中村誠治郎×根本正勝が“絶大なる存在感”で魅せる「『ワールドトリガー the Stage』大規模侵攻編」

葦原大介のSFアクションマンガ「ワールドトリガー」(集英社)を原作とした「『ワールドトリガー the Stage』大規模侵攻編」が8月に上演される。「ワールドトリガー the Stage」(以下ワーステ)の第2弾となる本作では、原作の人気エピソード、近界ネイバーフッド最大級の軍事国家・アフトクラトルによる「大規模侵攻編」が描かれる。

アフトクラトルの遠征部隊隊長・ハイレイン役を演じるのは中村誠治郎。老練なる剣の達人・ヴィザ役に根本正勝が扮する。10数年来の友人であり、アーティストユニット・Ashとして活動していた盟友の2人に、久々の舞台共演に懸ける思いを聞いた。

※2022年8月9日追記:8月7日17:30開演回から14日までの公演は新型コロナウイルスの影響で中止になりました。

取材・文 / 興野汐里撮影 / ヨシダヤスシ

同じ時代を過ごしてきた盟友、Ashの2人が舞台で再会

──旧知の仲であり、Ashとしてユニット活動もされてきたお二人が「『ワールドトリガー the Stage』大規模侵攻編」で再び肩を並べます。アフトクラトルのキャストが発表された際、中村さんが「植田圭輔や根本正勝もいるし、めちゃくちゃうれしかったです」と、お二人の名前を挙げていたのが特に印象的でした(参照:ワーステ第2弾「大規模侵攻編」新キャストに田鶴翔吾・浜浦彩乃・田村心ら)。

中村誠治郎 圭輔が主演を務めた「少年陰陽師<歌絵巻>-この少年、晴明の後継につき-」(2007年)で2人と共演したんです。そのときも僕とねもっちゃんは悪役だったんですが(笑)、時を経てまた2人と共演できるのがすごくうれしかったですね。

根本正勝 俳優の世界って、芸人さんと違ってあまり同期のような存在がいないんです。その中でも誠治郎は同期というか、同じ時代を過ごしてきた盟友みたいな感じ。一緒にユニットをやっていたというのもあるんですけど、プライベートでのつながりもあるし、ただの役者仲間っていう感じではないよね。

中村 そうだね。舞台で共演するのはかなり久々じゃない?

根本 そうかも。2016年の舞台で共演して以来かな。最後に一緒にステージに立ったのはAshのライブだと思う。

左から中村誠治郎、根本正勝。

左から中村誠治郎、根本正勝。

──そんなお二人がハイレインとヴィザとして共演するのは感慨深いものがあります。

根本 今回ワーステのお話をいただいたときに、誰がハイレインを演じるのかが一番気になって。スタッフさんから「中村誠治郎さんです」と聞いたとき、とても不思議な感覚になりましたね。こういった形で共演の場を用意してくださったスタッフさんに感謝していますし、すごく粋だなあと感じました。もちろんワーステという作品自体を純粋に楽しんでいただきたいのですが、Ash時代を知ってくださっている方には、僕たちが同じステージに立っているところをぜひ観てもらいたいと思います。

中村 うん。2人で並んでいる姿をお見せできるのはやっぱりうれしいよね。しかも、ハイレインとヴィザっていう配役も最高じゃないですか? 僕が演じるハイレインはアフトクラトルのリーダーではあるんですけど、自分の心境的にはボスはねもっちゃんだと思っていて。

根本 そんなことないでしょ!(笑) 舞台で共演するのは久しぶりだけど、年を重ねたからこそ出せる魅力があると思うし、お互いに経験してきたことを今回のワーステで発揮できたら良いよね。

根本正勝

根本正勝

自分が演じる役の“オタク”になる

──原作の「ワールドトリガー」(以下ワートリ)では、近界民ネイバーと呼ばれる異世界からの侵略者と、界境防衛機関・ボーダーの戦いが描かれます。2013年の連載開始より、多くの読者から支持を集めているワートリですが、お二人は本作にどのような印象を持っていますか?

