1色にならないのが新派
瀬戸 私も川口作品が大好きなんです。ただなかなかできない演目なのが残念で。
久里子 川口作品は芸がないと難しい。羽織一つ着るにも、芸がいる。
八重子 かつて北條先生が私というキャラクターを面白がって書いてくださった「女優」と「妖刀物語 花の吉原百人斬り」という作品があって、これを誰かに受け継ぎたいと思ってるんです。どちらもお金のかかる大作なのでなかなか思いが叶わないんですけど、叶えてくれる女優はいると思います。人が縦につながってきたのが歌舞伎で、新派はいろんなところからいろんな人が飛び込んできて、1つのことを一緒にやっているうちに新派になっていく、ジャムセッションのような場だと思うんです。だから違う個性の方がいろいろ入ってきてくださることによって、1色に染まらないのが新派らしくていいなと思います。
久里子 水谷先生がよく言ってましたね、「色が同じ劇団はどこにでもあるけど、新派は1色にしちゃだめ。違う個性を出しなさい」と。
新派だからこそ演じられる「犬神家の一族」
──そんな現在の新派が総力で臨む「犬神家の一族」では、八重子さんが宮川香琴役を、久里子さんと瀬戸さん、雪之丞さんが三姉妹の犬神松子、竹子、梅子を、春本さんが野々宮珠世を、緑郎さんが金田一耕助を演じられます。さまざまなプロダクションで映画化、舞台化されている作品ですが、新派版「犬神家」はどのような作品になりそうでしょうか?
春本 作品に対して最初は怖いイメージがあったんですが、まさかお家騒動の話だなんて、今まで思わなくて。台本を読みながら、「血って怖いな、生きている人間が一番怖いな」って思いました。私としましてはどうやって演じようかと言うより、齋藤先生の脚本や演出に忠実に、舞台で演技できたらなと。また今回、野々宮珠世役を女方の河合宥季さんとWキャストで演じさせていただくので、宥季さんの演技に刺激を受けながら、自分なりの珠世を演じていければなと思います。
緑郎 20数年ぶりに原作を読ませていただいたんですが、齋藤さんも会見でおっしゃっていた通り(参照:情深い登場人物がズラリ、2時間半ノンストップで見せる新派版「犬神家の一族」)、みんな誰かのために殺人を犯したり、発狂したりする。そんな人を思う情の強さ、テンションの高さを表現できるのは、新派の俳優しかいない、これほど突っ込んだ芝居ができるのも日本中でこの劇団だけだと信じています。しかも齋藤さんの作品解釈が素晴らしいので、映画や小説とも違う、深い考えにどーんと突き落とされるようなきっかけとなる作品になれば。
久里子 私も映画を観たときはただの財産争いの話だと思っていました。三姉妹が嫌な女でね(笑)。私が演じる長女の松子なんて大悪人だと思ったけれど、でもその所業には理由があって、煎じ詰めれば“愛”なのよね。ですから深い芝居なんです。でもだからと言ってお客様に重い気分で帰っていただくのは困るので、最後にエピローグがあるのはいいなと思いましたね。今回、原作を初めて読んで、これまで新派で上演していなかったのが不思議なくらい“新派にピッタリな作品”です。
雪之丞 原作がしっかりした作品で、こういうしっかりした作品には、劇団新派のしっかりしたお芝居が太刀打ちできると思うんですよね。着物の着方ひとつとってもほかの劇団がやられるのとはちょっと違いますし、キセルに毒を詰めて死ぬっていう、そんな“時代”な死に方も(笑)、やっぱり美しく深く見せられるのが新派だと思います。
久里子 そういう仕草が自然とできるのが新派なんですよね。
「あ、やったな」と舞台でも感じたい
──女方として昭和の女性を演じられる点での工夫はありますか?
雪之丞 新派の女方と歌舞伎との違いは、新派だと女優さんとご一緒しないといけないことなんです。そのときの心がけは、歌舞伎とは全然違ってきますね。現実は男ですから、キワモノに見られてはいけない。男が女の格好をして気持ち悪いってならないようにしなければいけない大変さがあります。女方のリアルを舞台上でどう違和感なくできるか、その中に溶け込めるかが一番大切ですね。そのうえで初めて、自分の芝居をこうしたい、ああしたいってことが生まれてくるので。
久里子 (初代)英太郎先生(1885~1972年)はまったく違和感がなかった。ただそのころは周りにいっぱい女方がいて、逆に水谷先生は女方の中に女優1人で大変だったと思うけれど。
雪之丞 そうですよね。そういう意味では、私は「黒蜥蜴」や「葛西橋」をやらせていただいたり、この間一門の勉強会的な自主公演では「楽屋」をやらせていただいて、実際にやると「こういうことか」と見えてくるものがあり、「なんでもやっておくものだなあ」って思います(笑)。
久里子 三姉妹の中で一番意地悪な役は誰?
