セリフの意味を、常に考えています(有村)
──先日のインタビューで、加藤さんは今回の「友達」のテーマを、“反転”と捉えているとお話しされていました。例えば善意でやって来たはずの家族が、悪意と思われるような行動に出たり、家族という言葉の概念が変わっていったり、その様が現代的だと。
林 台本を読みながら、僕もそういうことを考えましたね。
有村 私もです。
──本作に限らず、戯曲の言葉にはさまざまな意味が内包されていることがありますが、お二人は普段台本を読むときに、セリフの裏側についてどのくらい意識しながら読まれますか?
林 作品の背景や、その人物がこれまでどういう生き方をして来たかとか、台本の中に描かれていない部分を大事に考えていきます。
有村 作品にもよりますが、やっぱり私たちはセリフの裏側を深掘りしていくので「このセリフの意味は何か?」を常に考えているとは思います。人によって「このセリフの意味がわからない」とか、「どうしてこのセリフを言ったのか意味がわからない」ということを気にされる方もいますし、逆に「意味がわからない言葉はそのまま意味を考えずに言う」とおっしゃる方もいるので、人によって違う部分があるかもしれませんけど、そもそも人間って、1つの感情では生きていないですよね。
林 そうだね。だから僕も1つの意味にとらわれすぎないように心がけています。
有村 この作品については……どうなんだろう?
林 稽古が進むにつれてわからないことが出てくるかもしれないけど、今回僕は、“こだわり”を捨てたいなというか。きっと加藤さんもそこへ導いてくれるような気がするので、そんな期待感を持って柔軟に取り組めたらなと思います。それに先輩方がどうアプローチしてくるかもわからないので(笑)。浅野(和之)さんは安部公房スタジオのご出身ですから、いろいろ伺いたいなと思いますし、皆さんの解釈を聞けたらと思っています。
新たな上演台本で広がる世界観
──今回は、安部公房の小説「闖入者」、改訂前の戯曲「友達」、改訂版の戯曲「友達」を参照して、加藤さんが新たに編んだ上演台本が用いられます。元の戯曲の世界観とは、また少し違う印象を受けたのですが、お二人はいかがでしたか?
林 加藤さんの上演台本はユーモアがあって、でも徐々に闇を感じるような会話になっていく、その掛け合いがすごく面白いです。“男”がどんどん翻弄されていく様とか、登場人物たちのマウントの取り方、それぞれがすごく面白そうだなと思っています。
有村 とっても読みやすかったです。現代劇のように話し言葉で書いてくださってるからだと思うんですけど、間やテンポも良いですし、すごくおかしなお話ではあるんですけど、考えさせられるテーマも入っていて。
──“正常な男のもとに、異常な家族たちが押し入ってくる”という対立構造ではなく、男と家族の関係がもっとグレーな関係であるようにも見えました。さらに、有村さん演じる次女の存在感がより濃くなったように感じます。
有村 次女は前半、口数が少なくて状況にあまり介入していかず、傍観していることのほうが多いんです。でもそうやって冷静に状況を見てる人のほうが怖いなって思いました(笑)。
林 そうだね、“男”にとって唯一の光のような存在なのに……(笑)。
──林さん演じる長男も、男を騙そうというのではなく、長男なりの正義感で自身のフィールドに男を引き込んでいくような印象を受けました。
林 確かに、加藤さんの上演台本になってそう思いました。さらに長男の無邪気さやピュアな部分も見えて来たので、その意図的じゃない部分をどう見せたらいいのだろうとさっそく悩んでいます(笑)。
──祖父を浅野和之さん、父を山崎一さん、母をキムラ緑子さん、次男を岩男海史さん、三男を大窪人衛さん、長女を富山えり子さん、末娘を伊原六花さんが演じられるほか、男の婚約者を西尾まりさん、弁護士を内藤裕志さん、警官を長友郁真さんと手塚祐介さん、管理人を鷲尾真知子さんが演じられます。加藤さんは今回のキャスティングを「ちょっとした大河ドラマのようだ」とおっしゃっていましたが、お二人はどんなカンパニーになりそうだと思われますか?
