狸・天狗・人間が繰り広げる“てんやわんやの大騒動”! Wキャストで主人公・下鴨矢三郎を演じる中村鷹之資&濱田龍臣が語る、舞台「有頂天家族」

森見登美彦の人気小説「有頂天家族」が、G2の脚本・演出により舞台化される。本作では、京都の下鴨神社境内に暮らす狸一家の三男坊・下鴨矢三郎を主人公に、狸・天狗・人間が繰り広げる“てんやわんやの大騒動”が展開する。

本公演で矢三郎役に抜擢されたのは、中村鷹之資と濱田龍臣。片や歌舞伎、片や映像作品やストレートプレイと、活躍してきたフィールドが異なる2人が、“狸”役にどのように向き合い、作品を立ち上げるのか。ステージナタリーでは、鷹之資と濱田の対談を実施。年齢が近いこともあり、すっかり打ち解けて仲睦まじい様子の2人に、作品への思いや互いの印象を語ってもらった。

取材・文 / 櫻井美穂[対談]撮影 / 藤記美帆

狸に縁のある鷹之資、狸に身構えた濱田

──森見登美彦さんの小説「有頂天家族」では、狸の一家・下鴨家を中心に、親戚である夷川家との権力争いや、狸・天狗・人間の三つ巴が、ユーモアを交えて描かれます。今回は、脚本・演出をG2さん、そして主人公・矢三郎を中村鷹之資さんと濱田龍臣さんがWキャストで勤めるということで、原作ファン・舞台ファンからも期待が高まっています。それぞれ、オファーを引き受けたきっかけを教えていただけますか?

中村鷹之資 僕は、歌舞伎以外の舞台作品に出演するのが、今回が初めてになります。お声がけいただいたのは、歌舞伎俳優としての表現の幅を広げるためにも、新たな挑戦がしてみたい!と思っていたタイミングでした。

中村鷹之資

中村鷹之資

──鷹之資さんは、近年は「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」「流白浪燦星(ルパン三世)」といった数々の新作歌舞伎にも出演されています。品が良く明るい芸風で、持ち前の高い身体能力とリズム感を存分に生かした、華やかで迫力ある舞踊にも定評があります。

鷹之資 僕は「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」で、狸ではありませんが、同田貫正国どうだぬきまさくにという役を演じておりましたので、“たぬき”つながりというところでも、オファーを引き受けない理由はないだろうと(笑)。狸とは、切っても切れない縁を感じております。また「新たな挑戦がしたい」と思うようになったのは、「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」で演出もなさっていた、(尾上)松也のお兄さんの影響も大きいです。現場では、歌舞伎以外のお芝居も幅広くなさっていたからこそのアイデアや、引き出しの多さを感じましたし、そういった挑戦が古典をやるときにも生きてくるんだな、と。

──濱田さんは、子役時代からドラマや映画と、主に映像の分野で活躍されてきましたが、三谷幸喜さん作・演出の舞台「大地(Social Distancing Version)」(2020年上演)への出演をきっかけに、ストレートプレイからミュージカルと、さまざまな話題作にご出演されています。

濱田龍臣 俳優としての経験を上げるためにも、いただいたお仕事はできる限り応えたいと思っていて、今回もありがたくお引き受けしました。ただ、「今回演じてもらうのは、狸です」と言われたときは、「なるほど、どうしたものか」と思いました(笑)。

一同 (笑)

濱田 宇宙人といった、人間以外の役を演じた経験はあるのですが、狸は初めてです。でも、矢三郎は人間に化けるのが得意な狸なので、舞台では基本的に“人間に化けている姿”がデフォルトです。身構えていたより“たぬきたぬき”していなくてほっとしました(笑)。

濱田龍臣

濱田龍臣

狸一家の三男坊・矢三郎はエネルギッシュ

──お二人が演じられる矢三郎は、偉大な狸だった父・総一郎の「面白きことは、良きことなり!」という言葉を信条にしている三男坊です。下鴨一家は、真面目なのに抜けている長男・矢一郎、カエルの姿で井戸に引きこもっている次男・矢二郎、化けるのが不得手で頼りない四男・矢四郎、家族と“タカラヅカ”を深く愛する母・桃仙、そして矢三郎の5人。このほか、矢三郎が師と慕い、世話を焼いている天狗の赤玉先生や、天狗の力を持つ人間の美女・弁天、そして下鴨一家のライバルである夷川家の兄弟の金閣・銀閣など、魅力的なキャラクターがたくさん登場します。

