セリーナ・マギリュー&y/n(橋本清・山﨑健太)が語る「Farm-Lab Exhibition」
「Farm-Lab Exhibition」は、アジアを拠点に活動する若手アーティストが文化や活動拠点、バックグラウンドが異なるメンバーとクリエーションを行い、「東京芸術祭」やアジア各地での上演を目指したワークインプログレスを発表する創作トライアルプログラム。今年はフィリピンを拠点に活動する1998年生まれのパフォーマンスアーティスト、アクティビストのセリーナ・マギリューと、演出家・俳優の橋本清&批評家・ドラマトゥルクの山﨑健太によるユニット・y/nがディレクターを務めた。ここでは10月に行われた両作のパフォーマンス試作発表を振り返りつつ、今後の展開についてステージナタリー編集部が話を聞いた。
「Farm-Lab Exhibition」のディレクターとなって
──セリーナさんは「『クィア』で『アジア人』であることとは?」、y/nは「教育」をテーマにクリエーションに臨まれましたが、それぞれ、作品のテーマをどのように決めていったのでしょうか?
セリーナ・マギリュー 私は昨年、(「東京芸術祭」ファームの別プログラムである)「 Asian Performing Arts Camp」にも参加したのですが、そのときのテーマは「RAMPAGE(ランページ):抵抗としてのクロスオーバー」でした。ランパとは“橋渡し”の意味で、フィリピンのクィアアクティビズムにおいてランパと言えば、LGBTQIA++コミュニティがその可視化のために革命を起こすような人を意味する、かなり具体的な言葉です。そのランパを、今回のテーマとすることも一瞬考えましたが、「Farm-Lab Exhibition」では日本を拠点にしたパフォーマーとコラボレートすることがすでに決まっていたため、日本のパフォーマーにはおそらくカルチャーギャップが大きいだろうと思い、今回は私が学士論文でリサーチしていた、「クィアは歴史上、アジアでずっと存在してきた」ということをテーマとして取り上げることにしました。
具体的には、日本ではどのようにクィアが存在してきたかということや、「クィア・アジアの中での日本」に焦点を当てることにしたのですが、日本におけるLGBTQ+のコミニュケーションの現状を知るにつれ、公共の場でタブー視されているものをまずは公に話すことが必要だと感じ、「クィア・アジアの中での日本」をテーマに、掘り下げていきたいと感じました。
山﨑健太 僕たちのチームでは、日本以外のアジア拠点のアーティストやパフォーマーと一緒に創作することが決まっていたので、いろいろな地域のアーティストやパフォーマーと作品を作るときに何をテーマにしたら面白い作品ができるかを考えていきました。y/nではこれまで、カミングアウトとセックスワーカーをテーマにした作品を作ってきたので、最初は性に関することをやるのが良いのではというアイデアもあったのですが、セリーナさんがクィアをテーマにすると聞いたので、規律や規範を作り出すものという点で性に関する話とある程度連続性がある“教育”をテーマにすることにしました。
橋本清 文化圏が異なるパフォーマーとの関係性を考えるうえでも、また、観客との関係を考えるうえでも教育は面白いテーマになるのではと思いました。例えば学校では、先生と生徒は教える / 教えられるという関係性を持っていますが、ディレクターとパフォーマー、パフォーマーと観客、パフォーマー同士の関係にも重なる部分があります。それぞれの置かれている立場や権力の違いなども含め、教育をテーマにしたパフォーマンスを通じていろいろな関係性が扱えるんじゃないかと思ったんです。
パフォーマーに求めたこと
──セリーナさんの作品には鮭スペアレの俳優・葵さん、東京藝術大学の博士課程に在籍中のアーティスト、ノマドさん、ダンサー・俳優の𠮷澤慎吾さんが出演。y/nの作品にはシンガポールのパフォーマーで作家・劇作家のディア・ハキム・K.さん、台湾のアーティストであるクリスティ・ライさん、フィリピンの芸術作家・シグロさんが参加されました。オーディションでは、どのような点を意識してメンバーを決定したのでしょう?
