個ではなく群で見せたい
──今回の上演では、ムーバー(動き手)とスピーカー(語り手 / 声)が分かれていますね。そのアイデアはどこから沸いて来たのですか?
小野寺 自分にとっては野外ということが大きいんですが、その人がその場でしゃべる、ということにあまりリアリティを感じられなかったんですね。劇場であれば、ある種完結した世界を作ることはできるんだけど、誰かがある役のセリフを声を張って言うっていうことが、あまりピンと来なかった。僕は、“ここで芝居をしてます!”ということを見せたいというよりは、そこにいる人が魅力的であれば良いと思っているので、“身体はここにあって、セリフはここで発する”ほうが嘘じゃない感じに成立し得るんじゃないかと思ったんです。もちろん、そのスペシャリストである宮城(聰)さんから今回の野外劇のお話をいただいたということもありますし(編集注:宮城は演出方法の1つとして、語る俳優と動く俳優を分けた“二人一役”の方法を取ることがある)、僕自身その表現に対する憧れや興味もあったので、どういう形でも自分なりに腑に落ちる形でやってみたいと思いもありました。手法を真似するというよりは、自分の中で嘘じゃない表現を探していく中でムーバーとスピーカーを分けるのがしっくり来たし、そうすることで何か新たな表現を発見したい、そんなことを試す良い機会になるんじゃないかなと思っています。
──稽古でも実際に試されたのでしょうか?
片桐 一生懸命動いている人の動きに声を当てる、ということは実際にやってみました。でもそれが本当にうまくいくかどうかはまだわかりません。ただ野外で人を惹きつけるには、ある程度の音量とか手段の面白さは必要だし、それが見つけられたら良いなと思っているので、もっと試していきたいです。
──キャストオーディションも行われました。どんなことを意識して決めましたか?
小野寺 できるだけ多くの人と出会いたいと思っていたのと、メインとアンサンブルといった考えではなく、1つの集合体としてのやり方を考えたいと思っていました。というのも今回は、たとえはいりさんだとしても、野外で1時間半を埋め切るのは無理だと思うんです。個の面白さではなく、群の面白さで引きつけたいし、であればキャリアやテクニック以上に熱みたいなもの、「何かをやってみたい!」と思うエネルギーが重要なんじゃないかと思って、その点を重視してメンバーを考えました。
人間力で人を引きつけたい
──本日、GLOBAL RING THEATREの前で撮影しましたが、改めて野外劇で演じる楽しさ、難しさをどんなふうに感じていますか?
片桐 お天気も、その場を通る人も含め、何が起きるかわからない場所、予定したことが確実にできるかどうかわからない状況で演じるということは、人前で何かをやろうとするときのエッセンシャルな部分だと思います。……まあ、私はセリフをきちっと言うタイプの俳優なので、アドリブが得意というわけではないですけど(笑)、それでもワクワクを掻き立てられますし、1コインでチケットを買っていす席でご覧になる方はもちろん大事ですが、もともとこの場所にいる人とか、通りすがりの人、そういう人たちの目線をなんとか引きつけて、こっちを向かせてみたいという野望があります。それと私、実は今年デビュー40周年なんです! 40年目にして原点に帰るというか、人を引きつけたいとかびっくりさせたいとい気持ちにちゃんと炎が点くか、今回は試されているような気がします。「東京芸術祭」にとっても野外劇シリーズは、普段あまり演劇に触れていない人に“ひらく”ことを目指したプログラムだそうですが、私自身、そういう役割を担えたらと思います。
小野寺 この1・2年、コロナのこともあり、自分の活動や表現に対して立ち止まることや、改めて考える時間が増えて。その中でこの野外劇のお話をいただき、改めて“演者を晒す”ことについて考えました。近年デラシネラは、学校の体育館で生徒さんたちに演目を観せる活動を続けているんですけど、体育館って音響はあっても照明効果は使えないし、子供たちも何が起きるのかわからないまま観ている。普通の劇場でやるような完全な状態ではない。俳優たちはある意味、説明の足りていない状況の中へ出ていくんです。でもそこから見えてくるのって、演技のうまい下手以上に、役者さんの人間力というか、「この人、人間的になんか観ちゃうな」っていう部分だと思うし、その点で野外劇も学校公演の延長線上にある感じがして。
水と油という団体をやっていた頃から、僕は1つのつながった物語を見せるより、強度のあるピースをつなげて形にする表現方法を模索して来ました。今もその点から線を創造させるやり方が、しっくりくるなと思っています。なので今回は、人を晒すということと、強度のあるピースを作ることを特に意識していて。演出的にも、「嵐が丘」のお話を綺麗な完成した加工品として見せたいというより、例えばはいりさんをその場にどういう状態で置くとイメージが増幅するかを意識していきたい。表現が固まりそうになるのをギリギリまで拒絶し、もがき、考え続けたいと思います。
プロフィール
小野寺修二(オノデラシュウジ)
1966年、北海道生まれ。演出家。日本マイム研究所にてマイムを学び、1995年から2006年にパフォーマンスシアター水と油にて活動。その後、文化庁新進芸術家海外留学制度研修員として1年間フランスに滞在し帰国後、カンパニーデラシネラを立ち上げる。音楽劇や演劇での振付も多数。第18回読売演劇大賞最優秀スタッフ賞を受賞した。近年の主な演出作に「Knife」「ドン・キホーテ」「TOGE」「ふしぎの国のアリス」など。
小野寺修二 (@derashinera) | Twitter
片桐はいり(カタギリハイリ)
1963年、東京都生まれ。大学在学中に銀座文化劇場(現・シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトと同時に俳優活動を開始し、映画・テレビドラマ・舞台と幅広く活動。近年の主な舞台作品にサンプル「自慢の息子」、M&0playsプロデュース「二度目の夏」、「そして春になった」、「未練の幽霊と怪物-『挫波』『敦賀』-」など。
9月23日はGLOBAL RING THEATREで踊ろう!