雪之丞 私が演じる三女の梅子ですね、ヒステリーで根性が悪いんです。
久里子 じゃあ役作りしなくていいわね(笑)。
一同 あははは(笑)。
瀬戸 私は次女の竹子を演じさせていただきます。三姉妹の中では一番正当な人。しかし、ヒステリーは同じです。私も最初に映画を拝見したときは怖いイメージでしたが、原作を読むと骨肉の争いだけではなく、戦後の時代背景も大きく関係していますよね。舞台ならではの重厚で贅沢な作品になること間違いなし。時代は違っても家族の情愛はいつの時代も変わらないと思いますので、観に来てくださったお客様の心に深く届くと思います。
八重子 私は、まず演出家の注文を叶えることが先決。「痩せてくれ」と言われましたので(笑)。作品に関しては、「犬神家の一族」を舞台でやるということになって、会見にもたくさんの報道陣が来てくださり、皆さんに興味を持っていただいていることを実感したので「あ、やったな」と思っていて、舞台の幕が開いたときにもう一度「やった!」って言えるようにしなくちゃなと思っています。
久里子 本当に1人でも多くのお客様に来ていただきたいです!
- 水谷八重子(ミズタニヤエコ)
- 母は初代水谷八重子、父は十四代目守田勘彌。1955年に歌舞伎座の新派公演にて初舞台を踏み、同日歌手デビュー。以降、水谷良重の名で俳優、歌手として活動を展開。95年に二代目水谷八重子を襲名し、劇団新派を牽引している。菊田一夫演劇賞、松尾芸能大賞など受賞歴多数。
- 水谷 八重子 | 俳優名鑑 | 劇団新派 公式サイト
- 水谷八重子 Official Website
- 水谷八重子公式ブログ(ないしょばなし)
- Yaeko Mizutani (@oyaechan8) | Twitter
- 水谷八重子の記事まとめ
- 波乃久里子(ナミノクリコ)
- 父は十七代目中村勘三郎、弟は十八代目中村勘三郎。1950年に歌舞伎公演にて初舞台を踏み、61年に劇団新派に入団。初代水谷八重子に師事する。これまでに芸術祭優秀賞、芸術選奨文部大臣新人賞、菊田一夫演劇賞などを受賞している。
- 喜多村緑郎(キタムラロクロウ)
- 1988年に国立劇場歌舞伎俳優研修修了。同年に歌舞伎座にて本名で初舞台を踏む。その後、市川段四郎に入門し、市川段治郎を名乗る。94年に三代目市川猿之助(現:猿翁)の部屋子となりスーパー歌舞伎などで活躍。11年に市川月乃助に改名。16年に劇団新派に入団し、二代目喜多村緑郎を襲名した。
- 河合雪之丞(カワイユキノジョウ)
- 1988年に国立劇場歌舞伎俳優研修修了。同年に市川猿之助(現:猿翁)に入門し、市川春猿を名乗る。スーパー歌舞伎などで活躍。劇団新派には2010年より客演を重ね、17年に入団し、河合雪之丞と改名。
- 春本由香(ハルモトユカ)
- 故・六代目尾上松助を父に、尾上松也を兄に持つ。2016年に劇団新派に入団、東京・新橋演舞場、大阪・大阪松竹座にて初舞台を踏んだ。
- 瀬戸摩純(セトマスミ)
- 1991年に劇団新派に入団。二代目水谷八重子に師事する。2001年に幹部昇進した。「麥秋」「東京物語」などの演技で松尾芸能賞新人賞を受賞。
- 新派130年 11月新派特別公演
「犬神家の一族」 - 2018年11月1日(木)~10日(土)
大阪府 大阪松竹座 - 2018年11月14日(水)~25日(日)
東京都 新橋演舞場
原作:横溝正史(「犬神家の一族」角川文庫)
脚色・演出:齋藤雅文
- キャスト
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宮川香琴:水谷八重子
犬神松子:波乃久里子
犬神竹子:瀬戸摩純
犬神梅子:河合雪之丞
犬神佐清・青沼静馬:浜中文一
野々宮珠世:春本由香 / 河合宥季(交互出演)
金田一耕助:喜多村緑郎
古館恭三:田口守
橘警察署長:佐藤B作
ほか
- 劇団新派(ゲキダンシンパ)
- 1888年に大阪新町の新町座において角藤定憲が旗揚げした「大日本壮士改良演劇会」が新派の祖と言われる。それまでの旧派(歌舞伎)に対する新たな演劇活動のことで、女優が参加したほか、新派独自の女方芸や演技様式も誕生した。尾崎紅葉、泉鏡花、三島由紀夫、川口松太郎、北條秀司らの名作や、初代喜多村緑郎、河合武雄、花柳章太郎、初代水谷八重子といったスターを輩出している。2018年は劇団新派の創始130年に当たる。