セリーナ 「『クィア』で『アジア人』であることとは?」をテーマにしたので、募集の際にはなるべく具体的にしようと思い、“ジェンダーに関して規範的に生きていない人としての実体験がある”という募集条件を挙げました。また“アジア人”という点については、当初は民族的な日本人が応募してくるのではないかと思っていたのですが、結果的に民族的には日本人ではないけれども、ラテン系の人や黒人系の人など、日本を拠点にしているさまざまなアーティストが応募してくれ、日本に拠点を置く、民族的には日本人でないアーティストの苦しみが相当あるということもよくわかりました。今回のパフォーマー募集は、私にとってクィア性やアジア性とは何かを問い直す良い機会になりましたし、同時にアジアとか日本人というカテゴリーで制限されるべきではないとも思いました。
橋本 募集にあたっては、自立したアーティストでありパフォーマーであるという点を大事にしました。y/nでは普段、基本的に僕1人がパフォーマーとして舞台に立ち、構成・演出はヤマケン(山﨑)さんと2人でディスカッションしながら行っています。今回は、y/nとして初めて、複数のパフォーマーとコラボレーションする機会だったのですが、まずは教育をテーマに、それぞれが受けてきた教育体験や、それを支える社会的制度、文化的背景などを積極的に自分なりのスキルや考え方でシェアできる人であるかどうかがポイントになりました。
山﨑 スキルと同時に、面談では人物としてチャーミングである人を選びました。書類を見た限りではスキルフルに見えた人が、面談してみるといまいち意思疎通がうまくいかなかった、ということもあって。一緒に作品を作るにはコミュニケーションがうまく取れないと難しいので、きちんと受け答えができる人かどうかということと、お互いに相手に対して興味が持てるかどうかということを中心に決めました。それと、ジェンダーにせよ文化的なバックグラウンドにせよ、なるべくいろいろな人と一緒にやりたいなと思っていたのですが、結果的に一番良い3人を選んだら良いバランスになりました(笑)。
パフォーマーたちと信頼関係を築くには?
──7月にメンバーが決定。8月上旬にはキックオフが行われ、8月から9月にかけてオンラインリハーサル、9月末には東京での滞在制作も行われました。初対面からどのようにチームの信頼関係を深めていったのでしょうか?
セリーナ パフォーマーとの信頼関係を作るのはすごく難しかったです。というのも、私たちが扱っているテーマは、1人ひとりの実体験をベースにしていたので、それぞれの過去のトラウマやまだ治りかけの傷も含めて表に出す必要があったんです。それが本当に難しかったですね。まずはお互いを知るために自己紹介をして、それぞれの芸術的実践とか興味、社会的な主張などを知るようにしたうえで、クィア・アジアを脱構築することで、その意味や芸術性についてクリアにしていきました。またクィア・アジアというテーマが、それぞれの生活の中でどのように存在するかを探っていくことにし、例えば子供の頃の話とか差別された経験、自分のアイデンティティをどう発見したのか、今はそんな自分のアイデンティティを祝福できているかなどを共有していきました。
ただ今回のパフォーマンス試作発表まではクリエーション期間がとても短かったので、正直なところ、完全にみんながオープンになったとは言い切れません。でも私はそれも尊重すべきだと思っていて、オープンになるよう急かすのではなく、それぞれが自分のペースでオープンになっていけるような空間を作ることが必要だと思いましたし、パフォーマーがどこまでオープンになっているかはパフォーマンスにも表れていたと思います。例えば葵さんはとてもオープンで、口頭で実体験を表現していたと思いますが、るちぇ(𠮷澤)さんやノマドさんは身体的表現だったりビジュアル的な見せ方で表してくれました。それぞれが自分に自信を持って、「こういうふうに表現したい」というやり方で作品を発表できていたと思います。
──セリーナさんから見て、オープンになることの難しさは文化的なバックグラウンドの違いによるものだと思いますか、それともフィリピンでも同じような状況なのでしょうか?
