今回の「VOICARION」はひと味違う!“昼行灯”服部半蔵役・山口勝平が地元福岡に凱旋

プレミア音楽朗読劇「VOICARION」は、藤沢文翁と東宝がタッグを組んで制作する人気シリーズ。その第15弾となるプレミア音楽朗読劇「VOICARION XV 博多座声歌舞伎 ~拾弐人目の服部半蔵~」が、11月5・6日に福岡・博多座で上演される。

本作の主人公は、“忍術が使えない”12代目服部半蔵。そんな半蔵を演じるのは、博多座にほど近い場所で生まれ育った山口勝平だ。「VOICARION」に多数出演し、シリーズの魅力を知り尽くした山口が、新たに創作される“博多座声歌舞伎“の見どころを語った。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤田亜弓

今までとひと味違う作品

──プレミア音楽朗読劇「VOICARION XV 博多座声歌舞伎 ~拾弐人目の服部半蔵~」では、服部半蔵の子孫でありながら、忍術が使えない12代目服部半蔵のもとに、剣豪の仏生寺弥助が弟子入りすることによって、半蔵が幕末の動乱に巻き込まれていく様子が描かれます。本作の脚本を読んだ際、どのような印象を受けましたか?

「VOICARION」は西洋を舞台にした作品が多いイメージですが、藤沢さんはオールジャンルの作品を書かれていて、プレミア音楽朗読劇「VOICARION X 大阪歴史絵巻 孔明最後の一夜」(参照:音楽朗読劇「VOICARION」、孔明描く新作と初演演出版「信長の犬」が大阪・愛知で上演)のような中華ファンタジーや、プレミア音楽朗読劇「VOICARION IX 帝国声歌舞伎 信長の犬」(参照:音楽朗読劇の“歴史的瞬間”、藤沢文翁「VOICARION」帝劇公演「信長の犬」開幕)のような和物の作品も発表されていて。今回の「拾弐人目の服部半蔵」は、「信長の犬」よりもさらに和に寄った印象を受けました。物語の主軸となる12代目服部半蔵が昼行灯的な存在ということもあり、シリアスさの中にほっこりする部分もあって、今までの「VOICARION」とはひと味違う作品になるのではないかと思っています。

最初に台本を読んだとき、関ヶ原から幕末にかけて続く、時代を超えた因縁にハッとしましたね。同時に、そこに着目して物語を描き出していく藤沢さんの発想がすごいと思いました。半蔵や弥助のほかにも、桂小五郎や岡田以蔵、沖田総司など“幕末オールスター”のようなキャラクターが多数登場しますし、日本の歴史の中でも特にドラマチックな幕末の動乱期がピックアップされているので、歴史が好きな人はもちろん、歴史が苦手な人にも楽しんでもらえる作品になるのではないでしょうか。

山口勝平

──山口さんから見て、ご自身が演じる12代目服部半蔵はどのような人物だと感じますか?

皆さんが服部半蔵として認識しているのはおそらく2代目服部半蔵正成だと思うんですけど、その後も服部半蔵という名前は世襲されていくんですね。世の中が平和になるにつれて忍者の出番はどんどん減っていって、僕が演じる12代目服部半蔵正義は比較的のんびりした生活を送っていたという設定(笑)。彼はきっと、佐幕派と倒幕派の動乱に巻き込まれなければそれなりに平和に暮らしていたんじゃないかな。ただ、全編を通して幕末の緊迫した空気が流れているので、そこは大切にして役作りをしていきたいと思っています。しかも12代目服部半蔵は、「VOICARION」チームの皆さんが僕をイメージして作ってくださった役だそうで。当て書きしていただいた役を演じられることはすごくありがたいですし、「自分は周りからこういうふうに見えていたのかな?」という発見もありました(笑)。

世情と呼応する不思議な力

──山口さんは、2016年の「VOICARION」初演「女王がいた客室」(参照:鈴村健一、竹下景子、上川隆也らが出演する音楽朗読劇「VOICARION」)から継続して「VOICARION」シリーズに出演されてきました。通常の舞台では視線を交わし合いながらお芝居をすることが多く、「VOICARION」をはじめとする朗読劇では、基本的に前を向いた状態でセリフを発します。お互いの声だけを頼りに呼吸を合わせるのは大変な作業だと想像するのですが。

そうですね。朗読劇では、本読みの段階である程度気持ちの擦り合わせをしておくことが大切かなと。また朗読劇の場合、台本を持っている時点で動きがかなり制限されるので、通常の舞台とはやはり違った感覚で演じています。

コロナ禍になってから朗読劇が見直されて、演劇の中でも朗読劇が大きなジャンルとして確立されてきた気がするんです。その中でも「VOICARION」は、朗読劇でありながら、舞台と朗読劇の間に位置しているような特別な感覚があって。

──「VOICARION」の常連である山口さんは、同シリーズの魅力をどのようなところに感じますか?

音楽の生演奏、豪華な衣裳や舞台セットの力によって、観客の方も五感をフルに使って楽しむことができるのが「VOICARION」の魅力だと思います。「VOICARION」は、もはや“藤沢朗読”というジャンルとして確立されていて、ほかの朗読劇とは一線を画している。出演するたびに、「ああ、エンタテインメントというのはこういうことなんだろうな」と思わされますね。このような素晴らしい空間でパフォーマンスができるのは本当に役者冥利に尽きます。

山口勝平
山口勝平

──声優・俳優陣が“声”で紡ぎ出した物語が、音楽、照明、特効などの力で立体化されていく。各セクションのプロフェッショナルの力が合わさった瞬間の爆発力は圧巻です。

特に「VOICARION」の音楽チームは本当にすごいんですよ! セリフと音楽のタイミングがバッチリ合ったときは鳥肌が立ちますね。僕もほかのキャストの方が出演している回を観ることがあるのですが、ストーリーや演出を知っているのに、感動して泣いてしまうんです。あと「VOICARION」って、上演時の世情と呼応するような不思議な出来事が起きることがあって。「信長の犬」のとき、物語に登場する太田資正の家臣・野口多門の屋敷とみられる場所で埋蔵金が発見されたんです。それまで、この野口多門についての資料はほとんどがなかったのに、すごいことですよね!

──運命的なものを感じます。今回も何か時代とリンクするような出来事が起きるかもしれません。

そうですね。できればハッピーなことだとうれしいですよね!(笑)

次のページ »
今回のキーマンは…

2022年11月7日更新