根本 バトルものって個の戦いに焦点を当てて描かれることが多いと思うんですが、ワートリでは集団戦が魅力的に描かれていますよね。1人では太刀打ちできないことがたくさんあるけれど、誰かと補い合いながら、自分たちよりも強大な勢力に立ち向かっていく。集団戦の中でそれが表現されているのがすごく面白いなって。

中村 ハイレインもミラと連携すると強いけど、1人だと限界があるもんね。

根本 そうだね。あとワートリの面白さって、SF作品でありつつ“リアル”なところだと思います。スーパーヒーローが出てくる作品ももちろん好きですけど、主人公が“落ちこぼれ”なところからスタートするのが、読者としては感情移入しやすいのかもしれないですよね。

中村 確かに。出演が決まってから改めて原作を読み返したんですが、以前読んだ印象とまったく違ったんです。それぞれのキャラクターが緻密に描かれているし、おのおのの設定や能力が凝っているので、大人になってから読むとさらに良さがわかるというか。筋書きはもちろん、エンタテインメントとしても面白いので、「ああ、これは舞台に向いているだろうな」と思いました。

中村誠治郎

中村誠治郎

──中村さんは「もし舞台化されたらどうなるか?」という視点でマンガやアニメをご覧になることが多いのでしょうか?

中村 そうですね。「この作品を舞台化したら面白そうだな」という目線で観ている気がします。

根本 俳優同士で食事に行ったとき、「この作品だったらこの役をやりたいな」とか「この役をやってみたいんだけど、ビジュアルが全然違うんだよね」「この役ならできるんじゃないかな」とか話すよね。

中村 するね。「誰々はこの役が合いそう」とか。

──今回、中村さんは冷静沈着なアフトクラトルの遠征部隊隊長・ハイレイン、根本さんは老練なる剣の達人・ヴィザを演じます。ご自身と、今回演じるキャラクターの相性についてどのように考えていますか?

中村 ハイレインもそうですが、クールな役だったり、ボスの役だったり、素の自分とギャップのある役をいただくことがけっこうあるんです。でもハイレインってすごく強いのにめちゃめちゃ用意周到じゃないですか。僕も神経質なので、「……わかる」ってなりましたね。年齢的に仲間に任せることも増えたので、今の自分に合っている役なんじゃないかと。

中村誠治郎扮するハイレイン。

中村誠治郎扮するハイレイン。

根本 うん。合っていると思う。

中村 (真顔で)僕、黙っていればカッコいいんですよ。

根本 急に何!?(笑)

中村 1人で仕事してるときはちゃんと大人なんです。でも、ねもっちゃんと一緒だとついついボケに回っちゃって。

根本 ははは!(笑)

中村 この感じがすごく心地良いんですよね。舞台での共演は久しぶりですが、「これだけがんばってきたんだよ」っていう姿をねもっちゃんに見せられたらうれしいし、お互いに培ってきたものを今回の作品にどう還元できるかが楽しみです。

──お二人の姿を早く舞台で拝見したいです。根本さんはご自身とヴィザのマッチングをどう捉えていますか?

根本 ヴィザは65歳なので、ここまで年上の役ができるかなって不安だったのですが、原作を読んだりヴィザのパーソナルデータを見ているうちに、年齢を言い訳にするのが好きじゃないところが似ているかもしれないなと思って。修羅場をくぐってきたからこそ出せる余裕や冷静さ、戦いを楽しんでいるときのあの感じ……自分が六十代になったとき、ヴィザみたいな大人になれていたら良いですよね。あとビジュアルも、我ながらけっこう原作に近付けられたのではないかなと思いました(笑)。

根本正勝扮するヴィザ。

根本正勝扮するヴィザ。

中村 めっちゃカッコよかったよ。ねもっちゃん、将来こうなりそうだなって思った。

根本 ホント?(笑) 長いこと俳優をやっていると、これまで演じた役によって自分の人格が形成されている部分が多いなと感じます。普段の生活でも、役者人生で積み上げてきたものがにじみ出る瞬間がきっとあるのだろうなって。一方で、役を演じる中で“自分自身”が出てくる瞬間も絶対にある。舞台を観に来てくださる方は特に、俳優を通してキャラクターを観てくれていると思うので、そこのバランスをうまく調整できたらと思っています。

中村 僕も、2.5次元作品や原作ものの舞台に出演するときには、誰よりもその役の“オタク”になることを意識していますね。僕自身、マンガやアニメが好きということもあって、「えっ? この作品、舞台化するの?」と感じる方の気持ちがわかるんです。だからこそ、原作が好きな人に「このキャラクターが実際に存在していたら、きっとこんな感じだろうな」と思ってもらいたいですね。

