坂東巳之助が語る灰原ルイ
本作では、歌舞伎役者の坂東巳之助が主人公・灰原ルイを演じる。コロナ禍で活動する難しさは理解しながらも、「ただ機会を待っているだけでは私の中の役者としての部分が死んでいってしまう」という思いから本作での主演を引き受けたという巳之助。そんな彼は、バンドマンとしての顔も持ち、音楽には明るいが、歌は苦手だそう。出演者が一堂に会する本読みを前に脚本に触れ、“灰原”として一歩、劇世界に足を踏み入れた感触を聞いた。
ミュージカルは“踏み込んではいけない”テリトリー
僕は基本的に歌が得意ではないので、このお話をいただいたときに、お断りしようと思っていたんです。でも、脚本を読ませていただいたら、文字だけでは想像が追いつかないところがありながらも、最後には自然と泣けてくるような物語で、これは面白くなるだろうと。不勉強で長久さんのことはこれまで存じ上げませんでしたが、彼の映像作品を拝見して、直接的な表現をするときもあれば、そういう表現を避けるときもあるなと感じて。「長久さんってちょっと難しい、多角的な感覚をお持ちなのかな」という印象でお会いしたら、実際には普段からオーラがとても柔らかくていらっしゃる方だったので、楽しくやっていけそうな予感がしています。
歌舞伎役者がミュージカルに出演するのって、尾上松也さんのようにその素養を持っていて、トレーニングもされている方がやるぶんにはいいと思うんです。でも僕は、言ってしまえば歌舞伎しかできない人間。今からがんばって練習したところで、ミュージカル俳優にはかなわないし、逆の立場で考えたら歌舞伎だってそうだと思うんですよね。だから、僕にとってミュージカルは“踏み込んではいけない”テリトリーだったのですが、今回は歌わない役だということと、“歌わない”ことに意味があるなと感じたので、ぜひ挑戦してみたいと思いました。
というのも、ミュージカルは本来、高ぶった感情やセリフを音楽に乗せて伝えるもので、“歌うこと”自体には意味はないはず。でも、僕が演じる灰原は感情を無駄と定義して生きている人物で、音楽を聴かないように両親に育てられてきたんです。そんな、“歌うことは無駄だ”と思っている灰原が芝居の中心にいることで、この作品では“歌を歌うこと”に意味が生まれてしまう。そういう新たな視点を作品世界に持たせてしまう灰原を、ミュージカルで、しかも主人公として据えていることに惹かれました。きっとこれが、作品を作っていくうえで大事な要素になってくるんだろうなとも思います。
ほかのキャストの皆さんと本格的な稽古に入り、みんなで1つの作品を作り上げながら、その作品の中の一部として、灰原を生きられればと思います。
- 坂東巳之助(バンドウミノスケ)
- 1989年、東京都生まれ。歌舞伎役者、日本舞踊坂東流家元。1991年、歌舞伎座「傀儡師」の唐子で本名で初お目見得。1995年、歌舞伎座「壽靱猿」の小猿と「蘭平物狂」の繁蔵で二代目坂東巳之助を名乗り初舞台。「新春浅草歌舞伎」や「スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)『ワンピース』」をはじめ、主人公ほかを勤めた新作歌舞伎「NARUTO-ナルト-」など、話題作で大役を演じる。映画「燃えよ剣」が10月に公開予定。
シム・ウンギョンが語るM
劇中で躁鬱状態を繰り返し、悲しみを感じると体の一部が消えていってしまう“消えちゃう病”のヒロイン・Mを演じるのは、韓国人女優のシム・ウンギョン。日本では2019年に「俳優とオーケストラのための戯曲『良い子はみんなご褒美がもらえる』」で舞台に挑んだ(参照:A.B.C-Z橋本良亮、堤真一に秘密暴露され赤面「やめてよー!」)。取材当日は、韓国語に翻訳された台本、日本語のルビが振られた台本を手に、本読みに挑んだ彼女。2度目の舞台出演は「予想より早かった」と言うシムに、その思いを聞いた。
Mは今まで観たことのない役。だからこそ挑戦したかった
今日は初めての本読みで正直ビビっていたんですが(笑)、「やっとMに会えた」という気持ちがしました。Mってどんな人物なんだろう?という“クエスチョンマーク”が自分の中にもあったし、まだよくわからない存在だったんです。本読みではセリフもかんで、たどたどしくなってしまいましたが、皆さん熱心で、どんどん気持ちが楽になっていきました。その雰囲気作りは長久さんの力だと思いますし、私もMの感情が高ぶったときにはセリフ回しを早口にしたり、叫んだりしたほうがいいのか、と質問をすることができました。
舞台は2度目ですが、実は初舞台で「ちゃんとできなかった」という思いがずっと心に残っていたんです。再び挑戦するとしても、勇気を失ってしまってはダメだと。そうしたら、想像よりも早くその機会が来てしまいました(笑)。というのも、この台本を読んで、「こんな役には一生出会えないかもしれない」と思ったんですね。それが私の背中を押してくれて。私自身、いつも今までやったことのない役に挑戦しようという思いでキャラクターを待っているのですが、Mは感情に振れ幅があって、「死にたい」と言ったそばから「生きたい」と言うような、どの作品でも観たことがなかった女の子。それは彼女の過去に起因しているのですが、悲しい人だなあとも思います。なぜ長久さんがこの役に私をキャスティングしてくださったのか、理由が知りたいと思いつつ(笑)、私も一緒に探していけたらと思っています。
舞台は私にとって本当に難しいことばかりですが、個性豊かな役者さんがそろった今回の座組みで、精いっぱいがんばっていろいろ作っていきたいと思います。相手役の巳之助さんはビジュアル撮影でご一緒したときに、横に立つ姿や目力がすでに“灰原ルイ”で、「もう役に入ったの?」って思ってしまったほど(笑)。ビジュアル撮影ではあまり言葉を交わしませんでしたが、無言な中にも巳之助さんから役への熱量が感じ取れたので、学ばせていただけることがたくさんあるんじゃないかと楽しみです。
この作品には、現代の人々の心を支える何かが詰まっていると思います。うまく言葉にはできませんが、灰原とMを描いた話ではあるけれど、2人の姿は今を生きる私たちの姿。物語をすべて読み終えたあとには、ふと切なさが残るんです。そういうところがこの舞台の魅力だと感じます。「消えちゃう病とタイムバンカー」というタイトルも、「どういう話?」って目を引く面白さがありますよね。この舞台を通して、人生について、私たちがどうやってこの日常を精いっぱい、生きていけるか。それをお客様と一緒に考える時間になればと思います。