セリーナ 実は最初の顔合わせで、「東京芸術祭」のコミュニケーションデザインチーム(CDT)から、それぞれとのコミュニケーションの取り方に関してアンケートが行われました。そのアンケートの結果で発見したのですが、私たちのチームのパフォーマーは、自分が表現することよりも人の話を聞く方が得意な人たちだったんです(笑)。実は私も、パフォーマンスアーティストではありますが、人の話を聞くほうが得意なので、お互いの実体験や思いを、さまざまな共有方法を試しながら研究していきました。
山﨑 僕らのチームはコミュニケーションを取ることが好きな人が多かったので(笑)、コミュニケーション自体は割と円滑で、わからないことがあればお互いに聞き合うというような関係性ができていたと思います。苦労した点を挙げるとしたら、ディアさんとシグロさんは作品を通して割と政治的な主張を伝えるような活動をされてきた方で、一方でy/nは作品の中で1つの主張を伝えるということをしたくないと思っているためスタンスの違いがあり、その違いを共有することが難しかったです。最初のうちは何度も「この作品で何を伝えたいのか」と聞かれ、その度に特定の主張があるわけではないと答えていました。最終的にはそういう形のパフォーマンスもあるのだということを了解してもらえたと思います。
もう1つ難しかったのはこれまでのクリエーションとのコミュニケーションのあり方の違いです。普段は僕と橋本くんが1対1でやりとりしながらパフォーマンスを組み立てていくのですが、今回は僕だけがパフォーマーではなかったので、僕1人とパフォーマー4人という構図になることが多かった。そうすると1対1で作るときほどの濃密なコミュニケーションはどうしても取れず、そこは難しいなと感じていました。
橋本 セリーナさんも言及されましたが、チームのメンバーとコミュニケーションを築くうえで、CDTの存在が大きかったです。オンライン稽古が始まる前に参加者に向けたレクチャーが行われ、異なるバックグラウンドを持つ人々がいかに互いを尊重できるか、安全な環境でそれぞれの力を発揮するための現場作りのノウハウのようなものをたくさん紹介してもらいました。CDTのアドバイスなどもあり、具体的にy/nとしては、オンライン稽古の初めに稽古場でのルールを決めるということを行いました。どんな稽古場であれば安心してクリエーションができるか、自分と相手のボーダーラインをオープンにできる範囲で言語化して、それを文章に残していつでもメンバーが確認できるようにしたんです。また、どうしてもオンライン稽古では時間の制約などもあり、ディレクターとしてある程度イニシアチブを握りながら稽古を進めていく必要があったので、稽古初めに通訳込みで20分程度のウォーミングアップをパフォーマー主導でやってもらう時間も作ってみたりしました。
また個人的には、先ほどヤマケンさんが、“y/nは普段は1対1の関係なのが1対4になる”ことの難しさを話していましたが、僕はパフォーマーでもあり同時にディレクターでもあったので、パフォーマーたちと接するときに、自分が一パフォーマーなのかディレクターなのかということを常に考えなければならず、そこにはかなりのエネルギーを使いました。
10月の試作発表を経て
──それぞれの試作発表を拝見して伺いたいことがあります。セリーナさんの作品では、「かぐや姫」と「花咲か爺さん」、日本の2つの昔話がモチーフになっていました。この2つの昔話が持つ背景や意味合いは日本人であれば大体イメージができると思うのですが、フィリピン出身のセリーナさんはどのように感じましたか?
セリーナ 今回のクリエーションプロセスでは、パフォーマーがそれぞれ子供のときから聞かされていたお話を持ち寄り、それをクィアな視点で見るとどのようにクィア化できるかをディスカッションする、ということを行いました。そこから、「かぐや姫」や「花咲か爺さん」が上がってきたのですが、どちらも自然や環境に関連づいたお話だなと感じました。実はこういったリサーチの形はフィリピンでも行っていて、フィリピンの昔話にも海とか大地、木々など、自然にまつわるお話がとても多いんです。という点で、日本とフィリピンは似ているなと思い、読み解きやすかったです。
ディスカッションの過程で、自然という概念がよく女性性に結びつけられがちなのはなぜか、それは再生産できるという考えからではないか、という話になりました。でもクィアの視点では、自然を人間の概念でジェンダー化するのはおかしいし、私たちは自然を特にジェンダー化して捉えず、あくまでもストーリーを前に進める1つの要素として描くことにしました。
──y/nの作品では、舞台奥のスクリーンに次々と短い質問が映し出され、パフォーマーがそれに○か×か、あるいはyesかnoかで答えていくという形で展開していきました。質問の内容は、例えば数式とその解答という正解不正解がはっきりするものから、「教育は義務だ」というような一瞬答えに窮するようなものもあり、また個人の思いや経験に由来することからもっと幅広い概念を問うものまでさまざまで、それらの問いにパフォーマーは即興で答えているような印象を受けました。でもあらかじめきちんと字幕が用意されていること、展開が進むにつれて作品の意図が浮かび上がってくることから、決してアドリブではなく意図的に構成された作品だと感じたのですが、どのように考えていかれたのでしょうか?
