松本零士の原作を舞台化した「スタンレーの魔女」が3度目の上演を迎える。日本軍爆撃隊をテーマにした本作で、御笠ノ忠次は何を伝えたいのか? 公募オーディションで主役の座を射止めた石井凌との対談を通して、2人が戦争を扱う作品に抱く違和感や、舞台「スタンレーの魔女」を上演するうえで大切にしたいこと、さらに石井が抜擢された理由が明らかになる。
取材・文 / 興野汐里 撮影 / 齊藤幸子
「銀河鉄道999」で知られる松本零士の短編マンガで、第二次世界大戦を題材にした「戦場まんがシリーズ」の1作品。太平洋戦争中、ニューブリテン島のラバウルを飛び立った日本軍爆撃隊は、標高5000m級の山々をたたえたニューギニア島のスタンレー山脈を越え、連合国軍基地のあるポートモレスビーを目指す。
2006年に御笠ノ忠次率いるspacenoidが舞台化。08年には、御笠ノと*pnish*の土屋佑壱を中心にしたユニット・サバダミカンダの旗揚げ公演で再演され、今回が3度目の上演となる。
決め手は童貞っぽさ
──御笠ノさんは、松本零士さんの「スタンレーの魔女」を、2006年と08年の2度にわたって舞台化しました。3度目の上演となる今回、公募オーディションで石井さんが主演に選ばれましたが、御笠ノさんは石井さんのどんなところに惹かれたのでしょう?
御笠ノ忠次 僕の言葉で言っていいですか? ずばり童貞っぽさです。
石井凌 ははは!
御笠ノ イノセントな感じというか……これ、褒めてるからね?(笑)
石井 あ、褒めてくださってたんですね(笑)。
御笠ノ イマジネーションをちゃんと持ってる人間って、どこを見てるのかがわからないことがあるんだよ。石井くんはね、そんな空気をまとってたの。俺の中ではそれを童貞っぽさって呼んでるんだけど(笑)。
石井 (そんな空気を)出してましたかねえ(笑)。落ちてもいいから、とりあえず何でもいいからやってみようという気持ちでオーディションに臨んだことは覚えてます。
御笠ノ わりとグイグイ来てたよね。でも、自分をプレゼンするためにグイグイ来てる感じじゃなかったのが面白かった。結果を出そうっていうことじゃなくて、何かを持って帰ろうとする気持ちを感じたんですよ。
石井 マネージャーから電話がかかってきたとき、オーディションでの態度について怒られるのかなと思っていたら、「受かったよ」って言われて。初めのうちは「なんで受かったんだろう?」と思っていたんですが、公演情報やビジュアルが解禁されるうちに「ああ、受かったんだな」って実感が湧いてきて……。
──先日、キャストの皆さんが飛行服を着用したビジュアルが公開されました(参照:松本零士×御笠ノ忠次「スタンレーの魔女」石井凌、唐橋充らのビジュアル公開)。唐橋充さんや宮下雄也さん、モダンスイマーズの津村知与支さんといった共演者の方々とは、ビジュアル撮影時に何かお話されましたか?
石井 緊張してしまってあまりお話できず……ご挨拶だけ。
御笠ノ ほかの役者さんに関しては、僕が近年出会ってきた中で面白い人たちに集まってもらっていて、つわものの集まりというか、かなり濃いメンツなんです。だから、あのメンバーの真ん中に誰を立てるかっていうのが実はかなり難しかったんですけど、石井くんならいい感じに巻き込まれてくれそうな気がして。
──津村さんは08年版にも出演されていらっしゃいましたね。
御笠ノ 08年版とつながりを持たせたくて、誰かにもう一度出演してもらいたいと思っていたんですよね。津村さんに関しては前回と役が変わる予定で、今の津村さんならきっとハマるだろうなという役をお願いしようと思っています。
──カンパニーのメンバーや会場が変われば作品の雰囲気も変わると思います。今回はどのような演出プランを想定されていますか?
御笠ノ 僕はディスカッションしながら稽古することが多いんですが、今回も台本をベースにワークショップをしながら進めていこうと考えているので、きっとこのメンバーじゃないとできないものになるんじゃないかなと思います。あとはもしかしたら、“今のお芝居”に慣れている方にとってスローテンポに感じるような、ゆったりとした作品になるかもしれません。
──ゆったりとした作品と言うと?
御笠ノ 登場人物が実際に発するセリフと、心の中で思っていることが別で、観客の想像をかき立てることこそが演劇の面白さだったはずなんですけど、最近はセリフと感情が一致している作品が大半で、深く考えなくても理解できる構造になっているから、そのぶんテンポを上げることが可能なんです。でも、人と人の間に存在する正体不明のものを表現できるのが演劇の醍醐味だと思うから、「スタンレー」ではそこを大切にしたいと思っていて。
──近年、御笠ノさんは「ミュージカル『刀剣乱舞』」や、舞台・アニメ「東京喰種トーキョーグール」など、脚本家としても精力的に活動されています。脚本家として作品を執筆することと、演出家として作品を立ち上げることの違いについてどのように意識されていますか?
御笠ノ もともと演出のほうが得意なこともあって、僕は自分のことを脚本家だと思ったことがないんです。脚本と演出、もちろんプロセスは違うけど、全部をひっくるめて“演劇”だと思っているので、“脚本家脳”“演出家脳”みたいなものはあまり意識しないですね。
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- 「スタンレーの魔女」
- 2019年7月28日(日)~8月8日(木)
- 東京都 DDD AOYAMA CROSS THEATER
- スタッフ / キャスト
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原作:松本零士(小学館)
脚本・演出:御笠ノ忠次
出演:石井凌、唐橋充、宮下雄也、池田竜渦爾、松本寛也、永島敬三、松井勇歩、宮田龍平、津村知与支
©︎松本零士/小学館
©︎『スタンレーの魔女』製作委員会
- 御笠ノ忠次(ミカサノチュウジ)
- 1980年7月24日生まれ、千葉県出身。劇作家・演出家。高校卒業後、劇団1980に所属したのち、spacenoidとして本格的な活動を開始した。近年の代表作に、「ミュージカル『刀剣乱舞』」(脚本)、「舞台『東京喰種トーキョーグール』」(脚本)、舞台「文豪ストレイドッグス」(作)、「ダイヤのA The LIVE Ⅴ」(脚本・演出)などがある。8月から9月にかけて舞台「幽☆遊☆白書」(脚本・演出)の公演を控えている。
- 石井凌(イシイリョウ)
- 1994年6月20日生まれ、千葉県出身。近年の出演作に、「犬夜叉」「優しい魔法のとなえ方2017」、ミュージカル座「RANGER-レンジャー-」「B-PROJECT on STAGE『OVER the WAVE!』REMiX」などがある。