少年社中「クアンタム -TIMESLIP 黄金丸-」上演記念、毛利亘宏が憧れの作家・中島かずきと対談 (2/2)

特撮ものに感じる責任と喜び

──お二人とも、舞台に限らずアニメや特撮ものなどさまざまなジャンルのお仕事をされていて、しかも多作であるという点が共通しています。幅広く活動することがほかの仕事への刺激になる部分はありますか?

毛利 特撮をやって良かったなと思うのは圧倒的に筆が速くなったことですね。1時間ものの映画台本でも1週間で書いてくれと言われることがあるので、最初は「こんなスピードでは書けない」って思いましたけど、最近はそれにも慣れてきて。近年、アニメやゲーム原作の仕事などもやらせていただくようになりましたが、他ジャンルの作品をやると舞台をやっている自分が客観的に見えるというか、舞台・アニメ・特撮で、自分はそれぞれどこを強調して書いているのかがわかり、自分を立体的に感じられるような気がしています。

中島 僕は二十歳の頃、書くのに行き詰まったことがあって。そのとき、「自分の中で一番芯になっていること、信じていることを中心にしないと、書いたものが借り物になってしまう」と感じたんです。では自分の芯になっていることは何かと言うと、マンガであり映画だったんですよね。それで僕は、マンガの作法を舞台の上でやると二十歳のときに決めました。もちろん年を重ねるにつれて、例えば「こういう無茶をやるから舞台の面白さが出るんだ」とか「舞台では明らかにできないことがアニメではできる」ってことを取り入れて書くこともありますが、基本的にその思いはずっと変わっていません。また舞台の場合は、どういう俳優さんに当て書きするかが僕にとって大きなフックになっていて、それは抽象的な企画やストーリーありきで進めていくアニメとの一番の違いだと思います。

毛利亘宏

毛利亘宏

中島かずき

中島かずき

──毛利さんは、ストーリーやキャスティングがある程度決まっている2.5次元作品と、完全なオリジナル作品で、ご自身の意識の違いは?

毛利 2.5次元作品のときは、どれだけ完璧にこの作品のキモを舞台に乗せるかということを意識して、職人に徹しますね。脚本を起こすときも、この作品の何がファンの皆さんが好きなところなのか……それをセリフとかではなく肌感覚で探っていき、抽出することを考えます。逆にオリジナルのときは、自分にとって面白いものは何かを自問自答しながら、自分が一番面白いと思うものを選んでいきます。

中島 そうですよね。僕も結局、お客さんとしての自分が面白いと思うかどうか。自分が書いた作品を観て、お客さんとしての自分が納得できるかどうかが大事なところがあって、自分が面白いと思うものを出さない限り、誰も面白いとは思ってくれないんじゃないかという気持ちでやっています。

──特撮ものの脚本も、大枠が決まっている中で書き進めていきますよね?

中島 特撮はプロデューサーによってもだいぶ状況が違うと思うけど、僕がメインライターを務めた「仮面ライダーフォーゼ」は塚田英明さんがプロデューサーだったので、シリーズ構成も塚田さんが決めていて、だから「フォーゼ」は塚田作品だという意識が僕にはあります。「キュウレンジャー」のプロデューサーは望月(卓)さん?

毛利 そうです。「キュウレンジャー」のときは、シリーズ構成も僕が一からやらせてもらいました。ただ、特撮ものは途中でアイテムや登場人物の追加や変更が多いので、それを都度都度考えながら書き直していく作業が続きますけれど。

──作品の受け取り手が、舞台と特撮ものではまったく異なると思いますが、それが刺激になることもありますか?

中島 やっぱり子供が観て喜んでくれるのはすごくうれしいですよ。小さい子に響いているのは、励みになります。

毛利 もしかしたらその人にとって、人生の中で初めて触れる物語になる可能性があるわけですから、その責任と喜びを常に感じながらやっていますね。今アメリカでマーベルが流行っているのも、子供の頃に「パワーレンジャー」を観た世代が大人になったからだという説があるそうで。

中島 なるほどね! 日本でもかつては戦隊ものって、芸能事務所の若手で1番手ではない人がオーディションを受けに来る印象だったけど、今や若手の登竜門。その変化は、作り手も役者もみんなでがんばって番組の価値を上げてきたおかげだと思います。

中島かずき

中島かずき

舞台は、作家の心の健康を守ってくれる

──この2年、新型コロナウイルスの影響によって新感線も少年社中も思うように公演が打てない状況が続きました。しかしそれでも舞台を続けるのはなぜですか?

