう頃があったんだって感じてもらえたのは、一番大きいかもしれないです。

──番組と併せて、10月には「女教師は二度抱かれた」「キレイ─神様と待ち合わせした女─」などシアターコクーンで上演された過去作の上映会「COCOON Movie!! 芸術監督名作選」が開催されたり、新作ミュージカル「フリムンシスターズ」が上演されたりと、松尾作品の変遷をたどりつつ、同時にクリエーションに対する松尾さんの一貫した目線を感じることができ、松尾ワールドにどっぷりハマり続けている感じがします。

自分にとっても、最新作をやっている最中に過去の作品が観られるのは、不思議な感じがしましたね。

「マシーン日記」最新版に向け、映像を見直した

──「大人計画 怒涛の7カ月大特集」もいよいよ後半戦ですが、1月から3月までは、2001年から2017年に上演された8作品が並びました。2000年初演の「キレイ─神様と待ち合わせした女─」で人気を不動のものにした松尾さん、そして大人計画の面々が、さらに活動の場を広げていった時期です。1月に放送される「マシーン日記」は、初演が1996年。今回放送されるのは2001年に上演されたバージョンで宝生舞さん、阿部サダヲさん、片桐はいりさん、そして松尾さんがご出演されました。また「マシーン日記」はその後、2013年に鈴木杏さん、少路勇介さん、オクイシュージさん、峯村リエさんの顔合わせで上演され、来年1月は大根仁さんの演出、横山裕さん、大倉孝二さん、森川葵さん、秋山菜津子さんの出演でも上演されます。

「マシーン日記」(2001年版)より。

1月の公演の準備で、「マシーン日記」を最近見返したんですよ。そうしたら初演に比べて再演は、アドリブで作っていったからか非常に笑いが強いんだけど、2013年版は笑いからちょっと離れていたなって。という発見があったので、過去の映像を見直せて良かったです(笑)。1月の「マシーン日記」はより笑えるように台本を書き直しています。

──大根さんは2003年に「演技者。」(編集注:2002年から2004年にフジテレビで放送されていたテレビドラマ。気鋭の作家・劇作家の作品が多数取り上げられた)で「マシーン日記」の演出を手がけています。松尾さんは当時、ご覧になりましたか?

もちろん観ています。自分はメディアを越境するタイプの表現者ですけど、大根くんも映像の人でありながらミュージカルをやったりと、いろいろな挑戦をしている表現者。メディアを超えて作品に関わっていただく方として、最適だなと思いました。

──台本にはかなり手を入れたのでしょうか?

そうですね。初演で片桐はいりさんが演じた役を今回は秋山菜津子さんが演じるので、その変化はすごく大きいなと思っていて。また人それぞれに合ったギャグがあると思うので、そういった調整をしています。

──秋山さんは「フリムンシスターズ」でも、絶妙な“キレ具合”を見せていましたね。

そうですね(笑)。秋山さんに「フリムンシスターズ」で演じてもらった役は、僕の監督・脚本・主演映画「108〜海馬五郎の復讐と冒険〜」で演じてもらった役を踏襲した人物だったんです。だから、秋山さんの中である程度役作りができていたというか、スムーズに演じてくれていたと思います。

──そんな秋山さんを思い浮かべつつ、片桐さんバージョンの「マシーン日記」を見返すと、大根演出版への期待がさらに高まりそうです。

「マシーン日記」ははいりさんの強烈な個性に当てて書いた部分が大きい作品ですが、タイプの異なる秋山さんが演じることで、ある意味マンガチックだった部分がだいぶ削れていくのでは、と思います。

“無敵感”があった「まとまったお金の唄」

──2006年に上演された「まとまったお金の唄」は、大阪が舞台……ということでよろしいんでしょうか?

そうですね、「オオチャカ」って言ってますけど(笑)。

──そうでした(笑)。客演の方もいらっしゃいましたが、劇団員の方たちが大活躍した作品でしたね。お金に振り回される母娘三代を軸にしたシニカルなストーリーですが、非常に笑いが強かった印象があります。

あの頃は、俺も阿部(サダヲ)も宮藤(官九郎)も荒川(良々)も、何でもやってやれ、みたいな“無敵感”があったと思いますね。荒川や阿部が出てきただけで笑いが起きるような、劇団として一番脂が乗ってた時期だと思います。ゲストは市川実和子さんと菅原永二さん、そしてあの頃美少年だった(笑)内田滋さん。市川さんはその前に映画「イン・ザ・プール」で共演していて、おかしいんだけど哀愁がある、ファニーな感じがすごく気になっていました。

──「まとまったお金の唄」には、お金がなくて大阪万博に行けない家族が描かれます。もともと松尾さんがお持ちだった、太陽の塔のレプリカが創作のきっかけになったそうですね。その後、2011年には松尾さんがテレビドラマ「TAROの塔」で岡本太郎役を演じられていて、不思議な縁を感じました。

「まとまったお金の唄」より。

まさか岡本太郎を演じることになろうとは思いませんでしたが(笑)。太陽の塔は、日本人として一度実物を見ておかなきゃならんという思いがあって、それで実際に大阪へ見に行ったんですよね。で、やっぱりすごいなって。圧倒的な存在感がありますし、僕が行ったときは今ほど太陽の塔がブームではなかったですけど、それでも「大阪万博のときにはここが晴れの舞台になったんだろうな」という想像が容易にできるというか。そのとき撮りまくった写真が、劇中で使われています。

──あ、あの写真は松尾さんがお撮りになったものなんですね。

そうです、デジカメで(笑)。僕も大阪万博のことはリアルタイムで知ってはいますけど、家が貧乏で行けなかった。「行ってる子もいるのに、なんで自分は行けないんだろう」って、そこにある種の不条理感を掻き立てられたんですよね。