お客さんを良い意味で裏切りたい

──ご自身が演じるキャラクターと真摯に向き合って作品に取り組むお二人と、“演劇LOVE”の中屋敷法仁さんがどのように作品を立ち上げていくのか非常に楽しみです。

中村 中屋敷さんが脚本を手がけた舞台に出演させていただいたことはあるんですけど、演出を受けるのは今回が初めてで。

根本 そうだったんだ! 僕は今、屋敷(中屋敷)さんと圭輔と現場が一緒なんですよ。なので、お二人とは2・3カ月一緒に過ごすことになるんですよね(笑)。屋敷さんはワクワクする作品を作るのが本当にうまい人。稽古に入る前からすでに作りたい画が明確に思い浮かんでいるのではないかと思います。

中村 へえー!

根本 あとは、人物だけじゃなく、背景を動かすのがすごく上手だなって。特に登場人物が多い作品を演出しているのを観ていると、演劇やキャストに対する愛が伝わってきます。

中村 わー、一緒にお仕事するのが楽しみだな。

根本 うん。屋敷さんはお芝居に関するセッションをしてくれるから楽しい現場になると思うよ。

根本正勝

根本正勝

──ワーステでは、役者の身体能力を駆使したダンサブルなパフォーマンスと、リズミカルな音楽を取り入れた“フィジカライブ”(Physical×Live performance)の手法が取り入れられています。中屋敷さんの演出のもと、アフトクラトルの面々がどのようなスタイルでワーステの世界に登場するのか、期待が高まります。

根本 アフトクラトルのキャストに求められるのは、“絶大なる存在感”だと思うのです。ボーダー側は隊が分かれているからフォーメーションを意識した動きになると思いますが、アフトクラトルに関してはどうなるのでしょう? これは僕の勝手なイメージなのですけど、強者ってあんまり動かないじゃないですか。アフトクラトルは強敵として出てくるから、バキバキ踊ることはないのかなと思います。

中村 そうだね。アフトクラトルはどっしり構えている感じがする。最近振付や殺陣のお仕事をやらせていただく機会が多いので、「もし自分が振付したらどうするか?」という視点で考えることがあるんです。剣の使い手ということもあって、アフトクラトルの中でも動きがイメージしやすいのはヴィザですね。機会があったらいつか、ねもっちゃんの立ち回りをつけてみたいなあ……。ハイレインはどういう戦い方をするんだろう? ハイレインはトリオンをキューブ化する能力を駆使して戦うけど、もしかすると肉弾戦も強いかもしれない。舞台ではそういう描写があっても面白いのかなって思います。

中村誠治郎

中村誠治郎

根本 原作で描かれていない部分をどう膨らませられるかが、舞台化するにあたっての難しさであり面白さでもあるよね。

中村 「そうきたか!」と思ってもらえるように、お客さんを良い意味で裏切りたいです。

根本 ここ数年で改めて感じたことですが、お客さんがいると、役者は本当にやりがいを感じるんですよ。お客さんに楽しんでもらえるようなエンタテインメントを作っていきたいと思っているので、ぜひ劇場に観に来ていただけたらと思います。

中村 観に来てくださるお客さんに絶対損はさせたくないと常日頃から思っていて。しかも今回はシリーズものの第2弾。「第2弾はさらに面白かったね」と思ってもらうためには、僕たちアフトクラトルのキャストががんばらないといけない。今回のワートリが舞台文化を盛り上げる要因の1つになるように、とにかく一生懸命やるだけです。

左から中村誠治郎、根本正勝。

左から中村誠治郎、根本正勝。

プロフィール

中村誠治郎(ナカムラセイジロウ)

1980年、福岡県生まれ。俳優。アクションや殺陣に定評があり、自ら殺陣指導や振付も行う。映画「昭和最強高校伝 國士参上!!」(ヤッチンVS李のタイマン勝負)で第5回ジャパンアクションアワードベストアクションシーン賞最優秀賞を受賞。根本正勝とのユニット・Ashのメンバーとしても活動していた。

根本正勝(ネモトマサカズ)

1979年、福島県生まれ。俳優・声優。舞台、映像を中心に活動し、上島雪夫、西田シャトナー、村上大樹、西森英行、菅野臣太朗らの作品に出演。2017年の「紅き谷のサクラ~幕末幻想伝 新選組零番隊~」で初めて作・演出を手がける。中村誠治郎とのユニット・Ashのメンバーとしても活動していた。10・11月に音楽劇「まほろばかなた」の公演を控える。