橋本 まずクイズの形式を採用したのは、出題者と回答者の間で交わされる“答え”の存在がユニークだと感じたからです。例えば一般常識を問いかけるような○×クイズは、出題者が正解を持っている状態とも言えて、一方でyes / noクエスチョンは答える側がyesかnoかの答えを持っている。一見すると同じ形式に見えるものの中に、複数の状態というか関係の違いがあるのが面白いなと思ったんです。○か×か、yesかnoかへの“移動”についてはパフォーマーの判断に任せていて、もちろん演出的にここは○であってほしいというところはあったのですが、基本的にはパフォーマーそれぞれがいろいろな理由や動機を持って質問に答えるということを尊重しました。
山﨑 y/nとしては、ほかの文化圏の人と共同制作する以上、それぞれの文化の差異はきちんと見せたいと思いつつ、一方でパフォーマー個人を、その人が背負っている属性……つまり国やジェンダーの代表者として見せることは避けたいと思っていました。クイズの内容については、y/nの側でもさまざまなタイプの質問を用意しましたが、パフォーマーから出てきたアイデアも多いです。パフォーマーにとっては、ある質問をすること自体が1つの主張になっていたり、質問に答えること、ほかのパフォーマーの回答に何かコメントをすることがまた別の主張になる。そうやって複数のレイヤーで自分のスタンスやパフォーマンスを通してやりたいことを組み込めるのがこの作品の構造的な面白さだと思っています。個人の体験に基づく答えと、国や地域に結びついた答えがグラデーションで行き来することで、個人の在り方、それぞれの国のあり方を浮き上がって来るのも面白いですよね。即興的に見えたのは、おそらくパフォーマーのチャーミングさと、何回やっても生き生きと演じてくれたせいではないかと思います(笑)。
作品と「Farm-Lab Exhibition」のこれから
──今回の試作発表で、2チームの作品とも、作品の核は見えてきました。今回は試作ということですが、作品はこのあと本公演に向けてどのように発展していくのでしょうか。また今回皆さんが参加された「Farm-Lab Exhibition」という枠組みで、異なる環境にある若手アーティストとコラボレーションすることが、ご自身や作品にどのような影響を与えると思いますか?
セリーナ 今回私が試作発表した作品の未来はとても明るいと思っていますし、それはy/nの作品についても言えるのではないかと思います。どちらもすごくポテンシャルがある作品で、それは私たちディレクターのビジョンを、パフォーマーが現実化するために努力してくれたからです。加えて、「東京芸術祭」の制作チームやCDT、プロデューサーなどすべての人たちが、私たちの作品の実現を可能にしてくれたと思います。今回の作品は最初のステップとして、まずは少しでもオープンになること、そしてそれを公の場で表現することが目標としてありましたが、次のステップではもっと勇敢な、もっとオープンなバージョンを発表し、もっと勇敢な自分たちを発見していくことを目指したいと思います。そしてそれを、アクセシビリティを考えてオンラインであるとか、より多くの人に観てもらえるような方法を考えていけるよう、ディレクターとして努力していきたいと思います。
今回は上演時間30分という制限があったので、触れられなかったテーマやアイデアがたくさんありました。それはこの作品を発展させるときにぜひ触れていきたいと思っていますし、さらにこの作品で描こうとしていることは、文化的文脈や時代、社会情勢、政治的文脈、あるいはチーム全員の個人的体験によって変化していく、かなり変容性の高い作品なんじゃないかなと思うんですね。ですから私としては、今は日本に焦点を当てた作品となっていますが、対象をさらに広げて、アジアにとどまらずさまざまな場所でクリエーションを行い、私たちが苦戦していること、差別されていること、暴力を受けていることを明らかにして、そのことについてもう言及しなくても良い時代になることを期待しています。このような作品を作ることによって、自分らしく生きられる時代が来ることを目指したいです。
──確かに今回のクリエーションのやり方は、ほかの地域でも展開できそうですね。
