毛利亘宏率いる少年社中は、“冒険”や“夢”をキーワードとしたファンタジックな物語の中で、リアルな人間ドラマを描いてきた。“文化系”チームでは創立メンバーにして看板俳優の井俣太良がホスト役を務め、発想力を生かした細やかな役作りで社中の“リアリティ”を支える岩田有民、廿浦裕介、加藤良子、長谷川太郎、さらに毛利や井俣と高校の同級生だった川本裕之と共に、役作り秘話や新人時代のハードな思い出、今だから笑える忘れられないアクシデントを振り返る。
上空を飛び続けるMr.少年社中
──まずは井俣さんからこのグループの皆さんの印象をお伺いできればと思います。どのキャッチコピーがどなたのものか、井俣さんから解説していただけますか?
井俣太良 最初は……(裏返しにしていた色紙を見せて)はいっ!
一同 「猪突猛進ディフェンダー」。
井俣 これは廿浦。少年社中における攻めと守りを一挙に担ってるのが、廿浦裕介なんじゃないかなと。
川本裕之 “猪突猛進”と“ディフェンダー”って相対する意味だよね。
長谷川太郎 矛盾を抱えてるってこと?
井俣 うん、ある意味、大いなる矛盾を抱えてお芝居してるなって。
廿浦裕介 確かに葛藤はありますね! “俺は今攻めてるんか守ってんのかどっちなんだ”と。
井俣 はい、次は……。
川本 「孤高の♡テロリスト」?
井俣 これは岩田(有民)さんです。最初は彼の演技スタイルに「えっ?」って思うんだけど、だんだん心の中に不法侵入してくる。
加藤良子 しっくりくる!
川本 岩田さん、そう言われてどうですか。
岩田有民 俺も自分で(キャッチコピー)何かなーって考えてて……“地獄よりの使者”とかかなって。
一同 ははは!
井俣 やっぱり普通じゃない、テロリストですよ! 意表を突かれちゃう。じゃあ次、これはわかりやすいね、「ファンシーマジカル求道師」。これは……(色紙を加藤に渡す)はい。
加藤 あ、ありがとうございまーす。
井俣 彼女は僕が少年社中で一番、つかみかねてる。ファンシーでマジカルで、どこか浮世離れしたファンタジー世界の思想を持ってるけど、意外と哲学的なことを追求してて。ふわふわしていそうで、実は芯が1本通っている。
加藤 私だろうなって思った!(笑) 私はあんまり具体的じゃないから、つかみかねて“ファンシー”って言われるんだろうなって思います。なんかあれでしょ、「靴下を互い違いに履いてきちゃった、てへっ!」みたいなのがファンシーなんでしょ?
川本 いやそれわからない!
井俣 そのこととファンシーはイコールで結ばれない! この感じがつかめなくて……ファンシーでマジカルだなと(笑)。はい次、これはすぐわかります。
川本 ……「最古の新人」(笑)。
井俣 (川本に色紙を渡す)はい。
川本 これはあんまり説明いらないですね。
井俣 「一緒に旗揚げしようぜ!」って東京に出てきたのに彼はすぐに辞めて、KAKUTAへ……で、戻ってきて「リチャード三世」(15年)から少年社中の新人になったっていう。最後は「喪失のメガデータバンク」(と言いながら長谷川に色紙を渡す)。
一同 ははは!
井俣 少年社中のブレインなんですよ、彼は。「うわ面白い!」っていう発想をすぐにパーンと出してくる。
廿浦 でも“喪失”が付いちゃうんだよな。
長谷川 残念な感じ(笑)。
井俣 すぐ忘れるんですよね、自分が言ったことを。飲み会で「こんな話聞いたんですよ」とか言うんだけど、それこの前も聞いたな、みたいな。
廿浦 なんなら、言った人を捏造してることもある! これ俺の話なんだけど、太郎くんも同じこと経験したのかな?って(笑)。
長谷川 ……要するに虚言癖じゃないですか!?
──そして“社中・体育会系”チームを代表して、大竹えりさんが井俣さんのキャッチコピーを書いてくださいました。
井俣 「上空を飛び続けるMr.少年社中」?
大竹えり (“体育会系”チームから飛び入り参加)井俣さんってすごく、達観したがりなんですよ。達観しようとしてて、公平に公正にいろんなことを見てるんだけど、時々下に降りてくればもっといいのになって思います(笑)。なんか……「いや俺わかってるから!」とか言うじゃん?
