シュツットガルト・バレエ団6年ぶりの来日公演に、フリーデマン・フォーゲルが思い語る (2/2)

「椿姫」は動きやディテールに注目して

──続けて「椿姫」についてお話を伺います。ジョン・ノイマイヤー振付の「椿姫」もシュツットガルト・バレエ団のとても重要なレパートリーです。高級娼婦のマルグリットに一途な愛を捧げるアルマン役は、オネーギンとはまったく違った、若く情熱的なキャラクターですが、この役を演じるにあたっては、どういったことを心がけていますか?

「椿姫」のアルマンは、とてもロマンチックで情熱的で詩的で、愛にあふれている役だと思います。洗練された女性マルグリットと恋に落ち、ドラマティックな恋愛という意味では「オネーギン」と似ているのですが、オネーギンとは逆の状況です。先ほども申し上げたように、私は型にはめられるのは好きではなく、自分の中にいろいろな要素があることをお見せできることが大事だと思っているので、今回の公演で「オネーギン」と「椿姫」、2つの異なる作品、異なる役を日本のお客様を観ていただけるのがうれしいです。

「椿姫」より。©Roman Novitzky/Stuttgart Ballet

「椿姫」より。©Roman Novitzky/Stuttgart Ballet

──「椿姫」はショパンの音楽を全編に使った、巨匠ジョン・ノイマイヤーによる名作です。特に3つの美しいパ・ド・ドゥがあって、今年の「世界バレエフェスティバル」のAプロでも、フリーデマンさんの第1幕のパ・ド・ドゥのドラマティックで情熱がほとばしるフォーマンスを拝見しました。初めて観る方に、この作品の魅力について教えていただければと思います。

「椿姫」は、ショパンの音楽性とさまざまなディテールの組み合わせ、コンビネーションが素晴らしい作品です。例えば“誰かを見る”というそのアクション1つひとつが、ともすれば大きいリフトよりも大きな力を持つ場面もあります。ノイマイヤーは本当に繊細な作品を創る方なので、異なるディテールを楽しんでもらいたい。加えて静寂の間、と言うべき、静かだけど美しい時間もたくさんあり、バレエの中でのそのような瞬間も注目していただきたいと思います。

また「椿姫」のリフトは数あるバレエの中でも、高い技術が求められる難しいリフトですが、マルグリットとアルマンがこのリフトの中で絡み合うことで、彼らの心情が痛いほど伝わってきます。第2幕で披露される(マルグリットからの別れを告げる手紙を読んだあとの)アルマンのソロも、彼の心情の中身、魂を絞り出すような壮絶なソロです。マルグリットからの手紙を読む彼が何を思っているか、手紙にどういったことを書かれていて、何を感じているかが全部動きに表れていて、心がちぎれそうな動きから彼の心情が伝わってきます。そういった動きやディテールの数々にぜひ注目してください!

「椿姫」より。©Roman Novitzky/Stuttgart Ballet

「椿姫」より。©Roman Novitzky/Stuttgart Ballet

「椿姫」より。©Roman Novitzky/Stuttgart Ballet

「椿姫」より。©Roman Novitzky/Stuttgart Ballet

また、シュツットガルト・バレエ団に入団して25年が経ちますが、ありがたいことに(クランコのミューズだった伝説的なプリマ・バレリーナで「オネーギン」のタチヤーナ役や椿姫のマルグリット役を初演した)マリシア・ハイデが私のメンターで、いろいろなことを教えてくれています。記憶に残っているのは、37歳のときにチリのサンティアゴで「ボレロ」を踊ったときのことでした。そのときに「僕はもう38歳なんです」って彼女に言ったら、「まだまだじゃない。38歳からキャリアが始まりますよ。私も38歳からいろいろなバレエをより上手く踊れるようになったのです」と言ってくれました。そこで考え方が変わり、時間にとらわれずに踊ることが大事だ、と実感したんです。以来、もちろん自分の体が効く限りのことですし、運もあるとは思いますが、年齢を重ねることによって、より深いところでアーティストとして探求できる部分があると思っています。

フリーデマン・フォーゲル

フリーデマン・フォーゲル

アーティストとしての使命を感じながら。来日公演に臨みたい

──東日本大震災があったときに、フリーデマンさんがボランティアで福島に行って、福島のダンスを学ぶ人たちのためにレッスンを開いてくれたことは、私達日本のファンはよく覚えています。本当に感謝しています。最後に、シュツットガルト・バレエ団の来日を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。

キャリアにおける数々の重要な瞬間を日本で過ごし、皆様と共有させていただきました。新しい役のお披露目も日本でさせていただいていますし、「ロミオとジュリエット」もクランコ版とマクミラン版の両方を日本で2回踊りました。日本のお客様は本当に私を応援してくれており、私のお気に入りの国です。皆様に感謝を申し上げたいと、長年思ってきました。その一方で今、世界中で戦争だったり自然災害だったりと、いろいろな大変なことが起きています。そのような状況にある今、私としては、舞台を通じて皆さんに希望を与えること、そしていろいろな異なった視点を提案することが、アーティストとしての使命だと思っています。今回の来日公演でもそのメッセージを、皆さんに強く伝えたいと思います。

フリーデマン・フォーゲル

フリーデマン・フォーゲル

フリーデマン・フォーゲル

フリーデマン・フォーゲル

プロフィール

フリーデマン・フォーゲル

1979年、ドイツ生まれ。モンテカルロのバレエ学校プリンセス・グレース・アカデミーを卒業。1997年にローザンヌ国際バレエコンクール金賞を受賞するなど数々のコンクールで注目を集める。1998年にシュツットガルト・バレエ団に入団。2002年にプリンシパルに任命された。ジョン・クランコ、ジョージ・バランシン、ジェローム・ロビンス、イリ・キリアン、ジョン・ノイマイヤー、ウィリアム・フォーサイス、ウェイン・マクレガーなどさまざまな振付家の作品で大役を務める。2015年9月、ドイツのダンサーにとって最高の栄誉である「Kammertänzer」の国家称号を授与された。2021年、初めて振付に挑戦しトーマス・レンペルツと短編ソロ「Not in my hands」を共同制作を行い、2024年2月には、フランクフルトのクライスト・フォーラムで初の長編共同作品「Die Seele am Faden/Soul Threads」を初演。7月にはイタリアのスポレート・フェスティバルにツアーを行った。そのほか、国内外の劇場で活躍している。2024年、シュツットガルト・バレエ団在籍25周年を記念して、振付家故ジョン・クランコの作品普及への貢献が認められ、ジョン・クランコ賞を受賞。