セリーナ そうですね。また「Farm-Lab Exhibition」によってさまざまな背景を持ったアーティストとコラボレートしたことは、私にとって本当に学びが多く、作り手として、アクティビストとして、アーティストとして、さまざまな経験ができたと思います。フィリピンの外に出て日本とフィリピンの差を見るだけで、ほかの地域はどうなんだろうと考えるきっかけになりましたし、世界は大きいと気づかされました。また自分たちの中で見つけた“クィアの力”を世界に広げることによって、既存の社会を変えることができると思っています。今回のクリエーションでは、私がもともと持っていたアイデンティティとかジェンダー、セクシュアリティというテーマにいろいろな人が関わることによって、非常に包括的な作品を作ることができたと思っていて、これまで人間が構築してきたさまざまな既成概念に止まらない、クィア性を体験できたと思っています。それは自分1人では到達できないことで、作品に関わってくれたさまざまな人たちが作品を前進させてくれたと思いますし、作品を作り、それについてディスカッションし、フィードバックして、作品に変化を加えながら実践していくというやり方を拡大していけば、社会や世界を変えていくことにもつながるんじゃないかと思っています。
山﨑 y/nとしては、まずは「教育」に対するそれぞれの考えをある程度共有することができたという意味で、フルサイズの作品のクリエーションに向けた準備が整ったと思っています。一方で、あるトピックについて突っ込んで考えるとか、長い時間をかけてディスカッションをするということはまだできていません。今後は個別のトピックについて深めていく方向でも作品を発展させていけたらと思っています。
パフォーマーそれぞれのスキルを生かした場面ももう少し作っていきたい。今回試みたクイズ形式とまったく別のものとして取り入れるというよりは、それぞれのスキルとクイズ形式が結びつくことで新たな視点が生み出させれば良いなと。
今回のクリエーションは時間がすごく限られたものでした。ただ、もし1年後に本公演が実現できるならば、すでにある程度密なやり取りを経た状態からクリエーションが始められるので、その意味で「Farm-Lab Exhibition」という枠組みの意義は大きいと思います。また、せっかく1年をかけて同じテーマに取り組むことができるかもしれない機会なので、y/nとしても教育というテーマでもう1本、新たな作品を作ってみたいとも考えています。
橋本 今回、パフォーマーにも日々、アトリエイーストに入ってからは特に「作品の中でどこか改善すべきところがあれば挙げてほしい」と声をかけ、パフォーマンスの精度を高めて作品をブラッシュアップしていくための、返し稽古のシーンのピックアップをパフォーマー自身にも考えてもらうようにしていたのですが、こちらが想定していたよりもなかなか意見が出てきませんでした。それはもしかしたら、それぞれのパフォーマーがこれまでに受けてきた演劇や演技の教育、とりわけ演出家との関わり方の違いが影響しているのかもしれません。つまり、ある特定のパフォーマンスがうまくいった / いかなかったという判断をパフォーマー自身が率先して現場でオープンにしていく作業には、その是非や経験の有無など含めて、個人差や文化的な差があるんじゃないかと思ったんです。もちろんそれは、ディレクターとの信頼関係に関わる話でもありますが、「パフォーマンスを通して作品をより良くするとはどういうことか」という点については、まだまだ十分に言葉を交わせていないと感じています。本公演の機会があった際には、そうした部分をもっともっと深めていきたいと考えています。
また、y/nとしても個人としても、初めての国際共同制作だったので、今回のやり方が自分の中での“基準”になりました。もしまた今後、国際共同制作に携わったりほかのアーティストとコラボレーションをする際には、今回の経験をもとに作品のことを考えるようになるのだろうなと思います。「Farm-Lab Exhibition」も年々、さまざまな改善が加えられて、プログラムの枠組みや制度が少しずつ変化しているそうなのですが、僕も今回の経験をほかのプロジェクトに生かしながら、少しでもより良い環境作りに関わっていけたらと思っています。
プロフィール
セリーナ・マギリュー
1998年、フィリピン生まれ。トランスピナイの俳優、パフォーマンスアーティスト、アクティビスト。
y/n(ワイエヌ)
2019年に結成された、演出家・俳優の橋本清と批評家・ドラマトゥルクの山﨑健太によるユニット。