井俣 そんな、すげえカッコ悪い男の代名詞みたいな!?
一同 ははは!
井俣 「ときには地上に降りてこい、Mr.少年社中」みたいな……わかりました(笑)。
“風”を表現した新人時代、初めてのスタンディングオベーション
長谷川 僕は03年の「シナファイ」から少年社中に参加してるんですが、新人のときのことはインパクトありますね。合宿してた時代あるじゃないですか。廿浦さんのご実家に泊めていただいて舞台装置を作って……夜はみんなでお酒を飲んで。そんで井俣さんが「すげえいいウイスキー持ってきたからさ!」ってカバンから瓶取り出したら空っぽで、「ねえ!!」って。
一同 ははは!
長谷川 蓋がちょっと開いてたみたいで、井俣さんが「やべえ、全部の服がウイスキーくせえ!」って。井俣さんとちゃんと話したの、それが初めてくらいだった。
加藤 私と廿浦くんは劇団の同期で、最初の作品が01年の「ハイレゾ―high resolution―」。あのとき、嵐に抗う人を練習した。
廿浦 そうそう、“風”を表現させられた(立ち上がって実演しながら)。でもあのシーン、再演(04年)で切られたよね(笑)。
加藤 毛利さんに聞いたら「あとで見返したらいらなかったと思って」って言われた。それが主な稽古内容だったのに! 最初はセリフがないから、そういうちょっとした出番も大事で。「ハイレゾ」は宇宙の話で、アポロっていう立派な役名だったんですよ。この名前なら、一言くらいは何か素敵なセリフがあるだろうって思ってたんだけど、全然なくて(笑)。
廿浦 そのときにいた、劇団同期の森くん(編集注:少年社中元メンバーの森大)はタオツイ・サターンって役名だったんですけど、台本には「タオツイ・サターン出てくる。やられてはける」って1行しかなかった。でも彼は30分くらいのシーンを作ってきて、毛利さんにプレゼンして1、2分くらい勝ち取ってましたね。
長谷川 岩田さんはどの作品も、僕には絶対できない解釈をしてくる。一番わからなかったのは、15周年記念公演の「贋作・好色一代男」(14年)の女犯坊。そいつが主人公をひどい目に遭わせに来るんですけど、出てきて「今からお前をひどい目に遭わす」ってセリフを言う。岩田さんはそのセリフ前で急に泣き出したんですよ。あれは僕には絶対思いつかなかった。なんで泣きながら言ったんですか?
岩田 ああー、自分でもちょっと言葉で説明するのは難しいんですけど、なんかそうやっちゃった。毛利さんには「お前、あそこは『クライングフリーマン』(編集注:小学館・ビッグコミックスピリッツに86年から88年まで連載された小池一夫作、池上遼一画による裏社会を描いたマンガ)がやりたかったんだろ?」って言われて。実はそんなつもりなかったんですけど、「そういうことです!」と(笑)。
井俣 主人公が暗殺しながら泣いてるんですよね。
岩田 そう、確かにそんな感じが好きだったので、自分の中にイメージはあったと思います。
廿浦 最近の公演で思い出深いのは「贋作・好色一代男」の大千秋楽で、お客さんがスタンディングオベーションしてるのを初めて見たこと。カーテンコールで「この光景を見せたい」って毛利さんがキャストを舞台に呼んでくれて、出て行ったらお客さんが総立ちになってた。
加藤 うん、本当にあるんだな、って思った。
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長ゼリフが出てこなくて、本能的に「リセットー!!」って(井俣)
- 「少年社中20周年記念第三弾 第35回公演『機械城奇譚』」
- 2018年8月30日(木)~9月9日(日)東京都 ザ・ポケット
脚本・演出:毛利亘宏
出演:井俣太良、大竹えり、岩田有民、堀池直毅、加藤良子、廿浦裕介、長谷川太郎、杉山未央、山川ありそ、内山智絵、竹内尚文、川本裕之
- あらすじ
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舞台は“機械城”と呼ばれるとある店。その店の古物商は、壊れた不思議な機械だけを取り扱っている。機械たちは夜な夜な人の言葉で話し、誰が一番素敵な機械かを決めようとしていた。彼らが毎晩宴を繰り広げる中、ある日機械城に新たな機械・時計がやってくる。彼は「自分は自由に時を操ることができる」と告げ……。その夜、奇跡は起きる。
2018年12月28日更新