毛利 僕は、舞台からすべての仕事が始まっていると思っているので、舞台を辞めたら全部を辞めることになるという思いがあります。ベースが劇作で、その基本で学んだことを使って特撮やアニメの仕事が成り立っていると思うから、舞台は定期的にやらないと、と思っているんです。

中島 同じですね。僕が今こうしていられるのも新感線があったからだし、書いたものが面白いかどうかは、劇場を出てきたお客さんの顔を見ればわかるんです。それがある限り、書き手として健全でいられると思っていて。どんなに人気の小説家さんでも、目の前で自分の作品を読んでいるお客さんの顔を見る機会はあまりありません。でも舞台は観終わったあとのお客さんの拍手や表情でそれを感じることができるし、作家の心の健康を守ってくれると思いますね。お客さんの反応があるから書き続けられるし、あの拍手を目指してがんばろうと思える。目の前のお客さんを楽しませるということを続けていくのが一番だと思います。

毛利 そうだと思います、本当に。

──「クアンタム」は2025年が舞台となり、そこから100年後に飛ぶという設定です。お二人の作品は、大きな意味でラストに未来への希望を感じさせるという点が共通していると思いますが、新型コロナウイルスや戦争、環境問題の悪化など、なかなかポジティブな未来を描きにくい状況が続いている昨今、どんな思いで作品を書いていらっしゃいますか。

毛利 2025年を舞台にしたのは、万博会場から物語を始めようという思いからなんです。かつてパリ万博の話を書いたこともあるんですけど、輝かしい未来を展示する場所という点で、僕は万博がとても好きなんですね。と同時に、例えば今よりコロナのことが落ち着いているであろう100年後を描いたとしても、僕たちが抱えている悩みは、実はあまり変わらないんじゃないかという思いもあって。だったら、今から100年後の人間のあれこれを描いてみたいなと思いました。この2年で人と人とのつながりはだいぶ疎遠になり、簡単に友情を確認し合えていたはずの飲み会や、お互いへの信頼を確かめる場であるはずの打ち合わせもリモートになってしまった。そんな今だからこそ、“友情”をテーマに書いてみたいと思います。

毛利亘宏

毛利亘宏

中島 かつてはチケット代が3500円だった時代もありましたが、新感線は今や1万5000円近くになってきて、そんな高いお金を払って、時間を工面し、わざわざ観に来てくださるお客様に、難しい顔をして帰ってほしくないという思いがあって。ただでさえ世の中には暗くてしんどいことがたくさんあるわけですから、浮世の憂さを忘れる瞬間があっても良いんじゃないかと思うんです。またフィクションが生きるよすがになるということは自分も身をもって感じていることなので、お客様に最後「楽しかった!」と思って帰ってもらえればすごく幸せですし、これはいのうえともよく言っていることではありますが、「少なくとも今は、せめて新感線くらいは、お客さんが面白かった、楽しかったと前を向いて帰って行けるような芝居をやりたいよね」と。お客様に希望を感じさせるような活劇を、今後も作り続けたいと思います。

──最後に「クアンタム」へのエールをお願いします。

中島 僕は過去にタイムスリップする話を書いたけど、毛利くんが今回、未来を描こうというのはとても良いと思います。僕の書いたものは一旦忘れて、毛利くんの世界を突き進んでくれたら良いと思います!

毛利 ありがとうございます(笑)。少年社中は2023年に25周年を迎えますが、中島さんの作品をリブートすることで新しいお客さんと出会い、演劇の輪がさらに広がれば良いなと思っていて。

中島 そうだね。そして新感線をまだ観たことがない社中ファンには、ぜひ秋の新感線公演「薔薇とサムライ2」(参照:「薔薇とサムライ2」に天海祐希「美しく世代交代を」、古田新太は“若い衆”との共演に期待)にも来ていただきたいです!

毛利 ぜひ!(笑) この2年、コロナで空いてしまった時間を取り戻すべく精力的に活動していきたいと思っていて、「クアンタム」がその第1歩だと思っています。なので、ここからが本当の勝負、反撃の時間です!

左から毛利亘宏、中島かずき。

左から毛利亘宏、中島かずき。

プロフィール

毛利亘宏(モウリノブヒロ)

1975年生まれ。脚本・演出家。少年社中主宰。「ミュージカル『薄桜鬼』」の脚本・演出・作詞、「宇宙戦隊キュウレンジャー」の脚本・メインライター、「REAL⇔FAKE」の監督・脚本、「アルゴナビス from BanG Dream!」のシリーズ構成・脚本などで知られる。9月から10月にかけて、自身が脚本・演出を手がける舞台「オブリビオの翼」が上演される。

中島かずき(ナカシマカズキ)

1959年、福岡県生まれ。劇作家・脚本家。1985年より座付き作家として劇団☆新感線に参加し、2003年に「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞を受賞した。「天元突破グレンラガン」の脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」の脚本・メインライター、「キルラキル」「プロメア」「封刃師」の原作・脚本などを手がけている。9月から11月にかけて、自身が作劇を担う2022年劇団☆新感線42周年興行・秋公演 新感線☆RX「薔薇とサムライ2-海賊女王の帰還-」が上演される。