鷹之資 矢三郎は三男ということもあり、物語の中では独特な立ち位置ですよね。しっかりしていそうに見えて、最終的な判断を“自分が面白いと感じるかどうか”に委ねてしまうところがある。掴みどころがあるようでないところが最大の魅力でもあり、僕たち2人が「どう立ち上げたらいいんだろう……」と頭を悩ませるところでもあります(笑)。

濱田 矢三郎って巻き込まれ体質で、僕の中では“受けの芝居”で立ち上げていくイメージが強かったんですけど、でも主人公である以上、受けに徹してしまうと何の面白みも生まれなくなってしまう。矢三郎の「面白きことは、良きことなり!」という芯をぶらさず、いかに矢三郎を魅力的に立ち上げていけるかが、僕たちの稽古期間中の課題ですよね。

左から濱田龍臣、中村鷹之資。

左から濱田龍臣、中村鷹之資。

鷹之資 稽古をやっている中で発見したのは、集団の中にいるときの矢三郎は、とらえどころのなさが出てしまうんですけど、誰かと一対一の場面だと、矢三郎の心の中に秘めている“素の部分”が垣間見える、ということ。あとはとにかく……エネルギーですよね(笑)。矢三郎が持つパワフルなエネルギーが、この作品を突き動かす原動力になると思うので、僕自身も楽しみながら矢三郎を演じていきたいですね。

濱田 鷹之資さんの言っている通り、矢三郎は“エネルギー”がキーワード。だからこそ、作品全体を通して、どのタイミングでどれくらいの量のエネルギーを放出するかも考えなきゃいけないと思っています。タイトルに“有頂天”というポジティブな言葉がついていることもあり、お客様には、どんなネガティブな感情もポジティブなエネルギーとして発散してしまう矢三郎をお見せしたいですね。迷ったときには、「面白きことは、良きことなり!」という言葉に立ち返ります。

狸だからこそ、胸に届くものがある

──人間ではなく“狸”を演じるということについては、いかがでしょうか?

鷹之資 濱田さんが最初に言っていたように、矢三郎は基本的に人間に化けているので、狸であることをことさら意識することは、あまりないかもしれません。ただ、“実は狸”だからこそ描ける家族愛だったり、面白さ、微笑ましさがあるように感じていて。同じストーリーを人間がやっても成立しなくて、狸だからこそ、愛くるしくて阿呆くさくて、なんだか憎めなくって、作品全体を通してお客様の胸に届くものがあるんじゃないのかなと。

中村鷹之資

中村鷹之資

濱田 そうだね。あと、狸の姿では人間に勝てないのに、「狸の方が偉い」って人を小馬鹿にしてるところとかも、面白くてかわいい(笑)。“化ける”という点では、似た存在として狐がいると思うんですけど、狸は狐と違ってずる賢く見えないというか……。

鷹之資 “狐が化ける”と聞くと、人を陥れそうなちょっと怖い印象があるけど、狸は人を馬鹿にするために化けているっていう、根本的な性質の違いもあるよね。あと、狸は人間に食べられてしまうことがある……というのも、狐とは違うところかもしれません。父である総一郎も、人間で構成された集団・金曜倶楽部に狸鍋にされて食べられちゃったわけですが、そこに悲壮感があまりなく、独特の“狸マインド”があるのがこの作品の面白いところです。

──作中での、狸・天狗・人間の関係については、どのように捉えられていますか?

濱田 一言で言うと、狸は阿呆で、人間はちょっと怖くて、天狗は厄介。この関係性さえわかっていれば、世界観がつかめるんじゃないかな(笑)。

鷹之資 まさしく!(笑)(チラシの若月佑美扮する弁天を指しながら)それで言うと、この弁天って人は厄介だよねえ。

濱田 だって、人間と天狗の間だから。“ちょっと怖くて”、“厄介”! この人に、狸も天狗もどれだけかき回されているか(笑)。

濱田龍臣

濱田龍臣

鷹之資 天狗の立ち位置も面白いよね。彼らは上空から下界を見下ろしているから、物言いも上から。天狗の赤玉先生に「天狗だから偉いのである」というセリフがありますが、彼らにしてみれば、自分たちは空を飛んでいて、その下を人間たちが歩いていて、さらにその下を狸が這って暮らしているイメージなんでしょうね。登場人物のセリフの端々に、この3種類の種族の色は出ているので、お芝居からもそれぞれの“らしさ”が出ると良いなあと思っています。