林 純粋に、「お客さんとして観たいな」と思いました。普段、舞台を観に行くと目を引くような方たちばかりですし、楽しめる要素がたくさんあると思います。
有村 私は7年ぶりの舞台なので、この顔合わせの中に参加することを実はとっても恐れているんですけど……(笑)。でも、飛び込んで一から学び直すつもりでやらせていただきたいなと。経験ある方々に揉まれて、ご指導を受けながらやっていきたいですし、受け身になるばかりではなく自分からもアプローチをしていけたらいいなと思います。
経験するたび深まる、舞台への思い
──林さんはこれまでも「子供の事情」「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」「日本文学シアターVol.6【坂口安吾】『風博士』」など多数のシス・カンパニー公演に出演されています。シス・カンパニー公演にはどんなカラーがあると感じていらっしゃいますか?
林 カラー……は、ちょっと僕は語れないですけど(笑)、ご一緒させていただく役者さんは皆さん演劇界の宝のような方たちばかりで、とにかく皆さんお芝居を愛しているし、何かを共有し合うことに幸せを感じているような印象があって、壁がないんです。だから舞台を経験するたび、抜け出せなくなりそうだなって。そんなシス・カンパニーの中心には北村(明子)社長がいらっしゃって、北村社長は僕に限らず、俳優1人ひとりに向き合って「今はこうなっているんじゃないか、ああすると良いんじゃないか」とアドバイスをくださるんです。そういう点で、僕にとってシス・カンパニー公演は修行の場という印象です。
──有村さんは2014年に「ジャンヌ・ダルク」で初舞台を踏まれ、観客に鮮烈な印象を与えました。それ以来の舞台となりますが、どんな意気込みを持っていらっしゃいますか?
有村 舞台はずっとやりたいと思っていたんです。でもタイミングの問題があり、なかなか実現しなくて。なので今回、満を持しての舞台です(笑)。「友達」は、作家・演出家の加藤さん、林さんをはじめキャストの方々にも本当に恵まれているので、このときまで舞台を我慢して良かったなと思いますし、シス・カンパニーという場で舞台をやらせていただけることは、自分にとってはものすごくありがたく本当に幸せだなと思います。これを機に、来年、再来年とどんどん舞台もやっていきたいですし、この機会を絶対に無駄にしないぞと思っています。
- 林遣都(ハヤシケント)
- 1990年、滋賀県生まれ。2007年、映画「バッテリー」に主演し俳優デビュー。同作での演技が評価され、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞、第81回キネマ旬報ベスト・テン新人俳優賞などを受賞した。出演舞台には、「家族の基礎~大道寺家の人々~」(作・演出:倉持裕)、「子供の事情」(作・演出:三谷幸喜)、「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」(演出:小川絵梨子)、「熱帯樹」(演出:小川絵梨子)、「日本文学シアターVol.6【坂口安吾】『風博士』」(作:北村想、演出:寺十吾)、「フェードル」(演出:栗山民也)、「坂元裕二 朗読劇2021」(作・演出:坂元裕二)がある。2021年7月には主演映画「犬部!」、11月には小松菜奈とW主演を務める映画「恋する寄生虫」が公開される。
スタイリスト / 菊池陽之介 ヘアメイク / 主代美樹 衣装 / ノーカラージャケット:LA FAVOLA(ラファーボラ)、ノーカラーシャツ:JOHN MASON SMITH(HEMT PR)、パンツ:08サーカス(08ブック)
- 有村架純(アリムラカスミ)
- 1993年、兵庫県生まれ。2010年にドラマ「ハガネの女」でデビュー。2013年放送のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」をきっかけにブレイクし、2017年には「ひよっこ」でヒロインを演じた。初舞台は2014年に上演された主演作「ジャンヌ・ダルク」(脚本:中島かずき、演出:白井晃)。「友達」(演出:加藤拓也)は約7年ぶりの舞台となる。2021年8月には出演作「映画 太陽の子」が公開され、同秋には主演ドラマ「前科者」が放送・配信される。また2022年には映画「前科者」の公開が控えている。
スタイリスト / 瀬川結美子 ヘアメイク / 尾曲いずみ 衣装 / ブラウス、パンツ:TELOPLAN、イヤリング:Jouete