- シム・ウンギョン
- 1994年、韓国生まれ。子役としてデビュー後、映像を中心に活躍し、映画「サニー 永遠の仲間たち」「怪しい彼女」などに出演。2019年には活動の場を日本にも広げ、出演した映画「新聞記者」では第43回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した。そのほか、映画「ブルーアワーにぶっ飛ばす」「架空OL日記」、ドラマ「七人の秘書」「アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~」などに出演。映画「椿の庭」が4月9日に公開予定。
UMEGEI PRESENTS 2021年公演ラインナップ
人気作のガラコンサートから、再演が待たれていたミュージカル作品まで、梅田芸術劇場が主催する2021年の公演ラインナップを紹介する。
- 「麻実れい芸能生活50周年記念コンサート 三重奏〜Rei Asami Trio〜」
- 2021年3月30日(火)
東京都 銀座 ヤマハホール
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構成・演出:広渡勲
出演:麻実れい、北島直樹(Pf)
特別出演:寺井尚子(Vn.)
- 作品紹介
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芸能生活50周年を迎え、昨年には旭日小綬章を受章した麻実れいの“シンプル”で“ゴージャス”なコンサート。ピアノ演奏に乗せて、麻実が華麗な歌声を披露する。
- 「エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート」
- 2021年4月5日(月)~11日(日)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール - 2021年4月17日(土)~5月5日(水・祝)
東京都 東急シアターオーブ
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脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
オリジナル・プロダクション:ウィーン劇場協会
構成・演出・訳詞:小池修一郎
演出:小柳奈穂子
出演:麻路さき、稔幸、えまおゆう、姿月あさと、和央ようか、白城あやか、湖月わたる、月影瞳、彩輝なお、安蘭けい、春野寿美礼、朝海ひかる、大空ゆうひ、瀬奈じゅん、水夏希、大鳥れい、霧矢大夢、紫城るい、北翔海莉、白羽ゆり、凰稀かなめ、朝夏まなと、夢咲ねね、望海風斗、明日海りお、蘭乃はな、愛希れいか、実咲凜音、花乃まりあ / 初風緑、彩吹真央 / 出雲綾、嘉月絵理、越乃リュウ ほか
特別出演:悠真倫(宝塚歌劇団)
- 作品紹介
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1996年に宝塚歌劇団雪組で初演された宝塚歌劇版ミュージカル「エリザベート」の25周年を記念して行われるコンサート。小池修一郎と小柳奈穂子が共同で演出を手がけ、公演には歴代キャストをはじめ宝塚OGらがそろう。コンサート形式で本編を上演する「アニヴァーサリーバージョン」と「フルコスチュームバージョン」があり、前者ではメインキャストが役柄をイメージした衣装で、後者では全員が扮装姿で登場する。
- ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」
- 2021年5月21日(金)~6月13日(日)
東京都 TBS赤坂ACTシアター - 2021年7月3日(土)~11日(日)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
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原作:ウィリアム・シェイクスピア
作:ジェラール・プレスギュルヴィック
潤色・演出:小池修一郎
出演:黒羽麻璃央、甲斐翔真 / 伊原六花、天翔愛 / 味方良介、前田公輝 / 新里宏太、大久保祥太郎 / 立石俊樹、吉田広大 / 春野寿美礼、原田薫、石井一孝、宮川浩、秋園美緒、兼崎健太郎、岡幸二郎、松村雄基、小㞍健太、堀内將平 ほか
- 作品紹介
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ウィリアム・シェイクスピアの戯曲をもとに、2001年にフランスで生まれたミュージカル。日本では2010年に宝塚歌劇団星組で初演され、翌2011年には日本オリジナルバーションが登場した。今回はその10周年公演となる。
- ミュージカル「マタ・ハリ」
- 2021年6月15日(火)~27日(日)
東京都 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場) - 2021年7月10日(土)・11日(日)
愛知県 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール - 2021年7月16日(金)~20日(火)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
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脚本:アイヴァン・メンチェル
作曲:フランク・ワイルドホーン
歌詞:ジャック・マーフィー
オリジナル編曲・オーケストレーション:ジェイソン・ホーランド
訳詞・翻訳・演出:石丸さち子
出演:柚希礼音、愛希れいか / 加藤和樹、田代万里生 / 三浦涼介、東啓介 / 春風ひとみ、宮尾俊太郎 ほか
- 作品紹介
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2016年に韓国で初演され、2018年に石丸さち子の訳詞・翻訳・演出で日本初演されたミュージカル。第一次世界大戦中のヨーロッパを舞台に、ダンサーのマタ・ハリがスパイとして活動し、運命に翻弄されていく様子を描く。日本初演で主演を務めた柚希礼音が、新たにキャスティングされた愛希れいかと共にマタ・ハリを演じる。
2021年4月14日更新