「神楽というハレの場を楽しんで」柳沼昭徳が語る 烏丸ストロークロックと祭「祝・祝日」

神楽は“行為”であり“演劇”

──本公演に柳沼さんは、テキスト・構成・演出としてクレジットされています。神楽の多数ある演目から、どういった目線で「祝・祝日」を構成しているのですか?

「祝・祝日」の構成において、作家性みたいなものは入れたくないなと考えていて、あくまでいろいろな地域、時代の寄せ集めの神楽から、何か1つ筋が通るようなテキストを選んでいます。

──昨年の京都公演は、早池峰系神楽では序盤に舞われる“式舞”より「鶏舞」「三番叟舞」「八幡舞」「山の神舞」、そして「諷誦の舞」で構成されていました。

式舞にはあと「翁舞」「岩戸開」があって、全部踊れるようになりたいのですが、まだそこには至ってないという状態です。あと我々がやったことのあるものは、広島で1回だけしかやっていない創作神楽や「三剣舞」「小猊舞」などですね。メンバー全員がすべての演目を踊れるわけではないので、そのときの出演者によって構成演目は変わってきます。ただ「鶏舞」と「諷誦の舞」は必ずやります。

──「鶏舞」はカッコいいなと思いました。

「鶏舞」のカッコよさ、わかってもらえますか?(笑) 振り自体は山伏神楽のいろいろな「鶏舞」からの寄せ集めで、だいぶカスタマイズしているんですが、ニワトリが2羽踊る様から天地創造の兆しを表すようなものにしたいと思っていて。また四方を清める要素もあるので、儀式性も強いんです。「諷誦の舞」は飛んだり跳ねたりと動きがダイナミックで、毎回盛り上がります。

──今回の三重公演はどんな構成になりそうですか?

京都公演と同じ、「鶏舞」「三番叟舞」「八幡舞」「山の神舞」「諷誦の舞」で考えています。

──身体表現の要素が強い作品ですが、烏丸ストロークロックは「祝・祝日」を“踊り”ではなく“演劇”と呼んでいます。それはなぜですか?

神楽って“踊り”とは言わなくて、あくまで舞なんです。舞はもともとは旋回するという意味だったそうで、現代の“踊り”からイメージするものと比べると行為に近い。また人が人ならざるものになり、神が降りてくる感覚が会場全体を覆うときの状態って、演劇のすごみだと思っていて。さらに舞の背景には必ず文脈があり、無病息災とか豊作祈願という願いや思いを成就させるための行為に変換している。演劇は意味を伝えるか、意味に基づいて表現されているものだと思うので、そういう点でも神楽は、私にとって演劇なんです。

手拍子も掛け声も大歓迎です!

──今回は野外です。どんなアプローチを考えていますか?

会場となる日本庭園の様子。

上演が夕暮れ時からスタートするので、篝火などをやらせてもらおうかなと思っています。会場が日本庭園なので周囲には立派な樹木が立ってるんですけど、そこに舞台を作ると、人のスケール感が小さくなると思うんですね。そういう中で舞うと、神楽の魅力が改めて伝わるんじゃないかと思うので、私たちもすごく楽しみにしています。また、感染症対策を十分行いつつ、三重県総合文化センター内のレストランに軽食を出していただく予定ですし、今回はドリンク付きチケットになっているので、お客さんにはより“イイ加減なイイ感じ”で観ていただけるのではないかなと。

──劇場のブラックボックスで観る以上に、お祭り感が高まりそうでワクワクしますね。「祝・祝日」というタイトルのポップさ、特設サイトのビジュアルからも、陽のパワーを感じます。

イメージで言うと、すごくにぎやかにしたいと思っていて。チラシや特設サイトのイラストは、坂本大三郎さんという、現在山伏活動をされているアーティストの方が描いてくださったものなのですが、祭りに集まってきたこの世の良いものも悪いものもいろいろなものが描かれています。“天照大神が天の岩屋に入ってしまったことで世界は真っ暗になってしまい、天照大神に出て来てもらおうと、アメノウズメが岩戸の前で踊りを披露すると、八百万の神様たちが大盛り上がりを始める。すると、外の様子が気になった天照大神がようやく岩戸から出てきて、世界は再び光に包まれ、その光を浴びた神様たちの顔が白く照らされたので「面白し」”……と、そのとき“面白い”の語源が生まれたわけですが、このイラストにはその世界観が描かれています。

タイトルについても、「祝日」だけでもめでたくてうれしくてアガっちゃうんだけど、“その日が来ることを祝う”という、さらにポジティブな感じで「祝・祝日」としました(笑)。私の感覚では神楽ってやっぱりハレなので、みんながワクワク楽しみにしているもの、しかもただ神楽を観るだけじゃなくて、大人ならお酒、子供ならお菓子をもらえるというような、みんなが開放的になる場だと思うんです。今のフェスみたいなものかもしれませんが、そういう時間が今回も作れたら良いなと思っていて。お客さんにも「これを観てください!」じゃなくて、「楽しんでいってくださいねー」という気持ちです。この1年半、緊張感ある状況が続いてきましたから、皆さんもパッとしたいんじゃないかと思うんですよね。手拍子も掛け声も大歓迎なので、ぜひ自由に参加していただけたらと思います。

柳沼昭徳
柳沼昭徳(ヤギヌマアキノリ)
1976年、京都府生まれ。劇作家・演出家。烏丸ストロークロック代表。近畿大学在学中の1999年に烏丸ストロークロックを旗揚げ。京都を拠点に、各地でフィールドワークを行い、地域と人に着目した作品作りを行っている。近年の主な作品に「国道、業火、背高泡立草」「まほろばの景」「祝・祝日」など。第60回岸田國士戯曲賞、第23回OMS戯曲賞にノミネートされた。2016年度京都市芸術新人賞受賞。2013年から2017年にかけてNPO法人京都舞台芸術協会 理事を務めた。2021年、新国立劇場「こつこつプロジェクト」第2期に演出家として参加している。