9月23日にGLOBAL RING THEATREで行われる「東京芸術祭 2022グランドオープニング」では、「シン・マイムマイム」が披露される。これは、マイムマイムをはじめとするフォークダンスを、CHAiroiPLINのスズキ拓朗振付で新たに立ち上げるもの。ここでは8月末に行われた初稽古の様子を、スズキのコメントから紹介する。
「あなたの勇気が面白い出会いを作ってくれる」
スズキ拓朗
──今回はフォークダンスをアレンジしたパフォーマンスが披露されるとのことですが、スズキさんが感じるフォークダンスの良さ、魅力とは?
フォークダンスには、初めて会う人とでも、なんとなく踊れるという良さがあります。何よりも、踊りのうまい下手関係なく、間違って踊ることも含めて笑い合えるところにも魅力があります。そして踊っているうちに「あれ、自分ちょっとうまくなってるかも」なんて思えるのも素敵です。そして基本隊型が円を描き、お互いの顔と顔を見ながら踊れることも面白さの1つです! 今回は伝統的なフォークダンスにアレンジを加え、ヘンテコな振付やカッコいいポーズなんかもあります! ぜひお互いの身体の素敵さを発見し合ってくださいね!
──初稽古ではどのような手応えを感じましたか?
普段舞台で一緒に踊りを盛り上げている、プロのダンサーの皆様で集まりました! 毎日のように踊っているメンバーなので、体力も振り覚えも何の問題もなく進むと思いましたが、これが案外いい汗をかく! 笑顔になる! 繰り返し同じ動きをすると案外間違える! 「子供の頃を思い出す」「今でも全然楽しいね」「好きだった子のことを思い出す」なんて会話をしながら、普段とは違う面が見え隠れして良い時間でした!
──「シン・マイムマイム」には誰もが飛び入り参加できるということですが、参加を迷っている方の背中を押すような一言を、お願いします!
子供はもちろん大人の皆さんにもぜひとも踊っていただきたいです。昔必ず聴いたことのある曲なので、身体が勝手に踊り出します。心もなんだか若返ります!(笑) 観に来るだけでも案外楽しめますよ。人は人が踊っているのを観るのがけっこう好きなのです。そして観ていると踊りたくなるのです。
人と人とのコミュニケーションや、触れ合いが遠のいている今日この頃。マスクを外すことはできませんが、きっと“ほんのり”としたものがあなたの心に残るはず! あなたの勇気が面白い出会いを作ってくれる! さぁ出かけましょう! お待ちしています!
プロフィール
スズキ拓朗(スズキタクロウ)
1985年、新潟県生まれ。CHAiroiPLIN主宰。第46回舞踊批評家協会新人賞、日本ダンスフォーラム賞、若手演出家コンクール最優秀賞、世田谷区芸術アワード飛翔、芸術祭新人賞など、数々の賞を獲得。NHK「みいつけた!」振付・出演、「刀剣乱舞」「文豪ストレイドックス」、帝国劇場、博多座公演への振付など多数。フィリップ・ドゥクフレ作品などにも客演。城西国際大学、国際文化学園などで非常勤講師。公益財団法人セゾン文化財団セゾンフォローⅡ。平成27年度東アジア文化交流使。
スズキ拓朗 (@suzukihokuro) | Twitter